<< 前へ次へ >>  更新
20/183

第過去話 決意の卒業のお話


軽く補足する程度の予定が、本編と全く変わらない程度になってしまった……「テルミナ」での後日談。


この話の投稿にあたり、第過去話 あるクリスマスのお話 の最後の独白部分を修正しました。


1stコンタクト……偶々入口の前でパーティーを組んで一緒にダンジョンを制覇。

          その後はフレンド登録を押し売りされ、風のように去っていく。


 



「……クノ。この人とはどこで出会いましたの?」

「この前一緒に蟲塚むしづかのダンジョンをクリアしたんだよ。臨時でパーティー組んで」

「……随分と気に入られてしまったようですわね……わたくしから言えることは、謝罪と諦めをうながす言葉だけですわよ」

「なんだ姫。この馬鹿と知り合いだったのか?」

「馬鹿とは失礼じゃない!?じゃないじゃない!?」

「訂正。うざい馬鹿だ」

「おお!!より酷くなっております!!さぁ盛り上がって参りまsぐぼへっ」

「テンション高けえよ……」


「……紹介しますの。この駄目人間が、非常に残念なことにわたくしの実の兄ですわ」


「……まじっすか」


「おやおやぁ、どうしたかね、“九の字”候補!」

「その九の字ってなんだよ」

「僕が“八の字”だからねっ!ネーム的にもベリーマッチだぜ?」

「ネーミングセンスが残念すぎやしないか?」

「ダイジョーブ!そのうち皆よんでくれるようになるから」

「だからなんなんだって、ソレ」

「九の字ですか?“じ”が足されただけですし、まだましな方ですの……いいと思いますわよ?さっさと諦めなさいですわ、九の字」

「姫がなんか落ち込んでる……過去に一体何があったんだよ」

「はっはっは!ボルチョンペ事件のことかね?」

「本気で何ソレ!?」



 ~神無月じゅうがつ後半。稀代の馬鹿、八咫烏との2ndコンタクトより、抜粋~



 ―――



 俺が「テルミナススタァ・オンライン」を始めてから早九ヶ月。

 始めた頃とは比べ物にならない程俺の周りは騒々しくなっていた。


「九の字~!アルテマヒュプナ狩りにいこうず~!!」

「ちなみに誰と?」

「もっちろん二人でだよん!」

「おいこら八の字。そんな高レベル帯を俺ら二人だけでとかアホかお前は」

「いや~?充分狩れる範囲だヨ?」


 ……まぁ確かに、その通りではあるんだけども。俺もわかっていながら、一応反論しただけだけども。

 アルテマヒュプノ単体では、ぶっちゃけ余裕だ。

 ただあそこ火山ステージだから暑いんだよなぁ。ボスまでの道のりもだるいし。

 せめて遠距離攻撃できるやつが一人いると、あそこは楽なんだがな?


「ってことで、姫呼ぶか」

「え~!二人っきりでいこうぜぃ」

「やだよ気持ち悪い」

「全く。将来のお義理兄様に向かって気持ち悪いとはなんだねチミィ」

「将来の、お義理兄様……?」

「そう、なんたって九の字は、」


 チュドーン!


「ぐふっ……!」


 ザスッ


「あら、ごめんなさい八の字。羽虫と勘違いして思わず撃ち抜いてしまいましたわ」


 どこからともなく飛んできた極大の矢が、目の前の八の字に直撃、飛んで行った奴は近場の壁に頭から突っ込んで刺さった。

 ……壁に刺さると、向こう側ってどう見えてるんだろ?


「おっ、姫」

「九の字。こんにちはですわ。ところでなにやらクエストに出かけるようですね?」


 どうやら矢を放ったのは姫のようだ。

 グッジョブ!


 ぐっと親指を立てると、力強く立て返してくれる。

 先ほど八の字が言いかけた言葉の続きが気になるが、まぁいっか。どうせ八の字の言うことだし、いつものジョークの類だろ。


「ああ、できれば姫に参加して貰えると助かるんだが。アルテマヒュプナのトコ」

「ああ、成程。でしたらわたくしは適任ですわね。良いですわよ、この際そこの羽虫は放って二人で行きましょうか?」

「そだな」


「……ちょ、待ってくれぃ……せめて壁から抜いてって」


「じゃあクエスト登録して、と。はい、転移“ドンパース火山”」

「御機嫌よう、八の字?」

「へるぷみ~」


 シュン


「あっ、ホントに行きやがったよ……あ、ちょいそこの人~へるぷみ~」


 ちらっ……すたすた


「Oh……」



 ―――



「あぁ……この暑さはどうにかならんのかね」

「こればっかりはフィールドの特性ですから、仕方ありませんわね」

「あ~、冷たいドリンクが欲しいわ」

「?喉が渇きましたの?」

「ごめん、こっちの話」

「そうですの」


 ただいま火山フィールドのど真ん中である。

 このフィールドは、近づかなければおっそい火炎弾しか放ってこない割に体力が少ない敵であふれているため、遠距離攻撃ができるプレイヤーがパーティーにいるとかなり攻略が楽なのだ。

 というか、遠距離ができるとボス以外はもはやちょっとした作業である。そのボスさえ俺らにとっては余裕で倒せるんだが。


 ちなみに。姫の魔弓による一方的蹂躙の影で、俺もナイフ投げで加勢している。

 使う機会もないのに安かったからついまとめ買いしてしまった投げナイフが役に立った……か?


「これ俺いる意味すらないかもしれん」

「そんなことないですわよ!……なんならいてくださるだけで大丈夫ですわ」


 急に姫が大きな声を出す。おおう、どうした。


「いやそれどこが大丈夫なんだよ」

「その……わたくしの、モチベーションの問題ですわ」


 なんだそりゃ。


「そ、それより最近は一緒にプレイすることが少ないような気がしますの」


 姫が急に話題を変える。

 これはまさか俺の役立たずさには流石の姫もフォロー不可能ということなのか……?

 姫の優しさを噛みしめながら、おとなしくその話題に乗っておこう……


「あ~。俺もいろいろあるんだよ、悪いな」

「いえ、気になさることではありませんわっ」


 姫はわたわたと慌てて手を振る。


 いろいろあるんだよ……学校に行ったりとか、な。

 長らく、始業式に行ったきり一度も登校していなかった学校に、一月から通い始めたのだ。

 心境の変化とか、まぁそんな感じだな。人との触れ合いの楽しさを、俺は知ったから。


 それでもいきなり行くのは少し気が引けたチキンな俺なので、学校は年が明けた冬休み明けから、として去年は結局まるまる一年引きこもってたんだがな。


「ありがとな、姫」

「へ?いきなりなんですの?」

「いや、こっちの話」

「さっきから九の字にしかわからない話を振るの、やめてくれませんこと?」


 姫が涼やかな目元をジト目にしてこちらをみてくる。

 それに対して俺は無言でナイフをなげて、姫の背後に低速で迫っていた火炎弾を相殺することでごまかす。


「危なっ、ですわっ!」

「あ、悪い。でも後ろから火が……」

「わたくしスレスレにナイフを投げないでくださいですのっ!」

「や、ホントすいません」


 ごまかしはうまくいったようだが、他の火種をまいてしまったようだ。火炎弾だけに。

 ……いまので少し涼しくなったかな。



 ―――



 今回のクエストでのドンパース火山のボス、アルテマヒュプナ。

 その姿形は例えるなら、巨大なノコギリザメだ。


 火山の山頂にあるマグマの池?に生息しており、プレイヤーはその池の周りからアルテマヒュプナを攻撃することになる。

 こう言うと近接攻撃が届かないんじゃね?とか思うかもしれないが、池には無数の“足場”となる岩が浮いているため、多少体勢は不安定となるが攻撃ができない程ではない。


 そしてこのボスの最大の特徴は、その攻撃力の高さとHPの低さである。


 ボスの吐く巨大な溶岩弾やら、ノコギリ部分の振りまわしやら、はては溶岩の津波まで。

 あらゆる攻撃が、熟練のプレイヤーでさえ無視できない程のダメージをもたらすのだ。


 だがその一方でそのHPは他のボスと比べて圧倒的に低い。半分以下といってもいいほどだ。


 これらの要素のため、アルテマヒュプナは“ボスの攻撃が避けられるレベルのプレイヤーなら、一人でも楽勝”とまで言われるボスモンスターである。

 まぁ、一流プレイヤーへの登竜門的な扱いでもあるな。

 そして俺も姫も、一流プレイヤー、その中でも頂点付近にいるようなプレイヤーである。


 結果として、アルテマヒュプナが討伐されるまでにかかる時間は、僅かだった。


 第一姫はこいつとの相性が良すぎるんだよなぁ。遠距離からガリガリと凄いスピードで削られていくHP……ホント、もはや憐れですらある。


 そんなアルテマヒュプナに挑む目的はというと、ひとえに“金”のためである。

 このボスモンスター、討伐時にべらぼうに多い“G”が手に入るんだよな。金欠の時にはもってこいって訳だ。

 ちなみに今回金に困っていたのは八の字であるので、悪しからず。

 別に俺はどうということはない……ノリで八の字置いてきちゃったし、今回の報酬は奴にくれてやるとしようか。

 ……どうせ俺はもう、このゲームを引退しようと思ってるしな。ホントは去年のうちにやめるハズだったんだがなぁ。



 ―――



「お疲れ様、姫。ありがとな、付いてきてもらって」

「いえ、気になさらないでくださいですわ。私も丁度新しい武器を作るのにお金が足りないところでしたから」

「あれ?また弓新調するのか」

「ええ、最近レアな素材を手に入れたので、いっそのこと最初から作りますわ」

「そっか、そりゃ良かったな」

「ええ、本当にですわ。……初めてのプレゼントでしたし」

「ん?」

「いえ、なんでもありませんわ」

「そか」


 そういえばまだ姫には引退のこと伝えてなかったっけ。

 丁度いいから話しておくことにするか。


「姫、話があるんだ」

「な、なんですの急に改まって?」


「俺、このクエストが終わったら「テルミナ」引退するんだ」


「ほへ?……ぇぇえ!!」


 一瞬呆けた後、目を丸くして驚く姫。そりゃあ驚くか。 


「ああ、正確に言うとすぐって訳じゃないけど、このログインが最後だと思う」

「え、え?なんでですの?」

「んー、気持ちの整理、かな。俺はこのゲームのおかげで“大切なこと”に気付いたから。でもそれを実行するためには、いつまでもこのゲームでの繋がりにどっぷり浸かっている訳にもいかないかな、と思ったんだよ。ギルドの皆には申し訳ないとは思うけど、これは俺にとって決意であり、けじめだから」



 別に俺の事情なんかは知りたくはないだろうから、その辺はぼかして伝える。ある種のマナーみたいなもんだ。


「……なにやら、大変なコトがあったのだというのは、なんとなく伝わりましたわ」

「うん、大変なコトっていうと、ちょっと違うかもしれないけど。だいたいそんな感じで」

「ではもう、クノとは会えなくなりますの……?」


 姫が不安げに、こちらの様子を覗きこむようにして聞いてくる。

 地味に呼び方が“クノ”に戻ってるな。


「あー、それなんだけどさ。嫌だったら全然断ってくれても構わないんだけどさ」

「なんですの?」

「こんなこと頼むのはマナー違反だって分かってるし、どうかとは思うんだけど、やっぱり俺としても最低限の繋がりぐらいは欲しいかなー、なんて思ったりする訳で」

「だから、なんですの?はっきり言って下さい」


「姫……メアド下さい!」


 俺は頭を勢いよく下げ、姫にお願いした。

 八の字にもすでにお願いしてゲットしてあるが、やはり相手が女の子だと緊張感が半端ない。

 俺がこの世界で人とのつながりの暖かさを知ったのは、一番は姫がきっかけだったから。

 なんだかんだでお世話になった気もする八の字と、確実にお世話になっている姫のメールアドレスぐらいは、この世界からの手土産として持ち帰っておきたかったのだ。

 ときどきメールのやり取りをするくらい、いいんじゃないか?と自分で自分を甘やかした結果ともいう。

 これからいろんな人と接する上で、その繋がりは大きな支えになる気がしたから。


「クノ……」

「はい、なんでしょうか」


 思わず丁寧語になってしまう。

 顔をあげると、そこには呆れ顔をした姫がいた……やっぱり、駄目だったのか?


「クノ……今どきメアドくらい、ギルド内では結構普通に交換しますのよ?」

「……あ、そなの?」

「だから特にマナー違反ということもありませんわよ?クノはやっぱり変わってますのね」

「……まじですか」


 そうなんだ……最近のゲームは人とのつながりがより密になってたんだなぁ。

 完全に好きな女の子に告白するような勢いで頼んだってのに、まさか普通のことだったとは。

 俺のさっきまでの気負いは一体……これがいままでぼっちだった弊害か。


「ということは、今までの口ぶりからすると、以降のわたくしとクノとの繋がりはメールだけですの?」

「あ、はい。そうなるかな」


 姫の目がちょっと怖いです。


「そんな……いや、ポジティブに考えるのよ、いままで聞くタイミングを逃しに逃しまくっていたけれど、これでいつでも好きな時にクノに連絡がとれる……やっぱりおはようとおやすみのメールはした方がよいのかしら……ああ、でもあんまりしつこい女は嫌われるっていうし、こういうのは相手の気持ちが大事ですわよね……クノ?」


 姫は早口でぶつぶつ何かを思案していたようだが、急に俺の名前を呼ぶ。


「はい!」

「わたくし、メールがとても好きなんですの」

「はぁ」

「ですから、頻繁にメールを送ったりするかもしれませんが、それでもよろしいですか?」

「あ、ああ、大丈夫だよ」

「毎日送ったりするかもしれませんわよ?」

「うん、いいけども」

「……ならそれで手を打ちますわ」

「ああ、有難う?」


 手を打つ……?

 俺が頷かなかったら、一体代わりにどうする予定だったのだろうか。ちょっと恐ろしいな……


「ではメモ機能に打ち込んで見せますの。しばしお待ちくださいですわ」

「あぁ。了解、俺もそうさせてもらうわ」


 メモ機能……その手があったか!

 昨日八の字に聞いた時の、あの暗記は一体なんだったのだろうか……

 無数のアルファベットを全部覚えてログアウトした俺は、さぞ間抜けだろうさ。

 そういえば八の字はさほど苦労している様子はなかったから、きっとメモってたんだろうなぁ。



 ―――



 ギルドにて、未だに壁に刺さっていた八の字を横目に見つつ、俺はそろそろログアウトすることに。

 所持金その他は全てギルドの倉庫にぶち込んでおいた。


「じゃあそういう訳で」

「はい、また別のゲームで会える事を楽しみにしてますわ」

「まぁ、縁が有ったらな」

「有るに決まってますわよ。なんたってわたくしがそう願うのですから」


 姫は薄桃色の髪をしゃらん、と揺らし、ビシッとポーズを決めながら力強く言い切った。

 なんて自信だよ、俺にも少し分けてはくれないかね?


「そう、かな?まぁいいけど。じゃあな、姫」

「はい、また会いましょう?メール送りますわね」

「おう」


「九の字ーー!!へるp」


 ログアウトっと。


 姫は最後まで、微笑みながら手を振ってくれていた。

 俺も頑張らないとなぁ。まずは早くクラスに慣れないとだ。

 俺の席は教室の真ん中あたりだったからな。好都合なのかどうかは、微妙なところだが。


 目標は、今年度中に誰かと一緒にお昼を食べることだ!



クエストはメニューから気軽に受けられるものから、街の依頼掲示板にしかないもの、特定の建物の掲示板にしかないものまで、受けられる場所から内容まで、本当に様々。



クノ君が学校に行ってた期間(一度目の一年時)は、一月~三月までです。

この話は冬休み明けてスグのこと。



<< 前へ次へ >>目次  更新