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第三十六話 ボス戦後のお話①

 



「はぁあ」 


 ボス戦後の、「ロビアス・・・・」にある「花鳥風月」のギルドホームにて。

 俺は憂鬱にため息をついていた。


 あの後。

 ボスを倒した後、「落下ダメージによって死ぬ」という、まさに高火力紙装甲の鑑みたいな真似をした後。

 最後に立ち寄った街、つまり「ウウレ」に死に戻った俺が先ずしたことは、インベントリの確認だった。

 そしてそこに、ボス・ソルビアルモスの素材と、スキル原石が入っていることを確かめた。


 最後に討伐成功のファンファーレが鳴ってたから、俺はあの時点でソルビアルモス討伐は達成していた訳だな。

 そして「帰巣符」のギルドホーム選択画面に、第三の街「ロビアス」が追加されていたことから、それは確定となった。

 でもって、そこから速攻「帰巣符」使って、「ロビアス」のギルドホーム、つまりここにやって来たのだ。


 ギルドホームには誰も居なかったが、すぐに帰ってくるだろ。

 ボス討伐後はあの光のゲート的なものが毎回現れるから、たぶんそれで「ロビアス」の中央広場に転移して、そこからここを目指してくるはずだ。

 

 しっかし、それにしてもなぁ。

 ボス討伐できたのは嬉しいんだけど、なんかこう、ねぇ?

 最後の最後でアレだったから、嬉しさ半減って言うか。ジャッジさんの声も聞けなかったし。


 あ、そう言えば。

 ボス討伐時に、ファンファーレの前に、レベルアップのお知らせ音みたいなのが鳴っていて、それが少し不思議だったんだが、メニューを開いてみると、



 スキルが上位変化しました


【不屈の精神】→【不屈の執念】



 とのことだった。

 どうやら最後のあの【不屈の精神】の発動で上位変化したようだな。変化の条件は一体なんだったんだろうかね? やっぱ発動回数とか、そこらへんだろうか?

 スキルの効果はこんな感じだ。



【不屈の執念】PS


 自身のHPが0になるダメージを受けた場合、一度の戦闘中に一度までHP1で耐える

 このスキルが発動した場合、自身の次の一撃は相手のあらゆる防御(スキル・魔法・特性含む)を無視してダメージを与える



 二行目が付けたされて、随分と俺好みのスキルに変化している。

 善きかな善きかな。防御貫通攻撃とか、浪漫だねぇ。


 ガチャ


 と、ギルドホームのドアが開く。

 お、皆帰ってきたっぽいな。


「おかえりー」


 俺は皆にむかってひらひらと手を振る。


「クノさ~ん! やっぱこっちに来てましたか。いなかったらコールするつもりだったんですが、手間が省けましたねー」

「まぁ、そのなんだ。クノ君……どんまい?」

「あのラストは残念すぎるわよね……でもまぁ、ボスのHPをあの一撃で削りきったのは素直に凄いと思うのだけれど」

「改めて常識外の攻撃力ですね。ボスのHPバーを一撃で全損なんて」

「クノくんかっこよかったよ~」

「ですね~。そしてあり得なかったですね~、いろんな意味で」


 入って来て早々、口々にそんなことを言われる。

 あぁ、うん。なんて言えばいんだろうな?

 このもやもやとした気持ちは……

 とりあえずリッカ、有難う。お兄さん嬉しいよ。

 そのまま純真に育ってくれるとお兄さんもっと嬉しいなぁ……


「あ、勿論褒めてますよ? 普通に考えて、一撃のダメージ量だと私の……えーと、15倍くらいですか……?」

「……あ、改めて恐ろしいね……」

「化物よね。というか、その前の投擲にしたって、普通スキルが有っても、ボスに対しては毛ほどもダメージを与えられないはずなのだけどね……」

「これでアーツも使っていないのですし……」

「おどろきだよね~」


 続く言葉には、どこか畏怖のようなものが込められている。まぁ、確かに常識外だよなぁ、『偽腕』使うんだから、化物って呼び方も正解かも。

 そして地味に、俺の投擲は普通のプレイヤーのスキル有りを上回っていることが判明。

 まぁ、いっか。ふう。


「うん。俺的にもあの最後のは無かったなぁ、って反省中だよ。もう少し気を付けるべきだったよな、本当にすまん」


 手を合わせて謝罪。

 迂闊に走りだしたりしたから、こんなことになっちゃったんだし。まぁ、そうでなくても突進をかわせたかというと微妙なところなんだが。


「いや、いいよ。結果的に倒せたのだから、終わりよければすべて良しだね。それにクノ君がいたおかげで、時間的には前に戦った時の半分ほどだったしね」

「……良い終わりとは言えなかっのだから、その使い方は微妙なところよ?」

「む、そ、そうか……」

「言いたいことは伝わりますがね~」

「うん、カリン、有難うな」

「いえ、どういたしまして。やっとクノ君がロビアスまで来れたんだからね、ギルドとしても嬉しい限りだよ」


 そうだな。

 レベル35にして、ようやく第三の街だよ。皆からどんだけ遅れての到着だよって感じだ。

 俺一人のせいで、ギルド全員が今まで「ウウレ」にいた訳で……狩りとか不便だったろうに、俺にはそんな様子はみじんも見せないし。

 ああ。ホント、良い仲間を持って幸運だよ、俺は。


「クノさん。折角ボス戦しましたし、これからしばらくは私達とパーティー組んでやりません?」

「パーティー? 普段もってことか?」

「はい」


 んー、パーティーなぁ。

 どうするか……皆に頼ろう、とは言ったものの、これは頼る云々以前の問題だしなぁ。そもアレは今回、ボス戦だけだし。

 俺がパーティープレイをしないのは、単純に双方のためにならなそうだからだ。

 俺は基本的に待ちの姿勢で狩りをするが、別に【挑発】とかのヘイト値を集めるスキルを持ってる訳ではない。だから、大人数がいるとモンスターが分散してしまってかえってやりずらいんだよなぁ。

 『偽腕』を取って、その性質が「空間固定」だったからなおさら。


 それに、寄って来たモンスターは一撃だろうし、連携もクソもあったもんじゃない。

 ただただ、俺かモンスターのどちらが一撃をくらうのが早いかってことだけだ。

 多方向からの攻撃に関しては『腕』でなんとかできそうなので、もう本気で極振りソロプレイの方向性が固まって来たしな。


「クノさんは私が無理言ってギルドに入って貰ったようなものなので、これ以上我儘言うのもアレなんですが……でも、一回でいいからクノさんと普通に狩りにいってみたいんですよぅ」

「う……」


 フレイがキラキラとした目でこちらを見てくる。

 だから、俺には眩しすぎるんだが……


「ダメですか……?」

「……オーケー。わかった、じゃあ、偶になら良い。偶になら、な」

「わーい! じゃさっそくいきましょー!」


 結局首を縦に振る俺。

 まぁ、偶にやるくらいならむしろ楽しめるか。

 動けないなら、ソルビアルモス戦で得たスキル原石使って【投擲】を覚えて、ナイフ連打しても良いし。


「クノ君、今日は狩り続行かい?」

「そうっぽいな。大丈夫か? フレイの暴走だったりする?」

「いや、構わないよ。これからもクノ君を交えてボス戦なんかするかもしれないし、そういうイベントがあるかもしれないからね。今のうちに連携の練習もしておこう」

「そか。そうだな」


 イベントねぇ。今度こそ、ギルドで一対一とかのイベントもそのうちくるのかね?


「じゃあ、フィールドはどこにするんだ?」


 この周辺のフィールドのことは、全くわからない。カリン達にお任せだな。


「そうだね……西にいってみるかい?」

「レベルは?」

「34から37ってところだね。適正レベルだし、丁度いいんじゃないかな」

「ですね~」


 フレイがいつの間にか俺の後ろに回っていて、肩辺りからひょこっ、と出てくる。

 顔近いよ……


「いよいよ普通にクノさんと狩りができるんですか~。楽しみですねぇ」


 ふふ~ん、とご機嫌そうだが、髪の毛が顔に当たってくすぐったい。離れろい。


「とはいえ、そうそう無いぞ? 俺は基本ソロでいくつもりなんだから」

「それでも楽しみなもんは楽しみなんですよぅ」

「あら、これから狩りにいくの?」

「クノ君も交えての戦闘を経験しておいたほうがいいだろう?」

「そうね」

「わたしも賛成です」

「今日はちょっとものたりないって思ってたとこだったしね~」


 他のメンバーも賛同して、どうやら決定のようだな。

 あ、そうだ。

 『偽腕』使うならガトリングナイフもいいけど、その前に。もっと大事なことがあった。


「エリザ。今、長剣あったりしないか?」

「長剣? いえ、無いけれど」

「そうか……」


 あらら。 

 そりゃ残念だ。早速『偽腕』を最初に考えた用途で使ってみたかったんだが。


 【武器制限無効化】によって俺は今、武器を何本でも装備できる状況にある。 


 ……いや、“装備”というと語弊があるな。


 このスキルの効果は、正確に言うと“武器制限を無効化”というより“武器装備を無意味化”といった方が正しいのだ。装備という機能自体を、いらなくする。


 そもそも武器を“扱う”ためには、幾つか段階がある。


 まず最初に、その武器に対応した武器スキルを取ること。でないと、“装備”ができない。

 次に、その武器をインベントリに入れた状態から、“装備”すること。

 つまり《item》から《equip》に移動させなくてはいけない。

 この時登録できるのは通常一個だけのため、《equip》の武器の枠も一つしかない。この移動をさせるのに、武器スキルが必要とも言う。

 最後に、“《equip》から”武器を実体化させる。インベントリから実体化させても、その武器ではダメージを与えられないのだ。


 武器は装備しないと意味がないよってことだな。


 だが俺の場合、【武器制限無効化】によってなんと。

 武器をインベントリから実体化させても、ダメージを与えることができるようになったのだ。

 これが、このスキルの具体的な効果である。


 つまり、このスキルさえあれば、全ての武器を武器スキルなしで扱うことができる。尤もアーツは使えないが。

 まぁ、攻撃力や扱いやすさ的に長剣以外を使うつもりはないんだけど。


 ……って、アレ?


 今気づいたけど、だったら俺、別に【長剣】の武器スキルも捨てていんじゃね?


 アーツは使用不可なんだし。

 武器スキルの効果は、その武器を装備できるようになることと、レベルに応じてアーツが使えるようになることのみだったハズだ。

 俺がお世話になってる、武器の消耗を抑える【長剣強化】も別に【長剣】スキルがないと使えないとは書いてなかったし。


 ……うしっ! これでスキル枠が【アーツ威力強化】の分も合わせて二つ空くな。やりぃ!


 と地味に大発見をした気がするが、このスキルにおいて大事なことは、スキル枠を空けることではなくて。複数・・武器を扱えることにある。


 【武器制限無効化】があれば、インベントリに入れておけば何本でも(といっても仕様的に最大数は10だが)武器を扱うことができる。

 これは大きなメリットであり、俺がこのスキルに望んだことなのだ。

 デメリットは、インベントリ内を武器の分の枠が圧迫することだが、そもそも俺はアイテムなんて「帰巣符」ぐらいしか使わないから問題ナシ。


 ちなみに、モンスターを倒した時に得られる素材はインベントリ枠を消費するが、素材に限り、枠が限界(30枠)に達しても+10枠までなら持っておくことができる。


 この臨時素材用インベントリ内のアイテムは、“ゲーム内”で18時間以内に別の場所(正規インベントリなり倉庫なり)に移さないと消滅するが、VRというジャンルの性質上、18時間もぶっ続けでゲームをプレイすることはできないから、この時間制限は街に戻った時に臨時インベントリ内にアイテムが入っていないか確認すれば大丈夫である。


 基本的にVRは12時間以上連続でのプレイはできない(警告→強制ログアウトの流れ)し、そうでなくても尿意を催したりすれば警告がでて、普通はログアウトしなきゃだし。


 まぁ、そんなことは置いておいて。

 俺が対抗戦のイベント報酬を見て考えたこと。

 それは、もうわかってると思うが【異形の偽腕】で腕を増やして、その腕に【武器制限無効化】によって装備制限の無くなった長剣を複数持ち、それを一度に操って隙のない戦いをする、というものだった。


 手数が足りないのなら、文字通り増やせばいいじゃないかってね。

 これなら動かなくても、複数方向からの攻撃に対応できる。【危機察知】もあるから死角からの攻撃も捌けるし。

 武器を振った後に隙ができる? ならその隙を多数の腕で連続的にカバーし合えばいい。

 連撃に対応できない? 腕が増えればその問題も解消だ。


 ただ、問題点は前提条件として存在する、『偽腕』を自在に操れるようになる、という事だ。

 これをクリアするには、やっぱ地道に慣れていくしかないんだよなぁ。とはいえ、特訓のお陰でそこそこ自信はあったりするんだけど。

 今日はやっぱ、実戦にでて使ってみたかったんだが、長剣がないんじゃなぁ。


 仕方ない、サタデーナイフフィーバーで決定かー。




 【不屈の執念】PS


 自身のHPが0になるダメージを受けた場合、一度の戦闘中に一度までHP1で耐える

 このスキルが発動した場合、自身の次の一撃は相手のあらゆる防御(スキル・魔法・特性含む)を無視してダメージを与える


 変化条件:

 ①【不屈の精神】取得から一定期間経過後にスキル発動

 ②一定時間内に、【不屈の精神】が発動した回数が30回未満である

 ③ステータスがStr>Intである


 分岐 


 【不屈の理念】


 自身のHPが0になるダメージを受けた場合、一度の戦闘中に一度までHP1で耐える

 このスキルの発動後60秒間、『魔法』の消費MPが1/3となる


 変化条件:

 ①【不屈の精神】取得から一定期間経過後にスキル発動

 ②一定時間内に、【不屈の精神】が発動した回数が30回未満である

 ③ステータスがInt>Strである


 【不屈の信念】


 自身のHPが0になるダメージを受けた場合、一度の戦闘中に二度までHP1で耐える


 変化条件:

 ①【不屈の精神】取得から一定期間経過後にスキル発動

 ②一定時間内に、【不屈の精神】が発動した回数が30回以上である


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