第二十一話 ギルド対抗戦のお話⑤彼女達の対抗戦
他のメンバー視点、ラスト。
ノエルとリッカはクノ君との絡みが少ないです。
Side:ノエルの場合
「ノエルー、回復お願いしまーす!」
「はい、わかりました。〝万物を包み込む聖なる光よ 傷つきし者を癒せ〟『ヒール』」
わたしは光属性魔法で最初に覚えた魔法、『ヒール』をフレイさんにかけます。
“魔法”は武器の“アーツ”みたいに武器種ごとに覚えられるものが固定されている訳ではなく、属性魔法スキルのレベルが5上がるごとに、いくつかの選択肢から自分の好きな魔法を覚えることができるんです。
普通の近接系の技に比べ、魔法は詠唱して放つだけで自由性があまりないので、その辺りで自由性の調整をしているんでしょうね。
今日のイベント、ギルド対抗戦も、そろそろ終盤となって来ました。
最初はたまに襲ってくる他のプレイヤーの皆さんをエリザさんと追い払うぐらいで、わたしの本分である回復役になることはなかったのですが、だいたい中盤辺りから皆さん回復薬が切れたみたいで、けっこう頻繁に拠点に帰ってくるようになりました。
ただ、クノさんだけは一回も回復させてくれないのですが……わたしの存在意義が……あの人は、本当になんでも一人でやってのけてしまう人ですね。
一回HPが赤の、明らかに回復が必要な状態で帰って来ましたが、その時の「この方がいいから」と言って揚々と他の拠点を探しに出かけてしまったきり一度も帰ってきてませんし。
ギルドメニューからロストしていないことは分かるのですが、何故あの状態で生き残っているのかが不思議でたまりません。
「じゃ、いってきま~す!」
ばびゅーん!
そんな効果音が聞こえてきそうなスピードで、フレイさんは行ってしまいました。
そういえば、他のギルドの人は何人かが組みになって拠点を襲撃していたのですが、うちのギルドは一人で大丈夫なんでしょうか?
いや、いままで大丈夫でしたし、旗も結構……とはいえ序盤の方だけで、二時間過ぎたあたりからはめっきり獲得はなくなりましたが……それでも脱落することなく取ってきているあたり、わたしたちのギルドはかなり規格外じゃないかなー、とは思いますが。
カリンさんのいう通り、まさに少数精鋭ということでしょうね。
皆さん現実でもなにかしらの能力に長けているようで、羨ましいです。わたしなんて……
……とと、これはいけませんね。卑屈になるなとカリンさんも言ってましたし。わたしにもできることがあるんですから。
「ノエル、襲撃よ。北の方向から二人」
「はい。了解です」
エリザさんは【探知】のスキルを取っていて、その効果でプレイヤーの襲撃を教えてくれます。
もう少し早ければフレイさんがいたのですが、残念です。
「〝全てを浄化する聖なる光よ 我が意に従い 我が敵を追え〟『ホーミング・レイ』」
「『アローシャワー』」
わたしの杖からは三つの光の球が放たれ、エリザさんの弓からは一本の矢が上空に打ち上げられ、それが分裂して降り注ぎます。
しかも使う矢は、一本がなかなか貴重な“麻痺矢”です。これによって相手の動きがかなり制限され、不利な状態に追い込んで逃亡を余儀なくさせるのです。
状態異常をばらまくという点では、弓に優る武器はなかなかないですからね。
「ふっ、先制されたか」
「かまわねぇ、突っ切れぇ!」
「【ビッグシールド】!!」
「【突撃】!」
敵のプレイヤーは、一人は大きな盾を構えてやり過ごし、一人はスキルを使って強引に突破してきました。
「おおぉぉぉお!!」
「っ、避けるわよ! 【ステップ】」
「【ステップ】!」
一直線に突撃を行って来たプレイヤーをなんとかやり過ごします。
そのプレイヤーは私たちの横を通り過ぎ、少しして止まりました。
「あら、挟まれてしまったわね」
「エリザさん、ど、どうしましょうか?」
これまでのプレイヤーは先制攻撃を仕掛けた時点で諦めるか、もしくは耐えきっても距離が充分開いているのでこちらから一方的に攻撃できたのですが……防御を選択せずに突撃をおこなってきたプレイヤーはこの人が初めてですね。
流石はこのイベントにおいて終盤まで生き残っているだけはあります。
そのおかげで私たちはかなりピンチです。距離を詰められた時点で不利は確定ですからね……
エリザさんの状態異常もなぜかきいていないようですし。
相手の武器は大斧。防御力の低いわたしやエリザさんは、場合によっては一撃死もありえるでしょう。
というか、なんで“麻痺”になってないんでしょう。
盾の人はともかく、斧の人はエリザさんの『アローシャワー』を防御もせずに確実に浴びたはずなのに。
その証拠に、斧の人の体力は半分ほどになっています……半分?
「おかしいわね。『アローシャワー』はそんなに威力はないアーツなのだけど」
「わたしの『ホーミング・レイ』のダメージもあるでしょうけど、あれは目くらましと割り切っているような威力のはずです」
わたしはIntが低いですからね。
回復系統の魔法の回復量は、Minに依存するらしいですから、もっぱら精神値を高めているのです。
そうでなくても、もとより『ホーミング・レイ』は追尾系で低威力ですし。
「これは、クノのお仲間かしら?」
「かもしれませんね」
この低防御力は確かにクノさんを彷彿とさせます……とはいえ、実際に戦っているところを見たことは、実はないんですが。あくまでステータスからの予想です。
「さぁて、作戦会議は終わったかい? お嬢ちゃん方ぁ?」
「こらこらボルズア。口調がそこはかとなく下品なかんじがするぞ」
「『バッシュアロー』」
「ちっ、さっさと方ぁつけるかぁ?」
「〝聖なる光よ 我が敵に向かえ〟『ホーリー・ボール』」
斧の人をたしなめる盾の人に向かってエリザさんが牽制を放ち、斧の人へはわたしが光魔法を放ちます。
私の光魔法でも一定以上ダメージを与えられるなら、勝機はあるかもしれません。
わたしたちは自然、旗の近くで背中合わせとなります。
「しゃらくせぇ!」
「おい、もう少し堅実性を、」
盾の人は堅実に盾で攻撃を防ぎながらにじり寄ってくるのに対し、斧の人は私の攻撃を意に介さずに斧を振りかぶりました。
「きゃっ!」
「あぅ!」
魔法を放った後で避けられるはずもなく。
その一撃はエリザさんまで巻き込み、旗から離れた方向に吹き飛ばしました。
ダメージ量はとっさに杖で防御したため三割強程度です。
このゲームでは【アブソーバー】というスキルによって、武器、そして“補助器”と呼ばれる「杖」などで防御した場合と生身で受けた場合では、ダメージに大きな差が生まれるのです。
とはいえ、補助器によるダメージの減少量は、武器に比べると少し小さいのですが。
それでも、このダメージ量というと斧の人の攻撃力は相当のものなのでしょう。
ちなみに一番ダメージを軽減できる武器は、いわずもがな盾ですね。状態異常も無効化しますし。
しかしこの斧の人、全く回避を考えていませんね。例えるならバーサーカーでしょうか。
スキルこみとはいえ、走ってくるスピードも結構速かったですし、流石に攻撃力に極振りをしている訳ではなさそうですが。
そして重なって倒れた私たちに向かって大斧が振りかぶられます。
この体勢から防御は不可能。さっきの威力を鑑みるに、恐らく一撃でわたし達のHPは0でしょう。
……最後まで残りたかったな。カリンさん、御免なさい。
そしてアーツが使われているとおぼしき微かな光とともに、斧が振り下ろされる――
――前に爆炎が斧の人を包み、大きくふっ飛ばし、そのHPを削り切りました。
「……リッカ?」
―――
Side:リッカの場合
「あー、疲れた疲れたー! はやくノエルちゃんの癒しがほし~」
イベントはもうそろそろ終わりな頃。
後一時間ないぐらいかな?
あたしはギルドの拠点目指して全力疾走をしていた。
理由はただのHPポーション切れなんだけどね~。HPゲージは赤色を示していて、リッカちゃん大ピ~ンチ!な状況。
そしてやっと拠点についたと思ったらなんかでっかい男の人が背中を向けてて、あたしの方もなんか勝手に戦闘状態になったので、
「〝燃え盛る炎よ 我が敵を悉く燃やしつくせ〟『ヴォルケノ』っ!!」
最近覚えたての火魔法、このイベントでもすっごくお世話になったあたしの最大威力魔法をぶつけてみた。よしっ、狙いも完璧だねっ!
残念なのは消費MPがやたら高いんだよね~これ。
「……ぁ!?」
驚きながら消えていくでっかい人。
やったね、ブイブイ!
そしてでっかい人と炎が消えた向こうには、重なりあって倒れているノエルちゃんとエリザさんの姿がっ!
もしかしてピンチだったのかな?
更にその後ろには盾を構えた人が走ってくるところだった……て、まずいまずいっ。
「〝熱き炎よ 我が敵に向かえ〟『ファイア・ボール』」
慌てて詠唱時間とか硬直時間とかが短い、火の初級魔法を早口で発動する。
でも、盾に防がれちゃって、全然ダメージを与えられていないみたい。
それでも二人が逃げる時間かせぎにはなったようで、【ステップ】によって発動して二人はあたしの隣までくる。
「くっ、三対一では分が悪いか。……あの馬鹿め、相手が美少女だからって油断するからこうなるんだよっ……」
盾さんは流石に勝てないって思ったのか、あたし達の方に盾を向けバックステップで逃げていく。
あの人は必死なんだろうけど、見てると結構面白い。
とはいえ、一応警戒に杖は向けていくんだけどね。
「……ぷっ」
「……エ、エリザさん。笑ったら駄目ですよ」
「だってザリガニみたいなんだもの。くすくす」
ザリガニか~!流石エリザさん、良い得て妙と言うやつだねっ。
「畜生、こんなことなら最初から二人がかりでいっときゃ良かったか……あの馬鹿を信じたのが運のつきだ……な?」
苦り切った顔を赤くしながらバックステップを繰り返し、もう少しで通りにでる、というところで。
ヒュオン!ザスッ
その通りの方から黒い細身の長い剣が一直線に飛んできて、盾さんの背中に刺さった。
そしてもともと多少減っていたとはいえ、あっけなくHPが0になって、光ってぱぁっと消えちゃう盾さん。うっわぁ。
カラン、と地面に落ちる長剣。
あれは……なんだっけ。
なんか見たことあるような武器だな~?
「あら、「黒蓮」じゃない」
「「黒蓮」? なにそれ?」
「クノの武器よ」
「ああ~! あれかぁ。ってことは……」
「おっし、刺さった!」
「やっぱりクノね……なんなのよあの威力は……」
「クノくんだねー!」
見ると、通りのむこうから、クノくんが赤と黒を纏いながら歩いてくるところだった。
……何あのオーラ、かっこい~!
憐れ盾の人……それなりに防御力も高かったろうに……
後、予定していた五話では収まりませんでした。申し訳ないです。