第二十三話 ギルド対抗戦のお話⑦
対抗戦もこれでラスト。
「それではただいまより Innocent World Online 公式イベント ギルド対抗戦の最終結果発表を行います」
ギルド対抗戦閉会式。
激戦を繰り広げたプレイヤー達は、互いの健闘をたたえ合い、順位の予想なんかをしている。
司会は相変わらずジャッジさん。
しかし開会式と違うのは、今は全てのプレイヤーが一つの大きな広場に集められているところと。
その中央の、10m四方くらいの大きさの台に、白いふわふわワンピースの背中から金色の薄羽を生やした、ロリぃ妖精さんが立っていることだ。
つまり、音声のみのお送りではなくなっている! 久しぶりに見たなぁ、ジャッジさん。最初の方にちょっとごたごたがあった時以来だな。相変わらず可愛らしくていらっしゃる。
きっとこの広場のざわめきの半分くらいはジャッジさんに向けられたものだろう。
あまり見慣れない妖精姿と、聞きなれた抑揚のない音声である……もうこれについてはむしろ心地いいくらいになりつつあるね。
「まずは皆さん イベント参加お疲れ様でした 今回のイベントや次回以降のイベントについてなにか改善点や要望等ありましたら メニューのメール機能から運営へのメッセージとしてどしどしお送りください」
確か運営へのメッセージ専用のメール機能があったな、そういや。
「それでは結果発表ですが 総得点の多い順に一位から五位までを決定しました 賞品を授与されるのは上位五ギルドまでとなりますのであしからず 今回だめだめだったギルドの皆さんは 次回以降のイベントでの頑張りを期待しています」
だめだめって、おい。
「ではまず第五位からの発表です」
いままで騒がしかった広場中が、シーン、と静まりかえる。
全てのプレイヤーが、ジャッジさんの言葉を聞き逃すまいと聞き耳を立てる。
「わっくわくですねぇ」
「さて、どうなることか」
「さぁ?」
「良い結果がでるといいですね」
「だね~」
俺の横にはフレイ以下「花鳥風月」のメンバーが並んでいる。
そういえば、今は関係ないことなんだけど。
改めてみると皆の服装って、ギルドにいる時と戦闘時では変えてるんだな。
女の子だし、お洒落も意識してるんだろう。流石ってところだ。
俺も見習って、似非執事服の「黒百合」と、忍者ルックを交互に……いや、やめとこ。「黒百合」気にいってるし。オシャレ度も断然コレの方が高いから、わざわざ着替える必要もないな。
と、ジャッジさんが口を開く。
遂に結果発表の時だ。
「第五位」
……
「獲得旗数 3
プレイヤー打倒数 20
合計獲得ポイント 64
ギルド〝ムーンムーヴ〟です」
おおおぉぉ! やったぁ!
パチパチパチパチ
などという声が、広場の右後ろの方から聞こえてきた。
あの辺にムーンムーヴさん達がいるんだな。
「クノ君……どうだろうか、私達は。上位に入ってると思うかい?」
カリンが若干声のトーンを落として聞いてくる。
「んー、どうだろうなぁ。でも旗の数は確か5本あったろ? だったらかなり良い線いってる気はするんだが。でも最後の方サボってたからなぁ……」
かなり、バテてましたよ。
でも実際、5位で旗は3本だから、それ以上はいってるだろうとは思いたい。
「最前線攻略組と呼ばれるだけの実力はみせつけておきたいんだけどね……私もなんだかんだでβの時はそれなりに有名だったし」
「そうだな」
……うちのギルド、最前線攻略組なんて言われてるんだぁ。
俺まだ第三の街にすら入れて無いのに……
「第四位
獲得旗数 4
プレイヤー打倒数 29
合計獲得ポイント 71
ギルド〝セブンレイン〟です」
よしっ! いえぇぇい!
パチパチパチパチ
おっ、姫のギルドか。
まぁ姫がいるし、一位とかとっちゃいそうで怖かったんだが、案外現実的な順位だ。
そういえばこれが終わったら「ウウレ」の中央広場(塔があるところ)に行かなきゃだな。
姫とVRで直接会うのはかなり久し振りだからなー。
俺はあの時と比べて、どれほどか成長できているだろうか?
「第三位
獲得旗数 6
プレイヤー打倒数 32
合計獲得ポイント 106
ギルド〝双頭の亜竜〟です」
しゃぁぁぁああああ!! きたぁぁ!
パチパチパチパチパチパチ
うおう、すげー盛り上がり。
ってかあれ、旗数が6?
俺らより上だな……これは旗以外のポイントで、俺達が下回ったか上回ったか、って事か。
俺今回かなりの数のプレイヤー倒したからなー、上回っていて欲しい。
ジャッジさんは会場の雰囲気も関係ない、というように、あくまで淡々と発表を続けていく。
まぁ、そこが個性であり、良い所なんだけど!
「第二位
獲得旗数 5
プレイヤー打倒数 59
合計獲得ポイント 128
ギルド〝花鳥風月〟です」
あ。
お、おお!
「おおおぁぁぁ!! やった、やりましたよみなさーん!!」
「これは、なかなかの高順位だね……ふふふ」
「あははは! きた、きたわねコレ! 私達の時代!」
「よかったですね!」
「いぇい! ぶいぶいっ、だよっ!」
フレイが歓声を上げて両手を突き上げ、カリンが何度もうなずき、エリザは何かが吹っ切れたような“あの”テンションで喜んで、ノエルは慎ましく両手を胸の前で握りしめ、リッカはブイサインをしながらぴょんぴょん飛び跳ねている。
喜び方は人それぞれだが、皆一様に充実感と達成感を味わっていた。
これだから皆でやるイベントは、楽しいし盛り上がる。なんたって喜びを共有できる仲間がいるんだから。
そして俺はというと、
「よっしゃ! 二位か、良かったな、カリン」
「ああ、良かった。本当にね」
勿論一緒になって喜びをわかち合っていた。
隣で騒ぐフレイのこぶしを避けながら、近づいてきたカリンとハイタッチ。
感情の共有。
当たり前のことのようで、そんなことも当たり前にできなかった昔の俺とはもう違う。
嬉しい時には人と手を叩き合い、悲しい時にも人が傍にいてくれる。それはとても暖かくて、素晴らしいことだと思う。
俺たちに贈られる、周囲からの拍手。
しっかし二位かー。てことは一位は妥当にオルトスさんとこのギルドかね?
結局遭遇はしなかったんだけども。てかしてたら瞬殺されてたかもだけど……
「そして栄えある第一位」
……
「獲得旗数 8
プレイヤー打倒数 41
合計獲得ポイント 137
ギルド〝グロリアス〟です」
おおぉぉぉぉぉおおおおお!!!
パチパチパチパチパチッ
「おおぉ~!」
これまでで一番の歓声と拍手が巻き起こった。やっぱりか~。
オルトスさんとこのギルド、「グロリアス」は最大手のギルドと言っても過言ではなく、その評判と人気は凄まじいものだった。
ギルドメンバー以外の、他のギルドのプレイヤーもいっそ清々しい顔で惜しみない称賛を送っている。これは、ここまで素直に称えられるだけの実力を持ったギルドであればこそだろう。
まだ開始から一カ月弱なのに、凄いなぁ。
―――
第五位までのギルドの代表者が台の上、ジャッジさんが立っている所へと移動する。
「上位入賞者には記念トロフィーと賞金 そして上位報酬が与えられます 皆様 惜しみない拍手を」
おおおおぉぉぉおお!パチパチパチパチ!!
俺も拍手をする。
あ、カリンが手を振ってる。おーい。
……いい笑顔だなぁ。
報酬は後で選択するそうだ。
何があるんだろうな、そういえば結局チェックしてなかった……
「それでは最後に MVPの発表を行います」
んぁ?
ざわざわ……
広場中がにわかに騒がしくなる。そりゃそうだ、MVPが選ばれるなんて聞いてない……
「クノさん、やっぱMVPもオルトスさんとかですかね~? あ、でももしかしたら自分かもって思うと、どきどきですねっ!」
あれ?
「フレイ、MVPってなんだ?」
「……あー、クノさん? 私言いましたよね? ちゃんと公式も見てくださいって。イベントの説明ちゃんと読みました?」
フレイはもはや定番になりつつあるあきれ顔だ。
てかその言い方だと、まるで俺が重要なことを見落としていたみたいじゃないか。
はは、そんな訳……そんな訳……
「……ルールの部分はばっちりだ」
「ですか……はぁ、ルール以外の部分も読みましょうねー。
このイベントを通して、一番活躍したプレイヤー一人には、MVPが贈られるんですよ。その報酬は上位報酬よりもレアな報酬だとか、一位と同額賞金だったりとかですね。判断基準は様々だそうなので、皆さんもしかしたら……という希望をもってこんなに騒がしくなってるわけです。Do you understand?」
「い、イエース」
成程、普通に見落としてたな。
そしてフレイの英語の発音がやたら良いのがちょっとムカつく。
流石成績優秀のお嬢様だな……俺が言うと嫌味になるのか……
「今回のギルド対抗戦で最も活躍したプレイヤー MVPは」
ごくり
静まりかえる広場。
MVPかぁ。上位報酬よりレアな報酬ってのはかなり気になるが……
普通に考えてそんなの、
「ギルド〝花鳥風月〟 ……クノさんです」
ないだr……え? 嘘。
「花鳥風月」のクノって、俺、だよな?
おおおぉぉぉお!!
ちくしょぉぉぉぉがぁぁぁぁ!! 爆ぜろやぁぁぁあああ!!
巻き起こる歓声と、大きな嫉妬と野太い怨嗟の声。
……なんで俺こんなに男性プレイヤーから恨まれてんの!?
「え、え!? まじっすかクノさんっ! 凄いですよこれぇ! きゃぁー!」
フレイが隣で、俺よりも歓喜している。……いてっ、ちょ、叩くなって。
おおう、なんだろう。
こんなに自分のことのように喜んでくれるのは嬉しいんだけど、うん。
喜びすぎじゃないか? 貰ったの俺だぞ?
「ではクノさん 壇上へとどうぞ」
「あ、はい」
条件反射で返事をする。
小さな声だったが聞こえたみたいで、ジャッジさんは小さく頷いてくれた。
まじで? いや、まじか。
ホントに俺がMVP?
……ホント、っぽい、よな?
なんか、信じがたいというか。
俺なんかが……? いや、これは罰当たりな思考か。選ばれたならもっと堂々としてないと……
いやでも、なんでそんな大層なことになってん……もしかして、アレだろうか。
心当たる節が、ないでもないよなぁ。
あー。まぁ、いいや。
とりあえず人を掻き分け、さっさと台の上に上がって、少しスペースを空けておいてくれたカリンの隣に立つ。
「やったねクノ君、凄いじゃないか」
「あ、うん、有難う」
カリンが小声で称賛してくれる。照れるな。
「クノさんがMVPに選ばれた最大の要因は プレイヤー打倒数の圧倒的多さです なんとこのイベント中に 34人ものプレイヤーのHPを0にしています」
ああ、うん。やっぱりか。
俺が選ばれる理由なんて、それぐらいしかないよなぁ。
「花鳥風月」のプレイヤー打倒数も、一位の「グロリアス」よりかなり多かったし。
てか34っていうと、俺一人で三位のギルドのプレイヤー打倒数超えてる!? そんなに多いの、俺!?
……これはかなり誇れることのような気がしてきたな。最初は全然実感無かったけど。
伊達に指名手配犯のごとくひっきりなしに襲われてないぜ。
というか今回はそれが効を奏した訳で、そう考えると何故に俺がこんなに狙われていたのかが、いまいちよくわからなかったりもするんだがなぁ。
別に「花鳥風月」所属だからって理由だけじゃ弱いと思うんだケド……どうなんだろ、よくわからん。
ハーレムだの言われてるらしいけど、そもそもハーレムというのは、女性からの好意がないと成立しない訳で……うん、今考えるような話じゃないか。
「34だと!?」「バケモンかあいつ」「俺もクノにやられたぜ……」「あの攻撃力はヤバいだろ」「盾の上からゴリ押しする奴初めて見たわ」「でもやけに軽かったような……」「しかも姐さんと仲良さそうにしやがってからにぃ」「畜生! 勝ち組リア充タヒれ!」
プレイヤーたちのざわめきが聞こえてくる。
ああ。
まぁでも俺の所属がなんであれ、ね。
あんだけプレイヤー倒してんなら、そりゃあ恨まれもするってもんか……
なんか嬉しいような肌寒いような、今の心境は不思議な感じだ。
「……クノ君、有難う」
「ん? どうしたカリン。いきなり」
「いやね、今のMVPのこと聞くと、うちのギルドが二位という好成績を残せたのもクノ君のおかげというのが大きいだろうから。だから、有難う。やはりあの時君をギルドに勧誘しておいて、良かったよ」
俺一人のおかげってんじゃなくて、皆の頑張りのおかげなんだろうが。
それでも今は素直に礼を受け取っておく。
「……どういたしまして。頼りないメンバーだけど、これからもできれば宜しく頼む」
「ああ、勿論だよ!」
なんか、これはもう感涙ものだわ。
ギルドではソロプレイばっかしてるもんだから。
それは自業自得とは言え、誰かに頼って貰えるというのは嬉しいな。それが美少女なら嬉しさも倍だ。
「それでは 上位入賞者にはトロフィーの授与です」
わぁぁあああ!
「MVPのクノさんには 記念リングが授与されます」
わぁあああ! ちっくしょぉぉぉおお!! 爆ぜろぉぉーーー!!
歓声と、やはり相変わらずの怨嗟の声。
……何コレ怖い……
こうして、『IWO』公式イベント、ギルド対抗戦は全て終了したのであった。
メンバーの服装(防具)
あまり細かく決めても、作者のセンス的にアレになる恐れがあるので、ポイントとイメージカラーだけ。
エリザだけなんか別格である。
・普段着
・戦闘着
フレイ
・ワンピース
・ホットパンツ
イメージカラ―:空色
カリン
・ブラウス
・ロングコート
イメージカラー:白色
エリザ
・ゴスロリ(フリフリ)
・ゴスロリ(フリ)
イメージカラー:黒色
ノエル
・ロングスカート
・アオザイ
イメージカラ―:緑色
リッカ
・キュロットズボン
・ローブ
イメージカラー:黄色
基本的にはデザインに大きな変更はない。
エリザはころころデザインを変えることをよしとしないため。作品に愛着があるともいう。基本は最初に作ったものを強化していく感じ。
普段着と戦闘着、どちらか一方はインベントリにしまってあり、いつでも着替えが可能。ただし、フィールドでは防具の変更ができないため不可。
ちなみにインベントリには、武器・防具・アクセサリ・補助器・盾は合計で10個までしか仕舞っておけないという制限がある。
大抵は替えの武器と防具、アクセを持っておくもの。
主人公はアイテムに頓着しないため特に利用してないが、ギルドには個人・全体で倉庫が存在する。インベントリに入りきらないものはそこに入れておく。
また、ずばり「倉庫」という施設もあり、Lを支払うことで「倉庫」スペースを買い、ギルドに入らなくても倉庫機能を使うことが可能。