第十七話 ギルド対抗戦のお話①
五話ほど続きます。
御意見、御感想お待ちしてます。
日曜の11時55分。
俺たちは「ウウレ」のギルドホームでギルド対抗戦の始まりを今か今かと待ちわびていた。
参加申請をおこなったギルドは参加メンバーを決め、参加メンバーはいずれかの街のギルドホームで待機していれば、12時になったら勝手に特別フィールドに転送してくれるらしい。
「いよいよですねぇ!わっくわくですよ~」
「フレイ、お前さっきからそれしか言ってないぞ」
「いいじゃないですか~。私はこういうお祭り的なのが好きなんですよぅ」
フレイは昨日の時点からずっと浮かれている。よくテンションを維持できるもんだよなぁ。
「全く、フレイはお子様ね。私を見習って少しはおとなしくしてたらどう?」
「いやエリザ、さっきから時間気にしすぎだろ。もう挙動不審だよ。そんなに気になるならもうずっと時間見とけよ」
「失礼ね。私のどこが挙動不審だと言うの?」
「メニューを開いては閉じ、開いては閉じを繰り返してる所だよ!」
「まぁまぁクノ君。皆楽しみにしているんだから。そういう君も楽しみじゃないのかい?」
「いや、楽しみだけどな」
うん。むしろ楽しみ過ぎて逆に人にツッコミを入れてないと落ち着かないっていうか、ね。
特にフレイなんかのテンションには引きずられたらやばそうだ。
「かく言う私もかなり緊張している。なんたって初の公式イベントだからね。同時に気合いも入るってものさ」
「緊張してるようには見えないけどな」
「ふふ、それを隠すのが緊張のプロなのだよ」
「緊張のプロってなんだよ……」
「カリンお姉ちゃんはいついかなる時でも緊張することができ、さらにその緊張を相手に悟らせないんだよ~!」
リッカがカリンの後ろからにょっきりと顔をだす。その隣にはノエルもいる。
「武道にも通じるところがあるのでしょうか?あ、クノさんは知っていますか?カリンさんは空手の達人なんですよ」
「まぁ、そういうことだね。いかなる時でも程良い緊張というのはプラスに働くものだよ」
「まさかの正当な理屈的なコトかよ。俺には真似できんなぁ。ってかカリンて空手の達人なんだ」
達人とか言うと、ちょっともんにょりとするが。
俺も爺さんの指導を受けて、武道……的なコトはやってたけど、そうホイホイ緊張出来てたら身がもたない気がするなぁ。
ってか俺がやってたのは基本、ひたすら爺さんや門下生の皆さんの攻撃をかわすだけだったし……今考えると、爺さんはその人の長所(俺の場合は足捌き、位置取り、見切り、とかその辺。打撃の才能には恵まれてなかったらしい)をガンガンのばしていくタイプの指導法だったんだな。他の技術はほとんど教えてくれなかったし。
まぁ、俺が正式に入門した訳じゃなかったから、最低限の護身(=逃げる、避ける、かわすの三拍子だな)しか教えなかっただけかもだけど。
ちなみに逃げる、の訓練として道場の周りを延々走らされたんだが、それでも俺は長距離走が得意にはならなかった。なんでだろうなぁ。
「それはもう、ね。自分で言うのもなんだが、達人も達人さ。なんたって師範代を倒したからね」
「うお、まじか。すごいなカリンは」
「ふふ、太らない秘訣は適度な運動さ」
「適度な運動感覚で師範代倒したわけではないよな!?」
「さぁ、どうだろうね?」
「……ええー」
うちのギルドのマスターはどうやら凄い人らしい。同い年だけど。
まぁ、カリンはβテスターということもあり、プレイヤーの中でもトップクラスの実力者だしな。
そこまでいくには流石にリアルでの能力も関与してくるんだろう。
……となると、“最強”とかいわれるオルトスさんは、どうなってんだろうか。やっぱどこぞの格闘家とかなのかね?
これから行われるギルド対抗戦には、確実にオルトスさんのギルド、ひいてはオルトスさん自身も出るだろう。……なるべく遭遇したくないなー。
「もうすぐよ。あと一分切ったわ」
メニューをぱちぱちやってたエリザが、そんなことを告げる。……いよいよか。
そして12時ぴったり。
最初に『IWO』の世界に飛び込んだときのような、真っ白な光がギルド内を満たした―――
―――
気がつくとそこは、第一の街「リネン」のようだった。
あくまで“よう”というだけで、実際にはそうではないだろうが。この街のフィールドが、特別フィールドってわけか。
「レディースアンドジェントルメーン これより Innocent World Online公式イベント ギルド対抗戦を始めます この度はイベントへの御参加 真に有難うございます 今回の参加ギルド数は 27 プレイヤー数は実に 236名 です」
突如として耳に響く、抑揚のない独特の声。ジャッジさんか。
この声でレディース&ジェントルメンは無いと思うんだ……開発スタッフはこういうキャラが好きなんだろうか? ちなみに俺は結構好きだ。
てか、結構多いなギルドも参加人数も。
第一陣は限定生産かなんかで、500人くらいしかプレイヤーが居なかったはずなんだけど。半分くらいが参加か。
まぁ、このゲームではギルドは意外と容易く設立できるものだからな。もっと後半になったら弱小なギルドの大手ギルドへの統合やらなんやらがおこって数も絞られてくるんだろうが、最初はこんなもんか。
「ルールは事前に告知している通りで 変更はありません 皆さん死力をつくして 頑張ってください ……それでは カウントダウンの終了とともに開始です 開始までは“拠点”から出ることはできませんので御了承ください」
俺達が今いるのは、半径20mくらいの広場だ。その中央には台座のようなものがあり、真っ赤な旗がたなびいている。
その旗の上に、デジタルな表示で30、と表示され、それは刻一刻と数値を減らしていく。あれがカウントダウンか。
「皆、役割は覚えているね? イベント上位目指して、頑張ろうじゃないかい!」
「「「「「おー!」」」」」
カウント、0。
その瞬間、フレイはものすごいスピードで広場を出て行った。
……速いな~。さすがAgi重視のスピードファイターだ。いや、実際に共闘したことはないんだけど。
「クノくん! あたし達もいこ~!」
「ああ、そうだな」
広場からは、東西南北、四つの道が伸びていて、フレイが向かったのは北側だ。
俺はとりあえずマップを呼び出してみて、自分たちの大体の位置を把握する。
この街のフィールドは長方形に作られていて、俺達がいるのは真ん中よりも南寄りだ。
マップには長方形と自分たちの拠点の位置しか表示されないが、この規模だと広場の数はかなり多そうだな。他のギルドの拠点を探すのも大変そうだ。
「リッカは西の方行ってくれないか?」
「うい! りょーかいだよっ。じゃねー」
そういってリッカも駆け出していく。リッカは魔法使いタイプのはずなんだが、その速度は俺の全力疾走より少し遅いくらいの速さはあると思う。
……ステータスって、大事だな。
そんなことをしみじみと思いながら、俺はてくてくの東側に向かって歩き出す。
「クノ、さっさと行きなさいよ」
「うるせい、俺のスタミナじゃ軽く駆け足が精一杯だっつの!」
「……残念ね」
「むぅ、この広さでは、攻撃役を増やした方が……いや、しかし」
じと目のエリザと、なにやら唸っているカリンを後ろに、俺は東の通りに入った。
―――
てくてくと道を歩く。そろそろ次の広場に着きそうだが、他のプレイヤーの姿は見ていない。
マップを見ると、俺達の拠点を示す赤い光点の他に、黄色の光点が三つ増えていた。それらは拠点から見て北に二つ、西に一つだ。そして青の光点が一瞬、てんでばらばらな二か所で点滅してすぐに消える。
黄色の光点は位置的に見て他の広場だろうな。成程、ギルドメンバーが見つけた広場は、随時マップに書き込まれるわけな。
青の方は、正直分からん。すぐに消えるってことは……なんだろう?
と、そろそろ広場に着く。一つ隣なんだし、流石にプレイヤーの拠点はな、い……
そこには、風もないのにはためく真っ赤な旗と、その周りを取り囲む二人のプレイヤーの姿がありましたとさ。
広場の場所ってランダムだっけか。そりゃあ、隣どうしになる確率もあるんだろうな。
俺はとりあえず息をひそめて気づかれないようゆっくりと接近――なんてことせずに、堂々と広場に突入した。
見張りは旗の前を動こうともせずに、ピシッ!と気をつけをしていたからな。気づかれずに接近なんて、隠密系のスキルをとってない俺には無理無理。
格好は重装備、騎士ってところか。二人とも腰には片手剣と思われる剣に、左手にはバックラ―らしきものを装備している。装備の統一感からするに、そういうロールプレイ集団なのか?
「おい、プレイヤーだ! 行くぞ!」
「おうよ!」
「速いなぁ」
二人はそんな俺にすぐさま気づき、20mの距離を一気に詰めてくる。
二人とも近接系か。遠距離攻撃ができた方が、防衛にはむいてると思うんだがな。
「我らは聖錬騎士団、名もなきプレイヤーよ、覚悟!」
「いや、名前あるから」
俺は最初に斬りかかってきた騎士A(仮称)に向かって、背中に括り付けていた「黒蓮・壱式改」を抜き放ち上から下へと、剣を叩きつけるように振る。Strの関係で剣速は俺のほうが速い。
【危機察知】には反応なし。つまり一撃だけなら俺のHPでも耐えられるのか。まぁ、どうでもいいんだけどな。どうせ、後でHPは1になるんだから。
「なっ!」
俺の膂力で振るわれた長剣は相手の剣を打ち落とし、地面にバウンドさせ空に舞い上がらせるほどだった。
更に其処で、
「【覚悟の一撃】【捨て身】【狂蝕の烈攻】」
スキルを同時に三つ発動させ、攻撃力を高める。
【覚悟の一撃】によってHPが1まで下がり、俺の右手の甲には白い、六芒星のような模様の魔法陣?が浮かび上がる。
俺の黒い、エリザ特製ゴシック的装備の中ではその白い六芒星はひときわ目立って見えた。
更に【捨て身】【狂蝕の烈攻】の効果で、身体からは揺らめきが立ち昇る。
色彩と無色透明が混ざり合った、色つきのガラス玉に透かした光のような、水中に垂らした絵具のような、澄んだ不規則な揺らめきを持つオーラだ。
色は、一つは赤、もう一つは黒。赤と黒は混ざることなく重なりあい、不思議な色あいを醸し出している。
「な、なんだ?」
「スキルか!?」
剣を失った騎士Aは【ステップ】で瞬時に飛び退り、時間差で仕掛けようとした騎士Bはいきなり現れたオーラに驚いたのか、硬直している。
スキル発動後には、俺にも僅かに隙が出来てたんだが、そこを突かれなくて助かった。
「これくらいで動き止めてんなよ、っと『クロススラッシュ』」
「がはっ!」
「なっ……」
結果、俺の凶悪なほど強化された『クロススラッシュ』(+〝非情の断頭者〟によってダメージ1.5倍)を受け、一撃で白い光の粒子となる。
俺は飛びさすった方の騎士Aが、【ステップ】の硬直時間は終わったはずなのになぜか硬直している間に、距離を詰めて剣をふるう。
その一撃は【覚悟の一撃】の効果時間が終わってしまったためにさきほどよりは若干威力は劣るものだがしかし、充分に脅威の一撃だ。
ガギィィン!
残念ながら盾によって防がれてしまった。ダメージはおよそ三割。
盾で防いでいながらのそのダメージ量に、騎士Aの顔が引きつる。更に鍔迫り合いでじりじりとHPを削ろうとした矢先。
【危機察知】が相手の攻撃を察知し、視界には相手の盾が押し出される軌道が、そこだけ薄く灰色に色あせて見える。到達時間は……こりゃだめだ。俺のAgiじゃ間に合わん。
「くっそ、『シールドバッシュ』!」
相手の盾アーツが発動、俺はおそらく相手が思うよりも大きく吹っ飛ばされ――心臓の辺りでガラスのような音と共になにかが砕け散るエフェクトが発動。【不屈の精神】だ。
俺は空中で体勢を立て直し、危なげなく着地。ついでに【捨て身】をかけなおしておく。
それを見て驚く騎士A。完全にやったと思ってたんだろうが、残念だったな。
再度距離を詰め、剣をふるう。今度は下から上にすくい上げる軌道だ。
「な、ぁ……」
盾でガードする騎士A、その盾ごとを力任せに切り上げる。
結果、騎士Aの盾と盾を持っていた左腕は大きく後方に跳ね上げられた。そこから体勢をもどすのには、時間がかかる。
「ふっ!」
そしてがら空きになった胴体を袈裟がけに斬り払い、終了。騎士Aも光の粒子となって消えていった。
「ん、こんなもんか」
とっさに避ける事は難しいみたいだから、今度からは鍔迫り合いなんてせずに、ガンガン斬りつけていくことにするか。
いやでも、やっぱ対人戦は楽しいねぇ。
―――
騎士を倒した後、その場所で青い光点が二回点滅して消えたことを、そしてその光点がプレイヤーの消滅を示し、他のプレイヤーを集めるためのものだということを、クノは知らない……
アクティブスキルは、スキル名を唱えるだけで即座に発動できる。発動後は僅かに硬直時間あり。
パッシブスキルは、音声or手動で、オンオフの切り替えが可能。
鍔迫り合いとは…
最初に与えたダメージの5%を、接触している限り毎秒与え続けるシステムのこと。プレイヤーからプレイヤーへの攻撃では、普通ははっきり視認できる程のダメージは受けないため、このゲームにおいて鍔迫り合いは(ダメージを与える、という意味では)無意味であるといえる。クノ君は例外。盾持ちにも毎秒2%弱は与えられる、が、Vitが無いので続けていると10秒もたずに息も絶え絶えな状態になる。
(継続的に力を出し続ける場合は、時間に比例して、ステ―タスの影響量がStr<Vitになっていくため)