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第二十八話 姫と駄弁るお話


姫メイン回。ホントに駄弁ってるだけです……アレ? いつもとそんなに変わらないか?

二話構成となってます。




 「ウウレ」中央広場、その中央には小さな赤い塔があるのが特徴だ。待ち合わせスポットとしては人気なのだろう、塔の下には何人ものプレイヤーの姿がある。

 そしてその中に、姫はいた。しきりに髪を手で弄っている。大分落ち着きない感じだな、おい。やっぱもっと早めに来るべきだったか。


「姫! すまん、遅れた」

「いえ、大丈夫ですわよ? まだ17時にはなっていませんもの……あ、今丁度なりましたわね」

「ふぅ、ギリギリセーフか」

「でも、一体どうしたんですの? 貴方のイメージからすると、待ち合わせには早めに到着していそうなものなのですが」

「いやホント悪い。イベントの報酬をちょっと真面目に選んでたら、気付いたらもう時間ギリだった」

「へぇ……わたくしはゲームの報酬以下ですの……?」


 突然姫が不穏な空気を漂わせ始める。瞳からハイライトが消えてる!?

 うおぅ、ヤバイな。とりあえず弁解しないと。


「あ、いや、そう言う訳じゃないんだが。俺の方にもいろいろ思う所があってさ。たかがゲームとは割り切れないし」

「説明。簡潔に」

「さーいえっさー! えっとだな。俺実は、ステータスが今Str極振りなんだよな。それで、今後どうしようって考えてた。結構切実なんだよ」


 簡潔に説明。そしてこの後に来るであろう反応も、俺は既に読めている。


「えぇと、ええ、はぁ!?」

「うん、まぁそういう反応だよね」

「誰かに強制されたんですの?」

「いや、自分の意思で」

「はぁ」


 姫は、涼やかな目元を、懐かしのジト目にしてこちらを見てくる。

 単純にあきれ顔じゃないだけ、姫の俺との付き合いの長さがわかるってものだな、うん。


「どうしてクノはいつもいつも、そんな変なことばかりやりたがるんですの」

「いやぁ、この方がおもしろそうだろ?」


 人生、面白いと思ったことには全力、というのが今の俺のモットーでもあるんでね。

 そういう意味ではこのゲームにも全力だ。勿論、Str極振りを完璧に使いこなすことにも。だからこそあのスキルを選択した訳だし。

 普通ならこれからのことを考えると折れてしまう状況の中(多分に自業自得)でも、それでも自分を曲げたくないという思い、強い信念が男には宿ってるんだよ!

 あれ?かっこいい事言ったつもりが、(自業自得)のせいで台無しだ……まぁいいけど。


「おもしろそうって……ええ、クノは今でも平常運転で安心しましたわ」

「そう言って貰えると嬉しいよ」


 褒められていない気がするのは、あえて指摘はしない。蛇が出てきそうだからな。


「でも、少し変わったような気もしますわね」

「え、マジで?」


 姫は俺があの頃よりも人間的に成長していることに気付いてくれたのか!

 だとしたら、こんなに嬉しいことはないし、わざわざ「テルミナ」を引退してまで現実での人づきあいを頑張った甲斐があったってもんだな。


「ええ、眼が……」

「眼が? 強い光をたたえるようになったとか?」


 成長の証で、眼つきが変わったとか、よくあるよね。

 それだとかなり嬉しいんだが。無機物な眼とか言われてたけど、やっぱりわかる人にはわかる……


「いえ、一層暗い感じになってますわね」

「……マジで……?」

「もはや光を飲み込むレベルですわね」

「えーと」

「……」


 黙って首を横に振る姫。

 嘘だと言ってよ、クリスティーナ……

 俺の今までは一体なんだったのかと。あんだけ決意をしてその結果は、よりにもよって一層眼が暗くなってるだと……


 俺がずーん、と落ち込んでいると、姫は優しく一言。


「嘘ですわ」

「……」


 そして直後になぜかドヤ顔。


 ……そっか。嘘か。そうかそうか。


「姫。立ち話もなんだし、ベンチにでも座ろうか? あ、なんだったらクレープとか買ってくるけど? 丁度あそこに見えるのは屋台だと思うし」


 空々しい態度で、俺は広場の北側の入り口付近にあるクレープらしき屋台を指さす。見た所プレイヤーがやってるみたいだけど、きっと【料理】とかのスキル持ちなんだろう。

 そして俺は姫に背を向け、屋台の方向へと……


「あの、クノ。わたくしが悪かったですわ。ほんの冗談のつもりでしたのよ?」

「……」


 姫がおろおろと、珍しく慌てた様子で弁解を始める。姫はたまーにこういう空気の読めない冗談を言ってくるのが困りものだよなぁ。KYだKY。

 俺はしばらく姫をじっと見つめ、無言の抗議。ジト目返しだ。

 エリザすらたじろがせた俺の眼力……いや、“力”っていうイメージとは遠いか……まぁ、とにかく効果は実証済みなのだ。


「その、正直に申しますと、クノは前よりも生き生きとしていると思いますわよ?」

「ホントに?」

「本当ですわ!このわたくしが保証しますの。クノは昔より、ずっと輝いていると思いますわよ? だから機嫌を直してくださいな」


 両手を組んで、上目遣いの懇願。

 あざとい、とは思うが、姫はこれを天然でやってるから始末が悪いんだよなぁ。

 そんな顔されたら、文句も言えなくなってしまう。


「ん、わかった。でも意外とショックだったからなー?」

「あぅ。本当に申し訳ございませんですの」

「まぁ、もういいけど。で? クレープはどうする?」

「すみません、先ほど祝勝会をしてきた所なので、遠慮しますわ」

「へぇ、姫のところもか。どんな感じだった?」


 他のギルドの祝勝会がどんなものなのかは、純粋に興味があるな。

 俺達はベンチに歩き始めながら他愛もない話をする。


「そうですわね……終始懇願されっぱなしでしたわ。ギルドに残ってくれって」

「で、姫の答えは?」

「お断りしてきましたの。そもそもあのギルドに入ったのも偶然ナンパされたからですし」

「ナンパて。大丈夫……だったんだろうけど」

「ええ、むしろこちらが得られるものは最大限頂いてきましたわ」

「うわぁ、流石姫。ちなみに姫からのリターンは?」

「わたくしの美貌を間近で見れるのですわよ?それで十分ですわ」

「そっすねー」


 言いながら、ベンチに腰をおろす。

 そんなこと言って、どうせ丁寧にお礼でも言ってきてるんだろうがなー。


 まぁ、姫は美少女と美人の狭間で揺れているような、大人びた危うげな魅力の漂う女の子だけどもね。それを見られるだけで得した気分になるのは本当の所だけども。

 見た所違和感が全くないため、アバターも恐らくフレイ達と同じで髪の毛と目以外はほとんど弄ってないだろうから、現実でも綺麗だろうし。


 俺の周りには綺麗どころが多くいるから、目の保養には事欠かなくて嬉しいね。

 まぁ、だからといって特別何があるわけでもないんだけど。


「む。なんですのその生返事は?」

「いや、そうすると姫と一緒にベンチに座ったりなんかしてる俺は、何を要求されるのかとびくびくしてるだけだよ」

「そうですか。では一つお願いを聞いて頂けますか?」


 ……あれー。冗談で言ったつもりだったんだけどなぁ。

 まぁいいけど。そう言えばお願いがどうとかって、対抗戦の最中も言ってたし。


「俺のできる範囲でおさめてくれよ?」

「はい。大したことではないのですが、そろそろ“姫”という呼び方も改めませんこと?」

「というと?」

「“姫”という言葉はクノと出会った当初のわたくしの高圧的な我儘からきたものですし、明確にわたくしを表わす記号ではありませんの」

「俺のなかではばっちり姫=姫だけど……ややこしいな。まぁ姫がそういうなら別にいいか。じゃあ、なんて呼べばいいんだ? プレイヤーネームの方か?」


 それだとクリスティーナ、だったっけ?

 長くないか? ちょっと呼びづらい。


「ええ、そうですわね。そう呼んで頂けると、よりわたくしの好感度が上がりますわよ?」

「上げてどうするんだよ」

「いざという時に役立ちますわ」

「いや、姫……クリスティーナ……クリスでいい?」

「許可しますわ」

「クリスの好感度上げといて役に立つ“いざ”ってどんな時よ?」

「今日の対抗戦なんかがいい例ではありませんか」


 ああー。そういえば見逃してもらったんだっけか。

 つまり、そのおかげで結果的に俺はMVPを取ることができて、あのスキルを取得することもできた、ともいえる訳か。


「成程、確かにかなり役立つな。あの時は本当に有難う」


 とりあえず感謝の気持ちを表現するために、頭を下げておく。

 しかしここでもわたわたと慌てる様子の姫、じゃないクリス。なんかしばらく会わないうちに随分と反応が可愛らしくなってる気がするな。


「え、あ、いや。そんな本気に取られても困るというか、」


 少し、悪戯心が湧く。クリスの慌てっぷりがおもしろいので。


「そうだな、もっとクリスの好感度を上げるためにはどうすればいいんだ?」

「あ、うん。……そっ、そうですわね……むー」


 あれ? 落ち着いて真面目に考え始めた!?


「あー、クリス? なんていうか別にこれは冗談……」

「あぅー……」

「……」

「……ぅうううー?」


 なんか必死で良い案を絞りだそうとしてる風なクリス。一瞬落ち着いて見えたのは俺の眼の錯覚だったか。


 少しからかってみただけなんだがなー。

 本気に取られて困ってるのは俺もだよ。はは……





次回、クリスと駄弁るお話


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