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第三十八話 最強の一面のお話


たびたび名前のあがる最強さんが登場。

しかし、その強さが具体的に語られる日は果たしてくるのか……


 



 第三の街、「ロビアス」は、なんというか……黄色い感じだった。

 なんだろう、黄色レンガっていうのか? 「ウウレ」の赤レンガと違って、落ち着いた感じはあんまりしなくて、いかにもファンタジーって感じのカラフルな街並みだ。

 歩道まで黄色レンガで、ちょいと眼がチカチカするな。


 中央広場には、人間に翼が生えたようなモノが、手を広げている形の銅像があった。なんだったんだアレ……この街は全体的に、趣味がよろしくないな。

 クリスとの待ち合わせは「ウウレ」にして正解だったように思う。


 まぁ、そんなことはどうでもいいんだが。

 俺達は今、「ロビアス」の南門に向かってぞろぞろと歩いているところだ。この街は攻略の最前線ってことで、結構人は多いな。

 しかし、俺達が集団で歩いても余裕があるくらい通りの道幅は広い。両脇には建物が並んでいて、このほとんどが立ち入り不可のオブジェクトだ。たまにNPCショップや、ギルドホーム候補地がある。

 ……NPCショップといえば、折角「ロビアス」に来れたんだから早いとこ“騎獣”をゲットしときたいな。騎獣専門店は北側にあるし、明日でもいいんだけど。


「私が連携とかをびしばし教えてあげますからね~!」

「おー、よろしくなフレイ」


 テンションの高いフレイを、適当に流しておく。

 別にびしばし教えてくれなくても、邪魔にならない立ちまわりさえ教えてくれれば後は勝手に判断させて貰おうと思うんだがなぁ。俺のメインの目的は『腕』だし。


 フレイは俺達より少し前を、くるくると回りながら歩いている。

 てか、そんなに道の真ん中で荒ぶったら他のプレイヤーの迷惑……

 ……あ、ぶつかった。


「あ、すいませんっ」

「お、おう、嬢ちゃん気を付けなよ?」

「はい、今後気をつけます……」


 素直に頭を下げて、俺の後ろに戻ってくるフレイ。

 そうそう、ぶつかった人がたまたま優しい人だったから良かったものの……って、あれ?

 フレイがぶつかった、ゴツイ金属鎧を着て茶髪を刈り上げにした、筋骨隆々な大男は、俺の知ってる顔だった。

 というか、


「おっ、お前クノじゃねぇか! 久し振り、になるのか? MVPおめでとさん」

「ああ、有難うな、オルトスさん」


『IWO』ではもはや知らないものはいないであろう、名高き“最強”の名を冠するプレイヤー。

 ギルド「グロリアス」ギルドマスター、オルトスさんだった。

 なんという偶然だろう。『IWO』での超有名人に道でぶつかるとか。

 そういえば、最初に会った時にフレンド登録して以来、特に絡みもなかったよなぁ。噂ばっかり聞くばかりで。

 ……尤も、それはあちらにしても同じかもしれないが。


「オルトスさんこそ、対抗戦一位おめでとう」

「おう。だが俺はMVPを狙ってたんだがなぁ」


 ちょっと残念そうな顔のオルトスさん。ごつい顔だが、眉がちょっと垂れ下がり、とたんに気の弱い熊さんみたいな顔になる。なんだろう、ちょっと罪悪感が……

 それにしても、こんな有名人が普通に街歩いてるとか、なんか意外だ。いや別におかしいことでもなんでもないんだけども。

 ここが攻略の最前線なら、オルトスさんがこの街にいるのは当たり前、か?


「悪いな。まぁ、今回は俺の運が良かったんだよ」

「はっはっは! そんなに謙遜するなよ。MVP取れなかった奴からすると、ただの嫌味だぜ? もっと誇れ」


 いや、謙遜じゃないんだけどな……でもまぁ、そこまで言ってくれるなら。


「そうか? じゃあ遠慮なく……ドヤァ」


 口と雰囲気だけな。相変わらず俺の顔面筋は活躍しない。


「……悪い、それはそれでムカつくんだな」

「……うん、俺もこれはどうかと思った」

「ああ、お前は謙虚な方が良いかもしれんな……うちの連中も殺気立ってることだし」

「? 連中っていうと、グロリアスの人たちだよな」


 対抗戦で俺に倒されたからってことか? 次回のイベントとかで復讐リベンジを考えてらっしゃるんだろうか? だとしたらより一層頑張って『偽腕』の特訓をしなきゃだなー。


「お前、カリンさんのトコに入ってるだろ? それが羨ましくて仕方がねぇみたいでよ。ウチに入ってるならせめて俺が見てないところで愚痴りやがれってんだ」

「あー、そっちかよ……ご愁傷様?」


 そう言いながらも顔は笑っているオルトスさん。まぁ、そのプレイヤーさん達も本気じゃないだろうしな……本気じゃないよな? 

 しかし「花鳥風月」が羨ましい……うん、確かに気持ちはわかるけどな。ココは居心地がいいから。しかし俺に殺気立つのもどうかとは思うんだ。


「お前、どうやって「花鳥風月」に入ったんだ? 新入りは軒並みシャットアウトの身内ギルドで有名なんだが?」

「そういうのは本人にでも聞けばいいんじゃないか?」


 この場には、「花鳥風月」メンバーが全員揃っている。でもって、皆で俺とオルトスさんの会話を興味深そうに聞いてるんだがね。

 そう言うと、とたんにオルトスさんは慌てたように首を振り、ぐいっ、と俺の耳に顔を近づけて、そっとこぼした。


「……お、俺はあんな美人と話す度胸ねぇよ……」

「……」


 マジか。こいつマジか。

 すげえキョドってる。カリンの方を横目でちらっとみて、さっと目をそらす始末だ。そしてその眼はざぶんざぶんと泳いでいる。


 ……奥手かっっ!! ってかヘタレかっっ!!

 この人豪快そうな顔して、まさかの女性耐性なしか! 何この無駄なギャップ!


「まぁ、そういう訳だよ……で? どうなんだ?」


 こそこそ話の体勢を維持したまま問いかけてくるオルトスさん。どうって言われてもなぁ。


「んー。メンバーの一人とちょっと知り合いでな。そのツテみたいなもんだ」

「……そ、そうか。成程な……」

「まぁ、特に何があるわけでもないから。ギルドの皆さんにはそれとなく鎮まるように言っといてくれないか?」

「ああ、わかった。とはいえ、あいつらが耳を貸すとは思えんからなぁ。期待はするな」

「まぁ、駄目もとって奴だよ」

「そうか。ならいいんだが」


 そう言って、元の体勢に戻るオルトスさん。


「じゃあ、邪魔して悪かったな。後は若ぇの同士で……」

「見合いかっ。お前のノリは良くわからんな!?」

「はっはっは。ちょっとしたジョークだ。じゃあな」

「はぁ。ああ、じゃあな~」


 そして、俺達の横を通り過ぎて颯爽と去っていくオルトスさん。

 それに手を振り、そして皆に声をかける。


「よし、行こうか」


 なんか聞きたそうな顔をしてるが、歩きながらだ。でないと時間がなくなる。

 ちなみに時刻は現在、19:14。高校生組はともかく、ノエルやリッカは一旦ログアウトしたりしないのかな? まあ、俺がとやかく言うことでもないんだが。

 歩きながら、右隣からフレイが話しかけてくる。今度はちゃんと一団におさまっているようで一安心。


「オルトスさんとフレって本当だったんですね~」

「疑ってたのか?」

「いえいえ滅相もないですよ~? ただ、クノさんは相変わらず凄いな、と」

「凄い、のかな?」

「凄い、とはちょっと違うかもしれないけれど。珍しいことは確かじゃないかな」

「確かに、珍しいですね」

「クノくん、珍しいの~? ……いつものことじゃん」


 カリン、ノエル、リッカが会話に混ざる。珍しい? どういう意味だろうか?

 そしてリッカ。いつものことて、おい……


「オルトスのフレンドは、もれなく彼のギルドに入るからね。それこそ、他のギルドのマスターやサブマスで無い限り。それだけの人気を、彼のギルドは持っている。だから、彼のフレンドで有りながら「グロリアス」に所属していないクノ君は割と希少なのさ」

「へぇ、成程。でも俺はこのギルドかちょうふうげつに入って良かったって、心の底から思ってるぜ?」

「……それは光栄だね。其れを聞いて、少し安心した」


 カリンは一瞬驚いたような顔をした後、笑った。

 ……む。意外と恥ずかしいこと言った気がするな。まぁ事実だしいっか。


「そういえばエリザ」

「何かしら?」


 俺の左隣に陣取るエリザに話かける。

 これをエリザから聞いたのは一カ月ぐらい前だったけど……


「たしか俺の「黒蓮」のベースになった素材って、オルトスから仕入れたんだよな?」

「その通りよ。βの時に、偶々露店を開いていたら彼がやって来て、やたらどもりながら素材を置いていったわね……そんなこと、クノに言ったかしら?」

「ああ、初めてギルドに来た時にな」


 しかしオルトスさんが、エリザに素材をって。

 エリザは美少女だし、さっきの態度からすると、にわかに信じがたいんだよなぁ。あの人もなけなしの勇気を振り絞ったとか、そんなとこだろうかね?


「大分前じゃない……記憶力良いわね。頭が良いって、本当だったの」

「そうか? ってか、本当だったのって誰から聞いてたんだ?」


 いや、想像はつくけど。


「フレイよ。言ったでしょう? クノのことはいろいろ聞いてるって」

「それこそ大分前じゃないか? 覚えてるけど」


 というか、オルトスさんのことを聞いたのと同じ日だし。

 フレイ……どこまで俺の個人情報流してるんだろうか。このレベルだったら全然問題ないんだが。


「あ、クノさん、着きましたね~」

「だな」


 喋りながら歩いていると、もう南門についていた。

 そこから見えるフィールドは……荒野かな? 赤茶けた地面と、ゴツゴツとした岩が見える。プレイヤーの数はそうでもないので、近場で狩りができそうなのは有り難い。


「さて、じゃあクノ君を交えてのパーティー戦、始めようか?」


 カリンが門の中央に仁王立ち、宣言する。おー、と続く俺達。


 ……おっ、門の近くになんか馬っぽいのに乗った人発見。あれが騎獣かな?

 茶色の長い毛で、背と足回りは金属鎧に覆われている。ほ~、成程。かっこいいなぁ。

 あっ、いっちゃった……結構速いのな。うむ、これは期待が膨らむねぇ。


「ちょ、クノ君……折角私が士気を上げたんだから、初っ端からよそ見してないでくれるかい?」

「あ、すいません」


 そして怒られてしまいましたよっと。

 しかしパーティー戦ね~。どうなることやら。


 



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