第二十五話 報酬のお話①
この辺ちょっと重め。重めというか、なんというか……
主人公が、真面目に考えてます。今後の展開的に自分の短所は自覚しておかないと……
主人公はまだ未覚醒の状態なので、皆様これからもどうぞお付き合い頂けたらと思います。
前話の「ユニーク称号(笑)」ですが、あくまでアレは運営しか知らないことだということを再度伝えておきます。
(笑)というか、(偽)?
クノの規格外さを少しでも伝えられたら、という回でした。
「じゃあ私はイベントの報酬選択をするから、自分の部屋に行かせてもらうよ」
「あ、私もですー。あれ結構種類あるから迷いますよね~」
「アイテムだけじゃなくてスキルまであるんだものね」
「どれか一つなんて意外と酷ですよね」
「やっぱり新しい魔法とかがいいかなっ? あ~、でもステータス上昇系のアクセも捨てがたいしなぁ」
「ステータス上昇系のアクセサリなら私がそれなりのものを作れるのだけれど」
「そっか。じゃあやっぱ魔法かなぁ」
「悩みどころではあるね」
「だよな。じゃ、俺も~、と」
皆で二階の部屋にぞろぞろと移動する。こういうのは一人でじっくり決めたいよな。
俺の場合、報酬は二つだし。選択肢が増えて逆に困りそうだ……って、それぞれ報酬のアイテムとかは別だったっけか?
部屋に入ると、早速メニューを開く。
するとそこには、〝イベント報酬〟〝MVP報酬〟という枠と、〝「MVP記念リング」が届いています〟というメッセージがあった。
リングの方は、トロフィーの代わりに貰った奴だな。シンプルな銀の指輪で、裏に『IWO』を作った会社「LanTan」のロゴが刻まれている。
あの場で渡された後、閉会式後に自動でインベントリに転送されたのだ。
一応効果を見てみると、
「MVP記念リング」
スキル枠上限+1
とあった。
……あれ? 何気に凄くね、これ。
流石はわざわざジャッジさんが手ずから渡してくれただけのことはあるぜ。スキル枠が増えるとか、もはやこれだけでMVP報酬って感じがするな。
実体化させて、左手の中指に装備してみる。革手袋の上からだったんだが、そこはゲーム。ぴったりとはまった。
ちょっと目立つかな?設定を少しいじって、手袋の下に装備することにした。
スキル枠 10/12
スキル枠の空きは、これで残り二つか。
報酬になんか良い感じのスキルはないかね? 今回のイベントは、初の公式イベントということもあり、かなり報酬は豪華になってるらしいからなぁ。
そう期待しながら、報酬一覧を呼び出す。まずはイベント上位報酬からだ。
ずらっといろんなカテゴリとアイテム名、効果説明なんかがでてくる。この中の一つにチェックをつけて、決定を押すみたいだ。
どれどれ?
武器……
間に合ってるから飛ばして。
防具……
これも同様
アイテム……
回復系が主だった。論外。
アクセサリ……
さっきのリングのことがあったからじっくり見てみたら、「多能の指輪」というスキル枠+1のアクセを発見。意外とあるもんだな~。まぁ普通に便利だし、スキルに良い奴がなかったら、これにしようか。
アーツ……
正直、良さがわからんな。まぁ今のままでも大丈夫だろう。連続攻撃系のアーツが多かったんだが、その分隙も大きいだろうし。せめて広範囲を吹っ飛ばすようなアーツがあればなぁ。エクスプロージョン……もうそれアーツじゃねぇな。
魔法……
そもそも使わない。
あ、でも攻撃力を少しでも強化するために、【付加魔法】スキルは欲しいかな。
ここには『魔法』単品でのってる(対応した【属性魔法】スキルを取得してないと意味がない)ので、あるとしたらスキルのカテゴリだろうが。
まぁそもそも、俺の取得可能スキルの中には【付加魔法】もちゃっかり入っていたので、どっちにしろ報酬としては不要だな。どうやら補助系の魔法(属性魔法以外)は、プレイスタイルに関係なく追加されるスキルの一つのよう。
となると、やっぱスキルか。レアスキル期待。
できれば、今後Agi0でも高速戦闘に対応できるようなスキルが欲しいんだが……そんな都合のいいものはないかね?
そもそも他ステが0で今後立ちまわるには、どうするべきか。
今回のイベントは、まだ序盤だったってこともあって俺はプレイヤースキル頼りでMVPまで取れてしまったが、今後はこうもいかないだろうから。慢心は危険だよな。
うちのギルドは、攻略組だの言われてるトップギルドみたいだからなぁ。俺も無様な姿を見せる訳にはいかないだろうし。
一度決めたことは貫き通したいからStr極振りは諦めないんだけど。
俺はメニュー画面を見つめて、固まる。スキルを選ぼうにも、今後俺がどうするかを決めとかないと折角の報酬を無駄にしてしまう気がしてな。
単純にStr上昇系を選ぶのも良いんだが、毎度それだと芸が無いし。
折角俺のプレイスタイルに関係ないスキルも選択できる機会なんだから、今回ばっかりは戦闘を補助するようなものを選ぼう。
……とりあえずちょっと真面目にStr極振りの長所と短所の分析でもしてみるか。そこから今後のヒントが得られるだろうしな。己を知ることは大切だ。
よし。じゃあ、長所から。
長所は、まずなんといっても高い攻撃力だろう。
他のプレイヤーを一撃で倒せるぐらいの圧倒的高さ。
そしてそれに伴って、打ち合いでダメージを受けるということがまずない。これはボスの攻撃を迎え撃ってもHPが減らなかったところからも明白だな。
武器で攻撃を迎え撃てば、盾などとは違って数値の計算上ではStr値が適用されるから、高Strの俺なら、むしろ相手にダメージを与えられると。
後は剣速か。
剣速はStrとAgiによって決まるので、高Str=剣速が速い。つまりこれを生かせば相手に避けられずに攻撃をするのも難しくは無い?
極振りによるボーナス値なんかを考えると、同レベル帯ではStr+Agiの合計値でも俺のStr値に勝てる奴はいないと思うし。いたらそいつは俺のお仲間だな。
……。
あれ? 長所ってこんだけか? いや、一個一個が濃いから別にそれで落ち込むようなことも無い、というか極振りならそれも当然かな。
逆に短所だが、多すぎて語りつくせないぐらいだ。
とりあえず戦闘を行う上で致命的なのは、Agi0による弊害、“身体が思う通りに動かない”というのがあるな。
ゲームを行う上で、脳が強化され、思考が高速化されている(でないと戦闘自体できない)んだが、その思考の速度と身体の動きがまったくかみ合っていない。Str値が関係するのは剣速、つまり腕を振る速さのみで、その他の身体の動きはまったく現実と同レベルなんだ。
つまり今後俺は、速度に関しては腕を振る速さのみしか、他のプレイヤーに対抗できないと。
普通に考えて、今より格段に速くなっていくであろう他プレイヤーの攻撃を、現実と同じスペックで避けられるとは考えられない。
たとえ俺がどれだけ現実で“回避”という身体の動かし方が得意だったとしてもだ。つまり攻撃を“避ける”ことは、絶望的だな。
ただその回避術は、回避とは別のいかし方もできるか。
回避術は、突き詰めれば相手の攻撃を見切り、そして自分がどう行動すれば攻撃に当たらないかをはじき出して、最も効率の良い動きで避ける技術だ。
俺は生来の才能なのかなんなのか、相手の攻撃を“見切る”ということに関しては爺さんの太鼓判がもらえるレベルだからな。それにゲームによる思考加速と【危機察知】の動作予知が合わされば、“相手の攻撃を
ただ問題は、読み切れたとしても身体を動かせない(正確に言うと腕以外ついていけない)から、対応が難しい点だな。
相手が一人だったら、まだ剣を振るって迎撃も可能だ。しかし、囲まれたりすると相手の攻撃を叩き落とすには圧倒的に手数が足りない。俺の剣は一本しかないのに、それを素早く取り回したり、身体を向けたりするためのAgiがないんで。
いっそ武器を双剣に変えれば……フレイとかぶってしまうか。却下だな。第一リーチが心もとないし。
つまり俺が戦う時、相手の攻撃に対応する手段としては、攻撃を迎え撃つしかないが、それも状況によってはかなり怪しくなるわけだ。
難儀なもんだなぁ。
ここまで考えると、状況は結構面倒な気がする。というか、今まで普通に戦えてきたのは、ただただプレイヤースキル頼りの面が多かったし。しかしこれからレベルが上がっていけば、それは通用しなくなってくるだろう。仮想現実が、現実を引き離していくんだ。
極振りなんかするプレイヤーがでないハズだよ。
いたとしても、扱いの難しさに耐えかねて、素直にキャラを作りなおしてるだろうな。まだゲームは始まったばかりなんだし。
普通ならこんなの諦めてしまった方が早いし、それでもゲームは楽しめるんだから。
……ただ、あいにく俺は“変人”なんてさんざんいわれて、まったくもって普通じゃないんだが。
最悪正常プレイはできなくても、イロモノプレイができればいいかなぁ、なんて弱気なことを考えてしまう。このままいくとモンスターが複数でてきたら出会いがしらに瞬殺されそうだから、それも高望みかもだけど。
やっぱStr以外のステが今後延々と0のままなんだし、まだ対応できてる今のうちに何か今後への有効な対策を練っておきたいよな。
早めの問題発見と対策のための行動は大事です。俺は案外用意周到な性格なんでね。
フレイがはまっている以上、俺だけこのゲームをやめるのもかなり後味悪いし。てか折角清十郎さんが手に入れてくれたゲームを半端で投げ出すとかあり得ない。
かといって、Str極振りも諦められない。これがこのゲームでの俺のアイデンティティだからな!
ホント、難儀なもんだな?
と、いう訳で分析再開とするか。
次回、報酬を選択できるかな?