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第三十一話 腕のお話②

 


 うーん、どうするか。

 これは適性とやらが全くないと見るべきなのか、それともやはり動かし方が根本的に間違っているのか。

 前者である可能性は信じたくないので、きっと動かし方の問題だな!


 先ほどは“動け”と口で言っただけだった。

 足りないのは何か。


 ……発動から推測するに、もしかすると具体的なイメージがないと駄目なのか?

 大雑把に“動け”と念じるんじゃなくて、もっと自分で動かす感じのイメージを持って。

 ……あー、うん。確かに“動け”つったってアバウトすぎたよなぁ。反省反省。


 うし。

 より具体的に、『偽腕』が動く様子を想像。

 実行。

 俺の脳内では、『偽腕』が肘を曲げる様子が映し出されている。


 くいっ


 おお! 曲がった! 動いたよ。しかも、俺がイメージした通りの動きだ。

 やはり具体的なイメージが大切らしい。

 しかしそうなると、何本も同時に操るのは慣れがいりそうだな。VRでは脳が強化されてるから、できないってことはないと思うんだけど。


 しばらく、『偽腕』を動かしてみる。

 俺には幸いなことに“適正”はあったのか、特に苦労なく動かせる。

 試しに床を殴ってみた所、床に傷はなかったが、代わりに部屋自体が揺れた。

 おっとと。

 やはり俺のStrを受け継いでると考えるのが妥当か?


 んー。じゃあ、満を持して自分の身体から生やしてみるかね。

 今のままじゃ、場所の移動ができないからな。多分自分の身体に生やせば、持ち運び?ができるハズ。生やす場所は多分、関係ないハズだ。


「【異形の偽腕】、増えろ!」


 自分の身体、胸の中心辺りから生えてくる『偽腕』を想像。

 が、しかし。

 何故か新しく『偽腕』を生やすことはできない。増やせるのは一本だけなのか?


 ……いや、違うな。

 そもそも【異形の偽腕】は今“発動中”な訳で。

 そうなると新規に【異形の偽腕】を発動して『偽腕』を追加できないのも当たり前なのか?

 おそらく、最初の発動時の本数から増やすことはできないのだと推測する。

 じゃあ、一回解除して、新たに発動しなおせばいいか。よし。


 ……あれ? この『偽腕』、どうやって消そう。


 俺の前方で、俺が思考を割くのをやめたせいで、ピタッと前衛的なポーズで静止している『偽腕』を見る。

 とりあえず、『偽腕』を動かすには、『偽腕』の動きを脳内でイメージすればいいってことはわかった。

 では、解除方法はどうすればいいのかね。


 効果時間を見ると、任意、と書かれているんだが。

 とりあえず“解除”と念じてみ……る。


 うん。


 普通に消えたね。案外すんなりいったわ。

 消え方は、靄にずぶずぶと沈んでいくという方法だった。生えた時の逆再生だな。

 そして最後に靄自体が薄れて消える。

 

 まぁ、いっか。気を取り直して、俺の身体から生やしてみよう。


「【異形の偽腕】」


 すると、俺の胸スレスレに黒い靄が生まれ、そこから『偽腕』が……


 うおっ!


 至近距離に現れたため、反射的に飛びのいてしまった。

 そして俺の視線の先では胸の高さの靄から生える『偽腕』が……って、アレ?


 おかしいな。俺は、俺の身体から生えるようにイメージしたはずなのに。


 なんで、一緒にこっちに来ないんだ? 

 試しに、『偽腕』がこちらに向かってくることをイメージ。

 すると、『偽腕』は靄をスーっと伝い、円運動をしてくるりとこちらを向き、手を伸ばしてくる。が、それだけだ。そこで静止する。


 あー、そう言うことか。

 どうやらこの『偽腕』。完全に、“黒い靄”から生えていて、そこから離れることはできないようだ。

 そして靄は出現したところから動かない、と。


 『偽腕』の起点が靄に固定されているので、靄から離れなければ360度、肩関節?無視でぐるぐる『偽腕』を動かせるみたいだが、根本的に位置を移動できないんじゃなぁ……


 でもまぁ、俺自身どうせ動きまわるのは諦めてたから、別にいいっちゃいいんだけども。

 でも、せめて自由に空中とかを動かせると便利だったんだがなぁ。

 このスキル、絶対普通の近接プレイヤーが使うようなもんじゃないな。

 まぁ? 俺は普通でもないので大丈夫だけど。この程度、デメリットのうちには入らんわ。残念だったな開発陣よ。ははは。

 360度自在に動かせるなら、全方位の攻撃に即座に対応できるしな。これだけでも十分だ。


 んー、身体から生やせないのなら、このままあの『偽腕』を出現させておく必要もないか。第二段階に進むとしよう。

 全方位360度に動かせるおもしろい『偽腕』をぐるぐると縦横無尽に回していたのをやめ、“解除”っと。

 消えていく『偽腕』。


 第二段階。それは、二本以上出現させてみるということだ。

 さて、行けるよな?

 MPが満タンなことを確認。

 『腕』の生えてくる座標は、俺の目の前1mくらいの空中をイメージ。二本だ。


「【異形の偽腕】」


 ずぶずぶ


 実際にこんな効果音はなく、至って無音なんだが、イメージ的にな。

 無事、二本生えてきた。

 MPを確認すると、半分より多いくらいが残っている……四割程減っていた。つまり、一本につき二割か。

 今の俺のMPでの二割なのか、それとも一律で一本二割取られるのか。

 できれば一律はやめていただきたいんだが。それだと、『偽腕』を生やせる最大数が五本に決定してしまう。いままで一律でMPを取っていくスキルはなかったため、【異形の偽腕】もそうだと思いたい。


 まぁ、いいや。それはおいおい確認するとして。

 俺は『偽腕』から少し距離を取る。

 インベントリから「黒蓮・壱式改」を実体化させると、俺から見て右の『偽腕』の方に放る。

 そしてそれを掴むイメージ。刃の方で受け取らないようにタイミングを調整。


 ぱしっ


 よし、無事柄の方を掴めた。そしてそのまま振りまわしてみる。


 ヒュンッッ!  


 一応、俺のStrでの全力をイメージして振ってみた。結果は上々。

 やはりステータスは使用者と同等で確定っぽいな。物を受け取る、といった外的要因の絡む動作もイメージさえすれば出来る、というのも有り難い。

 しっかしこのスキル、かなり自由度高いよなぁ。『IWO』の数あるスキルの中でも群を抜いてると思う。その分、扱いも難しいんだけども。


 よし、じゃあ後は地道に、操作に慣れていきますかね。

 『偽腕』を同時に操作するということは、同時に複数のことをイメージするということだ。

 幸い並列思考は苦手ではないからな、不可能ということはないだろう。これがそれこそ、五本とかに増えたら怪しいもんだが、二本ならなんとかなりそうな気がする。


 よし、じゃあまずは――『偽腕』同士でじゃんけんでもしますか。



 ―――



 右側の『偽腕』はグーチョキパー……

 左側の『偽腕』はパーグーチョキ……

 イメージしろ。

 俺の右手はチョキパーグー……

 俺の左手はグーパーチョキ……

 感覚で覚えろ。


 だぁぁあああ! また間違えた! 左側の『偽腕』で二連続グーを出してしまった……

 あー、疲れる。脳が疲れる。


 俺は今、『偽腕』二本に加えて、自分の腕も同時に動かせるか、という特訓をしている。

 先ほどの順番を守り、延々と手の形を同時に変え続けるという特訓なんだが……

 これ、やたら難しいんだよ。

 実際にやってもらったら分かると思うが、そもそも自分の両手だけでも一苦労なんだよ?

 脳強化のお陰でなんとかなってるけど、現実でやったらできるまでにどれくらい時間がかかるかわかったもんじゃない。

 それに、脳がまだ慣れてないせいで、かなり動きもぎこちないし。油の切れた機械仕掛けの人形のようだ。今にもぎぎぎって音が聞こえてきそう。


 でもやらなくてはなぁ。

 実際にフィールドに行って経験を積むのが、一番効率がいいのかもしれないけど、その前に操作に少しでも慣れておかないと。でないと俺は考え込んでる間に一撃貰ってお陀仏だ。


『偽腕』の操作に慣れるには、頭で『偽腕』のことをよくよく意識するのが一番いいだろう。そして、こんだけややこしくて面倒なことをイメージするのに慣れれば、実戦で剣を振るだけなんて、どうってことない簡単作業だ。だって、剣握って相手に振ったりするだけだぜ? なんか、凄く楽そうに思えてきてしまうんだ。


 まぁ、実際はそんな簡単には行かないだろうが、それでもいきなりやるよりは経験がある方がいいだろうし、慣れも早くなるだろう。

 そして慣れてしまえば片手間でも出来るのが人間の脳だ。強化されてる分余計な。事実、俺はもう『偽腕』二本だけであれば、余裕でグーチョキパーできる。

 数がふえていくとどんどん面倒になっていくが、それに慣れて、できなかったことができるようになるというのは気持ちがいいものだ。


 部屋の中で手軽にできることも合わせて、この「じゃんけん訓練法」(俺命名)はかなり有効だと思う。俺の他に『偽腕』を手に入れる人がいれば、教えてあげたいくらいだ……いや、いないか? MVP報酬だったし。


 グーチョキパーパー……ちっ。もう一度……



 

【異形の偽腕】まさかの空間設置型でしたー。

主人公、やると決めた所は区切りができるまでとことんやり詰めます。意外と研究者タイプの頭でっかちさんなのです。

そしてあれこれ考えるのが得意なだけあって、『偽腕』に対する適性はかなり高いです。

そしてそしてその主人公でさえ苦労するとは……運営も悪よのぅ。なんという不親切設計(笑)




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