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8 護るもののための力と覚悟

 朝。ご飯を食べる。

 パンのようなもの、目玉焼き、ベーコンのようなもの。りんごのような果物、人参と、何かの葉物。

 結構なボリュームがある。黙々と食べる俺をみて、ガルは一瞬言葉に詰まり、そして昨日の昼間のトーンで話しかけてくる。

「ケイタ、朝食べ終わったら腹ごなしに武術訓練でもどうだ?」

「でもって言われても、やったことないよ武術なんて」

「……ああ、そうか。戦争がない世界だったのだな」

「うん。だから俺ら召喚しても役に立つんかねえって思ってる」

 ガルは苦笑いする。ああ、元通りだ。さすが王様。

「役に立たないならそれに越したことはないが、逆にうちは無駄飯食いを抱えたことになるな。一人だけだけども」

「まあ、やってみようか」


 ガルに連れられ、城の中庭へ。

「まあ適当に選んでくれ。簡単な扱い方なら教えられる」

 壁に刀っぽいやつ、両手持ち用のでかい剣、槍が飾られている。

 両手持ちの剣を持ってみる。柄はざっと1メートルほど。左手を刃から遠い側、右手を刃に近い側に持ち、左足を前にワイドスタンス。力を入れ刀身を持ち上げる。


〈条件成立。武術:両手剣を解放〉


「ふんぬ」

 踏み込みながら柄を前に出す。グリップエンドで相手の体を叩く動きはおそらく両手剣の速度を想定していれば不意打ちになるはず。

 そのまま左腕を上にかち上げて上段から剣を叩きつける。

 剣先を地面に付け、前方へジャンプ。

 棒高跳びのようなモーションになるが、これで剣先は自分の後方に。

 着地の勢いを利用して再度大上段からの振り下ろし。

 叩きつけた反動を利用して浮いた剣先を反時計回りで振り回しながら左足を後ろへ、右足を前にスライド。

 右手を上に左手を下に半時計回りで移動させ、刃を立てる。

 左手を離し右手を柄先へ滑らせ持ち替え。右手を刃から遠い位置へ、左手を刃に近い位置に。

 その間にも剣は回転しており、横向きになる。

 そのまま時計回りに振り回しながら足を踏み変える。

 右手を下に左手を上に時計回りで移動させ、刃を立てる。

 右手を離して持ち替え。

 持ち替える間に剣は横に。そのまま逆時計回りに振り回し、踏み変える。

 右手を上に左手を下に半時計回りで移動させ、刃を立てる。

 手を離しまた持ち替える間に剣は横に。そのまま時計回りに振り回し、踏み変える。

 うん、これなら永久にやれるな。

「ケイタ、お前本当に初めてか?」

「初めてだよ。これ魔法の武器? すごく扱いやすいんだけど」

「普通の両手剣だよ」

「え、そうなの?」

 壁に両手剣を戻す。

 次に日本人なら刀でしょってことで刀を手にとってみる。

 両手で軽く持つ。


〈条件成立。武術:刀を解放〉


 振り上げ、右上から左下へ切り下ろす。左上に左手一本で切り上げ振り下ろしながら投げる。

操り人形(パペットストリング)

 不可視の糸が刀に巻き付く。

 右手に刀が戻る。

 振り上げ状態から反時計回りしつつ、投げつける。

 半回転し後ろを向いているところへ刀が戻る。

 右手で掴んで時計回り、勢いに合わせて投げつける。

 半回転し後ろを向いているところへ刀が戻る。

 今度は左手で掴み反時計回り、同じように勢いに合わせて投げつける。

 半回転し後ろを向いているところへ刀が戻る。

 右手で掴んで時計回り、投げつけようとしたところで止める。

 うん、これも永久ループ。いけるだろ。

「何だ今のは」

「魔法の見えない糸で投げた刀を引き戻していたんだ」

「なるほど……それは新しい戦い方だが、普通魔術はあんな短時間では発動しない。お前どうなってるんだ……」

 壁に刀を戻す。続いて槍を手にする。

 右手に絡ませて左足前のワイドスタンス。


〈条件成立。武術:槍を解放〉


 振り回しながら左足を少し前へ。

 そのまま突き。

 右足を前に持っていきながら穂を上へ跳ね上げ回転させる。

 下がりきったところで柄を右足で蹴りワイドスタンスへ戻す。

 蹴った反動を利用して上から下へ振り回し戻す。

 地面に当てた反動で浮いた穂を突き出しながら左足を若干前へ。

 右足を前に……

 ああ、これは徐々に前に出てしまうな。

 一旦中断。

「槍は突かないとダメだからどうしても前に出ちゃうね」

「そうだな。だがケイタ。お前本当に初めてなんだよな?」

「うん、初めてだよ」

「グァースの称号はもしかしたら、と思って与えたのだが、事実だったか……」

 槍を壁に戻す。

 あれ……俺確かになにか今変なことしてるな……?

「ちょっと思ったんだけど、ケイタヴァーデングァースではなく、違う名前でヴァーデングァースとして活動するというのはどうだろう」

「……なんだって?」

「ケイタの名前が出るならグンダールはクラスメートをここに貼り付けてくる可能性がある。だがあくまで伝説のグァースがヴァーデンに現れただけならばそのリスクは減らせるはず」

「……続けろ」

「その上、ヴァーデンの士気は上がる。伝説の英雄がいるのだから、ね。グンダールはどうかなあ。なんとなくだけど伝説を持ち出してまで抵抗するのは後がない、と当初は判断するかもね。その判断ならしばらく戦線を持ちこたえていればアルピナなりフェーダなりがグンダールを押し返してくれるんじゃないかなあとか期待できない? どう?」

「……なるほど、ありえるラインだな。次回の戦略会議で提案してみよう。ケイタの名前を出さないのならカヴァーストーリーがいるな。どうする?」

「そうだねえ……ガルには年の離れた弟がいた。それがヴァーデンの危機に覚醒した。覚醒時に酷い怪我を負ったので全身鎧でガッチガチ+顔は包帯グルグルにしておけば髪も耳も見えなくなるし騙せるかなあ」

「ふむ。検討の余地はあるな……これから軍議をしてくる。ケイタ、武器は何を選択する?」

「両手剣でも刀でも槍でもなんでも大丈夫そうだけど、まあ考えておくよ」

「そうしてくれ」


 ガルは会議に向かってしまったので暇になった。どうするかな。

 そういえば前回自分を解析したら拒否されたなあ。どんなもんなんだろ?


 〈解析結果〉―拒否


 現時点において身体値(パラメーター)の解析は拒否する。


 変わらず。いつになったら解析できるのよ。

 測定値はどうなの?


身体能力(アビリティ)

物理体力性能(フィジカル)

潜在魔力性能(ポテンシャル)

 すべての値について非公開。


技能(スキル)

 ―公開には権限が必要。現段階では限定公開。他者には非公開。

 【解析】

 【移動】

 【武神】

 【変身】


 ん、なんか増えてる。


『武神はあらゆる武器の扱いに長ける』

『変身は変身する。変身時には武装が付与される』


 なにそれ。あれ、そういえば条件成立ってなんか聞こえていた気がする。それか?

 それと変身。意味ねえよその説明。なんなんだよまったく……。

 でもアレだな特撮ヒーローみたいなのだと楽しいよね。こんな感じ。

 左足を前に出し、膝を曲げる。右足は伸ばす。

 右肘を曲げて脇を閉め、拳を固めて顔の前に置く。左手は後ろに指を揃えて伸ばす。

 右手を振り下ろし、伸ばすと同時に左肘を曲げ顔の前に左腕を持ってきて、拳を固める。

「変身! なんてな」


〈条件成立。変身〉


 光があふれる。眩しすぎて目を閉じる。え、何?

 しばらくすると光が落ち着く。目を開けると、黒い腕…というかナニコレ。

 全身黒い服で、ロングなマントというかなんかそんなの。細いチェーンだのなんだのゴテゴテとついてて、ごっついブーツ。

 顔を触ろうとしてみる。なんかツルッとしたものがあって顔に触れないんだけど、視界は邪魔されない。ナニコレ……なんなんだよ……。

「な、何者ですか!」

 フィーラさんの声。振り返るとナイフを構えたフィーラさん。

「え、俺ですケイタです」

「……ケイタさん?」

「はい」

「……何してるんですか?」

「いやこれが俺にもさっぱり……」

 眼の前に右手を持ってくる。鋲の打たれたごつい手袋。なんだこれ……。

 掌を見て、握る。

「変身解除……で解除できれば世話はないよな」


〈条件成立。変身解除〉


 全身が光り、細かな粒子になって消える。元の姿に戻る。

「ってできるのかよ! だいたいなんなのよこれ……」


 もう一度ポーズをとる。変身しない。

 ポーズをとり、「変身」と宣言。光あふれる。変身した。

 ただ掌を見ながら握っても解除されなかった。「変身解除」を言いながら握ると解除。

 いやまってよもう……特撮ヒーローみたいじゃんか……なんなのよもう……。

 あ、まてよ。

 使えるんじゃないかな、これ。

 フィーラさんが怯えた目で見てるなあ。まあしょうがないよね、俺、人間離れしちゃってるものね……考えるのはよそう。悲しくなる。

 変身時には武装が付与される、という説明がある。これはどういうことだ?

 フィーラさんの目は気になるけど再び変身する。

 刀を念じる。

 周囲から光の粒子が集まり、刀の形を作る。

 光が消えると黒い刃の刀が現れた。解析してみる。


〈解析結果〉―成功

 名称:黒き契約のディルファ

 品質:伝説級ランクE+

 特性:【吸魂】【血の契約】


『吸魂は魔力あるいは体力を注ぎ込み、蓄えることができる。注ぐ力は犠牲者のものでもよい。蓄えた力を消費することで一時的な増強が可能。貯蔵上限、基本性能はディルファでの攻撃を行うことで上昇する』

『血の契約は刀身に使用者の血液を捧げることで成立する。契約者が生存している場合捧げた血液より多くの血液を一度に捧げない限り、契約は解除されない。契約成立中は契約者以外がディルファを振るってもダメージを与えることはできない。現時点では契約者はいない』


 強力な武器、それへのロックシステム。お前の覚悟を見せろ、ということか。

「フィーラさん、すみません。ぶっ倒れたら手当をお願いしますね」

「……え?」

「この黒き契約のディルファという武器、敵に渡ったらヴァーデンは滅んでしまいます」

「そんなに強力なのですか?」

「はい、強力です。ですがこのディルファ、【血の契約】というものがあります。俺の血が必要なんですがこれさえ成立すれば敵に渡るのは難しくなるでしょう」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ」

 ここで深呼吸。気合を入れる。

「【血の契約】の覚悟を決めました。私は、多分……いや、多分じゃないな……フィーラさんが大好きなんです。だから貴方が危険にさらされることは我慢ならない」

「え? ケイタさん?」

「死ぬ気はないですが、やり過ぎたら助けてくださいね」

 ディルファを逆手に持ち、腹に押し込んだ。痛え。っていうか痛えで片付けちゃだめだこれ。伝説級の武器を甘く見ていた。これはダメなやつだ。すぐ抜けば魔法でどうにかできると思っていたのに。

「ケイタさん!」

 フィーラさんの叫び声で意識が戻ってくる。

「大丈夫。まだ死なない。ギリギリまで吸わせます。それがヴァーデンの、いやフィーラルテリアヴァーデンの安全を、安全を……保証します。意識を、飛ばさせない、ために、なにか、語って、ください」

 覚悟は決めていたつもりだったけど、魂を削られるってのはこういうこと、か……。

 膝を付いた。そのまま倒れそうになる。がここで後ろや前に倒れたら大惨事、だ……意地で右に倒れる。

「なんでそこまで、そこまで私にしてくれるんですか!」

「勘違い、とはいえ、あなた、を傷つけた、私の、罪を、罪、を」

 ああ、ダメだ。意識が。

「つみ、は、この、てい、ど、で、は……つ、ぐな……えない…………」

 さむい、さむい、さむい。

 くらい。さむい。くらい。

2019/05/19 文言を一部修正しました

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