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第四十話 荒野でのお話②

 



 それじゃあテイク2、行きますかね?

 少し離れた岩の陰からモンスターが現れたのを見て、俺は首をコキコキと鳴らした。


「クノ君、良い感じで敵が来たけど……ホントにまた一人で大丈夫かい?」

「任せろって。さっきの敗因を見るに、『偽腕』使えば普通に倒せる範囲内だと思うから」

「そ、そうか……その『偽腕』というのがまだよく分からないんだけど、まぁ頑張って欲しい」

「はいよ」


 カリンが俺の後方へと下がっていく。他の皆ももう既に邪魔にならないようにという配慮か、後ろに行っていた。そして背中で受けるフレイのキラキラした視線が痛い……


「よし、じゃいきますか。【異形の偽腕】」


 発現座標は俺の両脇、丁度両腕を広げたぐらいの位置(肩くらいの高さ)に、一つずつ。

 同時に、「便利ポーチ改」の効果を使って、ノータイムで「長剣」を実体化させる。実体化させる座標は、


 ずずず……


 と現れた『偽腕』の手の中に納まるような位置だ。

 二振りの長剣を、『偽腕』でもって掴む。俺の両腕の剣と合わせ、超変則四刀流の完成。


 ところで。

 今更かもしれないが、武器は実体化させるときに、位置などを自由に決めることができる。

 ただし、実体化可能な範囲はそんなに広くない。正確に検証してみた事は無いが、多分『偽腕』の発現範囲である5mと同じぐらいだと思う。

 ちなみに、特に何も考えなければ鞘ごと背中に括りつけられる。この背中、というのは“長剣”の場合だが。


 俺は四本の剣を構え、前方を睨む。


「【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【捨て身】」


 そしてお馴染みのスキル名を唱えて、戦闘準備完了だ。


 敵は先ほどと同じモンスター、ロゥガルが三匹とガイネークが二匹。


 ガルッ!


 三匹のロゥガルが一斉に駆けてくる。うん、やっぱ速い。


 速いけど……


「……」


 ザシュ――ザシュッ


 うんまぁ、こんなところか。

 俺は右から来たロゥガルを右腕の剣で、左後方からきたのを左の『偽腕』の剣で、それぞれ葬り去った。

 やはり『偽腕』は本体に負けず劣らず……というか確実に本体と同じ速度で剣を振るった。

 そして懸念されていた操作性も、全く問題無し。やはり特訓の成果が出てるね! 

 もうむしろね、読み切った軌道上に剣を振るうだけの簡単なお仕事ですよ。タイミングがちょっとシビアなだけで。


 クゥウン


 おおう? 

 なんか悲しげな声を上げながらキラキラと消えていくロゥガル。何気にこんな声初めて聞いたな……いや、特に何を思う訳でもないんだけど、っとぉ。


 ガルゥッ!


 他の二匹がやられている間に、完全に俺の死角へと回り込んだロゥガルが、爪を振りかぶりジャンプで飛びかかってくる。その突撃たるや、仲間の仇討かと思うほどの鋭さと速さだった。

 狼だし、仲間が殺されると能力アップ! なんてのは本当にありえそうだがな。


 対して俺は前を向いたまま、特に動かない。

 もしもロゥガル某に知性が有れば、完全に“やった――”と思っただろう。それぐらい俺は無反応だし、対応ができないのも事実だ。

 尤も、俺にとっては【危機察知】のお陰で死角なんかあってないようなものだし。それに動かないのも、俺自身は、ってだけなんだけどね。


 それに。“やった――”は完全にフラグだろ?


 ヒュ――ズプリ


 両『偽腕』がスルスルと、信じられないぐらいのスピードで180度回転。そしてタイミングもぴったしに剣をクロスさせる。

 そしてその交差点にいた憐れなロゥガルは、はりつけのまま儚く光の粒子と化すのだった。

 うん、上出来。


「……ははっ」


 結果を視界の端に見て、抑えきれない笑い声を洩らし、俺は前を見据える。

 といっても、相変わらず顔面筋は動こうとする気配すらないが。傍から見ると、割と不気味かもしれないなぁ。


 でもってさぁ、仕上げだ。最後に残ったのはガイネーク。相変わらずの鈍足っぷりだが、今回はそれだけじゃなかった。

 俺の前方で鎌首をもたげ、口を大きく広げて今にも何か吐きだしそうな体勢だったのだ。

 蛇だけに、毒でも飛ばしてくるのかね? 

 まぁ、させないけど。


「口を、閉じろっ」


 ヒュン、ヒュン、と二連続で『偽腕』の持っていた「長剣」を投げつける。

 この距離だ、まず外さない。


 ザクザクッ


 そしてそれは見事二匹のモンスターを地に縫いつけ、勢い余って周りの地面を軽く抉る。

 俺の狙い通りに、その大口を貫かれ、サラサラ~と風に流されるように消えていくガイネーク……って、およ?


 まさか牽制で放った「長剣」で一撃必殺とは……

 ……Str極振りって、凄いね。たしかガイネークって物理攻撃耐性持ってたハズなんだけど。

 ダメージの不安定ささえ無ければ、【投擲】はいらないんじゃないかと思うね、ホント。いや、取るけどさ。


 “解除”と、『偽腕』を黒い靄に沈ませて。


 “戻れ”俺はそう念じて、前方8mくらいに突き刺さった二本の「長剣」の実体化を解く。

 すると「長剣」はファンタジー感もヘッタくれもなくパッ、と瞬間的に消えた。


 いや、これはこれで有る意味ファンタジーなのか?

 でもなぁ……前、というか【武器制限無効化】を取る前は、武器は実体化を解除すると、先端の方から淡く光りながら砂が崩れていくように消えていってたのに。

 あのエフェクトが見れなくなると思うと、なんかちょい残念な気がする。


 「帰巣符」や「投げナイフ」などのアイテム(未使用)の実体化解除時の消え方は今の「長剣」と同じようにノータイムでぱっと消える感じなので、きっと装備している武器だけがあのエフェクトの対象となるんだろうな。

 まぁその分消えるのに時間がかかってた(意外と長くて、三秒ぐらい)ので、今の消え方になって良かったちゃあ良かったとも言えるけど。投げた武器を回収する時の時間短縮的には、な。


「クノさ~んっ!」


 フレイが満面の笑みで抱きついてくる……のを手を押しとどめる。ぐいぐい、と手のひらに頭を押し付けてくるフレイ。

 ふっ、力で俺に勝てるとでも? ……いや、本気になられたらVit的な問題で俺が負けそうだけども……

 ……うん。

 そんなことになる前に、話題を振っておく。


「どうだ? こんな感じで良かったか?」

「はいっ。完璧ですクノさん。やっぱりクノさんはクノさんでクノさんなんですね!」

「そ、そうか」


 高いテンションで子犬のようにじゃれついてくるフレイの頭をわしゃわしゃとしながら俺は思う。

 どういう意味だよ。言語が破綻してるぞおい。


 まぁでも、喜んでもらえたようで良かった、かな?

 『偽腕』は実戦でも十分使えるってのも実証された訳だし。もうちょい苦労する覚悟はあったんだけど、案外と拍子抜けだな。

 やはり、じゃんけん特訓法が効いたか。

 まぁ、より複雑じゃないコトならやっぱ、できるよな。本番いま失敗せずにすんで、良かった良かった。


 後は『偽腕』の本数自体を増やしていくかねぇ。何本まで扱えるだろうか? 自分の限界を知る、という感じで少しわくわくするな。

 ……まぁ、MP的にあんまり多くは出せないんだけど。

 ちなみに今の『偽腕』一本のMP消費量は約二割、正確に言うと400だ。俺の現在のMPが2022、そっからいくつ減ったかを確認したので、まず間違いは無い。400固定だと後々楽なんだけどね?


 MPの回復は、毎秒一律1%だから、『偽腕』一本出せるようになるには、20秒かかるわけか。

 ただ、『偽腕』は最初に発現させる本数を決めておかないとで、後から追加するには既に出している『偽腕』を消さないとだから、一本20秒と言っても、それがどうという訳じゃないんだけど。


「わふー。わふー」

「犬か」


 そろそろ鬱陶しいので、べしっ、と頭に手刀を喰らわせておく。

 よろよろと後退り、頭を押さえてうずくまるフレイ。恨みがましい目でこっちを見ている気がするが、スルーです。


「いつにも増してテンションが高くなってるわよね」

「だな。正直フレイのスイッチは訳分からんよ」


 いつの間にかすぐ隣にいたエリザが、フレイを見て首を傾げ、ついで俺を見る。


「貴方も大概だとは思うのだけれどね」

「む……そうか?」

「そうよ。変人度で言ったら貴方の方が余程なのだし」

「くっ……反論はできないな」


 まぁね? これだけ言われ続ければね? もはや常識クラスになりつつあるもの。自覚症状も進むさ。改めはしないけど。


「それよりクノ、さっきの黒い腕って、一体どうなってるのかしら」

「それより……いや別にいいんだけどさ」

「ああ、それは私も是非聞かせて貰いたいね」


 ギルドでもみせたが、実際にああやって使った所を見せたのは初だからな。まぁ、普通に考えて気になるよなぁ。

 カリンも興味を示し、その後ろではノエルとリッカもこちらを見ている。


「えっと、【異形の偽腕】って言ってMVP報酬なんだよ」

「報酬はそれで固定だったのかい?」

「いや、全部で14個あったけど。そのうちの一つだよ」

「へぇ。敢えて変っぽいものを選ぶ所は流石はクノと言ったところね」

「効果説明は、どのような感じだったのですか?」

「レアスキルー? レアスキルー?」


 おおう。やけにぐいぐいくるな。そんだけ興味が有るんだろうね。

 後、リッカ。このゲームにレアスキルなんてものは無いぞ。スキルは全て平等だ……表記上は。

 まぁ、出現条件の厳しいものは効果が優れているものが多いから、一部のスキルは非公式ではレアスキル、とか呼ばれているものもあるみたいだけども。


「効果説明は、“『腕』が増える”、これだけだった」

「はい? ……よくそれで選ぶ気になれたわね……貴重なMVP報酬なのに」


 エリザが目を見開いて驚いた後、無表情に戻ってつっこむ。

 いやまぁ、確かにな……でも取ってみれば良いスキルだった訳だし、結果オーライだ。


「“『腕』が増える”……短くないですか? 開発は説明放棄でもしてんですかね?」


 お、フレイが復活した。


「いや、説明放棄って言うより、説明できなかったんだと思うが。このスキル、やたら自由度高いから。だったら下手に説明するより、実際に自分で試させた方が良いって感じだろ」

「ほぉ、成程ね。まさかそんな面白いスキルがあるなんてびっくりだよ。私もMVPに成ることができていればなぁ……」

「あー、うん、なんかすまんな。でもまぁほら、次のイベントもあるし、希望は捨てないで良いと思う」

「そう、だね。ふふ、今度こそギルドマスターとしての威厳を見せてあげるよ」

「今でも十分だっての」


 別にMVPじゃなくても、カリンは凄い、というのはうちのギルドの共通認識だしな。

 でなければこのメンツ(主にフレイとエリザ)がリーダーを任せたりはしないだろ。


「おっと。お喋りは中断かな? モンスターだよ」


 あら。見ると前方三方向からモンスターが来ている。

 まぁ『偽腕』に関する質問も、ひと段落したみたいだし、丁度良かったかな。


「今度は私達も一緒に戦いますよっ」

「そうだな。まぁ、お手柔らかに頼むよ」


 フレイが元気な声をかけてきて、他の皆も各々武器を構える。


「【異形の偽腕】【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【捨て身】」


 地味に皆で戦うのは通常フィールドだと初めてだから、これからが本番ってところかな。


 仲間のために戦う。うん、そう思うとなかなか……燃えてくるじゃないか? まぁこのフィールド選択自体が既に俺のためなんで、俺が言えた義理じゃないかもだけど。


 まぁいいや。

 じゃ、いきますかねー。






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