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第三十七話 ボス戦後のお話②

 



 早く実戦で長剣何刀流、ってしたかったんだけどなぁ。

 投擲もいいんだけどさぁ……なんか作業感が漂ってくるというか。いや、いいんだけどさぁ。


「……そうかぁ」

「何よそのいかにも残念そうな声は」

「残念だわぁ……」

「……適当なもので良ければ、今からでも作るのだけれどね。でもそれじゃあ、」

「マジかっ、是非頼む!」


 エリザの手を、思わずがしっと掴む。

 エリザさんマジ天使っ! 恩に着ます!

 やった。これで本格的に『偽腕』の実戦訓練ができるな。


「……え? いいのかしら、それで? 予備の剣が欲しいのなら、時間さえあれば「黒蓮」に負けないものを作れるのだけれど」

「あー、それも是非お願いしたいんだが、てかお願いします。が、今は大丈夫だよ。とりあえず長剣の体さえ整っていればなんでも構わない」


 むしろ、最悪“ひのきの棒”でもいいくらい……いや、それは流石に恥ずかしいか……


「理由は?」

「ちょっとしたスキルの練習用に使うんだよ。ほら、昨日言ってたスキル」

「ああ、秘密、とか言っていた奴かしら? 今日はお披露目なの?」

「まぁ、そういうこと。というか、さっきも使ってたんだけどな」

「さっきも……て、もしかしてあの黒い変な奴?」


 変な奴……ぅん、間違っては無いか。


「そうそう。それ」

「へぇ……まぁ、いいわ。何本必要なのかしら?」


 んー。どうするか。

 一本は「黒蓮・壱式改」があるとして。腕を何本増やすかによって変わってくるよなぁ。

 でもまぁ、今日の所は『偽腕』二本かなぁ。三本以上出しても、いきなり扱えるかどうかは微妙だし、それはまた練習してからだな。

 最終目標は武器を持てる最大数の、『偽腕』八本(俺の腕と合わせて十本)を想定してるけど、そもそも今はそんなに出せないし。MPの問題で。


「……じゃあ、三本頼む」

「了解よ……三分で仕上げるわ」

「早いなっ!?」

「素材さえあって、武器の性能を求めなければそんなものよ」

「そんなもんか?」

「そんなものよ」


 そういってエリザはカウンターの奥の工房スペースへ。

 ホント、エリザには頭が上がらんな。

 後で本格的な長剣をまた何本か作ってもらいたいし……このギルドでエリザに一番頼ってるのって、完璧俺だよなぁ。手に入れた素材は全部献上しているんだが、それだけじゃ足りない気がする今日この頃です。


「クノ君、なにを話していたのかな?」

「ああ、ちょっとな。エリザに武器を作ってもらおうと。出発はもうちょい待ってくれるか?」

「それはいいのだけど。こんな時に武器を“作って”もらうのかい? 装備は有る程度以上時間と手間をかけないと良いものはできないとエリザは言っていたのだけれどね」

「ああ、それについては大丈夫。メイン武器ともちょっと違うから。感覚としては木刀に近いもんかな」

「? ……まぁ、クノ君が良いのなら追及はしないが」


 あ、そういえばクリスに、【異形の偽腕】はグロそう、なんて言われたんだっけ。

 実際ホラーだったしな、そもそも使っても大丈夫だろうか……

 さっきはボスに夢中だったから特に考えなしだったけど。


「なぁ、皆。この中でホラー映画とか苦手な人って、いる?」


 念のため確認しておく。


 しーん。


 皆一斉に、? という顔をしている。

 よし、これなら平気っぽいな。


「実は俺、こんなスキルを取ったんだが」


 そう言って、目の前に『偽腕』を一本発現させる。


 ずずず


 黒い靄から『偽腕』が這い出てくる。

 うん、普通に不気味だ。


「! お、おぉ、成程。やはり新しいスキルだったか」

「さっきのアレですね!」

「あぁ、先ほどのですか」

「すごいよねー」


 が、しかし。「花鳥風月」メンバーには、むしろ評判上々だった。意外だ。

 あれ、じゃあ、クリスが怖がりなだけだったのかね? あんまりイメージは……

 いや、これがギャップ萌えという奴なのか……?


 というか、やっぱり皆ボス戦で見てたみたい。

 その上で追及してこなかったのは暗黙の了解みたいなもんだろう。


「平気ならいいんだが」

「うん、大丈夫、こ、この程度余裕だよ?」


 ……あれ、若干カリンが怪しい気が……

 まぁ本人が大丈夫と言ってるならいっか。 


 あ、そうだ。さっきのすり抜けに関してちょいと検証してみるか。


「フレイ、ちょっとこの『偽腕』に触れてみてくれないか?」

「あ、はい。いいですよー」


 さて、触れられるのか。

 触れられるのだとしたら、あのすり抜けは相手の“攻撃”のみをすり抜けるという線が濃厚になってくる。

 逆に触れられなかったら……俺と、俺の所有物以外の全てをすり抜ける、とか? 

 ゲームバランスを考えると、こっちの説の方が濃厚かなぁ。

 床殴りに関しては、あの部屋自体が俺の物だと認識されたんだろう。ギルドの部屋は、一回使用すると部屋主登録がされて、他のプレイヤーが勝手に開けたりできないようになってるから。


「えいっ! ……? えいっ! ……クノさーん。触れないですー!」

「そか。よしフレイ有難う。もういいぞ」

「?」


 触れられなかった。


 ってことは後者になるのかね。

 そうすると、そもそも範囲が広くても『偽腕』のすり抜け性質を利用して一方的に殴る、とかはできないみたいだな。

 ただ、武器を持たせればいいみたいだからそこらへんはグレーだけど。


 まぁ、いっか。

 『偽腕』にバイバイ、と手を振らせて、ずぶずぶと沈ませる。

 

「何をやっているのかしら?」


 後ろから急に声をかけられる。エリザか。


「出来たわよ」

「やっぱ早すぎやしない!?」

「別にそうでもないわよ」

「……あー、まぁいっか。有難うな、エリザ」

「どういたしまして」


 そしてエリザは三本の長剣、その名もズバリ「長剣」を実体化させて俺に差し出してくる。

 即席で作っただけあって、名前も超適当だな。色はしっかり黒いけど。

 俺はそれを受け取り、自分のインベントリに入れる。ちなみに入れ方は、メニュー画面に触れさせると、吸収?される。


 俺のインベントリ内に、「長剣」「長剣」「長剣」と武器が表示される。

 よし、これで「黒蓮」と合わせて四刀流ができるな。


 ところで。

 この間に俺達はトレード的な手間は必要としていないんだが、それは、この剣はエリザが既に“所有権”を解除したものだからだ。

 “所有権”のないアイテム等を自分のインベントリに入れると、所有権が自分に移る仕様があるんだよ。ちょっとした裏技?って奴だな。


 まぁ、そんな感じで手にいれた「長剣」、ステータスはというと。


「長剣」(長剣) Str+71


 ……ぅん。反応に困る数値だな。三つとも同じ数値だった。

 三分で作ったにしては良い方なのか? でも「黒蓮・壱式改」の三分の一だしなぁ。

 いや、そもそも普通の武器の攻撃力の基準が分からんことにはどうしようもないか。

 エリザが作ったやつ以外の武器っていうと、初期装備の「古びた長剣」ぐらいしか知らないし。


 まぁ、俺の場合武器の攻撃力は総合攻撃力からすると割と些細なものだしな。高い方が良いのは確かだけど、長剣であればなんでもいいか。


「後、これも」


 そう言って、なにやら懐中時計のようなものを実体化させるエリザ。

 というか、懐中時計以外には見えない。何に使うんだ?


「?」

「この前暇だったから作ってみたのよ。クノのその服に合うように「便利ポーチ」の外見を弄ったりしてみたの」


 こころなし、ふふん、と胸を張るエリザ。

 張ってもそんなにn……なんか今殺気を感じたから、これ以上はやめとこ。

 それよりも。


「いや、自慢げにしてるとこ悪いんだが、便利ポーチ自体何? って感じなんだが」


 何? アイテム? 装備?


「「「「「……」」」」」

「……え?」


 なんか、皆さん一斉に、コイツ何言ってんだ的な目で見てくる。

 え? なんで?


「クノさん、もしかして知らないんですか……?」

「知らん」

「……あぁ、そっか。クノさん戦闘中にポーションとか使わないですもんね。ということはボス戦中にわざわざメニュー開いてたのもそう言うことですか」

「いや、一人で納得してるなよ。俺にもわかるように説明してくれ」


 フレイに説明を求める。

 それに応えて、フレイが指を振り、歩きまわりながら説明開始。


「……便利ポーチというのはですね。第一の街の道具屋で販売されている、特殊アイテムです。アイテムというより、装備に近いんですけどね。このゲームを始めて、道具屋にいったらみなさん真っ先に買うようなアイテムですよ」

「俺はそもそも道具屋に行ったことがないんだが……」


 俺が行ったことのあるNPCのアイテムショップといえば、魔法符屋だけだ。

 ちなみに魔法符屋とは、「帰巣符」なんかの、魔法符アイテムを売ってる店。

 普通の道具屋にも売ってるらしいんだが、専門店で買う方が安いんだよな。後種類も豊富。


 『IWO』にはこんな風に、アイテムでも括りごとに専門店があったりして、芸が細かい。ただし何故かポーションの専門店だけは無いらしいんだがな。道具屋で買うしかないらしい。

 ちなみに、素材を売る時には適当にその辺の露店で売ってた。今は全てエリザに献上しているが。


「クノ……それは流石にどうかと思うわよ……」

「ゲームのセオリーすら無視してますねぇ」

「抜けてるというか、なんというかだね」

「クノさんは……その、凄い人? ですね」

「じゃあクノくんポーションとかはどうしてるの~?」


「使ったことないな」


「「「「「駄目だこりゃ」」」」」


 一斉に言われてしまった。

 仕方ないじゃないかよー、必要ないんだから。


「はぁ、もう、いいです。で、便利ポーチの説明に戻るとですね」

「おう」

「便利ポーチは、アイテムインベントリの枠を五個まで選択できて、その枠内のアイテムを念じるだけで取り出せるという優れモノなのですよ」

「メニューを開かなくても?」

「メニューを開かなくても」

「すっげぇ便利じゃん!」

「だから、そんな便利アイテムを今まで持ってなかったクノさんにびっくりしてるんですよっ!」

「成程なー」


 うっわ、それ凄い便利じゃないか。ナイフ投げまくりだよ? メニュー操作が要らないから、ストレスレスで使えるし。

 ……あれ? でも逆に言うと、ナイフ以外にセットするアイテム持ってないな。「帰巣符」なんか思考で取り出せてもだから何?って感じだし。あれ戦闘中は使えないんだよ。


 ……状態異常を引き起こすナイフとか? 結局ナイフだな。

 あー、でもそういうの高いんだっけ。ノーマルの何倍もするとか。エリザにあんま負担掛けたくないから、却下かなぁ。第一、必要なさげ。

 でもまぁ、戦闘中にノータイムでナイフが取り出せたら、それだけで戦術の幅が広がるよね。多分。


 遠距離の敵にもすぐに攻撃できるし。てか、対抗戦の時にナイフ持っとけばなぁ……その発想は完全に無かったよなぁ。


「……今となっては、完全に無駄かもしれないけれど。一応その便利ポーチ、枠を五個じゃなくて十個まで選択できる優れ物なのよ?」

「うっわ、エリザなんかごめん……」

「ふふ。いえ、いいわよ。作る過程が楽しいのだから。ふふ」


 エリザが若干怖い笑みを浮かべている。

 うわぁ~。完全に宝の持ち腐れって奴じゃないですかぁ。

 ナイフ×99を、十枠分入れとくか? いやそんなに使わねー。


 んん……

 ……あっ、武器入れとけばいいのか。


 そうだ! そうだよ。武器を入れとけばいいんだ!

 そうだよな、いちいちメニューを開いて武器を取りだす手間が省けて助かるじゃないか。

 しかも、【武器制限無効化】を持ってないプレイヤーは、インベントリから武器を実体化させても意味がないから、便利ポーチがあってもメニューを開かないと武器を取りだせない。

 しかし俺は違う。念じるだけで武器をとりだすことができるのだっ! 

 これは大きなアドバンテージ……あー……大きなアドバンテージかどうかはともかく、扱う武器の数が増える俺としてはかなり嬉しいな。


「いや、エリザ。改良してくれた意味はあったよ。ありがとな」

「本当?」

「本当、本当」

「……そう、なら良かったわ。精々大事に使って頂戴」

「了解しました」


 どこかホッとしたようなエリザから懐中時計を受け取る。

 一回インベントリに入れて、所有権が俺に移る。



「便利ポーチ改」

 アイテムインベントリの枠を10まで選択可能

 選択した枠内のアイテムを、思考により実体化することが可能

 特殊/売却可



 時計型なのに、名前は「便利ポーチ」なんだ。エリザって、“改”とか好きだよねぇ。

 まぁ、別にこれ自体からアイテムを取りだす訳でもないので、いいんだけど。


 俺はそれをコートの内ポケットに仕舞う。

 胸ポケットでも良かったんだけど、落とすと困る……って、じゃあ実体化させなきゃいいんだろうけど。それだとインベントリの枠が一つ埋まるんだよなぁ。

 実体化させたアイテムは、インベントリ内から消えて、枠が一つ空くのだ。


 まぁでも、俺のインベントリのスカスカ感を考えると、折角エリザが作ってくれたものなので、愛用感を出したいってのが本当の所だな。

 確認したところ、時間も合ってるみたいだからこんどから時刻の確認はこいつでしようっと。

 時計盤が二つ付いていて、一つが24時間表示の盤になっていて、もうひとつで分&秒単位が分かる。勿論アナログだ。

 この渋い感じがまた堪らんよなぁ……良い趣味してるぜ、エリザは。


「そろそろいいかい?」

「ん? ああ、カリン。準備ばっちりだよ」


 早速インベントリの中の枠を上から十個選択、そこに「黒蓮・壱式改」「長剣」「長剣」「長剣」「投げナイフ」×72「帰巣符」×24「大紫蛾の翅」×3「大紫蛾の触手」×2「大紫蛾の鱗粉」×4「スキル原石」×2、がくる。

 

 ぴったり十個。アイテム少ねぇな、俺のインベ……

 あっ、蛾の素材は後でエリザに渡しとかないとだな。


「そうかい。じゃあ、出発といこうか?」


 目指すは西のフィールド。

 さて、俺はボス以外のモンスターというと、最初のエリアのモンスターとしか戦ったことはないんだが。どこまで強くなってんのかね?


「はいですー! 頑張りましょー! おー!」

「テンション高ぇな」

「いつもの三割増しってところかしら」

「むしろあれで三割なことに驚きだよな」

「そうね……」


 元気だなぁ……




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