第十四話 新スキルが壊れ?スキルなお話
「『クロススラッシュ』」
ザシュッ!俺は大きな熊にむかって目にも止まらぬ速さで十字に剣をふるう。アーツの発動とともにMPが少しだけ減少する。
【長剣】レベル15で覚えたアーツ、『クロススラッシュ』は俺のStrと合わせて威力、速度共に申し分なく、使いやすい。
……ちなみに、レベル10で覚えた『アッパースイング』は下から上へすくうように大きく切り上げるアーツだった。技後硬直が、というより体勢を整えるのがネックで、使い勝手は微妙だったからなぁ。ノックバックは大きいんだが。
ブラウグリズラーの残り僅かだったHPは、それで尽きた。
むしろオーバーキルだった。
「ガアアァァアアアア!!」
よし、こんなもんか。
俺はボスフィールドをでて、セーフティエリアに戻る。
ちなみにここは「ウウレ」側のセーフティエリアで、フィールドの名前は、「熊戒の森」だ。
アイテムは、っと……お、ラッキー、スキル原石だ。
……これでとりあえずの目標は達成か。思えば長かったなー。
現在、ギルド対抗戦まで残り二日。この二週間弱、俺はスキル原石を集めるため、ひたすらブラウグラズラーのみを狩り続けた。
本当はもう少しゆっくりする予定だったんだが、“あるスキル”を発見したため、最初の予定よりスキル原石を多めに集めることになったんだ。
俺は早速、手に入れたスキル原石を使い、その“あるスキル”を取得することにした。
―――
スキルを取得。
その瞬間、俺の体に広がる何とも言えない暖かな光。それは全身を覆うと、ふっ、と消えた。スキル取得時の演出だ。
さて、じゃあここで俺が苦労して手に入れたスキルを発表しようか。
【
発動後、毎秒HP減少2%(この効果によってはHPは1未満にならない)
HPの残存量に応じてStr上昇+1%~+100%(HP1をStr上昇+100%とする)
発動中HP回復不可
戦闘中のみ発動可能
効果時間:戦闘終了まで
どうだ、凄いだろ? このどこか香ばしいオサレ的ネームも含めて……え?凄さがよくわからない?
そうか。ならば説明しようじゃあないか。
ふふん、今の俺は『IWO』を始めてから一番機嫌がいいかもしれないな。
まずこのスキルで注目すべきはやはり、“HPの残存量に応じてStr上昇+1%~+100%”という点だろう。
そしてHP1状態での上昇は+100%……つまり、Str二倍だ!
これは非常に大きな数値である。俺の場合、元が元だから余計に。
ちなみに、俺が他に持っている筋力上昇系スキルと比べると、
【筋力強化(中)】(【筋力強化(小)】が上位スキルになったもの。おそらく(大)とかもあるんだろうなぁ)が+10%、
【捨て身】が+15%だ。これを考えるといかに非常識な上昇値かがよくわかるんじゃないかな。
この二つがいつでも効果を発動できるもので、一定の条件下でないと効果を発動できないものとしては、最近とった二つのスキルがあげられる。まぁ、これらは正確には筋力上昇系、ではないんだが。
【生存本能】PS
HP50%未満10%以上時、Vit/Min上昇+10%
HP10%未満時、Str/Int上昇+10%
かねてより欲しかった、ピンチになるとステータスが上がるってスキルだな。
上昇値は高いとも言えないが、上位変化に期待。
【覚悟の一撃】AS
Str/Int上昇+100%
発動後、自分のHPを1する
戦闘中1回まで発動可能
効果時間:発動後最初の攻撃まで
このスキル、上昇値だけで言うと【狂蝕の烈攻】と同等(覚悟の方はIntの上昇も入ってる分、格上か?)なんだが、戦闘中に一度しか使えない。一撃限定だ。
使いやすさは断然【狂蝕の烈攻】の方に軍配が上がるかな。
多分こんな使いにくいスキルとってんのは俺ぐらいだろう。
……スキルは人によって出現するものは変わってくるらしいんだが、そもそもこんなスキルが出現する奴なんて俺以外にいるんだろうかね?
まぁ、ここらへんは今説明してることとは何の関係もないか。
と、こんなものだ。
【狂蝕の烈攻】は効果みるに、【捨て身】と同じような感じで使えるっぽいから、かなり使いどころは多い(俺主観)スキルで、上昇値も魅力的すぎる。
更に言うと、俺は【覚悟の一撃】を使うことで、相手から攻撃を受けなくてもHPを1にできる。
つまり、【不屈の精神】を残した状態で【狂蝕の烈攻】によってStrを2倍にできるということなんだ。
(俺主観で)ほぼノーリスクでのStr二倍。こりゃテンションも上がるってもんだ。
このスキルのマイナスポイントであるHPの減少も回復不可も、HPが1未満にならないのなら俺からしたら全くの無問題だしな。
と。しっかしこれ、考えれば考えるほど俺にぴったりなスキルだよなー。
デメリットと合わせて考えると、普通なら土壇場での切り札的存在になるんだろうが、俺にはそんなこと関係ない。
戦闘中に常時使い続けても、全く問題なしだ!(負の方向で)
このゲームの、プレイヤーのプレイスタイルによって出現スキルが変わってくるというのは、つまりプレイヤーにあったスキルが出現しやすいということなのかな。ステータスやら扱ってる武器やら戦闘中に主に使うスキル、戦法などなどから判断しているんだと思うんだが、なかなか素晴らしいシステムである。
今の俺、おそらくStrだけなら“最強”と名高き(遂に掲示板で“オルトスさんの最強ぶりを語るスレ”ができたらしい)オルトスさんすら遥かに凌ぐんじゃないかと思う。
Strだけならな。大事なコトなので、二回言っておく。
それ以外は0だから、ちっこい兎の攻撃が当たっただけでHP0になるようなゴミ防御力とちょっとした長距離移動もままならないような残念スタミナなんだが……リアルでも、長距離走だけは苦手なんだ。
いい加減狩り場までてくてく歩いていくのも億劫だな。北の森探索する時なんか凄い大変だったんだよ。
まさか街から森までの距離が一キロ近くあるなんて……狩り場で暴r……戦闘する分の体力を考えると、リアル準拠の俺のスタミナじゃ歩かざるを得ない。走ってへとへとの所をモンスターに襲われましたなんぞ俺の防御力を考えると洒落にならんからな。
道中は出てくるモンスターも弱いの(西にでてくるホーンビットとロゥドッグ)だけだし。
Str極振りも大変なのだ……割とゲームの本質と関係ないようなところで。
あ、そうだ。
ついでだから、上の二つと同じように最近とったスキルを紹介しておこうか。
【危機察知】PS
HPが0になる威力の攻撃のみ、位置・軌道・規模・到達時間が察知できる
こんなのだ。
今の俺は【覚悟の一撃】をとってから、攻撃力アップのため戦闘初っ端から使ってHPを1にしているめ、本当に攻撃がかすっただけでも死んでしまう状態だ。
なのでそれを逆手にとって、HPが0になる攻撃を察知するスキルを習得した。
“普通なら”HPが0になる攻撃なんてそうそうあるハズもないのだが、俺の場合は残念ながらまったくもって“普通”ではなく、全ての攻撃でHPが0になるため、全ての攻撃を察知できるのと同義である。
実際の効果としては、軌道・規模は視界に補助マーカーがでる感じで、位置・到達時間はこう……第六感的な何かでどこから攻撃が来るか、どのくらい余裕があるかが分かるようになる感じ、かな。
正直便利すぎて、使い続けるとリアルでの勘が逆に鈍りそうだが、これのおかげで遥かに楽に戦闘を行うことができているのも確かだ。
で、そうそう。
どうして俺が【狂蝕の烈攻】を手に入れるのに苦労したかというとだな。
……実はこのスキル、取得に必要なスキル原石の数が3つだったんだ。
スキル原石が複数個必要なスキルもあったんだな。普通のスキルの3倍だよ、3倍!
ブラウグリズラーからスキル原石が出現する確率は、およそ5%(俺調べ)なので、俺がどれだけの数のブラウグリズラーを倒したか想像できると思う。
上の三つも含めて、合計6個も手に入れたんだぜ?(一つは元々持ってて、一つは初回討伐時に確実に手に入ったものだが、最低一つは使わずにスキル情報を見る用に残しておかなきゃなんないし)
最近なんか「花鳥風月」にも寄らず、ずっとボス前のセーフティエリアで過ごしてたからなぁ。
おかげ様でもうレベルは34、ブラウグリズラーの適正レベルはとうに超え、現在奴との戦闘時間は5分を切った。
勿論、俺の勝利で。
……今やったら3分切れるかもしれないな。
なんてったって【狂蝕の烈攻】がある。もう熊は飽き飽きだからやらないけど。
さて、と。
それじゃあ、久々にギルドに戻りますかね。俺はインベントリから『帰巣符』を取り出し、使用した。
―――
「久しぶりー」
ギルドホームの木の扉を開けて、中に入る。
「……クノ。今までどこにいってたの?」
「熊相手に、強化合宿」
「熊……ブラウグリズラーのことね。……はぁ、相変わらずおかしいことしてるわね」
「相変わらずおかしいってひどくないか?」
ギルドに入って早々、エリザが出迎えてくれた。
あー。
何日か会ってなかっただけなのに、凄い懐かしい気がする。
「あれ?他の皆は?」
「レベル上げに行ったわよ」
あっさりと告げるエリザ。
って、ん?
「なんでエリザは留守番してんだ?」
「私はそこまで慌ててレベル上げなくてもいいのよ。装備を作れば経験値が貰えるしね。……私はどっちかというと、クノと似ているタイプかもしれないわね。なんていうか……別にパーティーを組むことに必要性はあまり感じないのよ。理由は違うけど」
「へぇ。そんなもんか」
まぁ、俺を見ても分かる通り、ギルメンだからっていつも一緒にいなくちゃいけない訳でもないしな。
それにエリザは職人なんだし。戦闘をする必要性は確かに薄いだろう。
「それより貴方、そろそろ防具も武器も変えるべきじゃない?」
「え?」
唐突にそんなことを言われる。
「ギルドメニューの情報を見る限り、貴方のレベルは34でしょう? でもその武器も服も、レベルは20そこそこなのよ。強化するから貸してみなさい」
「あ、そっか。そうだよな」
考えたら、装備の強化とかすっかり失念してたわ。
いや、エリザがいてくれて助かった。
「今は、皆どれくらいまで進んでるんだ?」
俺は服を「黒装束」に着替え、「黒百合・壱」と「黒蓮・壱」をエリザに手渡しながら話をする。
「そうね……もう第三の街にまでいってるわよ?」
「え!?」
マジで!? 早くないか!?
うわぁ、ギルドの方全然確認してなかったから知らなかったわ。スキル原石にこだわりすぎたな。
ってか、同じボスでも、ここのボスと戦って集めた方が良かったか……いや、それだと数が集まらないか。
……て、ん?
「じゃあなんでエリザはまだ「ウウレ」にいるんだ?」
「クノが帰ってくるとしたら、ここだろうと思ったのよ。クノはまだ、ここのボスは倒してないみたいだったから。帰ってきて誰もいなかったら寂しいでしょう?」
「……エリザ」
そういって悪戯っぽく微笑むエリザ。
その笑顔に当てられて、少し感情が揺れ動く。
……良い子だなぁ、エリザ。まだそれほど長い時間過ごしてはいないが、言葉の端々から相手への気遣いが見てとれるし。
一緒に居たいと思わせる人間というのは、こういう人なんだろう。
「それに、早く貴方の装備を強化しちゃいたかったのよ。ギルドメニューを見るたびレベルが上がってるのに、一向に私の所にこないからむずむずしてたの」
じとー、とした目でこちらを見てくるゴスロリ様。
「う……いや、それは悪かった。ありがとな、エリザ」
「ええ、感謝なさい。……じゃあ、私はこの装備を強化してくるけど、クノはどうする?」
「フレイとかが帰るのは、第三の街の方なのか?」
「いいえ。皆いつクノが戻ってくるかって、ずっとここを拠点にしてるわ」
「……ホント悪いな」
「いいのよ。私達が……私が、好きでやっていることなのだし。貴方のことは、気に入っているつもりなのよ? なんというか……貴方の普通じゃない雰囲気に、結構落ち着くし……こんなこと初めてだわ」
「そ、そうか……」
「え、えぇ……」
なんとなく照れてしまったが、良く考えると褒められてるのかどうか怪しい。普通じゃないってなんでしょうね……
でもエリザも俺と同じ(というかそれ以上)照れていたので、良く分からん。てか、こういうことをよくさらっと言えるもんだな。
しかし。
まさか何日か顔を出さなかっただけでそんなことになってるとはなぁ。
……の割にギルドチャットとかも飛んでこなかったが。
って、あ。
そういえば、ボスフィールドってチャットが圏外だったわ。そしてそこに入り浸ってた俺。
セーフティエリアにもほとんどいなかった程のハイスピードで熊狩りしてたからなぁ。
成程。圏外表示になってたからチャットは送られてこなかったと。
……フレイ、怒ってそうだなぁ。
一応ギルチャで戻ったって報告しなくちゃ。
早速……
クノ:すまん。今戻った。「ウウレ」のギルホ
「じゃあ皆が来るまでここで待ってるわ。今チャット飛ばしたから」
「そう。じゃあ、私は行くわね」
そういってエリザはカウンターの後ろの扉に消えていった。チャットの方はというと、
フレイ:クノさん!どこいってたんですか!
カリン:大丈夫だったのかい?
ノエル:何があったんですか?
リッカ:ずっとチャット圏外だから心配したよぉ
速攻で返事が来てた。やっぱ気にしてくれてたんだろうか……
クノ:悪い。それについてはギルドで話す
まぁ、説明すんのにも文字じゃ面倒だしな。
フレイ:では今から戻りますので!
と書き込みがあった数秒後。
ギルドの扉が勢いよく開かれた。
戦闘についての設定。
モンスターが戦闘状態に入ったら、エンカウント状態(戦闘中)となる
。終了させるには、モンスターを倒すか、40秒間戦闘的行為をしなければいい(この場合はプレイヤーは一時的に未発見状態となり、モンスターは戦闘状態が解除され、更にHPやヘイト値も戻る)
ちなみに戦闘状態はパーティ共通のもの。例えば一人が戦ってるのに他は逃げたという状況になった場合。逃げたプレイヤーのエンカウント状態は、モンスターを倒すか、戦っている仲間が倒されて40秒経つまで解除されない。
途中でモンスターがリンクした(別の、途中からやってきたモンスターも戦闘状態になった)場合は、一戦闘としてカウントされることになる。
余談。
【不屈の精神】の裏効果として、スキルが発動した場合、その時エンカウントしていたモンスターとの戦闘はモンスターを倒すか、死に戻るか、ログアウトするまで終了しない、というものがある。つまり一番最初の方にクノ君が考えてた、発動したら速攻逃げるのは不可能である。あくまで“不屈”なので戦い通せと。逃走は許しません。
またボス戦も、ボスを倒すか死に戻るかするまで一戦闘としてカウント。
戦闘が終了しないと、街に入ることはできない。