第四十二話 呪具のお話①
5/3 腕輪の効果を変更
「今日はたくさん動きましたぁ。クノさんー、リアルで明日労わってくださいー」
「肩でも揉めばいいのか?」
「あ、ホントに労わって頂ける感じですかっ!?」
「え? ごめん、断った方が良かったか?」
「いえいえいえいえ、そんなことないです。全身全霊で労わって欲しいのです!」
「んー、また明日なー」
「はいなのです! それでは~」
フレイがうきうきスキップで階段を上がっていく。続いて眠そうなリッカの手を引いたノエルと、首をコキコキと鳴らして伸びをしたカリンが。
「では、おやすみなさい」
「おう、お休みノエル」
「おやすみなさい、ノエル。貴女も早く寝るのよ?」
「私も上がろうかな。お休み、皆」
「んにゃ~……」
「ちょっとリッカよだれ……もう。では」
「じゃ、また明日だね」
一礼して去っていくノエルと、手をあげて颯爽と階段を上っていくカリン。
しかしこのゲーム、無駄によだれまで再現されてるんだな……汗は掻かないのに、ちょっと不思議だ。
「クノ、ちょっと待ってて頂戴。すぐに取ってくるから」
「ん、ありがとな」
そういって階段側にあるカウンターの入り口から、カウンターの内に入り、その奥の扉に消えていくエリザ。
エリザが言っているのは、先ほど話題にでたアクセサリの事だろう。
動き回るのが面倒な俺としては、有り難いよなぁ。あぁ、でもそこは“騎獣”とかでカバーできるのかね? 今思い出したけど。
しばらくカウンターの席、もはや定位置になりつつある、階段側の端から数えて三番目という微妙な位置に座ってエリザを待つ。
ちなみにこの席は全部で九席。
カウンターはL字に折れ曲がっていて、Lの短い棒をドアに平行に向けている。長い棒には七席、短い棒には二席、イスが設置されているのだ。
「お待たせ。持って来たわよ」
「おお、どれどれ」
エリザが持ってきたのは、半透明な黒紫色をしたブレスレットだった。表面にはなにやら呪文のようなものがびっしり刻まれている。
エリザから受け取り、さっそく名前と効果を見てみる。
「《呪具》誘香の腕輪」(アクセサリ)
フィールド上のモンスターを引き寄せる
このアクセサリによって引き寄せたモンスターは、以下の効果を得る
①Str/Vit/Int/Min上昇+75%
②全状態異常無効
いやいやいや。
「呪われてるぞこれおい!?」
「ええ、そうね」
あっさりエリザさん。
「いや……まさかの呪いの装備かよ。これ装備したらはずせなくなるとか無いよな?」
予想の斜め上だったよ、おい。てかこのゲーム、呪いの装備とかあったんだな。
「それは無いみたいよ? 普通に渡してきたもの、体験談付きで。……あぁ、そうそう。その腕輪、モンスターを引き寄せるとか書いて有るけども、正確には近場でモンスターをポップさせて、それを向かわせる仕様らしいわよ? 他のプレイヤーの邪魔にはなりにくいってことね」
「そか。そりゃあ二つの意味で良かったけども……って、ん? 渡してきた? これ、誰かからの貰いもんなのか?」
「ええ、生産系プレイヤーの組合で貰って来たのよ」
「へぇ、そんなのあるんだ」
てか、エリザってギルドの皆以外との交流あったんだ……いつも引きこもってるものとばかり……
「なんだか失礼なこと考えてないかしら?」
「気のせいだろ」
「む。まぁ、いいのだけど。私はそこでは主に、呪いの品の鑑定人みたいなことをやってるのよ。解呪師とも言うかしらね」
「おー、なんか知らんが凄そうだな」
解呪師か。かっけー。
「《呪具》誘香の腕輪」を装備しながら、そんなことを思う。これでアクセサリは三つか。後二つ付けられるな。
……んー、やっぱこの紫の腕輪はデザイン的に統一感に欠けるなぁ……不可視化っと。
「程度の低い《呪具》であれば、私のスキルによって浄化できるのよ。まぁ、職人のたしなみって奴ね。私の場合、組合の中でいつの間にか解呪が定着しちゃって、今では職人随一の解呪師よ」
「へぇ。エリザがねぇ」
どっちかというと、呪いは解くよりかける側な気がするのは俺だけか?
とか思うとまたエリザになんか言われそうなので自粛……あれ? なんでジト目なんだろう。
「で、普通であれば浄化したものを持ち主に返すのだけれど、いくつか浄化不可能な代物もあってね……そういうのは使えないから、だいたい皆私に押しつけていくのよ……」
「の割に嬉しそうだが?」
「まぁ、《呪具》のコレクションも今では趣味となっていることは事実だわ。《呪具》のセンスには惹かれるものがあるのよね」
成程。解呪が定着したのは、本人の趣味もあったようだな。
しかし、《呪具》のコレクションて……解呪できないものばかり、つまり強力なものばかりを収集している訳か。
……うん。やっぱエリザは良い趣味してるね。
強力な《呪具》の収集……こう、なんかぐっとくるな。
「ふむ。って、アレ? じゃあこれは俺が貰ってもいいのか?」
「構わないわよ? これはコレクションではあるけれども、やっぱり使えるのなら使ってあげたいじゃない?」
慈しむような顔で、あっさりそんな事を言うエリザ。俺なんかとは格が違うな。
「成程なぁ。エリザはなんていうか……エリザだな」
「どういう意味よ」
「んー、うまく言葉にできないんだが、まぁ褒め言葉だよ」
「……そう。ならいいのだけど」
道具に対する心持ちが、高い……いや、理想的?
とにかく、言ってしまえばゲームのプログラムに対して、自分の手元に置いておくよりも使ってあげた方が良いとか、エリザは職人の鑑だな。
「あのさ」
「何かしら?」
「良かったら、そのコレクションって奴を見せて貰えないか? 正直俺もかなり興味があるんだが」
「私は構わないけれど……クノは、戻らなくてもいいの?」
「ん。俺はほとんど独り暮らしみたいなもんだしな。時間はそこそこ大丈夫だよ」
「そう。ならいいわ、いらっしゃい」
そういって、エリザは俺をカウンターの内へと招き入れる。
何気にこの内に入るのは初めてだな……というか、エリザ以外が入っている所を、見たことがないんだが。なんとなく神聖な場所の気がして若干の躊躇があったが、エリザが良いって言ってるし、いっか。
両開きの仕切り戸を押しあけ、エリザの元へ。
……お、こんな所にI○クッキングヒーターみたいなのがある。こっちはじゃあ、冷蔵庫か? ということはあそこの棚には調理用具やらなんやらが入ってるのかね?
全部外からは見えないような位置にうまく隠されている。いや、正確に言うとクッキングヒーター(?)は見えるけど、近づかないとただの黒い板だな。
ちょっとした調理場になってら。エリザも
エリザの手料理……そういえばノエルが美味しいとか言ってた気が……
「クノ、何やってるの?」
「あ、ごめん」
おっとと。カウンターの内が興味深すぎて、本来の目的を見失うところだった。
俺は奥の扉から顔をのぞかせたエリザに呼ばれ、慌てて自分もその中へと入っていくのだった。
……そういえばこの扉をくぐるのも初めて……いや、キリがないからやめとこ。
エリザミン補給。
次回も補給。