第四十六話 騎獣のお話②
4/28 騎獣上でのアイテム・武器使用について少し補足
マスタリー→プライドに変更。それに伴い本文も修正
5/1 修正
カタログを開く。
1P目から騎獣の素晴らしさがずらずらと細かく書かれていた。パラパラとめくる。それが、……32P分も。もう重箱の隅をほじくってんじゃねぇよというほど無理のある賛辞すら有る。無駄にページ使ってんじゃねぇよ。
こいつ頭大丈夫かな……顔を上げると、店員は未だカタログ製作秘話と、自身がどれだけ騎獣を愛しているかということを喋りつづけていた。
「……であるからして、騎獣は時に主人の足となり、時に目となり、時に盾となり……これほど人間と共存し、人間を支えるものが……なんといっても、その忠義のあつさと……」
げんなりとして、店員の声をシャットアウト。
カタログは33P目から、普通の商品カタログとなっていた。
無駄な所に力入れ過ぎだ、開発さんよぉ。
とはいえ、商品カタログはなかなか楽しめるものだった。それこそ何かの図鑑のようにいろいろな騎獣の写真が載っていてわくわくするし。ふむふむ、と騎獣の写真と解説に目を通していく。
カタログの1ページの構成は、上半分が写真、下半分が パワー/ガード/スタミナ/スピード/プライド の評価観点からの☆一つ~五つの評価と、騎獣の種族名や血統や性格、利点や欠点となっている。
ちなみに、評価の内容はこんな感じ。
パワー:騎獣の攻撃力
ガード:騎獣の防御力
スタミナ:騎獣の体力
スピード:騎獣の速さ
プライド:騎獣の従え難さ
写真では違いがわからなくても、解説を見ると微妙にパワーだのスタミナだのが違うという奴らもいた。細かいなぁ。……やはり俺の騎獣としては、重視すべきはスタミナとスピードだろうか? 目的は主にフィールドの移動な訳だし。
うう~ん、悩むなぁ。やっぱ数多すぎだろ……
ページを進めていく。大抵の騎獣は、秀でている評価でも☆は四つだ。五つにはなかなかお目にかかれないねぇ。
と、パラパラしていると、ふと真っ黒な騎獣が俺の眼に入る。
おぉ、黒いな。他を圧倒して突き放す黒さだ。
外見は1.5m程のダチョウ?だがその身体には、羽毛の代わりにびっしりと、黒い艶消しの鱗のようなものが隙間なく生えている。それは金属装甲のようでもあり、羽の部分は某機動戦士についている翼状スラスターのよう。全体的に機械的なイメージだな。そして嘴まで安定の真っ黒。きりっとした瞳も黒とくれば、これはもう……決まりだろう。
やはり騎獣に必要なのは、主人との一体感だよね! 俺はエリザコーディネートによって全身真っ黒だし、『腕』も黒いし……ここまできたらとことん黒にこだわりたいところだ。
そこ、変態とか不審者とか言わない。
評価と解説を見てみる。
パワー:☆
ガード:☆
スタミナ:☆☆☆
スピード:☆☆☆☆☆
プライド:☆☆☆☆☆
『ドラク・レイヴィアス』
駆動系黒鳥種と瞬系小竜種との混血種を改造した擬似機巧系黒鳥竜種。
鱗はとても軽い。空気抵抗を最大限に減らし、ひたすらにスピードを追い求めた。しかしその反面通常の騎獣よりも脆いものとなっている。また翼は完全に退化しているが、走行の補助機能を獲得している。
その性格は気高く、自分の認めた者しか背に乗せない。その判断基準は全ての騎獣の中でもトップクラスの厳しさ。生半可な実力では認められることは不可能。
走ることに特化している故に、その身体は戦闘には圧倒的に不向き。
アイテム使用:不可
武器使用:不可
価格:450000L
アイテム・武器使用:不可、というのは、騎獣に乗った状態でアイテムや武器を実体化させられるかどうか、という意味だな。予め実体化させておいても、乗った瞬間全てインベントリ送りになるらしい。まぁ、俺的には割とどうでもいい項目だったりするが。
う~む。スピードは申し分ないし、スタミナもそこそこなんだが……プライドがちょっと高すぎだよなぁ。パワーとガードは問題外。戦闘力とか言われても、邪魔なだけだろ。移動用だっての。
どうするかなぁ……とりあえず、最後までカタログを読むとするかね。
パラパラ……
いつのまにか店員の話は終わっていて、店内には俺がカタログをめくる音だけが響く。
……ん~。
最後まで読んだが、結局『ドラク・レイヴィアス』よりも良さそうなのは見つからなかった。
評価的にも俺の求めるものと合致していたし、こいつを買うことにするか。正直この黒さは魅力的すぎるしな。こう……もうなんかウズウズするレベルで。
プライドに関しては……まぁ、頑張ろう。うん。
あ、そうだ。店員に要望をしてもいいんだったか。
「店員さん。こいつで、なるべくプライドの値が低いものを貰えます?」
「はぁい? 『ドラレイ』か……そうだね。この種は総じて主人を厳しく選別する傾向があるから、プライドも似たり寄ったりに激高だなぁ。なるべく低いものを選ばせて貰うけど、正直意味は無いだろうね」
「そうですか……」
最初はあんなに自身満々だった店員が、そう言って少し落ち込んでしまう。そこまでか。この店員すら落ち込ませるほど従えるのが難しいのか……
「でも、従えることができればこいつは最高の足になってくれるよ。君は見た所Agiが壊滅的だけど、こいつさえいればどこでも風のように駆け抜けられること間違いなしだ」
「壊滅的は余計な御世話だ。……ただ、一個気になる点があるんですけど」
「気になる点? ああ、もしやその壊滅的なVitでも騎獣に乗れるか、という点かな?」
「そうですけど、その壊滅的ってのをやめろこら」
NPCに小馬鹿にされる程落ちぶれちゃいねぇよ。てかそもそも、こっちのステータスが分かるんだな。便利そうな性能してるなぁ。
「大丈夫だよ。騎獣が、自らが認めた主人を落とすことをは絶対にないからね。君が騎獣に認められた時点で、君は騎獣を過不足なく扱うことができる。これは神が与えてくださった一種の加護だ」
神が? つまり、システム的にそうなっているということだろうか。
でも操れるのなら、まぁいいか。
「で、どうする? こいつにするかい?」
「はい。じゃあ、とびきり足の速いのを」
「ははっ、それなら君の期待に添えると思うよ。代金は45
「これで」
俺はLを実体化させて、カウンターに置く。
ちなみに実体化させたLは、10万Lで金貨一枚、1万Lで大銀貨一枚なので、金貨四枚と大銀貨五枚である。
Lは実体化させたい金額を念じると、硬貨の形で実体化させることができるのだ。
ちなみに他の硬貨は、1Lで小銅貨一枚、10Lで銅貨一枚、100Lで大銅貨一枚、1000Lで銀貨一枚、100万Lで大金貨一枚、1000万Lで魔晶貨一枚である。それ以上は知らん。
Lはモンスターを倒したり、その素材を売ったりすると手に入る。
45万というとここの店の騎獣の中でもかなり高い部類で(平均程度の奴が15万だった)、俺のほぼ全財産だが、正直持っていても貯まっていくだけで特に使い道もなかったので、ここでぱーっと使うことにする。
「ハイ確かに。じゃ、ちょっと待っててね~」
そういって、店員は奥のスペースに消えていき、何かを手にすぐに戻って来た。
「はい。これが『ドラク・レイヴィアス』の召喚魔晶だよ」
そういって差し出されたのは、半透明の黒い珠だった。大きさは直径6cm程で、内部では黒い閃光が絶えず迸っている。
「綺麗だな……」
「だろう!? これは騎獣を封じ込めたアイテムでね! 念じるとすぐに騎獣が現れるんだよ」
「へぇ、そうなんですか」
俺はその「召喚魔晶:ドラク・レイヴィアス」というアイテムをインベントリにしまい込む。
「じゃあ君、ドラレイを従えるのは大変だろうけど頑張りたまえ! コツはとにかく君の実力を示すことだ」
「はい、有難うございました」
そう店員に頭を下げ、店を出る。
……こういうときって普通、店員の方が頭を下げるべきところじゃないか? あの店員は最後まで、客を敬うということを知らなかったな、まったく。
もしかしたら騎獣を使う人が少ないのは、あの店員がうざいせいかもしれないなぁ……
そんなことを思いながら、俺は早速騎獣を従えるために一旦北門に向かうのだった。
次回、クノ君による騎獣の調教?