第二十四話 祝勝会のお話
いつの間にやら200万PV達成……これからも精進します。
いつからフレイがメインヒロインだと錯覚していた?
広場から転移して、「花鳥風月」のギルドホームに戻ってきた俺達。
イベントでは6時間だが、リアルでは2時間しかたっていない。時刻はまだ14時だ。
報酬(上位入賞の分とMVPの分の両方)は今日の24:00までに選べばいいらしい。事前に何があるか知らなかったので、時間がたっぷりあるのは喜ばしいことだな。
「祝勝会ですぜー!!」
「「「いえーい」」」
「のってるかーい!?」
「「「いえーい」」」
「……テンション高すぎねぇ?」
「仕方ないわよ。イベント二位だもの、そりゃあ喜びもするわ」
「いや別に責めてるわけじゃないんだが。てかエリザのテンションは戻ったのな」
「流石にずっとアレを維持しろと言われたら無理よ。ここぞと言う時のためのものだから」
「そっか」
つまり上がり下がりが極端なのね……まぁ、いいんだけど。
それより、早くイベントの報酬を選んじゃいたい。姫との約束もあるし。
「ごめん、俺今からイベント報酬選んでくr」
フレイ達に声をかけようとする、が、
「クノさんっ! この前行ったファミレスで祝勝会ですよっ! さぁ行きましょう行きましょう!」
「「「いえーい」」」
「カリン、ノエル、リッカ……無理しないで良いのよ?」
「いや、喜ばしいのは私も同じだからね」
「ですね」
「うん。でもちょっとあのテンションは疲れるかもだけどねっ」
テンションマックス状態のフレイに強引に背を押され、祝勝会?をするコトになりました。
……姫の方はまぁ、まだ時間あるし大丈夫かな?
―――
いつぞやの小洒落た喫茶店風ファミレス。
その一角にて、俺達は祝勝会をしていた。周りを見回すと、結構プレイヤーは多い。
やはりゲームの中で現実と同じ味が楽しめるってのは凄いよなぁ。
いままでやったVRゲームでは、味覚といえば「テルミナ」のポーションぐらいだったからな。あのゲームには、料理という概念はなかった。
「クノさん、私ジュース取って来ますよ~」
「おう、ありがとな。じゃあ俺は、」
「混沌ジュースAと混沌ジュースBと特選混沌ジュース。さぁ、どれがいいですかっ!」
「あえてつっこまないでいてやるから、内訳を言ってみろ」
AだのBだのって、なんだよ……
「混沌ジュースAが、オレンジジュース、ジンジャーエール、ウーロン茶、コーラです。
混沌ジュースBが、メロンソーダ、フォンタグレープ、緑茶、サイダー。
特選混沌ジュースが、カフェオレ、カプチーノ、ブレンドコーヒー、ウインナコーヒー、青汁です」
「最後何があったんだよ!?」
いろんなジュースを混ぜるのはまだ分からんでもないが、最後のはコーヒー四種+青汁て。
なんでコーヒー縛りに青汁投入したよ……後、どこが特選なんだよ。
「いや、コーヒーだけじゃ普通じゃないですか? だから思い切って青汁をば」
「いらんわ! あー、メロンソーダ単品で」
フレイがこれ以上変なことを言い出す前に、咄嗟に頭に浮かんだ飲み物を注文する。
混沌ジュース? 飲めねぇよ。
「お会計120
「ドリンクバーから取ってこい!」
「はい……」
なぜか肩を落としてとぼとぼとドリンクコーナーへと歩いていくフレイ……そんな落ち込むことか。
「クノは酷いわね」
隣にすわっているエリザがそんなことを言う。
ちなみに席はソファー席だ。
「何がだよ」
「私は混沌ジュースAにしたわよ?」
「頼んじゃったの!?」
エリザさん、漢だわ。
「ええ、私オレンジジュース好きなの。ここのドリンクバーは果汁100%を再現していておいしいのよ?」
「それだけでアレに手ぇだしたのかよっ!?」
「ええ、まぁ嘘なのだけど」
「う、そ、か、よっ!」
「貴方の反応がおもしろいから、つい、ね」
「びっくりしたわ……」
まぁ、いいけどさ。俺も楽しんでノッてる節はあるし。
「お待たせ致しました」
おっ、料理が運ばれてきた。
ちなみにこれは追加の注文で、一回目に注文したものはもうあらかた食べ終えていたりする。
つまりこれは、デザートだ。
「きたわね、ビッグビッグパフェ……うふふ」
「エリザ、お前もう量的にデザートが主食になってないか?」
「主食よ?」
「当たり前じゃない的に聞き返されたよ! お前はお菓子の国の住人なのか!?」
エリザがさっきまで食べていたのは、俗にお子様ランチと言われるようなもの……についているようなチャーハン、ミニチャーハンだった。
さっきのオレンジジュース発言と言い、妙なところで子供っぽいというか。
可愛らしい器に盛られたチャーハンを、無表情でちまちまと食べる様子は結構シュールだった。
どんだけ小食なのかと。
それがいまじゃ、通常の三倍はありそうなパフェを頬を緩ませながらつついてるわけですよ。
畜生、可愛いなおい。
「あむあむ……何よ、その何か言いたそうな感じは」
普段は見せない勢いで緩むエリザの顔を観察していたら、気付かれた。
俺はメロンソーダで無駄に腹を膨らませてしまったため、デザートはパスしている。
いや、さっきフレイに追加で注文したから、これからさらに膨らむな……なんで俺はとっさにメロンソーダしか出てこないんだろう?
なので、若干手持ち無沙汰なのだ。決してやましい気持ちがあった訳ではない。純粋に鑑賞していただけだ。
「いや、なんでも?」
「むぅ……もしかして、食べたいの?」
へ? いや別に俺はいい……
「確かにこれは絶品だものね」
「ん、確かにここのパフェはうまいよな」
クリームが、どこぞの高級菓子屋にでもでてきそうなくらい滑らかなんだ。
前に来た時に普通サイズの物を食べて軽く感動した覚えがある。
「そうね……あーん?」
「へ?」
「一口だけなら、いいわよ」
「……」
エリザが自身の口も半びらきにしながら、パフェを一口分すくって俺に寄越してくる。
左手をスプーンの下に添えてる辺り、気配りだ。ってそうじゃなくて。
……まじっすか。
あーん、て。良く見るけど! 漫画とかで女子と食事に行ったら高確率で見るけども!
実際にされると、これは恥ずかしいな……
いや、別にエリザが俺に気があるとか思っている訳ではないけども。完全な善意からだろうけど……それでも、ねぇ?
俺は戸惑って、スプーンをしばし見つめる。
エリザの視線がだんだんと上目遣いになっていき、頬にも朱がさしてきた……そら、恥ずかしいだろうよ……
「早く、しなさいよ……」
「あ、あぁ……あーん」
エリザを窮地から救うためにも、パフェをあーんして貰う。
できるだけスプーンに口を付けないようにする……あ、でもVRでも間接キスとか成立するんだろうか……?
「あむ……」
「……ど、どうかしら?」
もぐもぐ。
この滑らかな口当たりは堪らんね。それでいてしっかりとしていて、生クリーム感を損なってないというか。
アイスの部分も、ストロベリーアイスになっていて仄かな酸味と甘さが素晴らしい。アイスでここまでフルーツの風味を再現できるなんて凄いよな。これぞプロの技ってやつ?
そして時々混じってくるクランチがまた良いアクセントになってる。
一口食べただけでここまでの感想がでてくるパフェとか、そうないよな。
「ん、おいしいよ。有難うなエリザ」
「そう? なら良かったわ……」
よく、味が分からないとかあるけど、別にそんなことはなかった。
まぁ、VR内の食べ物は、だいたいがおいしいしな。やっぱ、仮想現実は現実を超えてるよ。
ホッとした顔をするエリザ。
そしてそのまま固まり、しばらくスプーンを見つめる……いや、やめて。
自分の口に入ったモノをじっと見つめられるとかどんな羞恥プレイだよ。しかもスプーンに触れないようにしたため、クリームが行儀悪く残っているし。
そしてどんな葛藤があったのか、そのスプーンでまたパフェを崩す作業に戻るエリザ……
……いいのか!?
や、取りかえられたりするよりは俺の精神的にはマシだけど。
むしろ、そのことに気を使ってくれたのかもしれない。だとしたら、エリザはよっぽど出来た娘さんだなぁ。
「むぐむぐむぐむぐ」
ペースが早くなって、まるで早送りの映像を見ているようだし、俯き加減の顔はさっきより赤くなってる気がするが、指摘しない方がいいんだろうな、うん。
まぁ、可愛いエリザが見れた俺は満足……ってこの思考は危ない気がする。
エリザに失礼だな。色即是空、色即是空っと、うし。
と、そんなことを考えながら相変わらず頬杖をついてエリザの方を見ていると、店員さんがナニカをもって俺達のテーブルに近づいてきた。
そしてそれをカリンの前におくと、一礼して戻っていく。
「おお! 来たね、スーパービッグビッグパフェDXアルファ!」
「カリン……なんだ、その山は」
「この店の名物、スーパービッグビッグパフェDXアルファだよ。一度食べてみたかったんだ」
「へ、へぇ」
名前長ぇよ。もはや意味を成してない。
前来た時もデザートデザートと一番はしゃいでいたが、どんだけ甘党なんだよカリンは……
エリザのデカパフェの更に三倍以上あるじゃねぇか。まず器から非常識だわ。
流石のエリザもちょっと引いてるぞ、おい。
そしてそんな見てるだけで胸やけがしてくる生クリーム過多なブツを、カリンはひょいぱくひょいぱくと順調に食べ進んでいく……甘党の鑑だな。
「エリザ、アレ食えるか?」
「量的に不可能ね。リッカ辺りならいけそうだけれど、どう?」
「あたしも流石にあんなのは無理だよ―。カリンお姉ちゃんは胃が甘いものを無制限に受け入れる仕様なんだよ、きっと」
「……わたし、食べられると思います……」
「「「まじか!」」」
「一つくらいならなんとか……」
ノエル、意外すぎるわぁ。
「ジュースお待ちですー! はい、どうぞっ!」
「ああ、サンキュー」
「有難う」
「すいません、フレイさん。有難うございます」
「ありがとっ」
「……はむはむ」
フレイがメロンソーダその他をお盆のようなものに乗せて運んでくる。
皆が礼を言う中、一名程デカブツに夢中になってらっしゃるのだが。
フレイもそれに気付いたようで、
「おおぉー! カリンさん、なんですかそれっ!」
「スーパービッグビッグパフェDXアルファだよもぐもぐ」
「おいしそーですねー……ちらっ」
「あげないよ? もぐもぐ」
左手で器を抱え込み、食べるスピードをアップさせるカリン。
なんていじきたないんだ、俺達のギルドマスター……クールなイメージが壊れまくりだわ!
エリザを見習えよ。
「いいですよーだ。私は自分で頼みますもーん……店員さーん、このでっかいパフェ私にもお願いしますー」
「承りました」
そしてその態度に対抗心を燃やしたのかなんなのか。
近くにいた店員さんを呼びとめ、あろうことか自分で注文するフレイ。
あんなデカブツが、テーブルに二つだとっ……俺達に戦慄が走った。
フレイ、お前は本当に食べきれるのか?その選ばれた甘党にのみ踏破を許されたブツを……
―――
30分後。
そこには、お腹を押さえてぐったりするフレイと、二つ目のデカブツを喜々として完食したカリンの姿がありましたとさ。
「さて、じゃあそろそろ出ようか」
「そうだな」
なんだかんだで一時間半ぐらい居座ってしまった……
今の時刻は15時42分。微妙な時間だが、これなら姫との約束の前に報酬を選べるかな?
「うっぷ、待ってください……」
「馬鹿ね」
「リカバリーで治るでしょうか?」
「どうだろうねぇ~?」
「自業自得だぞ、おい」
フレイの背をさすってやりながら、俺達は祝勝会という名のただのお食事会の会場となった、小洒落たファミレスを後にしたのだった。
あ、リカバリーってのは状態異常を治す魔法のことだ。
お会計は俺が全部払った。皆にはお世話になってるし。
MVP賞金も貰ってる上に、唯一の男である俺が払うのは、当たり前とも言う。
しかしあの超デカパフェ、結構な値段するのな。普通のパフェの7倍程だった。まぁ、量的には10倍はあったから良心価格だけど。
まぁ、そもそも俺はこういう時以外はそんな金使わないしな。かなりお金持ちの部類なのだ。
他の皆はアイテムやらなんやらを買うみたいだけど。
あ、でも第三の街では“騎獣”という、乗り物アイテム? が買えるらしい。俺の移動力不足を補ってくれそうなので、是非手に入れておきたいところだな。
ちなみに上位入賞のトロフィーには、ギルドに設置するとギルドの維持費(毎月払わないといけない)が軽減されるという効果がついてたり。