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『女はやっぱ胸だよな』

『胸も良いが尻も良いだろ』

『うん、尻も良いな。でもやっぱ一番は胸だ』

『いや一番は尻だよ』

『いやいや』

『いやいや』

『……フッ』

『……ハッ』

『『キエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!』』


 この世界の日本はこんな具合で刃傷沙汰が日常茶飯事な蛮族国家だが意外なことに民度は高い。

 おまん、正気か? と言われるかもしれないが実際そうなのだ。

 というのも、だ。“弱きを助け強きを挫く”というのが正しい武士の在り方としてインストールされているからである。

 外道が居ないわけではない。犯罪者だって居るには居る。

 しかし学校におけるイジメなどは皆無だ。そんなことをすれば武士の恥とその場で斬り捨てられるからな。

 心に悪を飼っているような連中も力をつけるまでは大人しくしてる。

 なので自然と健全な教育環境が出来上がってしまう……何か腑に落ちねえな?


 ともかく民度は高い。これは諸外国も認めている。

 観光に訪れた外人が困っていたら誰に言われるでもなく直ぐに手を差し伸べるしな。

 ひったくられて無一文になった外国人が居たら皆で下手人を追跡し斬り捨てる。

 見つからなければ皆が身銭を切って少しでもこの国を楽しんでくれと施しをする。


<正しき武士道は女子供も真っ二つ!!!!>


 ではテレビの向こうで演説かましてる総理のこの言葉はどういうことか。

 弱者を虐げるのはアウト。しかし、舐められたのなら例え弱者であろうとも平等に殺せと言っているのだ。

 ――――頭おかしいんじゃねえの?

 民度の高さはあるが、同時にその苛烈さも類を見ないほど高い。

 さっきの外国人の例で言うなら、だ。

 困ってる外人が居れば手を差し伸べるが、そいつが差別的な言動を取ればその瞬間に斬り捨てるだろう。

 こんな日本人を指してどこかの国の偉い人はこう言った。


『狂気と繊細さが複雑に絡み合った民族だ』


 と。

 随分と気を遣った表現だなと俺は感動したね。

 お前らイカレてるよと言わない優しさがブリカスにもあるのだ……あ、ブリカス言っちゃった。


「……もっとこう、モノ申してくれねえかなぁ」


 ぶっちゃけるとこの世界の日本は腫物扱いだ。

 一線引いて接する分には良いが、深く関わるのは勘弁してつかぁさいって感じ。

 正直、その程度で済んでることが奇跡だと思う。

 ずっと昔に寄って集って潰されててもおかしくはないぐらい、やばいもんこの国。

 それでも今も存続してるのは怪異のお陰だろう。


 国家間の争いが皆無というわけではないが元の世界に比べれば圧倒的に少ない。

 この世界には怪異という人類共通の脅威が存在するからだ。

 世界大戦もそう。今っとこ第三次まで起きてるがそれらは世界規模での怪異との戦いであり国家間の争いではない。

 一次が戦国時代だったか。バラバラだった世界が初めて一つになった大戦。

 日本の死傷者数は圧倒的一位だが、同時にその戦果も一位だった。

 一匹でも多く殺したらァ!! の精神で刃を振るった結果だ。


「戦力として期待されているからお目こぼしされてるんだろうが……」


 もうちょっと深く関わってくんねえかな。

 他所は他所でUSAソウルだの騎士道だの色々あるけどさ。俺基準で言えば日本ほどおかしくないもん。


「尖りまくった国民性をどうにかしてくれねえものか」


 自分の国のことぐらい自分で何とかしろって?

 他力本願ぶっこいてんじゃねえよって言われたら……まあはい、その通りですね。

 でも他所の国も無関係じゃねえと思うんだわ。ほら見てよ、総理のイカレタ演説。

 あれとある国際会議の場でのことなんだけどさ。


「大半はドン引きして愛想笑いしてるが……」


 ちらほら、理解者ヅラでうんうん頷いてるのが居るんだよ。

 どうするよ? ご当地精神に武士道まで加わっちゃったら。世界やべえぞ。

 現に俺の身近でも……。


「……誰だ?」


 米が炊けるまで待てず二袋目の煎餅に手を出したところでインターホンが鳴った。

 煎餅を咥えたまま玄関を開けると、


「コンニチハ! コレ、作り過ぎた……えーっと、つまらないものデース!!」


 パッキン美女が眩しい笑顔で鍋を抱えて立って居た。

 彼女はエイダ・グリーン。近所の小学校でALTやってるお隣さんである。


「肉じゃがかな? 良い匂いですね。ありがとうございます」

「御気にメサレズ大丈夫デス」


 ……何となく察しはつくと思うが彼女は大の親日家だ。


『ハジメマシテ! ブシドゥを学ぶため、ステイツから来やがりましたエイダデース!!』


 最初の挨拶で卒倒しなかった俺を褒めてやりたいよ。

 彼女曰く「アメリカンタマスィ……とブシドゥ、とても……そう、とても親和性アルヨ!」とのこと。


「折角ですし、お茶でもどうでしょう?」


 俺は彼女に苦手意識を抱いている。

 基本、俺は誰に対しても塩対応なんだがこの先生……見た目がクッソ好み!!

 俺も男だからな。アレな理由で来日し、どんどんアレになっていても……無理、塩対応出来ない。


「ラッシャッセェエエエエエエエエエ!!」


 喜んで、ということかな?

 部屋に招き入れ茶と煎餅を出すとミスグリーンは嬉しそうに食べ始めた。


「……ところでそれ、似合ってますね」

「Oh! 分かりマス!? ワタシもそう思いマース!!」


 数日前に朝、出くわした時は普通の格好してたんだが今のミスグリーンは和装を着ている。

 武士道に浸食された国だが和服着て髷結ってるヤツとか居ない。

 皆、前世の日本と同じ普通の格好をしている。

 じゃあこれはミスグリーンの偏った知識によるもの? 多分、違う。


「この国の皆サン、とても……そう、とても寛容。

ワタシの理想、アメリカンタマスィとブシドゥのオミアイケッコン。

だからサァムライソードではなく、銃のニホンザシデース。舐めてる言われてもおかしくナイ。

なのに創意工夫、頑張ってるアナタはステキ言ってくれマシタ」


 だから自分もリスペクトをしたくて和装に手を出したのか。

 帯に二丁拳銃差してるのはどうかと思うが……。


(あとそのミニスカも……)


 コスプレっぽいんだよなぁ。

 でも敢えて言わない。おかしいけど目には優しいもの。

 ガーターストッキングが最高にエロいぜ……。


「素晴らしい、とても素晴らしい心掛けだ」

「コジロサーン! アナタ、そう言ってくれる思テマシター!!」


 ギュっと抱き着き頬にキスしてくれるミスグリーン。

 控え目に言って最高なんだがそれはそれとして……。


(……ペリー、ペリーよォ)


 過去、この国をどうにかしようとした外国人は居る。皆大好きペリー提督だ。

 史実とはまた違った理由で来日し、下心ありきでこの国をどうにかしようとした……したんだが……。

 帰国する頃には大の親日家になってたんだよあのオッサン。

 史実でも日本人は評価してたらしいけどこの日本のどこを評価したお前。

 すっかり武士道インストールされちまったミスグリーンを見ていると歴史の過ちを嫌でも想起してしまう。


(ペリー、お前ホント……だらしねえなぁ)

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