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ベジ●ト的な?

 武士の時代とは何時か。

 前世の日本で考えると平清盛がぶいぶい言わせてたあたりから幕末ぐらいだろうか?

 貴族の世から生まれ己の時代を築き、時の流れと共に衰退していった存在。それが武士だ。

 しかしこの世界では違う。時代の流れと共に価値観をアップデートしながら全盛を維持し続けている。

 その最たる例が女の武士だろう。今じゃ男女の垣根なく誰もが刀をぶら提げてるがかつてはそうじゃなかった。


 ――――女は家を守るべき。


 という時代も確かにあったのだ。この辺は前の世界の日本とも同じだな。

 女性の社会進出。女性の地位向上。権利の確立。素晴らしいことじゃないか。

 ああうん、本当に良いことだと思うよ……横にデッケエ武士道(ウンコ)がくっついてなきゃな。


(武士道という巨大なノイズがあちこち歪ませてやがる……)


 女性の権利を見直そうって活動が前の世界の日本と大体同じぐらいの頃だ。

 特に有名な活動家を一人挙げろと言われたら十人中九人は彼女の名を答えるのではなかろうか。

 そう――――与謝野雷鳥の名を。

 どうだ? すっげえ無敵感あるだろ? 主人公と宿命のライバルが合体して数倍数十倍の強さになったかのような頼もしさだ。

 実際凄いぞ。作家であり女性運動家である与謝野雷鳥はそりゃもうやべえ女だった。

 ペンは剣より強しとは言うがペンと剣の二刀流やられたら更に強いだろ? と言わんばかりに時代を動かしてのけた。

 彼女の最たる異形にして権利確立の決定打となったのが“与謝野雷鳥の千人斬り”だろう。

 最初はペンだけで戦っていた雷鳥だがとある出版社の旧態依然とした編集長に散々に馬鹿にされた。

 どうしたと思う? キレたのさ。刀を奪い取りその場で編集長を斬殺。


『元始、女性は太陽であった』


 返り血を浴びながら彼女はそう言い放ったらしい。

 そして続けてこう宣言した。


『此れより私は千人の猛者を斬り捨て女子が武士たれると証を立てよう。

この誓願果たされぬ時、私は天より降る雷に打たれ一握の灰さえ残らず消え去ることだろう』


 武士ではない女の殺人。

 しかしそのあまりにも堂々たる振る舞いに公権力は特別武士の号を雷鳥に贈ることを決定。

 千人斬りの誓いが果たせるかどうかを見守ることにした。

 その後、雷鳥は執筆活動をしながら全国を巡り各地の名のある猛者を斬り捨て続けた。

 そして見事、千人斬りを達成し女性の権利獲得の流れを完全なものとした。

 与謝野雷鳥は紛うことなき偉人と言えよう。


 何が言いたいかってーとだ。

 日本人女性にとって近代における理想の女性像の一つなわけだ与謝野雷鳥という人間は。

 頭抜けた傑物性と価値観の多様化で誰もが誰も雷鳥のようになろうってわけではない。

 しかしお堅い、というか伝統を重んじるような家系や教育機関では今でもこう言われている。

 淑女たるもの与謝野雷鳥のように生きよと。

 だからそう、


「――――相馬様、如何でしょう?」


 目の前でスカートをたくし上げ俺に下着を見せているお嬢様が居るのも雷鳥が原因ってわけだ。

 俺の通う与謝野女学院は雷鳥の血縁者が開いた学院で雷鳥の影響を大いに受けている。

 ここに入学する女子の殆どは雷鳥リスペクトのお嬢様なわけだ。

 だから平気でこんな痴女行為もやってのける。


 え? 雷鳥関係なくねって? あるんだなこれが。

 与謝野雷鳥は色々破天荒な女性だったわけで……ねえ?

 まあ、その、何だ。旺盛で意欲的な性欲に関連する逸話もかなり存在している。

 雷鳥リスペクトの女子は大概が肉食系で、その肉食系ってカテゴリも前世とは比べ物にならんぐらいの肉食なわけよ。


「……」


 俺は椅子に座ったままふるふると首を横に振った。


「見ればお分かりになるでしょう? さあ、おどきなさいな! 次は私ですわ!!」


 後ろに並んでいた別の女子が俺の前に出てスカートをまくり、その裾を口で咥えてみせる。

 白のレース。お高い下着なのだろう。見ただけで分かる。

 純白という清らかさを象徴する色ではあるが、際どいデザインだ。

 清楚と淫靡。矛盾する二つを両立した男心を擽る素晴らしい下着と言えよう。

 しかし、


「クッ……ダメでしたか……ッ!!」


 そもそもの話、何でこんなことになっているのかについても語らねばなるまい。

 改めて説明するが俺は入学式で学院の猛者百人を斬り捨てたことで学院中の乙女の心を奪った。

 すげえな俺! ハーレム主人公みてえ! ……はぁ(クソデカ溜息)。

 その日から雷鳥リスペクトな乙女たちによる猛烈なアプローチが始まった。血で血を洗う争いだ。

 数が数だからな。邪魔者が多過ぎて俺と話をするのにも苦労する。

 だが毎日毎日血で血を洗う争いを繰り広げるのは淑女としてどうなのかと話し合った結果、朝のパンツチェックが始まったのだ。


 ――――何で?


 いや、一応彼女たちなりの理屈はある。

 相馬様はこれだけの女子に言い寄られても小揺るぎもしないクールで硬派な御方! 違います。

 つまりそんな方がおっきすればそれはもう諸々同意ということなのでは? 何そうなる。

 己が色気で相馬様のお股間をお元気に出来た方が勝ちということですわね! 意味わかんねー。

 俺も色々反論したような記憶はあるんだが何か上手いこと言い包められパンツチェックが日課になってしまった。


(なん、でだろうなぁ……催眠系の薄い本とかでたまにある下着検査とかめちゃ好きだったんだけどなあ)


 ダメだ全然興奮しねえ。

 ビジュアルは良い……ビジュアルは良いんだ……なのに……泣きそうだわ。

 え、痴女は好みじゃないんだろって? いや下着検査(このシチュ)は別腹よ。


「さあ、真打登場よ!!」


 顔を上げるとドヤ顔のハートちゃんが立って居た。

 先日の決闘の結果、この子も俺に心を撃ち抜かれてしまったらしい。


(アイドルのパンツなら……い、いけるか?)


 いやいけたらいけたで問題はあるんだけどさ。

 でも男として自然にお元気になれないのはちょっと……辛い。

 完全なEDってわけじゃないんだ。肉体操作すりゃ普通にお元気に出来るからな。

 そういうことをやるとなれば普通にやれる。しかし肉体操作に頼り切りなのは男としてどうなのよ?

 という気持ちがね。はい、あるわけですよ。

 だから正直、ハートちゃんには期待してる。


「相馬様の空気がお変わりに!?」

「こ、これは……正室の座は愛様に奪われてしまいますの!?」


 え、重婚前提?


「さあ、あなたはもう私の虜よ!!」


 絶句した。


「な」

「は」


 全員が驚愕に目を見開く。何でって?


≪はいていませんわぁあああああああああああああああああああああああああああ!!?!!≫


 俺の眼前に広がるそれはくっきりはっきり無修正だった。

 それはそうと他の子たちは何で吹っ飛んでるの? 黒板とか罅入ってんぞ。


「う゛……何て、色気ですの……同性の私ですら……」

「き、際どい箇所にある黒子が得も言われぬ色気を……!?」

「というかはいてないし、はえて……それもこれ、天然の……!?」


 ……理性はこれをエロだと捉えている。

 だが悲しいかな。俺の本能には微塵も響かない。


「な、何で!?」


 ふふん、とドヤり続けていた愛だが俺の股間を見て動揺を露わにする。


「……過ぎたるは猶及ばざるが如し」

「くっ……深い!!」


 多分これ、逆に野暮ったいスポーツ系のショーツとかのが興奮した気がするわ。

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