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閑話 家族と猫とレトロゲーム

本日24年9月10日 書籍版第二巻が発売されます!

よろしくお願いいたします。

迷暦二十三年の正月。


千葉の実家から帰ってきた俺達の間では、とある事が小さなブームになっていた。



「あっ! マーズそれズルいって!」


「いやいや、これも戦法」



コタツの前にあるテレビの中、すごろく盤のような画面が表示されたそこでは……


隣に寝転んだ猫のマーズが操作するキャラクターが、俺の方に悪魔をけしかけていた。



「さっきから俺ばっかり狙ってない?」


「いやいや、こういうのって一位から狙うのがセオリーでしょ?」


「ちょっとあんた達(ボーイズ)、イチャイチャしてないで早くコントローラー回してよ」



言いながら俺の手からコントローラーを取った姫は、画面の中のサイコロを回した。


そう、うちで小さなブームになっているのは、実家から持ってかえってきた古い(レトロ)ゲームソフト。


俺が子供の頃に妹や両親と遊んでいた、すごろく形式のそのゲームに……


ここ数日の川島家は、まさに熱中していたのだった。



「はいシエラの番」


「シエラもダンジョン買うぞっ」


「ちょっとお金足りないんじゃない?」


「トンボからもらう」



犬のシエラはそう言ってゲームの中でカードを使い、現在所持金額一位である俺から数億円を奪っていった。


このゲームは、プレイ終了時に一番資産を持っていたプレイヤーが勝利となる、シンプルなルールだ。


日本全土を回る中で各地の物件を買って資産にできたり、カードで一発逆転を狙えたりと、誰でも最後まで飽きる事なく遊べる、まさに名作ソフトだった。


俺は何の気なしに、久々にやりたいなと思って持って帰ってきたのだが……


このシンプルなすごろくゲームは、意外にも宇宙人である姫とマーズに刺さったらしい。


おかげでここのところの川島家では、毎晩家事の順番などをかけて、白熱の勝負が繰り広げられていた。



「あぁ……俺の金が吸われていく……ネズミーランドを買おうと思ってたのに……」


「あ、ネズミーいいね、僕買っちゃお」


「うぅ、ちょっとでも取り戻さないと……」



俺は回ってきたコントローラーを操作し、サイコロを振る。


その結果に従って画面の中の車は動き、カードが貰えるマスに止まった。



「悪魔祓い来い! 悪魔祓い来い!」



カード名の書かれたスロットが回り……出たカードは悪魔祓いカードではなく、大悪魔カードだった。



「あーっ! 大悪魔になった!」



俺の車についていた悪魔は大悪魔になり、金をどんどん巻き上げていく。


天国から地獄へ直行だ。


俺はコントローラーを取り落とし、テレビの前で頭を抱えた。



「ざんねんでしたー、うぃー」



コタツの中で姫の踵で尻をぐりぐりと揉まれ、シエラに肉球で頭をポンポンと叩かれる。


まぁ、落ちる時はあっという間という事か……


姫に尻を突かれまくり、ごろんと身体の向きを変えると、床に置いたコントローラーを操作するマーズと目が合った。



「そういや……こういうゲームって宇宙にはないの?」


「え? あるよ」



あるのか……いや、まぁ逆にないわけがないのか。



「それってどんなの?」



サイコロがホログラフィで大迫力に浮き上がったりするんだろうか?



「すんごい長いシリーズのやつがあるよ。なんか律儀に毎年発売してるから、もう千本ぐらい出てるんだよね」


「それ、僕の叔父さんが好きでさ、子供の頃はよく付き合わされたなぁ。その年の有名人が出てきたりして、何年かに一回ぐらい話題になるんだけど……結構ルールが複雑なんだよね。プロリーグもあるから仕方ないんだろうけど」


「そんな感じなんだ」



まぁ、まだ百年も歴史のない地球のコンピューターゲームとは、事情が全然違うんだろうな。



「じゃあ二人からしたら、このゲームなんかシンプルすぎるんじゃないの?」


「いやいや、これはこれでちゃんと面白いよ。細かいルールを覚えなくてもいいから気楽にできるし」


「たしかに、こんなにシンプルなのは姫たちからしたら逆に新鮮なぐらいかも。あと、ネズミーとかキューマルとか、みんなで行った場所が出てくるのも面白いし」


「そうなんだ」



まぁ、地球にも何千年も前からサイコロはあるしな。


意外とゲームっていうのは、どこに行っても通用するものなのかもしれないな。



「まぁそれにさぁ」



姫はそう言いながら、コタツの中で俺の背中に足を乗せた。



「ゲームって誰と遊ぶかが一番大事なんじゃないの」


「ま、それはそうかもね」


「……そりゃそうか」



たしかに、それはそうかもしれない。


子供の頃に親や妹と一緒に遊んだこのゲームが楽しかったように、この部屋でみんなと遊ぶゲームだから楽しいのかもな。


そう考えながらテレビの方を向くと、画面の中ではいつの間にか俺より先に行ったシエラが、カードで道路を破壊して通行止めを行っていた。



「やってくれたなぁシエラ」


「今日はシエラが勝つぞっ」



フンフンと自慢気に鼻を鳴らす彼女からコントローラーを受け取って、ダイスを振る。


正月特有のマッタリとした時間を使った、みんなで足を引っ張り合う楽しい泥仕合のゲームは……


日付が変わってシエラが寝落ちするまで、賑やかに続いたのだった。

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