第閑話 称号の裏のお話
〝非情の断頭者〟のぶっ飛んだ強力さ加減の裏話。
この話はもともとあとがき辺りに補足として書く程度のものだったのですが……文字数ェ……そのため、表現等本編とは違った感じになってます。軽いおまけ程度の気持ちで読んでやってください。いやホント。
これはクノの廃攻撃力の一端を担う称号、〝非情の断頭者〟にまつわる、本編では明かされることのない“裏”話である。
効果は単純。故に強い、強すぎる気もあるこの称号を、製作サイドはどう扱ったのか。
その一部始終をご覧いただこう。そうすれば某お嬢様風に、皆さんにもこう思って頂けるはずだ。
“クノさん、無駄に規格外ですねっ!?”と。
〝非情の断頭者〟 相手HPが50%以上の場合、与ダメージ1.5倍という効果を持つ称号である。
βテストでは取得できるプレイヤーがでなかったため放置されていたが、製品版となってクノが取得。
その際に、“与ダメージ1.5倍”は大きすぎてゲームバランスが崩れてしまうのでは? と運営陣は考えた。こんなの作った奴誰だよ……とも思った。
このゲームには無数の称号があるため、稀にこのような極悪な称号が存在していることがあったりするのだ。称号はこのゲームのために作られたAIが大半を作成しているのだが、開発の人間によって追加されるものもあり、その中には悪ふざけとしか思えないようなモノも混ざっているのである。
開発チーフ曰く「AIにはちっとばかり浪漫が足りねぇ。やはり人間の想像力を機械が超えることはねぇな」だそうである。
余談だがAIは同人物によって、中二ネームを創造するプログラム漬けにされたことがある。ご愁傷様だ。【狂蝕の烈攻】などはここから来ているのだろう。
話が逸れた。
で、この極悪称号なのだが、その分取得条件も厳しく、特に“適正レベル以上のモンスターを100回一撃で倒す”などは、普通に考えたらステータス的にどうやっても無理な条件だった。
しかし、Str極振りの暴挙をしでかすクノによって、この称号はあっさり取得されてしまう。製作者はさぞ悔しがっただろう。厳しい条件のハズが、かなり序盤で取得されてしまったのだから。
運営陣はクノに連絡を取り、賠償と共に称号の弱体化をしようと考えた。が、その考えはクノのプレイスタイルを見ているうちに変わっていく。運営の一人は、こう言ったという。
「こいつ、称号あっても無くても変わんなくね? 弱体化する意味が根本から無くなってる希ガス」
戦慄である。クノは、この称号以前から数多のモンスターを過剰火力で持って一撃で葬っていたのだ。これでは、称号がゲームバランスを破壊以前にクノというプレイヤーの存在自体が規格外ではないかと。
しかも、なんらチートなどを使わずに、ゲームの仕様と本人のプレイヤースキルで成り立っているため性質が悪い。運営は無自覚にゲームのバランスを破壊しに来ているようなクノに対して、手を出すことができないのである。そこに手を出すと、ゲームの仕様自体を変更しなくてはいけない事態となってしまう。それは大変宜しくないのだ。
Str極振りで“戦えている”という事実。クノの規格外っぷり恐るべきである。
運営陣は驚愕する。なんてこったいと。
しかし、彼らも大人。ここは素直に負け?を認めることにした。
むしろ、こんな面白いプレイヤーがいるのは喜ばしいことだ、一人くらいなら大して影響もないだろ、的なノリになってくる。会議室でスルメを食いながら、雑談のネタとして扱われるのだ。
運営も所詮は、目立つプレイヤーの動向を観察し、囃し立てることが好きな、ただの俗な人間ということだ。
それに加えて彼らは、自分たちのゲームがプレイヤースキルだけで万事うまくやっていけるようなモノではないことも知っていた。だからこその余裕である。
言動はちゃらんぽらんだが、やることはキチっとやる運営の一人は言う。
「じゃ、こいつはうん。このままでも問題ないか。何も変わんないなら俺等が動く必要はないよなぁ? ほら、いちおプレイヤーの自由性が売りなワケだしぃみたいなぁ? あ“ーでも、とりま後々の面倒は摘んどっか」
決して称号の効果を変更しても意味が無いであろう上に、変更作業が面倒ともなると、満場一致でスルー決定となった訳では、ないハズだ。
そして、今回の件に対する対応としては、結局称号の効果変更は無し、クノへのアプローチも無しで、〝非情の断頭者〟の取得自体を今後不可能にすることで終了となった。
思わぬ所で、「ユニーク称号」とでも言うべきものが生まれた瞬間である。恐るべきはクノの規格外さだ。
最も本人も称号についてはこれ強いなー、レアっぽいなー、ぐらいの認識しかないのだが。自分が運営すら想定外だったユニーク称号を所持しているなんて、毛ほども思ってはいないクノなのだった。
結局、クノは運営からも驚愕と呆れ顔を持って認知されていますね。
本編は土日。次回はイベント報酬のお話。クノが今後について考えます。