第二話 ステータスのお話
日曜日。
俺は朝から玲花に電話で起こされ、御崎邸に来ていた。
「わくわくしますねぇ~。もう少しですか」
「だな」
現在俺達は御崎邸にある「ゲーム部屋」、玲花が各種大型のゲーム関係の機械を置いている部屋にいる。
ここには「VR専用ベッド」という、VR中の疲労なんかを軽減してくれる高級ベッドが二台設置されているのだ。
俺も欲しいな、これ。
時刻は11時59分、51秒,52,53,54……
「「5、4、3、2、1――」」
俺と玲花のカウントダウンが重なる。
そして、
「「0っ」」
その瞬間、俺はVRの世界へと旅立った。
―――
何もない、真っ白な空間。気がつくとそこに俺はいた。
「Innocent World Online の世界へようこそ 私はナビゲーションを務める ジャッジ と申します 以後お見知りおき下さい」
突然目の前に、金色の羽を生やした妖精さんが登場。成程、ナビゲーションね。
しっかしこの妖精さん、声に抑揚無さ過ぎだろ……顔も無表情で、全然歓迎してる感じじゃないんですが。
プログラムをし忘れたとか……?いや、製品にもなってそれはないか。となると開発者の趣味かね。まぁいいんだけど。
「ではまず この世界についての説明をさせて頂きます」
ジャッジさんがしてくれた説明は、ほとんどがネットで調べてもう知っていることだったが、いくつか新しい情報も聞くことができた。
例えばMPについてとか。
このゲームのMPは時間とともに回復していくんだが、そのMPの量はレベルアップで+20される。
そしてそれに加え、StrとIntの合計値が足されるというのだ。
Intは分かるとして、Strは……ああ、『アーツ』があるからか。
『アーツ』とは近接系の必殺技(というのにはちょっと違うけど)みたいなもので、MPの消費によって発動する。そしてこの『IWO』の近接戦闘は、主にこの『アーツ』が戦闘の鍵を握ると言っても過言ではないそうだ。ジャッジさんいわく、「アーツを制す者は 戦闘を制す」とかなんとか。
まぁこの『アーツ』、必殺技っていう程仰々しいものではなくて、割と多用されるものみたいだな。
後はステータスに関してのこととか。
このゲームでは、最初に自分でステータスを割り振ることができ、その割り振りによって今後の成長傾向が変わってくるんだそうだ。
ステータス割り振りに使うステータスポイントは120与えられ、多く振ったステータスには相応のボーナスが。逆に全然振らなかったステータスには最悪マイナス補正がつくらしい。
「それでは最初に、キャラクターを作って頂きます ……既存のアバターデータが存在 使用しますか?」
Yes/No
突如として俺の目の前に青く光るウインドウが展開される。
ボタンを押して選択しろってことか。
既存のアバターデータとは、他のVRゲームをやった時の使っていたものだ。
特に変える必要性もないので、Yesと選択。
「――loading―― アバターデータの同期が完了しました」
俺のアバターは、リアルの容姿から、焦げ茶色の眼を完全に黒にした以外は特に手を加えていない。そもそもアバターをいじるのが面倒だしな。
身体がぼうっと光る。おそらく今の俺は、目の色だけが変わっていることだろう。
「続いてステータスの割り振りです ステータスポイントの持ち越しはできませんので 必ず全て使いきって頂きます」
ジャッジさんの声に続いて、こんな画面が表示される。
ステータスポイント:120
Str:0
Vit:0
Int:0
Min:0
Agi:0
Dex:0
えっと。先ほどの成長傾向の話なんだが、ステ振り30でボーナス+1、それ以降は99までは10ごとに+1づつのボーナスで、100から120までは10ごとに+2づつのボーナスが加算されていくらしい。
30未満だとボーナスはなしで、10未満だと今後そのステに振ったポイントが半減するようだ。
つまり、もし一つのステータスに120ポイント振ると、ボーナスは+13ポイントとなる。
この+13ポイントというのは、かなり魅力的だよな。レベルアップによって貰えるステータスポイントは20なので、その半分以上だ。
ただまぁこれは、あくまで所謂“極振り”をした場合の話だ。そしてそんなことをする馬鹿はそうそういるものではないだろう。
なぜならここは、バーチャルリアリティ、仮想現実の世界だ。
ステータスを駆使すれば、少女が大の大人に腕力で勝てるような世界だ。
それなのに極振りをするということはつまり、それ以外のステータスは特に恩恵もない状態で、この世界で活動しなければいけないということだ。そんな状態で、現実にはいないモンスターどもと戦えると思うか?答えは否だ。
何のために、ステータスがいくつにも分かれていると思っているのだと。極振りなんかしたら、その他のステータスに足を引っ張られ、まともにゲームをプレイすることもままならなくなるのが落ちだろう。
これはゲームはゲームでもVR、クリックするだけでキャラクターが勝手に戦闘を行うような以前のゲームとはまさに一線を画し、自分自身の身体を動かして戦闘をおこなったりしなくてはいけないのだ。
そんな中で、極振りをするということの何と愚かしいことか?
という訳なので。俺のステータス割り振りはこうなった。
Str:120
Vit:0
Int:0
Min:0
Agi:0
Dex:0
……立派な極振りですね本当に有難うございました、ってか。
今までの話はなんだったのかって?ふっ、そんなものはあくまで一般論だ。俺は俺の道を行くね。
狩りゲーなんだし、攻撃力さえあればなんとかなるだろ。
この世界では、ステータスが0=何もできない、という訳ではないんだ。
ここが画面越しに行う普通のMMORPGとの違いとも言えるな。『IWO』では、ステータス0はあくまで“この世界での”最低値。
底上げ式平均化理論がどうたらこうたらって聞いたことがあるんだが、まぁ要するに、ステータス0は身体能力で言うと、現実と同程度か、運動な苦手な奴だったら現実より上回ってる程度ってことだな。
でないと流石の俺もStr極振りなんぞしな……いや、どうだろ……
まぁ、いいや。そんなことを考えることに意味はないな。
それに俺は人と違うことをするのが好きだし。その方がいろいろと新しい発見もあるってもんだ。
プレイヤースキルには幾らか自信があるんだよ。貫きとおしてやろうじゃないか、Str極振り。
「本当にこの割り振りで宜しいでしょうか?」
Yes/NO
というウインドウが目の前に展開される……勿論Yesっと。
「では続いて 武器スキル/属性魔法スキルの選択を行ってください 選択できるスキルは一つまでです」
そして目の前に表示される多くの武器の名前。
大剣、長剣、片手剣、短剣、長槍、短槍、大斧、etc……
実に様々な武器スキルが存在していた。属性魔法の方は、勿論スル―だ。
ここはやっぱり、攻撃力とリーチを兼ね備えた武器を選択したい。
候補は、大剣、長剣、長槍、大斧辺りか。
長槍と大斧は俺の趣味に合わないのでパス。
大剣と長剣では、攻撃力もリーチも大剣が優位なのだが、しかしこの武器には一つ欠点があるんだ。
『IWO』の武器には、それぞれ重量が存在する。そして大剣は武器の中でもかなりの重量武器なのだ。大~系の武器は皆、特にそうなんだが。
そしてそんな重量武器を扱うには、Vitの値が重要となってくる。
Vitがないと、武器を構え続けることもままならないのだ。
それはVitが力を出し“続ける”、持久性に関するステータスだからである。
折角Strが高くても、Vitが低ければ、その力を長時間出し続けることはできない=重量武器を持ち続けることもできないのだ。
そんなわけで、いくら俺のStrが高くても、俺は大剣を満足に扱うことはできないんだ。
大~系でなければ、Vitが無くても扱えるとは思うんだがな。
ということで。
ほとんど消去法のような感じで俺のメイン武器は長剣に決まった。
まぁ、使いやすいしな。妥当なところだろ。