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第六話 戦闘するお話



Encounter!


 フィールドにはいってしばらくすると、そんな文字が視界の片隅に表示される。


「おっ、【捨て身】!……よっと」


 それと同時に、【捨て身】を発動させ、Strを高める。発動のしるしに、俺の体からうっすらと赤いオーラがたちのぼり、MPが3割ほど削れた。


 前方から襲ってくる二匹のモンスター――灰色の毛並みの中型犬のようなロゥドッグを、長剣のリーチを生かし間合いに入られる前にまとめてなぎ払う。さっき長剣だしといて良かったわ。

ヒュッ!という鋭い風切り音。……剣速はかなりの速さだな。問題なく剣を扱えているようで、一安心だ。


 今の一撃でロゥドッグのHPが8割ほど削れた。ひるんだ所にすかさずもう一撃ずつお見舞いして、戦闘終了。……案外あっけないな。流石はStr極振り、攻撃力だけは半端じゃない。このぶんなら充分いけそうか?

 この西の草原には、南とは違ってあまりプレイヤーの姿が見られない。まぁ、まだ初日だし、ゲーム好きのフレイでさえ今日は南で戦うことにしたんだから、当然といえば当然のことか。


 Encounter!


 今度はさっきのロゥドッグ一匹に額から小さな角の生えた兎――ホーンラビットが二匹だ。

 しかしこのエンカウントの文字、邪魔だな。この戦闘が終わったら表示しないようにしとくか。

 ホーンラビットAとロゥドッグは正面から、ホーンラビッドBは左側面から回り込むようにして、突撃してくる。


 俺は【捨て身】を発動させ、先頭のホーンラビットAを切り払いながら左に飛び、ロゥドッグをかわす。……あれ?普通に避けれるな……そこへ突っ込んできたホーンラビットBには一回転しながらカウンター気味長剣をぶつける。ホーンラビットBがボールのように飛んでいく……軽いなー。俺のStrが高いからか?

 そのまま止まらずにもう一回転してホーンラビットAを葬り、勢いを殺しきれずにすこし後方たたらをふんでいるロゥドッグに対して、


「『スラッシュ』」


 長剣の初期アーツを発動。いたってシンプルな水平斬りが一撃でロゥドッグのHPを0にする。やはり、普通に攻撃するより威力は高いな。MPの減少は微々たるものだ。

 そして吹っ飛んだホーンラビットBに近寄り、わずかに残っていたHPを削り取る。


『ポーン』


 メールが届いた時のようなお知らせ音が聞こえる。メニューを開くと、レベルが上がっていた。俺は迷わずステータスポイントを全てStrに振り、メニューを閉じる。

 ……さて、この調子でどんどん狩っていきますかね。とりあえずこの辺の敵は【捨て身】と『スラッシュ』を使えば一撃っぽいし。



 ―――



 突撃してくるロゥドッグ二匹とホーンラビット二匹。少し遅れて更にもう一匹ずつ。


「ちっ」


 次々に襲いかかるモンスターを、薄赤いオーラを纏い『スラッシュ』と普通の剣撃をおりまぜながら切りはらっていく。が、時間差で来たロゥドッグの爪が俺の脚を切り裂く。


「はっ!?」


 思わず驚きの声をあげてしまう。

 見ると、俺のHPはほとんど視認できない程になっていた。おそらく【不屈の精神】が発動したんだろう。……ってことは今の一撃で本来なら俺死んでた?流石の紙防御力だな、おい。


 が、しかしこれはなんというか――燃えるな。もう【不屈の精神】は発動しないから、次に攻撃を貰ったら俺は死に戻り確実だ。本来なら戦闘から離脱し、HPを回復させるところだろう。


 しかし俺は、このギリギリの状態で、“楽しい”と思ってしまった。逃げるどころか逆に闘志がわいてくる。リアルでは体験できない、この極限の状況下で、俺は何かに目覚めてしまったのかもしれない、そんな気がしてくる。……マゾではないぞ?

後、この状況になったのが初心者草原よりちょっと強いだけの、ただの雑魚モンスターによって、ってのが悲しい所だけど。


「いいね!さぁ、こい、よっ!?」


 セリフの途中でロゥドッグ再度爪を振りかざしてくる。……空気読んでほしかったなぁ。敵はあとこいつ一匹なので、後ろに飛びさすりながら『スラッシュ』で確実に仕留める。


 ……ふぅ、終わった。流石に六匹相手は面倒だったな。『スラッシュ』で一撃とはいえ、連続しては使えないし。(『スラッシュ』は左から右に水平斬りを行うアーツなので、連続で使おうとすると長剣を左に戻す動作という隙ができるのだ)


 俺はAgiが低いから戦闘は基本は待ちのスタイルになるのだが、先手がとれないというのも痛い。だってこっちが近づいたらEncounter状態になってすぐに距離とられるんだもん。

体をかわすくらいの動きならリアルと同じAgiでも可能だったから助かったけど、そうじゃなかったら高Strによる剣速の早さによって長剣を振り続け、敵を絶対に近づかせないようにしないとだったな。……それは疲れるし、できればやりたくないわ。なんか戦ってるって感じしなさそうだし。


「さて、どうするか」


 時刻は15:20。……17:00まで続けて、そっからフレイに連絡いれて落ちるか。

 そうして俺は、敵の数が少なくなった気がする西のフィールドを、歩きはじめるのだった。



 ――その頃『IWO』内の掲示板では、西のフィールドで忍者みたいな格好した長剣使いの男がすさまじい速さでモンスターを根絶やしにかかっている、と話題になっていたという。

 いわく男は、赤いオーラを纏い、HP1の状態で喜々として戦闘を続けていたそうな。



 時刻は17:00。


 いやー。なかなか楽しかったな。

レベルは今日だけで5まであがった。【長剣】のレベルは3。Strは252になった。もはやアーツなしでも一撃でロゥドッグやホーンラビットを倒せる。


「そろそろフレイに連絡するか」


 俺はフレンドからフレイを選択し(とはいえフレイ以外はいないのだが)ボイスチャットでコールする。……あ、HP1のままだわ……まぁいいか。


「どうしました、クノさん?」

「いや、そろそろ俺落ちようかと思って。フレイはどうする?」

「んー。実は私今、別のVRゲームで知り合った友達と一緒に行動してるんですよ。なので落ちるのはまだ先ですかねー」

「そっか。俺がひとりさびしく西で狩りをしてたってのに、うらやましいぞー」

「あはは。クノさんにも紹介しますから~。みんな美人さんですよ? うふふ」

「ん。楽しみにしとくよ。まぁお前より可愛い娘はそうそういないだろうけど」

「なっ、ちょっ! クノさんっ! からかわないでくださいよぅ」

「いやいやー、本気だって。それじゃあそろそろ俺落ちるなー。バイバイ」

「え!?本気ってそんな……いやでもぉ、ってちょ、まって、あー」


 よし。それじゃ、そろそろ現実世界に帰還しますかね。明日は学校だし、早めに帰って夕飯作らないとなー。

 俺はその場でログアウトをする。ちなみに、セーフティエリアの中でログアウトすると、次回もそこにログインするが、ただのフィールドでログアウトした場合、最初の街「リネン」にログインすることになる。

 それじゃ……



 ―――



「んー。……あれ?痛くない」


 腰とか首とか痛くなってると思ったら、全然そんなことなかった。流石VR用ベッドといったところか。家にも欲しいな。


「……」


 隣のベッドで寝ている、ピクリとも動かない玲花を見つめる。顔の大半はVRギアで隠れているが、白い肌にやわらかそうな栗色の髪がかかって、艶めかしい。特に鎖骨の辺りなんかは……はっ!俺は今何を……?

 頭を左右にぶんぶんとふり、邪念を追い出す。危ない危ない、危うく清十郎さんにあぼーん(ソフトな表現)されるとこだった。

 最後にもう一度玲花を見、静かに部屋をでて御崎邸を後にした。





モンスターの頭上にはHPバーと名前が表示される。ちなみにプレイヤーの頭上には街中では“目を凝らせば”HPバーや名前が、戦闘中は常時HPバーもろもろが表示される。


『IWO』内でも、インターネットに接続できる。おもに掲示板と攻略wikiを利用する人が多い。特に掲示板は公式のものへは直行できる。


クノが攻撃を避けられたのは、相手の速度がそんなに速くなかったからと、クノの動体視力がよかったから。


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