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第十二話 ボス戦のお話

「ここがボスフィールドか」


 俺は今、北の森の奥にあったボスへの転送装置(魔法陣みたいなの。これにより複数のパーティーが同時に別々のボスを相手にできる)に乗って、ボスフィールドと呼ばれる、ボスとの戦闘のためのフィールドにいる。

 そして、中央にはカリンの言っていた通りのボスがいた。“ブラウグリズラー”だ。

 大きな熊、まさにそれだ。もっとも毛の色は青紫色で、ところどころに鎧のようなもの(皮膚が硬質化したもの?)がついているが。

 そいつは俺が入ってきたのを認めると、のしのしと数歩俺に近づいてくる。彼我の距離は10mとない。そして、


 グアァァァアアアアァァア!!


 大きな唸り声を上げながら一気に俺に向かって来た。うるさっ!

 俺は横っ跳びをして、迫ってくる熊の軌道上からそれる。熊は俺の大分後方まで行きすぎると止まり、再度こちらを向き、突進。

 今度は余裕を持って回避する俺。とはいえそれでも相手と俺の速度の差のせいで、結構ギリだったが。


 ・・・感じはつかめたかな。どうやらブラウグリズラーの突進は一直線のようだった。なら、すれ違いざまに剣を浴びせてやればいい。

 三度目の熊の突進。俺は寸前で回避し、『サークルスラッシュ』を発動、俺の後方の熊へと攻撃する。


 ザンッ!


 あいにく鎧部分にあたってしまったが、『サークルスラッシュ』を振り切ることができた。流石はStr極振り、ボスの固い部分でもものともしないぜ。


 今の攻撃で、相手のHPは一割ほど削れていた。なかなかいい感じだな。ってか、ソロで一撃でボスの体力を一割削るって・・・自分で言うのもなんだけど。

 ちなみに、ボスはパーティーの人数によってHPが変動する。勿論ソロの時が一番少ないが、それでもかなりのもののはずなんだがね。


 グアギャアアアアァァ!!


 怒ったらしい熊は、今度は突進ではなくフライングボディプレスをかましてきた。熊は表面積がでかいので、その場の体さばきだけで攻撃を避けられないのが厄介だな。


 俺は熊の着地地点から必死で逃れる。そして着地とともに斬りかかろうとしたら、熊が落ちて来た衝撃で地面が揺れて、足を取られ、その間に熊は体勢を立て直す・・・うわぁ。

 とはいえ、俺も昔、別のゲームでよくこの手のことはやった口だけど。


 熊は突進は諦めたのか、そこからは爪で襲いかかってきた。

 熊の爪を足捌きと上半身の動きのみの、最低限の動きでかわしていく。これならあまりAgi値も影響しない。インファイトは得意なんだ。


 ひときわ大きく腕を振るう熊。攻撃が当たらないことにいら立ったのか、威力の高い攻撃をしようというのだろう。だが、


「こんなところか、な!」


 俺は足を踏み出し、体を右にひねりながら熊の振り上げた腕をかいくぐり、180度回転して熊を斬りつけながら背後をとる。そして、


「『スラッシュ』」


 背中を大きく斬りつけ、返す刃で普通の斬撃、そこで熊がこちらに向き直る。熊の反撃に合わせ、『スラッシュ』で腕を大きく弾く。そして再度相手の後ろに周り、斬りつける。


 熊が向き直る、熊の攻撃を弾く、背後へ回る、斬りつける、向き直る、弾く、背後へ、斬りつける。


 背中ばかりにどんどん傷が増えていく熊。HPバーは残り僅かだ。

 そして俺は情け容赦なく、背後から熊を斬りつける。


「『スラッシュ』!」


 ガァグァァァアアアァァ!!・・・


 それによって熊のHPバーがけし飛び、熊は轟音と共に地面に崩れ、光の粒子となった。


 ・・・こうして俺は、あっけなくボス、“ブラウグリズラー”を倒してしまったのだった。

 流石はStr極振りステだなー。やっぱこのステ振りにして正解だったわ。最初はネタキャラも覚悟してたんだがなぁ。

 ちなみにわざわざ背後に回った理由は、その方が攻撃しやすかったから。こちらの手数を増やす工夫だ。




 ブラウグリズラーの動きは、突進以外はそれほど速くはなかった。俺のAgi値(0)でも、隙さえ作れば後ろに回れるほどに。

 そして俺のStrなら熊の攻撃を大きく弾いて隙を作ることはたやすい。


 これらの要素により、俺は呆れるほど短時間でボスを倒してしまったのだ。突進とフライングボディプレスはあせったが、途中でインファイトにシフトしてくれたのが良かった。でないと倍・・・いや、もっと時間がかかっていた。


『ポーン』『ポーン』


 軽快な音とともに俺のレベルが一気に二つも上がって17になり、それと同時に


 ブラウグリズラーを討伐 第二の街へと進むことが可能となりました おめでとうございます


 というアナウンスがファンファーレとともに流れる。この声は、懐かしのジャッジさんだ。相変わらずの温度のない声でいらして。

 他の人達がブラウグリズラ―討伐後にこれを聞いたら、ちょっと冷めてしまう気がするんだが。


 ゲートオープン このゲートの先が 第二の街「ウウレ」となっています どうぞ 先に進まれますよう


 眼の前に光の門が現れる。向こう側は良く見えないけど、街の中心部あたりにでもつながってるんだろ。俺はブラウグリズラーの素材がインベントリに入っていることを確認すると、門の向こうに向けて一歩踏み出した。


―――


「ここが第二の街か」


 俺は「ウウレ」の広場の中心に立っていた。周囲にはちらほらと他のプレイヤーも見える。

 ここ「ウウレ」は、「リネン」のイメージカラーを“灰色”とするなら(建物や道路的な意味で)、“赤”というのがふさわしい街だった。「リネン」では噴水があった場所には、赤い小さな塔があり、街並みも赤レンガだ。


「そういや、フレイ達もいるのかな?」


 ボスを倒しに行くと言っていたしな・・・

 気になった俺はギルドチャットで呼びかけてみる。


 クノ:第二の街来たけど、皆は?

 カリン:クノ君・・・もうあの熊をソロ討伐したのか・・・

 フレイ:相変わらずのぶっ飛びぶりですねぇ

 エリザ:私たちも「ウウレ」よ。「花鳥風月」のギルホにいるわ。

 ノエル:街ごとにギルドホームがあったのは嬉しいですね。

 リッカ:外観はその街に沿ってるみたいだけどねー


 どうやら無事討伐できたみたいだな。まぁ、最初のボスなんてこんなもんだろ。


 クノ:それじゃ、俺も行くわ

 フレイ:いえい!了解です!

 カリン:了解だ

 エリザ:了解

 ノエル:まってますね

 リッカ:おけー


 という訳で俺は「ウウレ」での「花鳥風月」のギルドホームを検索し、そこへと向かった。


 ―――


「どもー」

「あ、クノさん!ブラウグリズラーのソロ討伐、お疲れ様ですー。酷いですよぉ、顔も見せずに出発しちゃうなんて」

「あぁ、それは悪かった。でもお前のほうが家近いのに、なんで俺よりログインが後になるんだ?」

「私はちゃんと課題をやってからインしてるんですぅ~。クノさんみたいに学校で慌ててやるのは性分に合わないので」

「あ、そうなのか。偉いな~フレイは」

「えへへ」


 入ってすぐフレイが話しかけてくる。

 ・・・にしても、フレイは真面目だねぇ・・・


 「花鳥風月」(ウウレver)は、感じは「リネン」での喫茶店風と同じものだったが、外壁の色や細かな部分が変っていた。具体的にはレンガ造りだったのが更に赤くなってたりとかな。


「お疲れ様だ。どうだった?手ごたえは」

「んー。意外と楽勝だったかな。一応適正レベルではあったし、さほど時間はかかんなかったな」


 だいたい15分程度で終わったんじゃないか?ソロのボス戦としては驚きの速さだ。


「私たちは30分程かかってようやく倒せたのだけど。いくらHPに差があるとはいえ、パーティー単位に討伐時間で勝つなんて、どうなのよ・・・」

「私がソロで挑んだ時は、40分ほど粘ってギリギリで負けたんだがね。あの熊の皮膚が固いのなんのって。おまけに魔法が効き辛かったから、魔法剣士としてはかなりやりにくい相手だった」


 カリンはStrとIntの両方にポイント振んないとだからな~。勿論それ以外にも振ってるだろうから、おのずと攻撃力も低くなってしまうわけか。・・・そう考えると魔法剣士って案外やりにくいな。


 相手へのダメージ量は、こちらの攻撃力と相手の防御力によって決まる。そして、攻撃力が高ければ高いほど、ダメージは加速度的に上昇していくのだ。というより、正確に言うとスキル等での上昇値の違いともいえるが。

 つまり、例えば攻撃力が50の人と100の人がいたとする。スキルによる上昇補正が50%だとすると、上昇値こみの攻撃力は75と150。相手の防御力を40と仮定するなら、ダメージの差は3倍もある。このように、低攻撃力はかなり苦労することになるんだよ。


 まぁカリンの場合、そこをうまく魔法だの何だのでフォローはしてるんだろうが。俺と比べるのは可哀そうだな。


「比較対象がおかしいと思うんだよね~。そもそもクノくんはStrにしかポイント振ってない変人さんなんだから」

「おいリッカ。変人とは何事だ」

「まぁ、そうだな」

「カリン!?納得してんなよ。誰が変人だよ!」


 まぁちょっとは自覚あるけど!誰もやらないであろうことを進んで行うのは変人である証左かもしれんけど!


「まぁ、クノさんが変人かどうかは置いといてですね」

「・・・ああ」

「折角第二の街に来たんです、皆で街探検に行きませんか?」

「あら、それはいいアイデアね。おいしいご飯が食べられるお店でも探しにいこうかしら」

「おお、それだ!いいな、では早速出発といこうか?」


 カリンがおいしいものという言葉に即座に反応する。まぁ、『IWO』はゲーム内でも食事できるし、しかもそれでリアルでは太らないのだ。空腹にならない代わりに満腹にもならないため、いくらでも食事ができるし。

 「リネン」には残念ながらレストランや喫茶店といった施設はなかったからなぁ。あったのは荒くれの人たちが集ってそうな酒場っぽい所だけで、勿論そんな場所に進んでいきたがる女子などいなかった。

 最初の街には酒場、ってのは頷ける気がするけれど。


「そうですね」

「おっけー」

「了解」


 こうして俺達は「ウウレ」の街で、おいしくてお洒落な飲食店探しに出かけるのだった。戦闘以外の所でも楽しめるのが、このゲームのいいところだよなぁ。



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