30 魔法戦士隊
魔法戦士隊の潜みそうな場所を考える。おそらくは高台。視線を通したほうが魔術発動はやりやすい。俺みたいなのは例外だ。
そしてグンダール側。おそらくはフェーダ側から見て戦場左奥の丘。ブッシュがあるあたり。そのへんにギリースーツで潜んでいそうだ。
後衛だから護衛はいないだろうとは思う。
問題はそこまで開けているということ。おおよそ500m。一気に突っ込むしかない。多少の犠牲は払う必要がある。
広域の気絶は俺がいることを知られてしまう。初日に打つのは問題がある。それにアレを打つには死ぬ思いがいる。あまりやりたくない。
エシュリアの予告通り雨が来るのを期待したいところだが……とりあえずは突っ込むしかないだろう。
覚悟を決める。ダッシュして到達するまでの間の耐魔術障壁を自前で生成。自分の潜在魔力性能はわからないが、何かが漏出している感覚はわかる。どれくらい持つのかわからないので一気に突っ切る。走りながらリミッターを4段ずつ抜く。
俺に向かって魔術乱れ打ち。耐魔術障壁による阻止。周りに漂う魔力。阻止するごとにやはり何かが漏出している感覚。
リミッターが抜かれるたびに加速。飛んでくる魔術の数が減るように感じる。実際には俺の時間感覚が引き伸ばされている。
ポツポツと雨が落ち、やがて本降りに。もう少し早く降ってくれればよかったんだが。
ブッシュ到達までにリミッター4段を5回抜いた。計20段。魔術の流れが大雑把に見えるようになる。集中を邪魔するために魔法の矢を50本ほどまとめて生成、シェル解除と同時に魔術発生源に打ち込んでいく。
至近の目標に気絶・増強で一人目を無力化。そのまま捕縛。牽制用魔法の矢を50本即座に生成し他の目標に放つ。
クソ忙しい。更にリミッター解除。加速。
魔術発生源がくっきり見え始める。あと残り3個。突っ走りながらリミッターを更に抜く。後ろ腰のナイフを抜いて振り下ろされた剣を受け流し、左フックをボディへ。ブッシュからギリースーツ姿の兵士を押し出す。
腹を抱えて転がっている。気絶を仕掛けても痛みですぐ意識を取り戻すと判断。だが戦闘力はもうないだろう。念の為捕縛してから次の発生源へ。残り2。
左手に冷気。魔力流出発動。相手との潜在魔力性能量勝負しつつ発生源へ。発見。ブッシュ内に飛び込み、術者を引きずり出し、投げ落とす。弛緩したのを確認し捕縛。
残り1。パニックな波動が漏れ始める。覚悟が足りない。念の為魔法の矢を飛ばし牽制。
ブッシュ内を移動している小柄な兵士を確認。後ろから右でボディへ一発。ブッシュからはじき出す。捕縛で縛り上げておく。
これで魔術の発生源は全て無力化。
ギリースーツを切り裂いたら中山結衣がでてきた。悪いことをした。声も上げられず涙を流し、息を詰まらせている。【解析】したところ特に精神的な偏向はなし。
ベルトポーチからバングルを取り出し、中山の腕に着けたあと、殴ったところを軽く撫で、治療。
「悪かったな中山。女の子だとわかっていたらもう少し手加減したんだが」
「く……りはら……?」
「おう、栗原慶太だ」
フェイスガードを外して顔を見せる。
「魔術を妨害するバングルをつけた。無理に外すと警報が鳴る。悪いがお前は現時点でフェーダ・ヴァーデンの捕虜、だ」
座らせてから涙でぐしゃぐしゃの顔をポーチ内のタオルで拭ってやる。
「さて、歩けるか?」
「嫌」
そうか、嫌、か……。
「悪いが移動する」
肩に担ぎ上げて投げ落とした兵士のところへ移動する。
「嫌ー降ろしてー殺されるー」
「俺は沢山の人を殺してきている。だが仲間を殺すことはしない。殺すのは敵、だけだ。だから黙れ」
「嫌ー助けてー」
溜め息一つ。気絶・増強。ぐったりした中山を担いで移動する。
投げ落とした兵士のところに到着。
中山をまず地面に転がす。一応ぬかるみは避けてやるが汚れるのは諦めてもらうしかない。
ギリースーツを切り裂く。伊藤真美がでてきた。【解析】でチェック後、バングルを着けてから耳を引っ張ってみる。
「いったーーーーーーい! え、なんで動けないの? うあなんかいる怖い」
復帰してパニック。そりゃそうか。フェイスガードを外して顔を出す。
「よっ伊藤。元気か?」
手を挙げて挨拶。
「ぎゃー栗原だー! 殺人鬼だー!」
「なんでじゃ! 先に言っておくがクラスメートに関しては殺ったことはないぞ」
「……え? 脱走のときやったって」
「ルヴァートの嘘に巻き込まれた犠牲者、か……まあ後で事情は話す。痛いところとかないか?」
「ちょっと頭痛いくらい」
伊藤を引き起こして座らせてから、目線を合わせて頭をポンポンと軽く撫でる。治療。
「……あの……」
赤くなってる伊藤。
「とりあえず現時点でフェーダ・ヴァーデンの捕虜として俺の保護下に入ってもらう。身の安全は両国が保証する。左手にバングルを着けさせてもらった。魔術行使を阻害する。所定の手順に従って外さないと警報が鳴る……歩けるか?」
伊藤が頷いたので捕縛を解除して立たせる。
3人目、雨で出来た水たまりに半分浸かっている状態でもがいていた。
例によって中山を適当に転がし、水たまりから助け出す。ギリースーツを切る。中身は三宅麻衣だった。
女の子ばかり……?
【解析】し問題ないことを確認後バングルを着ける。左ボディの一撃部分を治療。そして引き起こして座らせる。雨に流されてはいるものの、多分涙やモロモロでボロボロだったと思う。悪いことをした。
「他に辛いところはないか?」
「その声、栗原……?」
三宅は俺を見上げて言う。
「おう、栗原だ」
フェイスガードを外し、見せる。
「あたしも、殺すの?」
「なぜ、そう思う?」
目を逸し吐き捨てるように言われる。
「だって、香菜ちゃん殺したでしょう!」
「香菜……前田のことか?」
「逃げるのに邪魔だからって殺したでしょう!」
「じゃあなんで今中山を担ぎ、伊藤を連れてここに来て、お前に治療を施したと思う?」
こっちを見る三宅。しばらく考えているようだが、答えはない。
「わざわざ治療を施して、会話をして、なぜ殺す? 殺す気なら最初に刺しているさ」
俯く三宅に声をかける。
「俺は俺たちの人生をめちゃくちゃにしやがったルヴァートに復讐すると決めた。お前たちを説得してこっちに引っ張り込むのもその復讐の一旦だ」
「でも! でも!」
「そもそも、俺は前田を殺っていない。あのメンツに危険な橋を渡って俺を救い出すような、そんな親しい奴らがいたか?」
後ろで聞いている伊藤にも聞かせるつもりでしゃべる。
「脱走の手伝いが江藤や児島なら理解できるだろう。だが千葉、長谷川、菊池、前田、この4人に命がけで俺を救い出す意味のある人間はいない」
本当なら全員揃ってから話したかったところだが、まあ仕方ない。
「……薄々そうじゃないかな、とは思ってたんだ……」
後ろから伊藤がぽそっと言う。
「さて、三宅。お前はフェーダ・ヴァーデンの捕虜として俺の保護下に入る。安全は保証する。ヴァーデンでは高木、相田、大山と生活することになる」
「え、あれ? 山岡さんは……?」
後ろから質問。
「山岡はリッザに亡命した。まあ、いろいろあったんだよ」
振り返り答える。そして視線を三宅に戻す。
「……わかったわよ。投降します」
捕縛を解く。
最初に気絶させた兵士のところまで戻る。
中山を転がしてからギリースーツを切り裂くと日野奈津美。【解析】で偏向なしを確認後、バングル装着。
抱きかかえて座らせて、肩を抑えたまま耳を引っ張って起こす。
「痛い冷たいなになになにーー! 動けなーい! なんでなんで! うわ誰だお前ってあれ麻衣ちゃんと真美ちゃん!」
「忙しいやつだなお前……」
意識を取り戻してちゃんと座れそうなので肩から手を離す。
「その声ケータだな⁉」
「お前俺のことそう呼んでたのか……」
フェイスガードを外す。
「相変わらず顔だけはいいんだよなこいつ。性格サイアクだけど」
「悪かったな。とりあえず事情説明するから聞け。あー面倒くさいから中山も起こして一緒に説明するか」
同じように引き起こし、耳を引っ張って起こす。
「ぎゃーーーー! 殺されるーーーー!」
第一声がそれ。溜め息。
「殺さんよ。周りを見てみろ」
「あれ?」
伊藤と三宅を見て、そして日野が隣に座らされていることに気がついて大人しくなる。
「さて、じゃあ事情説明だ。まず日野、お前は現時点でフェーダ・ヴァーデンの捕虜として俺の保護下に入る」
神妙な顔して聞いている日野。
「あと、脱走時、グンダールの兵士は始末したが4人は縛り上げて転がしてただけだ」
「え……だってルヴァートさんが……?」
「そうだそうだー!」
中山うるさい。
「あの4人に俺を命がけで助け出す義理はねえだろ? おかしいと思わなかったのか?」
「え、あれ? あれ?」
「クラスメートが殺されかけてるんだから助けるだろフツー」
混乱中の日野。相変わらずうるさい中山。
「じゃあなんで助け出すってことを他の奴らに相談しなかったんだ? たった4人で分の悪い賭けを実行したわけは?」
「理屈っぽいから栗原嫌いだー」
しゃがみ込み、まっすぐ中山を見据える。
「嫌いで結構。だがな、ちゃんと考えてみろ。ルヴァートと俺、どちらがお前を騙そうとしていると思う? 無理やり召喚しやがったクソ野郎と、クラスでわりと孤立してた性格サイアクの俺。さあ、どっちだ?」
「……ズルいよ栗原」
中山は視線を逸して小さく言う。
「わかった。ケータに投降、でいいのかな?」
「物分りが良くて助かるよ。歩ける?」
日野が頷いたのを見て捕縛を解いた。
「あたしも結構潜在魔力性能使いこなせる方だと思ってたんだけどなあ」
「場数の差だろうさ。で中山、お前どうする?」
「……わかったわよ。栗原を信じる」
捕縛を解き、手を取って立ち上がらせる。
「さて、じゃあ今度はフェーダに戻る、という難関の処理、だ」