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第70話 ヴァラクの姫と青い故郷

「そんでまぁ、ネットで情報ざっと見ただけなんだけど……なかなか結構厳しい状態だわ、交渉とかはできそうにないかな」


「この地方を包囲してる軍隊とって事?」



骨なしチキンを頬張ったマーズがそう尋ねると、姫は力なく首を横に振った。



「両方。ヴァイパイフォプスって方は言わばエルフ原理主義者って感じで、エルフ以外を全部下等な生き物と断じて支配しようとしてる」


「うへぇ」


「この地方を囲んでる軍隊は、包囲を解いてもらいたきゃヴァイパイフォプスの首を持って来いって感じのスタンスを取ってて、結構頭も煮えてて融通が効かない感じ」



姫は寝転んだ俺の頭の横に腰を下ろして、チキンの入ったバケツからおしりの部分の肉を取り、かぶりついた。



「ふぁとひって……んっ、川島ギルド他の勢力がヴァイパイフォプスに勝てるかっていうと、それもちょっと厳しい感じに見えるんだよねぇ。そもそも周りは全部敵みたいな奴がここまで生き残れてる時点で、戦力としては小粒なわけ」


「じゃあ、マジで百年待たなきゃいけないの……?」



俺がそう尋ねると、姫は今度は首を傾げて唸った。



「うーん……そうでもあると言えるし、そうでもないと言えるのかも。なんつーかなぁ、トンボにもわかるように言うと、この銀河ってのは戦国時代なわけ」


「せ、戦国時代……? 群雄割拠の?」


「そっ、だから色んなところから恨みを買いまくってるエルフが、周りと全面戦争始めるとなると……包囲の外の勢力まで参戦してくる可能性は大いにある。デイランの勢力と同盟関係にあるとこも外側に色々いるから、今外に出られないってだけで、ローディンの言う通り隠れて待ってたら案外どうにかなるのかもしれない」


「……なるほど」


「つーか、この銀河ってずーっとそんな感じみたい。歴史を遡っても、でっかい戦争してない時代が皆無ってぐらい、延々と戦争やってる感じ。まさに修羅道の銀河、修羅人の庭だわ」



修羅道っていうと、地球では人がずーっと戦う仏教の地獄って意味だったっけ。


たしかに、そんな感じに思えるなぁ。



「ぶっちゃけ、トンボがまだまーちゃんを送っていくつもりならだけど。今姫が考えてる選択肢はふたつある」



姫は左手で指を二本立て、右手に持った肉をその周りでフワフワと動かし……


おもむろに三本目の指を立てた。



「その前に聞くけど、まーちゃんはもっかい冷凍されて、トンボのジャンクヤードからヴァラクの能力者経由で帰るつもりはない?」


「……姫なら、その選択肢って選ぶ?」


「絶対選ばない」


「それが答えだよね。自然に起きられない眠りにつくのなんて、死ぬのと一緒だよ」



マーズのその言葉を受けて、姫は苦笑しながら立てた指を折り曲げた。



「じゃ、話すね。ひとつ目は、川島ギルドを通じて戦争に協力し、エルフを退ける事」


「うん」



それは多分無理。


うちは今日、ちょっとデカいぐらいの宇宙怪獣にも全滅させられそうになったのだ。


修羅人なんていうおっかないのと戦って、無事でいられるわけがない。



「もうひとつはね、ガチのステルス機を作って戦場をすり抜ける」


「え? ステルス機?」


「いやでもさぁ姫、僕たちが作れるレベルのステルス機じゃ、普通に見つかっちゃうんじゃない?」



マーズがそう言うと、姫は不敵に笑いながらポンポンと膝を叩く。



「まーちゃん、姫が誰だか忘れてる?」


「え? どういう事?」


「姫は軍事企業(ヴァラク)の姫だよ、こっちにない技術を使った最新のステルス機の図面ぐらい、その気になれば引き出せるっつーの」



そう言って、姫は不敵に笑った。


そういえば、姫の実家はなんか軍事系って言ってたっけ。



「いや、それってやったらめちゃくちゃヤバいんじゃない?」


「そうそう、軍事機密って……流出したらとんでもない事になるんじゃないの?」


「ぶっちゃけうちのパパなら、姫が帰るためって言えば許可してくれる可能性はある。でもねぇ……」



そこまで言って、姫はゴロンと後ろに寝転がる。


そして、姫の腹の向こうから、指が三本立った手が上に伸びてきた。



「それには三つ問題があるかな」


「三つも?」


「いやむしろ、三つだけ? って感じだよ」



姫はまーねーと言いながら、指を一本折り曲げた。



「まず一つ、そこそこ高度な造船技術がないと、船が作れないだろうって事。でもこれはまぁ、資料とそこそこの人材がいればなんとかなるかも」


「最新の船が作れるそこそこの人材って、エキスパートって言わない……?」



マーズの言葉を流して、姫はもう一本指を折った。



「次に、建造のために特殊な材料を山ほど使うだろうって事。これはジャンクヤードで取り寄せるにしても、ジャンクヤードの等価交換の法則が問題になってくる」


「つまり、交換するに値するような貴重品をかき集めなきゃいけないって事?」


「そっ、まぁその場合は川島ギルドとかに仕事紹介してもらったりして、お金を作らなきゃいけないかも」


「貧乏暇なしだなぁ……」



フライドチキンの骨を口に咥えたままそういうマーズの向こうで、姫は最後の指を折り曲げた。



「最後、これが一番重要。情報流出を最低限にするために、できれば秘匿性の高い場所で作りたい。機密がバレたらステルスの意味がなくなる」


「……でもそれって、一番厳しいんじゃない? 僕たちこっちの土地勘ないわけだし、秘匿性って言ってもさぁ」


「そうなんだけどねぇ……そうでもないっていうか……ちょうどいいって言えば、ちょうどいい星があるんだよねぇ」



姫はそう言いながらむくりと起き上がり、骨になったチキンをゴミ入れにポイと捨てる。


そして立ち上がり、ビッと艦橋の前部モニターを指差した。



「ほら、見えてきたっしょ?」


「えっ?」


「それって……マジ?」


「そっ、あの星(ちきゅう)



不敵な笑みを浮かべた姫の視線の先にある、サイコドラゴンのモニターに映されていたのは……


今まさに地球から飛び立ってきたばかりの資源採掘船(カワシマ・ワン)と、その目的地である黄金の衛星。


そしてその背後で美しく真っ青に輝く、俺の故郷の地球(ほし)だった。


これにて第二部終了です。

まだまだトンボの冒険は始まったばかりですが……

自分の中では切りがいいところまで書けたので、ここで一区切りとさせてください。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

わらしべ長者と猫と姫は第二巻が発売予定です。

発売前後にまた何か別視点の話を投稿すると思います。

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