33 竜人虐殺
翌朝。スッキリと目覚める。ゲイルが迎えに来た。
「おう、旦那。後送する捕虜を貰い受けに来やした」
「ああ、よろしく頼む」
ゲイルが頷く。
「おはよう、朝だ。起きろ」
4人は半分寝ぼけながらも起床。ゲイルに連れられて天幕を出ていった。俺も準備し、エシュリアに会いに行く。
「お、ケイタ、起きたか」
「ああ、おはよう。今日の計画だけれども、多分彼女たちを奪われたので残りの魔法戦士隊をまとめて出してくると思う。ただ、後ろに置くことはもうないだろう」
エシュリアも難しい顔で腕を組んで考え込んでいる。
「あるいは撤退戦か。竜人族の小隊一つ潰した上に魔法戦士隊も半分奪い取った。撤退を決意してもおかしくはない……フェーダの被害はどうなってる?」
「3小隊くらいだね。ケイタの分を含めないであっちも同じくらい。兵士の数ならこっちの方多いよ」
相対的な被害はグンダールのほうが大きい。その上虎の子をだいぶ失っている。俺なら勝ち目がないから撤退する。
「よし、電撃戦で追い込む。俺がまっすぐ突っ込んでかき回すので散ったグンダール兵を食い尽くしてくれ。魔法戦士隊を見つけたらなにか合図……笛か何かないか?」
「あるよ。笛を吹かせよう。発見時は長く2回、撤退は短く3回、長く1回を繰り返す、で全軍に通知しておく」
「頼んだ」
フェイスガードをつけ、ナイフを所定の位置に。
「よし、いざ参る」
伝令兵とともに戦場へ偵察目的も兼ねて移動。グンダール軍は撤退のようだ。戦場には兵士がほぼ出てきていない。そして想定外の状況。ものすごく嫌な相手が見える。
竜人族10人と4人の兵士。多分魔法戦士隊だろう。あれを殿において撤退か……4人を無視するわけにもいかないからいい手ではある。
「俺は突っ込んであの竜人族と4人の魔法戦士隊をどうにかする。無力化できたら捕虜を連れて一旦陣まで戻る。フェーダ軍には入れ替わりで撤退中のグンダール軍を蹴散らす形で動いてもらいたい。そちらが長く笛を一回吹いたら仕掛ける。俺は無力化が完了したら長く3回吹き、捕虜を連れ帰る」
偵察についてきた伝令兵に伝える。
「了解しました。無力化が失敗した場合はどうなさいますか?」
「失敗すると思うか?」
口だけ笑って見せると伝令兵は引きつり、ひたすら頭を下げた。
「まあ、冗談だ。失敗しそうだったら短く一回吹く。多分ないがな」
「……了解いたしました」
慌てて走り去っていく伝令兵の背を見ながら大雑把な作戦を立てる。
ここでリミッターをできる限り外し、合図と同時に耐魔術障壁展開、突っ込む。全身に物理防御を施して竜人族を撲殺、魔法戦士隊は警告後戦闘継続を選択したならばまとめて気絶・増強・範囲拡大で無力化。
プラン的にはこんなものだろう。竜人族の処理は物理でやらないといけない分面倒だが耐魔術障壁なしに魔法戦士隊とやり合うほうが厄介なのでこれはしょうがない。
最初に魔法戦士隊を無力化した場合、おそらく竜人族は魔法戦士隊を殺す。これは俺の弱点になるんだよな。でも仕方ない。クラスメートはできる限り救うと決めた以上、やるしかない。
リミッターを外し始める。どんどん人ではなくなっていく感覚。魂が変質するというのだろうか。
「ピーーーーーーッ」
長い笛の音が聞こえた。リミッターは全部抜けている。おそらく神々の領域。耐魔術障壁展開。物理防御発生。突っ込む。
時間感覚が引き伸ばされ、世界はねっとりと絡みつく。空気抵抗を感じるレベルでの移動。全身に熱を帯びる。全身に凍結・減弱を展開。
笛の音から向こうも警戒態勢だったのだろう。だがほぼ一瞬で距離を詰めたこちらに対応できるはずもなく。突っ込んだついでに左手で竜人族の頭をぶん殴る。消し飛ぶ。
次の一人に右前蹴り。胴体が2つにちぎれ、血煙を吹き上げる。突き抜けて踏み越えたところで踏ん張る。
まだぬかるんだ地面に足を撮られつつも横へ飛ぶ。隣りにいた竜人族の腹に右膝。大穴が開き、不自然な方向にゆっくりと倒れるのを確認、着地。
踏み込むことで地面を少しへこませ、それを足がかりに後ろへ回りながら飛ぶ。
回転しながら蹴り。竜人族の頭が消し飛び、脳漿が撒き散らされる。後6人。
ここらへんで呆然としていた竜人族、魔法戦士隊が動き出す。ポツポツと魔法が飛び、シェルに阻止されて霧散する。
着地でちょっと足が滑った。そこへ槍を突き出してくる竜人族。彼らは戦士として優秀だが、私は化け物、だ。そのまま腹で受ける。革鎧を貫くも腹には刺さらず、穂が折れる。引き戻そうとする柄をつかみ、引き込む。たたらを踏む竜人族の頭に踵落とし、頭を潰す。赤い散水機。
穂を失った槍を振り回し、竜人族の首へ。へし折れる柄。そのまま横薙ぎに倒れる。あと4人。
足場が悪すぎてイライラする。
回転の勢いのまま前へ飛び、鉄槌を槍を握っている手にぶち当て砕き飛ばす。ズタズタに切られた血管からの大量出血。ゆっくりと腰から落ちる。おそらくショック症状。
槍の方向へ飛び、空中で掴む。槍の石突を地面に刺し、同時に踏ん張り、逆方向へ飛ぶことでブレーキ。
槍を引き抜き、まっすぐ竜人族の目を狙って投げつける。そのまま頭蓋を貫いた。
「ふはははははは! 相手にもならぬ! 貴様ら、名誉も意味もなく死ね!」
残った竜人族二人に哄笑をぶつける。連日の蹂躙にさすがに戦闘民族と言えど心折れるものがあったようだ。一瞬躊躇する。
「貴様らの魂、残らず喰らう! 覚悟しろ!」
それでも突いてきた槍の穂先を右鉄槌で叩き落とす。下がった槍に体勢を崩されているところへ飛び込み、右の抜き手を顎下から斜め上の方向へ叩き込んで貫く。ぬるりとした感触と、柔らかいなにかの塊。掴み取り、引きずり出す。
血と体液にまみれた神経細胞の塊。痙攣し後ろに倒れる竜人族。
その塊を最後の竜人族へ投げつける。反射的に左手を出す竜人族。馬鹿め。
意図的に踏み込みを鋭くし、一時的な足がかりを作ることで一気に間合いを詰める。
塊を受けようとした手に右抜き手。投げつけた塊ごと掌を貫き、霧に変えてやる。
呆然と消滅した左手とそこから吹き出す血を見る竜人族。ショックを起こさないのは褒めてやる。飛んで左膝を顎に。膝を撃ち抜くと頭が消滅していた。これで竜人族は全滅。
「さて、魔法戦士隊の諸君、というよりも、至高館2-Dの生徒の4人、岸上、児島、高橋、永嶌。投降を勧告する。私はフェーダ・ヴァーデン連合軍遊撃隊、ケイタヴァーデングァースだ」
「慶太……? おまえ、慶太なのか?」
児島龍汰の声がする。フェイスガードを外す。
「そうだな、栗原慶太だ。ただし、戦場にいるならば私はヴァーデンの英雄、ケイタヴァーデングァースだ。そしてグァースの私には潜在魔力性能は無効だ。投降しろ。安全は保証する。今までヴァーデン・フェーダに拘束されたクラスメートはすべて私の庇護下にあり、安全な生活を送っている」
「……そうか。加奈子はどうしている?」
「ヴァーデンで高木と大山と生活している」
しばらく相談する声。その後金属音。剣を捨てた音。
「投降する」
「よし、じゃあこのバングルをつけてくれ。潜在魔力性能の使用を制限する。外そうとすると警告が鳴る。なった瞬間、俺の敵と認識するから、下手なことをするなよ」
4人がバングルを無言で着ける。
「敵と認識したら、アレ、だからな?」
抜き手で顎から貫いた竜人族を親指で指す。
4人がバングルをつけたところで耐魔術障壁を解除。
長く三回笛を吹く。
「よし、じゃ陣に移動しよう」
戻る途中児島が話しかけてくる。
「慶太、だいぶ雰囲気変わったな」
「それはお互い様だろう」
しばらく俺の方を見て考え込む。
「俺らは普通に鍛えられた程度だよ。お前の場合は根本から違う。さっきの竜人族との戦い、あれはなんだ? 確かにアイツらは不気味だが、それでもあそこまでやる必要があるのか?」
「手加減してどうこうできる相手じゃないからな。それにグンダールに与するものは俺の敵だ。敵は徹底的に排除する」
俺の返答を聞いて児島が考え込む。シンプルな理由なんだが、何を悩んでいるのだろう。
「今のお前は少なくともまだ前の慶太の延長だと思える。それでもあの回答はちょっと驚きだ。だがさっきのケイタヴァーデングァースだっけか? あれはお前に思えない。あれは、違う」
「それでいい。グァースは伝説の存在だ。人間臭かったら面倒なことになる」
「いや、そういう話じゃないんだ……」
「わかっているよ。ただ、じゃあそれを認めたら俺はどうなる? 壊れろと?」
俺を凝視し、その後俯く児島。
「そっか、なんかすまん」
「なに、気にしてないさ」
陣に戻るとゲイルの旦那がお出迎え。
「あれ? まだ出てなかったの?」
「姐御がどうせすぐ帰ってくるから待ってろ、って言ってやしてね。そちらの4人もお連れすればいいんですかい?」
「そうだね。この4人もよろしく」
補給物資を詰め込んだ馬車1台馬一頭と、ゲイル以下護衛4人。徒歩で移動だ。
「ヴァーデンに向かうなら2日ってとこですな。じゃあ行ってまいりやすよ」
ゲイルに手を差し出し、握手。
「頼む」
「任せてくだせえ」
ゲイルたちは移動開始。手を振って見送った。
俺はまた戦場に戻り、暴れることにする。
ざっと気配を確認する。おそらくあの剣戟の音の激しさからエシュリアの位置を推定。掛かってしまったリミッターを抜きながら移動する。
さあ、第二ラウンド、だ。