第過去話 あるクリスマスのお話
熊乱獲の前にちょっとした息抜き。
時期が丁度いいのでこれを投稿です。
設定とかふわふわしてますが、そこは御容赦を・・・
1/22 地味に姫のクノやヤタガラスへの呼称を変更。
1/23 最後の独白部分を修正
「うう、寒い。雪降って来やがった」
巷では今日はクリスマスなんて呼ばれて持て囃されているらしい。
が、俺に言わせれば別にどうでもいい。それよりも大事なことがあるんだからな。
いや、どうでもよくはないか。クリスマスがあるおかげで、“アレ”はあるんだから。
「イッベントイッベント嬉しいなー」
小声でそんな恥ずかしい歌を口ずさみながら、家のドアを開ける。
中に入ると外の冷気が遮断され、暖かさが俺を包んでくれる。まぁ、外より寒くないってだけで直に寒く感じてくるだろうが。
俺は買ってきたカップめんをキッチンに置き、いそいで自分の部屋へと向かった。早く暖房をつけねば!
―――
今日は「テルミナススタァ・オンライン」というVRMMORPGの特別イベントがある日だ。
このゲームはRPGでありながら、明確なクリア目標がない。
無数にある「クエスト」をこなして、自分のキャラクターを育成していくゲームなのだ。
ちなみに職業制+レベル制で、俺はクリティカル攻撃の出やすい盗賊系ジョブ最上位「死閃の暗殺者」、レベルはカンストの200だ。ちなみに転生もマックス(10回)まで行っている。伊達に一年コレだけにかまけていないぜ。
クエストは常時追加され続けていて、今日のイベントもそのクエストの中の一つ。
限定クエスト、「ホワイティアスブリザードドラゴン」の討伐イベントだ。
このクエストは全プレイヤーが同時参加できる超大規模レイド戦で、活躍によって報酬も貰えるんだ。
そしてその報酬。俺が目を付けたのが個人三位報酬の「メモリアルホワイト」だ。
これは職業制限なく使える「アークスキル」(特に強力なスキルのこと)で、効果は「凍結」(相手の動きを止める状態異常)と「ジャミング」(あらゆる認識を阻害する状態異常)が一緒になって広範囲に振りまかれる凶悪スキルだ。
「死閃の暗殺者」には凍結の状態異常を使えるスキルはなかったので、これだけの強力スキル、是非とも手に入れたいところだな。
そんなことを思いながら俺はVR世界に旅立った。
―――
俺は今、「八咫家の人々」というギルドのギルドホームにいる。俺の名字は八咫ではないが。
「あ、九さーん!ちーっす!!」
「「「「「「ちーっす!!」」」」」
ちっ、気づかれたか・・・いや、いくらここが広いからって、同じギルドにいる以上気づかれない訳もないんだけど。
体育会系と不良が混ざったような挨拶をしてきた奴らは、このギルドのメンバー・・・のなかでも最近入ったメンバーだ。いろいろあって俺がギルドにつれて来た。
で、その御恩がどうたらこうたらと、やけに俺にかまってくる暑苦しい連中だ。
ちなみに九さんというのはこのギルドでの俺の役職(?)を表わしている。
一番上はギルドマスターの「八咫烏」で、役職は“八の字”。
で、次に俺が“九の字”で二番手、サブマスターをしている。
ちなみに役職持ちといっても特に仕事をするわけでもない。単純なギルド内ランキングだ。
“九の字”の次は“一の字”その次は“二の字”と、“七の字”までは数字順になっている。
どうだ?ややこしいだろ?リーダーが無駄に頂点を八にしたいとか意味不明なことを言いだすからこうなるんだ。
「あいあい。どうもー」
「「「「「「うーっす!」」」」」」
「はい、解散」
「「「「「「しゃーっす!」」」」」」
いちいち大声で返事をして、散っていく彼ら。このノリはいつになっても苦手だ。
「九の字も大変だな」
「八の字・・・元はと言えばお前のせいなんだぞ?」
後ろからにやにやしながら近づいてきたのは、黒と白のマーブル模様の髪を後ろで縛り、紅白の甲冑に身を包み、背中に大剣を背負った青年・・・ギルドマスターの八咫烏だ。
呼び方は八の字で統一してるけどな。
「お前がやっかいなところにちょっかいだすから俺があいつら抱え込んだんじゃねぇか。お前が責任もってあいつらの面倒みろよ」
「無☆理」
「うっざぁ!?てかその☆どうやって発音してるん・・・あれ?俺もできたわ」
「脳内で記号を意識しながら言葉を発しようとすると、相手の脳に直接伝わるみたいだぴょん」
「無駄にハイスペックだな、おい」
そんなこと初めて知ったわ。
「しっかしお前、ホントにそのおめでたい衣装で行くのか?」
「まぁねぇ~。いまのところこれが一番防御力高いから?」
「つくづく残念なやつだな。クリスマスに紅白かよ」
「お正月先取りだねっ」
せめてサンタみたいな感じだったらよかったのに、八の字が着てる甲冑、左右で塗り分けられてるんだよなぁ。御ていねいにも上半身と下半身では配色が逆になってるし。
「正月て。今はクリスマスを楽しめよ・・・その鎧じゃ天下の“神聖十字騎士”も片なしだぞ」
「別に構わないさ―。このジョブ案外使いにくいし」
「うっわぁ。騎士系最高位ジョブを使いにくいとか言いきったよこのアホ」
「ホントの事だもーん。てへっ☆」
「キモイわっ」
と、そんな感じで俺達がいつも通りの会話を楽しんでいると、鈴の音のような澄んだ綺麗な声が横からかかる。
「あら、八の字も九の字も早いですわね。いつも重役出勤ですのに」
「お~姫~。はろはろ」
「今日ぐらいはな」
「そうですの」
お嬢様喋りをまんま再現してくださっているのは、ギルド序列三位、“一の字”、姫ことクリスティーナだ。これだけ聞くとこいつが一番偉いのかと思うよなぁ。
薄桃色の髪を縦ロールにして、桃色と黒の、ドレスと一体化した形の鎧を纏っている。ジョブは「魔弾の弓手」、弓士系最高位ジョブだ。
「ところで今日のイベント、なにか作戦はありますの?」
「がんがんいこうぜ!」
「無いんですのね。わかってましたけれど」
「まぁ、あるわけないな」
「いやいや何を言うかね君たちぃ。ガンガン攻めて目指せ個人優勝だよっ」
「いや俺、優勝賞品は興味ないから」
なんか氷属性の武器だった気がするけど、基本的に属性武器は好きじゃないんだよなぁ。確か好きな武器種を選べた気がしたけど、状態異常が付与しにくくなるから。
「わたくしは欲しいのですけどね。魔弓ホワイティル」
「俺は三位報酬のアークスキルの方が欲しいわ」
「九の字は変なところでずれてますの・・・」
「いやだって、俺凍結使えないんだぜ?」
「ああ、姑息マスターの九の字としては状態異常はコンプリートするのですね」
「姑息マスターってなんだよ!?」
「まぁ、九の字なら仕方ないよねぇ」
「お前に仕方ないとか言われたくねぇよ」
俺は現状の武器で満足してるだけですー。あと状態異常コンプは俺の目標だ。
三人でしばらく喋っていると、急に脳内に直接響くアナウンスが流れた。
《これより、クリスマス限定クエスト「ホワイティアスブリザードドラゴン討伐」を始めます》
《事前にクエストを受理された方は、一分後に特別フィールドに転送されますので、準備をお願いします》
「いよいよだねぇ~フゥ~!」
「そのテンションどうにかならないのかよ」
「言っても無駄ですわ。諦めましょうですの」
「フゥ~フゥ~、チェケラッ!」
「「・・・はぁ」」
こうして「ホワイティアスブリザードドラゴン」討伐は幕を開けた。
―――
「いやっほー!」
「こら八の字!まだ支援かけ終わってないから!」
「あ、ほんとだぁ。はやくはやく」
俺達が転送されたのは、広大で真っ白な雪のフィールドだった。そして中央・・・といってもかなり遠いが・・・にはホワイティアスブリザードドラゴン。
俺はさっそく駆け出そうとする八の字をとっ捕まえ、ギルドメンバーに支援をかけてもらい、ゴーサインを出す。
「いやっはぁー!」
と同時に勢いよく走りだす八の字。騎士系ってあんなに速く走れるんだっけなぁ・・・もう豆粒のようだよ。
俺はスキル「遠見」で八の字を見てみると、大剣から火を噴きながらドラゴンの腹に激突していた。あれもスキルなんだろうが、あいつがやるとコントにしか見えんな。
俺は「遠見」を終了させると、隣にいた姫に話しかけた。
「姫はやっぱ固定砲台?」
「ええ。魔弾の恐ろしさ、みせてやりますのよ?」
「さいですか。じゃあとりあえずギリギリまで近づいてみるか」
「ですの」
のんびり歩いて近づいていく俺達。
わざとゆっくり歩き、この間に高まりすぎた心を鎮静化しているのだ。
俺は斥候職。おそらくあのドラゴンの攻撃を喰らえば一撃でHPを持っていかれるだろう。
「死閃の暗殺者」の特性として、クリティカル攻撃が出やすい代わりに、HPと防御力が低いというのがある。この低さは一つ前の三次職、「暗殺者」さえも下回り、二次職である「隠密者」といい勝負だ。
という訳で万全を期すために、俺は今回、あるアークスキルを使うことにする。俺のとっておきだ。
発動中はモンスターの攻撃を三回まで無効化するアークスキル。
MPの消費が激しく長時間使うことはできないし(30秒でMPが空になる)、再使用までの待機時間も長めだがうまく使えばノーダメージで相手に攻撃を加えることができる。
「じゃあ、いってくるわ」
「ええ。いってらっしゃいませ、ですの!」
姫が手を胸の前でぐっ!と握りこみ、微笑みながら見送ってくれる。
俺は最高速度で駆け出すと、あっという間にドラゴンの足元にたどり着く。
そこは阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった。ドラゴンは四足歩行で常に荒々しく動きまわり、その足に当たっただけでもロストしているプレイヤーがいた。
その爪の一振りは数多の命を一瞬で刈りとり、常に展開されている冷気は状態異常「凍結」を引き起こす。そしてその禍々しくもどこか美しい、白銀の氷牙の隙間から放たれるブレスは万物を凍てつかせ、永久の眠りへと誘う。
沢山のプレイヤーがドラゴンに挑み、あしらわれては散っていく。
その中で異彩を放つのは紅白の甲冑だ。
現時点で3人しかいないレベルカンスト&転生回数マックス&最高位ジョブのプレイヤー、俺達のギルドマスター、八の字だ。
「やっぱ馬鹿っぽいよなぁ」
あいつは紅白の鎧に灼熱した大剣を持ち、爪を受け止めブレスを吹き散らしていた。その顔に浮かぶのはただただ喜びのみだ。
「俺も見習いますかねっと」
俺は上級回復薬を八の字の顔面に向かって全力で投げつけ、反対方向へと向かう。
「うがっ」っとか聞こえたけど気にしないことだ。
とりあえず弱点は・・・頭・・・目とかかな?
軽くナイフを投躑してみるが、ドラゴンが少し首を振るだけで狙いは逸らされてしまう。やっぱ無理か。
まぁこれじゃあ個人で三位なんか無理だろうし、本気でいこうか。
俺は右手を覆う大きな鉤爪に眼をやる。これは俺がボス素材を厳選して作った、最強の鉤爪と誇るものだ。青と黒のカラーリングの、どこか機械的なイメージの鉤爪、「セインズメルトクロー」。
暗殺者にはちと大きすぎる武器かもしれないが、関係ないな。
「無影」
俺はアークスキルを発動させる。さっき言っていたスキルだ。
「凍結」耐性はばっちり整えてある。
俺はドラゴンの体を駆け上がる。ドラゴンに向かって断続的に大量の赤い矢が降り注いでいるのが見える。姫か・・・当たんないようにしないとなぁ。
ドラゴンの大きく太いギザギザの尻尾の一撃を軽々とかわし、
一回目。急に尻尾の先から氷の棘が恐ろしい速さで伸びてくる―――無効化。
背中を駆ける。翼の羽ばたきを回避し、振ってきた氷の礫を鉤爪で弾き、
二回目。周囲を急に浮遊する氷の槍で囲まれる―――無効化。
首を駆ける。額の生えている角から、冷気のビームが発射される。それはホーミングレーザーのように、急に方向をかえこちらに向かってくる。首に生えている棘を盾にしてやり過ごし、
三回目。その棘から凄まじい勢いで身を裂く冷気が噴き出す―――無効化。
そして跳躍。
ドラゴンの右目向かって、全力の一撃を叩きこむ!
鉤爪から青の光が伸びて、
「ルインズストライク!!」
キュン!
そんな金属音がして、クリティカル攻撃が発動、白いエフェクトが追加される。
その俺の一撃によってドラゴンが一瞬ひるむ。残念ながら目を完全に潰すことはできなかったようだ。
すぐさま眉間の辺りを蹴って大きく跳躍、距離をとる。落下ダメージは甘んじて受け入れよう。
ドンッ!
という大きな音を立ててドラゴンの正面よりやや離れた地面に着地。落下ダメージは二割か。
すぐさま回復薬を飲み体力を回復させ、「無影」が再び使えるようになるまで、今度は八の字の援護に行くことにした。
このゲーム、相手のHPは見えないが、さっきの一撃でひるんだってことはあそこらへんが弱点なはず。この調子なら上位に食い込めそうだなー。よしよし。
俺は無駄に特攻して吹き飛ばされている八の字に、回復薬を思いっきり叩きつけながら、そんなことを思った。
―――
ゴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
五度目の顔面ルインズストライクで、ドラゴンの体が一際大きく揺らぐ。今にも倒れそうだ。
その体は、両の翼は魔法と矢の嵐によりボロボロに貫かれ、尻尾は中ほどで切断されている。
四肢には無数の深い切り傷が刻まれ、焼けただれている。否。それは四肢ではなくもはや二肢。前足の二本は一本は根元の辺りから、一本は半ばから、切り落とされていた。
そのためドラゴンは今、後ろ脚を使い二足で立っている状態だ。
斜面が急になったので背中を上るのが億劫になった。
両目はすでに機能を果たしておらず、額の角も折れている。
そして喉元には一際目立つ真一文字の切り傷。
尻尾切断はおそらく、ギルド「ムーンブレイブ」のアホ中二病患者。
両目と角、そして喉の傷は俺がやったもの。
四肢の傷の大半と足切断はうちの紅白野郎。
羽の大半はうちの魔弾姫だ。
こうしてみるといかにうちのギルドが規格外かってのがよくわかるなぁ・・・マスターがあんなちゃらんぽらんなのに。
「九の字、アレやろう、アレ」
「アレ?ああ、アレね・・・」
隣の八の字が急にキラキラした顔でこっちを向く。
こいつ・・・まぁ、いいか。
「ほい、行くぞ~う」
「はいよー」
俺は八の字が腰だめに構えた剣の上にのり、「柳」というスキルを発動させる。
というか、アレでわかっちゃう俺も大概なのかな?
と同時に八の字は、
「グラン、アッパーァァァ!!」
無駄に気合い十分に叫び、大剣を空間を引き裂かんばかりに振り上げる。その攻撃の威力は当然上に乗っている俺にも伝わり、「柳」によってダメージが通ることなく、ただただその跳ね上がる力のみが俺に加わる。
その結果。
俺は、もの凄い勢いでドラゴンに向かって飛び出した。人間ロケットですね。
「ルインズストライク!」
キュゴッ!
寸分たがわずドラゴンの頭に向かって軌道をとった俺は、そのまま青い光の尾を引いてドラゴンに突き刺さった。突き刺さる瞬間は、ちゃんと白いエフェクトも発動。やったねクリティカル!
ゴギャアアアァァァァァアアア!!!
ドラゴンは凄まじい悲鳴を上げ、そして―――倒れた。
幸い下敷きになることは無かったが、鉤爪が抜けん。交戦中だったら確実にアウトだったな。
八の字に手伝って貰い、ようやく引き抜く。
《クリスマス限定クエスト「ホワイティアスブリザードドラゴン討伐」クリアです!》
《これから個人別、ギルド別の成績発表に移ります》
《しばらくお待ちください》
脳内アナウンスが聞こえる。
「九さん!マジかっけーっす!半端なかったっす!」
「流石九さんです!!」
「「「「「「九さん、九さん!!」」」」」」
「はい、解散」
「「「「「「うぃーっす!!」」」」」」
一瞬変なのに絡まれた気がするが、気のせいだろ。
「九の字~。ラストアタックおめー。なんかアイテムドロップした~?」
「ああ・・・っと」
「わくわく」
「白覇豪氷竜の涙。素材アイテムだな」
「おお~。これで武器を作れと!つ、く、れ、と~!」
「うるさい」
しっかし素材アイテムかぁ・・・また微妙に使いどころがないなぁ・・・
「そんな微妙そうな顔をするのなら、わたくしにくださいませんこと?」
「姫か、お疲れ様。そうだな、じゃあ姫にクリスマスプレゼントとしてあげよう」
「・・・え?本当ですの?」
「ああ、本当本当」
俺は「白覇豪氷竜の涙」を実体化させると、姫に放った。
「おっとと・・・きれい・・・あ、ありがとう、ですの」
「ひゅ~熱いねぇ、お二人さ~ん」
「そ、そんなんじゃないですの!」
姫は顔を真っ赤に染めながら怒る。かわええなー。
《集計が終わりました。これより結果発表に移ります》
《ただいまから発表しますのは、個人別、ギルド別ともに第三位までです》
《入賞者、ギルドには、後ほど景品を転送致します》
《ではまずギルドの方から》
《第三位―――「暁の団」》
《第二位―――「ムーンブレイブ」》
《第一位――――――「八咫家の人々」》
《以上の三つのギルドです。おめでとうございます》
「おおぉ!!やったぁ!優勝だぁ!いえい!」
「まぁ、あれだけ暴れれば、そうなりますの」
「この調子だと個人の方はもしかして・・・」
《続いて個人》
《第三位―――「八咫家の人々」所属、クリスティーナさん》
「おお!いいなぁ姫。三位か」
「やりましたの!」
《第二位―――「八咫家の人々」所属、クノさん》
「九の字は二位かぁ~ってことわぁ~」
「あーだいたい読めたな」
「ですの」
《第一位――――――「八咫家の人々」所属、八咫烏さん》
「いよっしゃぁぁぁぁあああああああ!!!!」
「うるさっ!」
「耳が・・・キーンとなりますの・・・」
《まさかまさかの今回のイベント》
《ギルド「八咫家の人々」が全て持っていく展開となりました》
《しかし、安心して下さい》
《四位以下の皆さんにも、ちゃんと報酬は配布されますので》
《では、次回のイベントもどうかお楽しみに》
《一分後、特別フィールドを離脱します。準備をお願いします》
「いやっほぉぉぉう!」
「いいなー。姫」
欲しかったなぁ「メモリアルホワイト」。
二位報酬ってなんだっけ・・・
「ええと、九の字?」
「ん?」
「良かったら、さっきの素材のお礼に「メモリアルホワイト」を差し上げますわ」
「え!マジで!」
「ええ。わたくしは状態異常は使いませんの。感謝するといいですわ!」
「ありがとう姫!」
やったぁ!流石姫、優しい!
俺は姫を手を握って、上下にぶんぶんと振る。
「あ、あの、その」
「え?あ・・・ごめん」
「いっ、いえ!謝られることではありませんのよ?」
「そう?なら良かった」
「ぁ・・・」
俺は姫の手を離すと、未だに騒いでいる八の字に、お灸をすえることにした。
「ルインズストライク!」
「ぶべらっ!」
「あ、そろそろ一分ですの」
《転送、開始します》
脳内アナウンスが聞こえた次の瞬間。
俺達がいたのは見慣れたギルドホームだった。
―――
「ふぅ、疲れた疲れた」
俺はVRギアをはずしてそのままなにをするでもなく天井を見つめる。
みなれたベージュ色の天井だ。
「はぁ。今年ももうそろそろ終わりだな・・・来年は学校、行かなきゃな」
自分で決めた、ルールだから。頑張ろう。
「テルミナススタァ・オンライン」は、もう引き際かな。
ゲーム内でキャラは育て尽くしたし。状態異常も全種類コンプしたし。
来年はもっとシンプルな、それでいてのめり込み過ぎず、適度に人と接することのできるゲームをやろう。身体は動かしたいから、ジャンルでいうと・・・格ゲーとかかな?
RPGは当分お腹いっぱいの気分だ。
格ゲーなら思いっきり暴れられるし、爺さん仕込みの体捌きを見よ、ってね。
俺の母方の実家は武道家(流派は忘れた)で、俺は幼いころ両親忙しい時に預けられて以来、ちょいちょい稽古をつけて貰いにいっていた。
最近はご無沙汰しているが、見切りと足捌きについては一流だと太鼓判を押されたレベルだ。
そんなことをつらつらと考えながら、俺は眠りについた。
―――
これが去年、俺が一度目の高校一年生の時のクリスマスの話。
描写不足は自覚しているので、この話だけではなくシリーズ通して質問等あれば書き込んで頂けると幸いです。
ちなみに不良さん達を仲間にする事件はお蔵入りです。