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2 測定は羞恥プレイ

 潜在魔力性能(ポテンシャル)測定のための部屋に移動する。

「測定方法ってどうやるんだい?」

 移動中にルヴァートに聞く。

「測定室の中央にある印に立つ。そのまましばらく待てば測定できる」

「へー、便利なもんだねえ」

潜在魔力性能(ポテンシャル)だけではなく身体能力(アビリティ)物理体力性能(フィジカル)技能(スキル)も測定できる」

「へ?」

身体能力(アビリティ)は筋力、瞬発力、持久力、精度、抵抗力、思考力、精神力。高いほど優秀だ。概ね一般人は50前後、70を超えだすと優秀な人材となる。逆に30を下回るのはだいぶその分野に対して足りない。私は順に35/51/72/81/81/78」

「はー……そんなものもわかるの。なるほど。ルヴァートさんは力はないけど、粘り強く正確な動作と高度な思考・精神活動ができる……ってこと?」

「そうだ。高度な思考と精神活動と潜在魔力性能(ポテンシャル)と相まって大規模な魔術が使える」

物理体力性能(フィジカル)は?」

潜在魔力性能(ポテンシャル)が魔力ならば物理体力性能(フィジカル)は体の丈夫さを表す。傷や毒に耐えられる力だ」

技能(スキル)ってのは?」

「時折、様々な神からの恩恵が下賜されることがある。例えば私には【魔力軽減】がある。魔術行使時の魔力の消費量が常人よりも低くなる傾向があるようだ」

「ほへー。ルヴァートさんって魔術師になるために生まれた人なんだねえ」

「測定を行った後はその値は他の測定を行った者にも公開される。また値の変動も即時反映される」

 よくわからんシステムだなあ。魔法なんてそんなものか。


 暫く歩くとガラス張りの一辺二メートルくらいある直方体のある部屋につく。

「測定室だ」

 ルヴァートはガラス張りの箱を指し示す。

「え、入り口どこ?」

「生体はそのまま通れる」

「へー……生体?」

「そうだ、生体だ」

「服は?」

「お前たちの服は生体なのか?」

「んなわけ……え……それって……」

 絶句。とりあえず頭を振って疑問を埋めることに専念する。

「測定は誰がやるの?」

「何人かの魔術技官だな」

「魔術技官……どの人たち?」

「なんでそんなことを気にする」

「世界の常識が違うから、ってのは理由にならないかな?」

 ルヴァートはしばらく考え、頷いた。

「なるほど、異文化であると。理解はした。では技官を紹介しよう」

 技官は男性が六人、女性も六人。測定には三人必要。それぞれの潜在魔力性能(ポテンシャル)は近いものの微妙に異なるため、計測を行った後のクールダウンタイミングが異なるようだ。

 計測チームは回復量順にソートされたチームで行っているので男女混合になっている。

「結局の所、一番回復量の小さい人に引っ張られるけども、効率を少し犠牲にできれば男女混合にしておく必要はないな」

「なぜそう言える?」

「だってここの技官は何度も計測してるんだろ? ってことは慣れているんで消費量に大きな差はないんじゃないかなって思ってる。そして【魔力軽減】みたいなスキルを持っている人もいないだろうと思うので」

「【魔力軽減】がいないと考える理由は?」

「そんな強力なもの持ってたら測定技師なんかじゃなくて前線に送られるんじゃないかなって。戦争中で苦戦しているから我々を呼んだんでしょ?」

 ルヴァートはしばらく俺の顔を見て、そして頷く。

「素晴らしい推測だ。さすが異界の勇者よ。そのうえでなぜ男女を分ける?」

「俺らのいた世界では裸は普通異性に晒さないんだ。晒す相手は選ぶようになってる」

「不思議な考えだな。裸体は美しいものだ。これ以上ない単純さ。自らをすべて表現しうる究極の状態だと思うのだが」

「それもまあ一理あるんだけど……同性にすら晒すの嫌ってのもいるくらいなんで、このあたりは文化とかそのへんの違いとして受け入れて欲しいんだ」

「同性にすら晒すのは嫌、というのはどうする?」

「そいつらは測定をパスさせて。計測したほうが判断はやりやすいけど、なくてもどうにかできると思うから」

「そうか。わかった。異界の勇者クリハラケイタ、お前の希望を受け入れる」

「ありがとう、ルヴァート魔術師長。あと俺のことはケイタでいいよ」

 ルヴァートは不思議そうな顔をする。

「クリハラというのは、なんだ?」

「姓だよ」

「……姓?」

「名字。ファミリーネーム。家族で共通の名前。出自を表したりするもの」

 やはりルヴァートは謎な顔のまま首をかしげる。

「それもまた文化の違いというものなのだろうな。グンダールでは能力がすべてで、出自は特に考慮されない」

「ところでさ、グンダールでこの測定って義務なの?」

「義務ではないが出世したいなら受けるしかない。そのためほぼ全国民が測定にくる。能力にあわせた職につくことで結果我が国は繁栄した」

「測定しなかった人は?」

「ほぼいないが、まあ測定しなかった場合、()()()()()()()に就く」

 職業選択の自由なにそれって社会か……それはそれで嫌な社会だなあ。

 とりあえずはクラスメートに説明だな。


 説明したら大騒ぎになった。そりゃそうだろう。そして測定拒否もそこそこ。四十人いるうち半数が拒否。男子十二人女子八人が測定に同意した。

「じゃあ、まずは女子から測定してもらおう。我々は全員外で待機だね」

 ルヴァートを引っ張りながら部屋の外に出る。

「私もなのか?」

「そうだよ。男は全員外。測定拒否した女子も外だな。一方的に見るなんて失礼だろ」

 測定室の置かれた部屋から更に外に出て、扉を閉める。中で少し騒ぎが起きた。さっさと終わらせてくれよ……と思いつつルヴァートを見る。

「異界の勇者ケイタよ、何を騒いでいるのだね?」

「うーん……多分だけど俺たちの世界では服を着ているのが当たり前で、裸になることはめったにないんだ。だからお互いの姿を見てきゃあきゃあ言っているんだと思う」

「言ってどうにかなるのか?」

「ならないけど、きゃあきゃあ言うのが女子高生ってものなんだよ、多分」

 ルヴァートは首をかしげる。

「異文化とは理解しがたいものだな」

「簡単に理解できたら戦争なんて起きないよ」

「……なるほど、それは一理ある」


 しばらく待っていると扉が開き、女性の魔術技官がルヴァートに何か書類を渡した。ルヴァートはそれを見て眉を吊り上げ、ボソボソと女性技官に耳打ち。女性は頷き、その後ルヴァートに耳打ち。

「次は男性陣だな。行くぞ」

 ルヴァートは俺にそう言うと部屋の中に入る。測定を受け入れた俺らも入る。

「誰から行くかね?」

「出席番号順でいいんじゃね?」

 江藤がそう言い出した。その場合トップは江藤。全員同意。

 江藤はさっさと服を脱ぎ、ガラスに恐る恐る手を差し伸ばす。そのまま突き抜ける手を見て、スタスタと歩いて入る。

「真ん中の印に立て。そう、そこだ」

 技師の誘導に従い江藤が立つ。特になんの変化もない。っていうか江藤毛深いなおまえ……

「測定完了」

 江藤はさっさと出てくると服を着た。

 岸上正隆、国吉俊一郎、そして俺、の順に測定が進む。

 俺の測定のとき、技官がざわめいた。何だ? 完了と同時に自分の測定値が見えるようになる。


身体能力(アビリティ)

 筋力:測定不能

 瞬発:測定不能

 持久:測定不能

 精度:測定不能

 抵抗:測定不能

 思考:測定不能

 精神:測定不能


物理体力性能(フィジカル)

 現在値:測定不能

 上限値:測定不能

 回復値:測定不能


潜在魔力性能(ポテンシャル)

 現在値:測定不能

 上限値:測定不能

 回復値:測定不能


技能(スキル)


 ……なにこれ?

「珍しいものが出たな、異界の勇者ケイタよ。計測不能は高すぎるか低すぎるかのどちらかで起きる。ただ全測定値が不能というのは非常に珍しい。とりあえずあとで再測定を行おう。測定技官の数が増えれば正確な測定が行なえ、数値化が可能になるはずだ」

 残りの男子の測定の後、技官全員とルヴァートが測定し直すというので、服を着て待つことにする。


 外にいた女性技官も呼ばれる。うーん……できれば避けたいんだけど。

「その値のままウロウロしてたら即殺害される」

「……なんでよ!」

「測定値は公開されるのが当たり前だからだ。当たり前ではないものは恐怖の対象でしかない」

 いやまあその理屈はわからないでもないけども、けども!

「なんでクラスの女子までいるの?」

「こういう珍しい事例は全員で観察することにより知識を蓄えるものだからだ」

「……お前らも遠慮しろよ」

「えー、だって栗原くんいい体してそうなんだもん」

 池上絢香がニコニコしながら答える。

「じゃあお前も俺に見せるのか?」

「え、栗原くん見たいの?」

「そりゃあ、健全な高校生ならかわいい女の子の裸は見たいだろうよ」

「じゃあ、健全な高校生なのでかっこいい男の子の裸を見たいのもわかるよね」

「池上……お前、あとでコロス」

「きゃーこわーい」

「っていうか池上お前測定拒否してんじゃねえかよ!」

 俺はまだ中途半端な測定とは言え、他人の測定結果がわかるようになっていた。イインチョを見てみる。


身体能力(アビリティ)

 筋力:40

 瞬発:40

 持久:75

 精度:78

 抵抗:61

 思考:68

 精神:50


物理体力性能(フィジカル)

 現在値:1500

 上限値:1500

 回復値:25


潜在魔力性能(ポテンシャル)

 現在値:41512

 上限値:41512

 回復値:8814


技能(スキル)

 【魔力抵抗】


 ……優秀だなあイインチョ。魔力抵抗ってなんだろ?

『魔力抵抗は魔術行使時に追加の魔力を要求する』

 頭の中に響く声。便利だなあ測定。

「異界の勇者ケイタよ。測定を行う」

「……拒否権なしね。あーーーー! いいよやるよ分かったよ!」

 仕方ないので服を脱ぐ。イインチョは目を逸してくれたけど、まあみんな見るよな。ちくしょー見世物じゃねえぞ。

「はー……栗原くん結構筋肉質なんだねー。帰宅部なのに」

 感心したように大山美樹が言う。睨みつける。周りの女子がなんかこっちをじっと見てる。だから見世物じゃねえって。

「測定位置に立て。測定を開始する」

 ルヴァートの指示に従い、測定位置に立つ。

「手は両脇に下げろ」

 ……わかったよくそったれ。

「わー……」

 声を上げたり視線をそらさなかった女子を確認。相田、大山、緒方、菊池、前田、三宅、山岡、山本。後で絶対コロス。

 ところで、ちょっと測定時間長過ぎませんか?

「……異界の勇者クリハラケイタ。お前は一体何者だ」

「知らねえよ! 測定まだかよ!」

捕縛(アレスト)

 ルヴァートの声に従い魔術が発動。不可視のロープで縛り上げられる。

「何しやがる!」

「お前は、危険だ」

 ルヴァートの冷たい視線。部屋の外から複数の足音。ドアからローブ姿の男が五人と、フル装備の兵士が五人現れる。ローブの五人が裸になり測定室に入ってきた。うあー狭いところに裸の男がぎっちり、いやだーーー。

「連行しろ」

 ルヴァートの指示に従い、測定室から引っ張り出される俺。フル装備の兵士が俺の不可視のロープの上から鎖でぐるぐる巻きにして担ぎ上げ、そのまま外へ連れ出す。

「俺が一体何をしたんだーーー離せーーーー!」

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