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6 文化の違いが生み出した天国のような地獄の時間

 ガルに案内されて、大きな客間に通された。

 でもその前に風呂に入りたい……風呂って習慣あるのかな?

「ガル、お風呂ってある?」

「ああ、あるぞ。大浴場がある。そうだな……私も入りたいし、今から行くか」

 王様と裸の付き合いデスカ……。

 地下へと降りる階段をてくてくと。壁には灯りが灯されているが、揺らぎがない。もしかして魔法かな?

 しばらく降りると大きな部屋につく。ガルは服を脱ぐと籠に放り込む。

「この服はもう捨ててしまおう。新しい服を用意させるから、さあ、行こう」

 ガルと同じように籠に着ていた服を放り込んでついていく。

 いやまあ地下牢ではパンイチでしたししばらくその姿でウロウロしてましたからいまさらどうこうってのはないんですが、まあ、なんというか、ねえ。

 大浴場というだけあってかなり広い。そして洗い場がちゃんとある。樋が通してあってお湯が流れている。

 石鹸もタオルもある。すごいぞヴァーデン。文化レベルが高い。

 そこそこ灯りはついているものの、地下にある大浴場は薄暗い。でもこの薄暗さがかえってリラックスできていいなあ、ここ。

 洗い場で体を洗いながらの雑談。

「ケイタ、前から思っていたんだが、お前かなりいい体格をしているな」

「そうかなあ? ガルのほうがシュッとした感じだけど……ところで魔族って寿命長いんだよね? どれくらい?」

「概ね250年から300年くらいだな」

「へー……大人になるのも時間がかかるの?」

「成人は15歳だ」

「ふあ?」

「獣人族、竜人族、人族は概ね同じだな。魔族はそこから成長が緩やかになる」

「じゃあ、ガルは今何歳なの?」

「165歳だ。ちなみにルテリアは145歳、フィーラは67歳、ディーガルは1歳6ヶ月だ」

「あら。フィーラってそんなに年上だったんだ……とはいえ俺のほうが先にくたばるよね。人族だし」

「だろうな」

 泡を流す。さっぱりした。

 洗い場から湯船に移動。ゆっくりと肩まで浸かる。ああ、いい湯加減だ。じんわり温かく、気持ちいい。

「竜人族は150年ほどの寿命があると言われているが全うする者は少ないようだ。獣人族は人族と同程度、50年前後だな」

 そのあたりは文明の差だろうねえ……。

「俺の国では大体80年前後が寿命だね。でも100年くらい前なら50前後、だったと思う」

「なぜそんなに寿命が伸びたのだ?」

「平和だったからねえ。最後に大きな戦争があったのが70年以上前で戦後復興で清潔な街になったから。あと文明もすごく進んだってのもある」

「ふむ……平和と文明の発展、か」

「そのかわり、武器は馬鹿みたいに進化したよ。世界を何回も全滅させられるだけの武器を互いに持ち合い、睨み合ってた」

「……先に仕掛けても、報復で自分たちが死ぬ。だから手を出せない、んだな」

「そう。そんな世界。だからバランスは微妙であちこちで小さな紛争は起きてる」

 ちょっと暗い表情になってたんだろうね。ガルもしばらく黙った後ゆっくり息を吐いてから話題を変えてきた。

「ケイタ、このままヴァーデンにいるのだよな?」

「そりゃあ、行き先はないし……でも俺がここにいるってのは都合悪いんじゃないのかな?おそらくグンダールは俺を殺したいはずだし」

「それなら私も同じだ。できれば戦争を手伝って欲しいところだが、かつての仲間もいるだろうしそこまでは頼まない」

「どうかなー、グンダールはフェーダとアルピナに苦戦してるんでしょ? こっちにはクラスメートを向けてこないんじゃないかなー」

「戦況がひっくり返れば変わるかもしれん。ケイタの戦力を削ぐために、な」

「というか、それは俺が戦力になる前提だよね? 俺何もできないよ?」

「それはどうかな……一度見ただけで気絶を増強・範囲拡大付きで城全体にぶっ放し、精神通話を簡単に使いこなし、更に飛行も見ただけで使う。かなりの才能だぞ」

「へ? 魔法って願えばかかるんでしょ?」

「原則そうだが簡単にはできん。制御と集中がいるものだ」

 奥から人の気配。

「ガル……誰か来る」

「ああ、ルテリアとフィーラとディーガルだろ」

「ちょっとまってガルさん?」

「気にするな。問題はない」

「問題だらけですっ!」

 奥の暗闇からぼんやりとした明かりの下に出てくる人影。控えめな胸とすべすべのお腹、スラッとした足、淡く煙る丘が見えた瞬間に視線を逸らす。可憐というか手のひらサイズというか、いやそうじゃなくてですね。

「フィーラ、ルテリアは?」

「ディーガルを洗っています」

 ……娘さんのほうだったー! より一層逃げにくいが……ええい、行くぞ!

「すみません、そろそろ上がります」

 視線を逸らせたまま風呂から一気に出て、脱衣場に向かおうとする俺の手をガルが掴む。

「着替えとかどこにあるかわからんだろう? 私と一緒に上がるべきだよ、ケイタ」

 ガルを振り返る。微笑むというか、お前それニヤニヤ笑いだろう……。


 天国のような地獄の時間が始まった。フィーラは俺の脇に座り、ピタッと張り付く。控えめとは言え張りのある柔らかい何かが腕にですね、ぴったりと、ぴったりとですね……Aデスネ、多分。経験ないけど。

 ガルの横にはルテリア。ディーガルは洗われて少しお湯に浸かると脱衣所に連れて行かれていた。ゆりかごがあってそこに寝かされている。歩けるような子なのに脱走しないんだ……いい子、なんだなあ、と現実逃避中。

 ガルとルテリアはまあ夫婦だからさ、くっついても問題ないだろうけどさ、俺はどうなのよ。いや、フィーラさん可憐なのよ、そう、可憐。そんな子の控えめとはいえ張りのある柔らかいのの先端の少し固い蕾を認識これ以上押し付けないでえぇぇ!

 振り払っていいものか考えてるんだけど二重の意味で傷つけてしまうのではないかとなって硬直したまま動けないのですもう無理です限界です。

「ケイタ、大丈夫か?」

 ガルの言葉が遠くに聞こえる。

「ダメデス……モウダメデス……タスケテクダサイ……ガルグォインヴァーデンズィーク……オネガイデス……タスケテクダサイ……ノボセマス……」

「フィーラ……離してやれ……」

「……はい」

 フィーラが離れる。一気に風呂から飛び出し脱衣所へ逃げる。


 脱衣所には同じサイズの大きなタオルが数枚。濡れたままでは湯冷めしちゃうので一枚貰って体を拭く。ついでに腰に巻いておく。

 意外と脱衣所は温かいのでこれで大丈夫だろう。

 端にゆりかごがあり、そこにディーガルがいる。ゆりかごを覗き込むとあぶあぶ言いながら俺を見るディーガル。やはり肌の色は慣れないが、それでも赤ちゃんは可愛いものだ。

 しばらくディーガルの相手をしていると、ガル、ルテリア、フィーラが上がってきた。そっちには視線を飛ばさず、ディーガルを見ている俺。

「ケイタ、これを着ろ」

 声を掛けられてガルの方を見ると服を投げてよこしてきた。それはいい。ルテリア、フィーラふたりともタオルで体を拭き終わり、特に隠すこともなく、ええお母様もまた控えめながら素敵なお体でっていうか見せるなーーーー!

 視線を外したところへ頭にぽすっと当たる。

「変なやつだな」

「文化の違いを理解してもらいたい。ストレスで倒れそうです」

 落ちた服を着る。Tシャツっぽいものと、緩めのトランクス、だな、これは。ウェストのところに紐があり、縛って使うもののようだ。

「文化の違い?」

「そう。異性にはみだりに裸を見せない。そういう社会に生きてきたの!」

「そうか……。うーん……」

 ガルはしばらく考え込んでいる。

「フィーラ、おそらくはそういうことらしい」

「……え、そんな、そんな。ひどいっ」

 タオルで顔を覆う。え、何、何なの?

「あー、うん、文化の違いだな……」

 ガルが複雑な表情で俺を見る。

「家族以外で異性を親の名を含めず呼び、さらに敬称を付けないよう言い合うのは『あなたと家族になります』という申込みなのだよ。家族になるのであるならば、結果として異性の親も同じように呼ぶことになる」

「……は?」

 フィーラは服も着ないまま走り出す。え、あ!

 俺は追いかけ、フィーラの手を掴む。そして大きく頭を下げる。

「ごめんなさい、何も知らなかったとは言えとんでもないことを!」

「離してください! どうせ私は魔族で人族とは違います! 父を助け出した伝説の英雄とはとても釣り合わない、魔族の女なんです!」

「いやそんなことはないです可憐です素敵ですこんな綺麗な人に寄り添われて天国のような時間を過ごしましたって何言ってるんだ俺いやとにかくですねフィーラさん可愛いのでドキドキしたんですいやそうじゃなくてそうじゃないっては違くてフィーラさんは素敵なのはあってますそっちじゃなくてですね」

「落ち着けケイタ」

 ガルが呆れたように言う。深呼吸。

「そうですね。フィーラルテリアヴァーデン、こんな事故みたい申込みではなく、ちゃんとお互いを深く知ってからの申込みのほうが良いと思いませんか?」

 フィーラルテリアヴァーデンは振り返り、俺を見る。

「ケイタヴァーデングァース、優しい、誠実な人なのですね……」

 なんか勘違いしてないかな? 優しく、誠実? 俺が? 嘘でしょ?

「あー……とりあえず服を着ていただけますか、お嬢様」

 視線を逸し、なるべく見ないようにする。衣擦れの音がする。

「もう大丈夫ですよ、ケイタヴァーデングァース」

 視線を戻す。とりあえずゆったりとした下着姿にドキッとする。薄手のチューブトップっぽいやつに、やはり薄いショートパンツ。隠れているって重要だけど、想像力は掻き立てられる。いやそうじゃなくて、真面目になれ、俺。

「文化の違いの抵抗感があるのはわかるのですが、ヴァーデングァースは省略していただけますか……どうも慣れないので……せめてケイタさん、でお願いします」

「はい、ケイタさん、ですね……では私もフィーラさん、でお願いします」

「フィーラさん、実はですね、誰かを好きになったことも、誰かに好かれたこともありませんでした。だからとても嬉しかったですよ。ちょっと過激でしたけども」

 フィーラさんは顔を手で覆いふるふると左右に揺れる。

「それは、その……あの……こんな素敵な方を逃してはならないってお母様が」

「……ルテリアサリーンヴァーデン……なんてことを……」

 怒りを持ってガルとルテリアサリーンヴァーデンの方を向き、慌てて振り返る。なんでルテリアサリーンヴァーデンはまだ服着てないんですか!

「まだまだ若いわね、ケイタさん」

「そりゃあなたに比べればずっと若いでしょうよ! 100以上違うんだから!」

「ひどいわねー、私のことをおばあさんみたいに言うんだから」

「そういう意味じゃねええ! いいから服着てください!」

「ぶーぶーつまんなーい」

「ガル……すごい奥さんだね……」

「言うな。諦めている」

評価、ブクマありがとうございます。


ちょっとこの後にエピソードを挟まないとおかしくなりそうなのでストックはありますが一旦放出を止めます。

頑張って書き上げます。

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