第十九話 ギルド対抗戦のお話③彼女達の対抗戦
他のメンバー視点です。
Agi重視ステのフレイが、Agiの大切さを説くお話でもあります。説明臭くなってますが、すみません。
クノ君のステータスの足りなさは、いろいろな所で言及していくのです。
フレイの力説を要約すると、クノ君はAgiが0(=現実と同程度の移動速度、反応速度、スタミナ等)なので周りの速さがどんどん現実離れして超人的になっていっても、一人現実に取り残されていくね、ってことです。某SA○の主人公とは真逆ですね…
Side:フレイの場合
旗の上に表示されたカウントが、どんどん減っていきます。
ああ、ワクワクしますねぇ。今すぐにでも飛び出したい衝動が抑えきれないですっ。
待ちに待った『IWO』公式イベントですからね。今日ははっちゃけますよ?
3――2――1――
そしてその表示が0に変わった瞬間。
私は残像すら生むようなスピードで弾丸のように拠点を飛び出しました。
先手必勝、なのですよっ。
めざすは目の前にある北の通りのその向こう。
その広い道の真ん中を、砂煙を巻き上げながらトップスピードで走ります……といっても、ゲームなので実際には砂埃なんか巻き上がらないのですが、気分的にはってことですね。
私のステータスは全ステータスポイントの半分ほどがAgiに振られているため、トップスピードで走り続けてもスタミナ的には全く問題なし!です。
見よ、これがAgiの力なのです。速さこそ正義です。
クノさんはちょっと
しかし、Agiを侮ってはいけないと私は思う訳です! 私はAgi重視ステなので特に!
そもそもこのゲームにおけるAgiとは、現実には不可能な、ファンタジー的“理想”の動きをするためのステータスです。別に無くても行動不能になるわけでもないですし、現実より体のスペックが劣ることはないのですが。
ちなみにこの辺は昔、ゲームなのにリアルよりも動きが悪いとはどういうことだ!と文句を言う人がいたため、だそうですが、詳しくは知らないです。一人が言ったくらいで変わるとは思えないので、時代の変遷に従っていった、というのが正しいと思うのです。
昔はどの人も最初は身体能力が同じになるようにという調整の手段が、“平均化”だったみたいです。
今は平均化ではなく、劣っている人(大抵の人がこれにあてはまりますね)の方をそこそこ、リアルでいうとかなり上の方、まで底上げする形になっていますが。
底上げが適用されないなんてそう有るものではないですよ? クノさん辺りは怪しいですが。
モンスターと戦闘をする訳ですから、そうでないといろいろ困るのです。昔(といっても数年ですが)と今では、“戦闘”のレベルがまるで違っていますからね。これが時代の変遷、最近はより超人的な感じになってきているのです。現代人は刺激を求めるのですよ。
で、これらの底上げはレベルの上昇とともにちょっとずつ強化されていくみたいですね。
隠しステータスという奴でしょうか? まぁステータスを直接振ることに比べたら微々たるものでしょうね~。
あと、それに付随して脳の処理速度を上げ、現実離れした高速戦闘にも適応できるようになってます。流石のクノさんもこれの恩恵は受けているはずなのです。……私程ではないと思いますが。
とまぁそんな感じで、ゲームではリアル以上の身体能力が得られるわけですが、それはこの世界で活動する上で必要最低限のものでもあります。
そしてこの最低限の状態では、あくまで現実世界の限界を超えることは不可能なのです!……あ、脳の処理速度とかは別ですね……きっぱり言い切れなかったです、すみません。
と、ともかく、現実を遥かに超越し理想に至るには、“ステータス”を割り振らないといけないのです。でないと“ゲーム”として成り立たないですからね。
いくら現実より強靭になってもStrが0なら与えられるダメージも0に等しいですし、Vitが0なら受けるダメージが異常なほどになったり、折角Strがあっても、持続性がないので十全に生かすことが難しくなったりますし、Agiが0なら頭ではわかっていてもモンスターの速さに身体が反応しない、この広い世界を移動するのに時間がかかる(これ意外とストレスだと思うんです)、動き回るとすぐに疲れる=モンスターとの戦闘において致命的、そもそも短距離高速移動を可能にする初歩スキル、【ステップ】さえ使えないので攻撃を避けるのが難しい、等々ゲームをする上で様々な弊害があるのです。
つまりゲームを楽しむためにはAgiにもちゃんとステータスを割いて、もっと超人的な感じで、弾丸より速く走ったり、壁を使ってジャンプしたり、「後ろだ」ってしたり、迫りくる弾幕を華麗に全回避したりするべきなんですよっ!
っと、長々と力説してしまいましたが、一言でいうと、「クノさんは夢のない変人」ということですね。Agi0でどうやってモンスターと戦っているのか、
……いや訂正、不思議じゃないですね。クノさんのことですから、普通に近づいてきた奴を端からばっさばっさなぎ倒してる光景が目に浮かぶようなのです。ファンタジー感のかけらもない力まかせですね~。
……はっ、いけっ、そこだぁ!……よしっ、全方位同時攻撃でクノさん敗れたりぃ!敗因はAgi不足による遅すぎる反応速度ですねっ!
Strはあくまで速さに関しては“武器を振る速さ”にのみ関わりがあるみたいですから、振りきった後、次の攻撃につなげる時に若干ラグが存在するのは当たり前のことなのです。常識です常識。クノさんはStrに頼りすぎなんですよ!
その速さだってStrだけでなくAgiによっても上げることができますしねっ。しかもAgiがあれば動作の隙を無くして現実には無理な動きもスムーズにできますし!
敏捷性なめてるからそうなるんですよ!やーいやーい!ふふ~ん!
……あれ?なんの話してましたっけ?
あ、そうだ、イベントについての話をしようとして、途中から少~しだけ脱線してたんでしたねぇ。
えー。私の対抗戦における役割は、この機動力を生かして他のギルドの拠点を探し出し、旗を奪取することです。
クノさんはお馬鹿さん(Agi0)ですし、リッカちゃんも私には劣りますから。
途中で出会うプレイヤーは全部無視しても構わないとの、カリンさんからのお達しです。
その辺のプレイヤー討伐数は、きっとクノさんが頑張ってくれるでしょうしね~、適材適所です。あっ、今プレイヤーいましたねー。スル―しますが。
と、そんなことを考えている間にもう次の広場です。
「う~ん。拠点では無いみたいですね」
残念。私は走りながら旗のあるなしだけを確認すると、その広場を猛スピードで駆け抜け、次の広場を一直線に目指すのでした。
風を切るのって、楽しいですね!
リアルではこんなに爽快な気分で走れませんし、仮想現実最高ですっ!
―――
「お、拠点発見ですねっ」
走り続けること三つ目の広場。
ついに他のギルドの拠点を発見しました。赤くたなびく旗がなによりの目印ですねぇ!
「では御免です!」
私は両腰に吊ってある双剣(二刀小太刀型)「銀鈴虫」を引き抜くと、拠点を守っていたプレイヤーさん達に、勢いよく突っ込みました。それはもう、凄まじい速度で。
「『ツインタックル』」
突進系双剣アーツの発動と一緒に。
私の前方で、ロケットの大気圏突入時みたいな光の障壁が青く薄く半球状に展開されます。
そして、固まってなにやら話をしていた三人のプレイヤーを全てボウリングのピンのごとく跳ね飛ばし、急停止。ちなみにこの停止はアーツの発動後硬直のものだったりしますね。
「な、他のプレイヤーかっ!」
「旗を守れ! ってかあれフレイたんじゃね!?」
「おお! まじかっ! こりゃ、かっこ悪ぃとこみせらんねぇな!」
「悪いが全力でいかせて貰うぞ!」
散らされたプレイヤーさん達は即座に体勢を立て直し、武器を構えますが、
「遅すぎるんですっ!」
私は【ステップ】の上位変化スキル【ハイステップ】を使い、距離を一瞬で0にします。
このスキルは上位変化により、より長い距離を、より複雑な軌道を、より高速で移動することができるんです。
【ステップ】を持っているプレイヤーは多かれど(ほとんどみんなですね)、【ハイステップ】までたどり着いているプレイヤーは一握りだと自負していますよ?
初見で対応するのは至難の業だと思います。まぁ、逆に言うと慣れてしまえば、今の私達の能力でいうと対処は可能でしょうが。
それまでにカタをつけます!
一番近いプレイヤーさんの背後を取り、スキル【加速撃】を発動。
その効果により、私の攻撃速度に比例して攻撃の威力が高まります。
「はぁっ!」
ッッ!
気合い一閃。私は双刀を同時に二本とも、正確に首にズバン。
腕をクロスさせて、解き放つような感じです。
攻撃にろくに反応出来ないまま後ろから弱点を攻撃され、プレイヤーAのHPが一気に四割程度
そして反撃を受ける前に相手の体を踏み台にすぐさまとびのき、他のプレイヤ―に狙いを定めます。
「は、速すぎるぞ!?」
「おいお前【心眼】のスキル持ってたろ!? あれでなんとかなんねぇか!」
「む、無理だ。この速度には反応ができん!」
「お喋りしてる暇はないですよっ」
【ハイステップ】で斬りこんでは逃げる、斬りこんでは逃げるの繰り返しをします。
私の戦闘スタイルは、基本ヒット&ウェイですから。
流石になかなか弱点(頭や心臓)を攻撃させてはくれず、そうなると私の攻撃はダメージの通りが悪くなっちゃいます。
スキルに【弱点攻撃強化】【看破の瞳】(攻撃した相手の弱点を一つ見破るスキルです)、称号で〝
攻撃力はほぼ弱点ボーナスで補ってるようなもんなんです。
だから、対人戦は少々面倒なんですが。
キンッ!
「よっしゃあ!」
「あぐっ!」
何度目かの攻撃を弾かれ、反撃を受けてしまいます。ダメージは武器で防ぐことができなかったため三割程度ですね……
すぐに体勢を立て直し、追撃が来る前に【ハイステップ】。
次の瞬間には深追いしようと武器を振りかぶったプレイヤーさんの後ろに立ち、頭に二刀を浴びせます。
「はい、残念でした!」
「ダルシュ!!」
「っく、そ……」
白い光となって消えていくプレイヤーさん。ダルシュさん?
「さて、残りは二人ですよ? ふふっ」
二人ともに小太刀の切っ先をぴたっ、と向ける私。
……あ、今のちょっとカッコ良かったかもです。
その後は何度かダメージを受けながらも、スピードを生かして相手を撹乱し、見事残りの二人のプレイヤーさんも仕留めました。
残りHPは二割ほど……って結構やばかったですね!?
慌てて中級HPポーションを二本飲んで体力を回復させます。爽やかミント味ですっ。
こんな序盤からもう二本も使ってしまいました……後半はほとんどノエルちゃんのお世話になりそうですねぇ。
「旗、回収です~」
さて、ではこれを拠点まで持って帰らないとですね。お家に帰るまでが遠足です!
私は突き刺さっていた旗を抜き、小脇に抱えて元来た道を疾走しました。
次回、カリン・エリザ視点。