第四話 やっとログインするお話
にじみ出る黒さ?
俺が立っているのは、どうやら大きな広場のようだ。すぐ後ろ(広場の中央あたりか?)に大きな噴水がある。待ち合わせのスポットなんかとしては絶好の場所だろう。
あたりを見回すと、俺と同じようにログインした人たちで溢れかえっている。……ログインした時に他の人と重なってしまわないか心配になるなー。皆さん思い思いの装備をしているが、見た感じ「服」装備の人は見つからないな……真っ黒な俺浮きまくりだよ。
じゃあとりあえず、メニューの操作でも確認するかね。俺は噴水の縁に腰かけ、メニューウインドウを展開する。
えっと、《Status》で自分の名前、レベル、称号、ステータスが見れるな。
〝称号〟とは、ゲーム内で一定の行動をした時に手に入るもので、スキルの解放条件と似ている。効果は様々で、〝称号スキル〟(その称号を得ることによって使えるようになるアクティブスキル)や〝称号アーツ〟、〝称号魔法〟といったレアなものがついている〝称号〟もあるらしい。
俺の今の《Status》は、
クノ Lv:1
〝見習い長剣使い〟
Str:120
Vit:0
Int:0
Min:0
Agi:0
Dex:0
となっていた。称号は〝見習い長剣使い〟か。効果は 「長剣」アーツ威力上昇+5%、消費MP3%減少 だ。
《Equip》には現在の装備、
《Item》には所持しているアイテム(30枠あった。ひとつのアイテムごとに多分99個とかまで入るんだと思う)
《Skill》にはセット中のスキルと習得したスキル、
の詳細がそれぞれ表示されていた。
ちなみに俺はこんな感じ
《Equip》
「古びた長剣」 Str+35
「黒装束[inner]」 Agi+1
「黒装束[tops]」 Agi+2
「黒装束[bottoms]」 Agi+3
「黒装束[shoes]」 Agi+2
「黒装束[others]」 Agi+2
《Item》
「初心者用HPポーション」×10
HPが即座に50%回復、レベル10まで使用可能/売却不可
「下級MPポーション」×5
時間経過によりMP小回復/売却可
「スキル原石」×1
スキルを習得する際に必要/売却不可
《Skill》
【筋力強化(小)】PS
Str上昇+5%
【長剣強化(小)】PS
武器「長剣」のStr上昇+10%、武器耐久値の減少を1/2にする
【アーツ威力強化】PS
アーツの威力上昇、上昇値はセット中の武器スキルのレベルに応じて変動
【捨て身】AS
Str上昇+15%、Vit/Min減少-50%
効果時間:30秒間
【不屈の精神】PS
自身のHPが0になるダメージを受けた場合、一度の戦闘中に一度までHP1で耐える
他の機能を少し紹介しておくと、
《Friend》はフレンド登録したプレイヤーと連絡を取ったり、ログインの有無を確かめたりできる。
《Map》は地図が表示される。街は全て埋まっているがフィールド部分はまだ空白だ。
《Party》はパーティを組んでいるときのみ、パーティメンバーが表示されたりする。
《Guild》はギルドに入ると、そのギルド内での掲示板を使えるようになったり、ギルドからのお知らせが届いたりする。
《Duel》は個人間の決闘を行えるモードに移行できる。
《Option》では様々な設定(戦闘時のウインドウの表示とか)の変更、追加ができる。
《Internet》は、ゲーム内からネットにつなぐことができる。掲示板とか見るのに便利。
《Logout》はいわずもがな。無くなってたりはしない。
後、ギルドというのはプレイヤーが集まって作るものだ。基本的には「ギルドホーム」を買って、登録の手続きをすれば誰でもギルドを作ることができるが、そもそも「ギルドホーム」自体がかなり高価なようだ。...っと
「そろそろ玲花に連絡しなきゃか。」
ログインしたらすぐに連絡してください、と玲花に言われていたのを思い出す。
俺は《フレンド》からメール機能を選択する。これは本来、フレンドに登録したプレイヤーと連絡を取るための機能だが、リアルのメールアドレス(VRギアに登録してあるもの)を知っていれば、それを直接入力しても相手に届くようになっている。
フレンド登録したプレイヤーと連絡を取る方法としては、他にボイスチャット機能なんかもある。
俺は玲花の携帯のメールアドレスを入力して、玲花にメールを送信した。
“ログイン完了 どこで会う?”
すると即座に返信が返ってきて、
“噴水の前に来てください 私のアバターはいつもと同じで、青い鎧を着ています”
玲花はVRをするとき、リアルでは栗色の髪を金にし、目の色も青に変えている。正直かなり似合っているのだが、行く先々のゲームで注目されて少し困っているらしい。美少女の弊害か。
……噴水の前ね。
俺は立ち上がり、あたりを見回す。すると丁度反対側に玲花の姿を発見した。
俺は噴水を周って、玲花に声をかけようとする。するとその前に玲花に声をかけるプレイヤーがいたので、少し待機。
「お前、俺とパーティ組まない? 見たとこ初心者だろ。可愛い顔してるし、俺がこのゲームについてレクチャーしてやるぜ? な?」
そのプレイヤーは、金髪に青目とそれだけなら玲花と同じような男だ。顔もかなりイケメン。だが、顔からはもの凄い違和感を放っていた。
VRでは、アバターの外見をいじることができるが、特に顔はあまりいじりすぎるとそこだけ精巧なロボットのようになって、違和感を感じるのだ。だがまぁ、少しいじったぐらいではあんなに違和感を感じないはずだから、あの男は相当無理をしたんだろう。おそらく輪郭から何まで全てをいじっている。
玲花は男の誘いを断るが、男はしつこく玲花をパーティに誘っている。うん、玲花ほどの美少女となれば滅多にお目にかかれないだろうしなぁ。
でも、とりあえず
「お、いたいた。さぁ、行くか。」
「っ! 九乃さん!」
困っている様子の玲花を救出するため、俺は男の横から強引に玲花の手をとり、男から離れようとする。しかし男は案の定、というべきか俺たちの行く手に立ち、
「おいコラてめぇ待てよ。俺はβテスターだぞ。てめぇより強いんだよ! 悪ぃことは言わねぇし、おとなしく俺とパーティー組んどけっつってんだよ」
なんてことを言う。横暴だなおい。
……こんな男がβテスターなのか。
『IWO』のβテストは、当選確率0.001%ともいわれ、玲花も応募していたようだが当選はできなかったらしい。さっきからちらほらと見かける、明らかに初期の装備ではない防具(白地に金の模様の入った金属鎧)のプレイヤーは、多分βテスターだろう。特典かなにかだろか?
……というかこの男もその鎧を着てるな。これで男が本当にβテスターらしいとは分かった。
だったらなんだ、という話だが。
ってかなんだ? これだけの違和感顔じゃあ、リアルではさぞかしさえないんだろうなぁ。玲花に話しかけた勇気だけは認めるが、VRで顔をいじって調子に乗っているのか? というか、お前完全にVR初心者だろ。たまたま『IWO』のβテストに当選したからVRはじめましたーとかそんな感じ? 気づいてる? 君顔からとんでもない違和感を発してるよ? VR初心者なら、外見の違和感はなかなか感じにくい場合もあるからなぁ。うん、仕方ないよ。誰も君を責めはしない。嘲りはするけどな。
……等、なんでかよくわからない黒い感情にまかせて言いたい事はたくさんあったりするのだが、流石に規制をうけそうだ。隣で玲花がひきつった顔してるし。
という訳で俺は一言
「ついてこないでください。GMコールしますよ。」
とだけ言った。GMが即座に応じてくれるかはちょっと分からないけど。
すると男は、
「はぁ? 意味わかんねぇこといってんじゃねぇぞ。お前こそ後から来てでしゃばってんなよオイコラ! その女には俺が先に声をかけたんだ、関係ねぇ奴はひっこんでろ!」
ええぇー、マジかー。意味分かんないのはこっちだよ。
知り合いだって、見て分かんないか? ……まぁ、いいや。いつのまにか人だかりができてるし、さっさと移動したい。
「“GMコール”……すいません、変な男が粘着してくるんで止めてもらえないですか?」
「了解しました」
サービス初日で気合いが入っているのか、すぐに返事が返ってくる。
そして突如として、キャラメイクの時の妖精、ジャッジさんが現れた。
ジャッジさんが男に手をかざすと、男は急にピクリとも動かなくなる。……〈ジャッジ〉の意味がわかった気がするな。
「ではお願いします」
なにはともあれ俺はジャッジさんにその場をまかせ、その隙に玲花をつれて広場の端のベンチを目指すことにした。
「判定、イエロー 処分は……」
後ろからジャッジさんの平坦な声が聞こえ、野次馬が騒いでいるが、無視無視っと。
βテスターは所持金を持ち越し、キャラメイク時に特別な武器、防具(普通の初期のものより性能がいい。だいたいLv10相当)が選べる。
また、ギルドホームを持っていた場合は、ギルドマスターのみ無料で再契約可能。