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第28話 部長と姫と男の夢

24年1月16日より、Ver.1を削除してVer.2への更新を行っております。

2月9日に発売される書籍版第01巻の続きはVer.2準拠で更新していきます。

書籍には書き下ろしが沢山載っておりますので、どうかよろしくお願い致します。

「人マジで全然足りないって」


「やっぱりそうですか?」



迷歴二十二年の六月、俺達は深刻な人手不足に悩んでいた。


姫によるワンマン家内制手合成業をごまかすために借りた古い工場、その入り口付近に作った発送場で、阿武隈さんと吉川さんはくたびれた顔で座っていた。



「仕事自体は簡略化されてて、発送も業者が取りに来てくれるのはありがたいんだけどさー、どんだけ捌いても発注書が増えてくだけってのは精神的にキツいよ」


「気にしないでって言っても、やっぱ気になりますか?」


「川島君、逆の立場だったら気にならない?」


「いや、多分気になります……」



これに関しては、多分給料を増やしたところで解決しない問題だろう。


本当はこういうリクルートはエージェントなんかに頼めばいいんだろうけど……


姫曰く、うちはああいうのに頼るにはちょっと特殊かつ隠し事が多すぎるらしい。


頼ったところで政府組織の人間しか送り込まれて来ないだろうとの事だ。



「姉さん、誰か知り合いいない?」


「知り合いったって、冒険者ぐらいしかいないんだよねー」


「冒険者の奥さんとか、兄弟知り合いとかでもいいんだけどさ。姉さんが管理できる範囲なら増やしてもらってもいいんだけど」


「それってあたしが面接するの? バイトだよ?」


「阿武隈さん、吉川さん、その話なんですけど……なんとかお二人に、うちの正社員になってもらうというわけにはいきませんでしょうか……?」



俺は深々と頭を下げながらそう頼んだ。


コネも実績もない俺には、正直、実際、マジで、頼れる人が彼女の他にいなかったのだ。


普通の会社ならもっと小さく初めて人と一緒に会社をデカくしていくものなのだろうが……


俺の不徳でいきなり身分不相応の供給を求められてしまったうちの会社は、こうしてどうしようもなく泥縄なリクルートを強いられてしまっていた。



「正社員、正社員ね……まあ本当は願ってもない話なんだろうし、社長の事を信用してないってわけじゃないんだけど……」


「そこを何卒……何卒……」



ただただ頭を下げるだけの俺に、阿武隈さんたちからなんだか困ったような感じが伝わってくる。



「まあまあまあ、とりあえず、仕事しやすくなるように役につけるためって事じゃダメ? 別にこの国の法律なら労働者側からはいつだって辞めていいんだしさ。姉さん今なら即部長だよ」


「む、部長、部長かぁ」



ダメっぽい反応だった阿武隈さんも、うちの専務の執り成しにちょっとだけ顔色を変えた。


ナイスだマーズ!


もっと押してくれ!



「ね、マーズくん、私は? 私は?」


「入社してくれるならいきなり課長だね」



阿武隈さんはまんざらでもなさそうな吉川さんの反応を見て、曖昧な笑顔で首をポキポキ鳴らしながら俺の方を向いた。



「まー、もうちょっと考えさせてよ」


「もちろんです!」



正直言って、今バイトしてくれているだけでもとてつもなくありがたいのだ、これ以上無理強いはできない。


俺はもう一度頭を下げると、買ってきた差し入れを彼女たちに渡してそのまま帰途に付いたのだった。






頼みの綱の姫も頼れず、それでも泣き言なんて言ってられない状況で、俺にできる事は愚直な勧誘ぐらいだ。


俺とマーズは今日も東四に潜り、一縷の望みをかけて少ない知り合いに声をかけていた。



「というわけなんですけど気無さん、どなたか働ける方とか知りませんか……?」


「誰もやらねぇよ軽作業のバイトなんか。普通に求人しろよ」


「ワケあって普通の求人は使いたくないんですよ、なんとか知り合いの紹介で人を集めたいんです……」


「逆にお前、ワケありの仕事って言われて人紹介すると思うか?」


「まぁまぁ、ワケありって言ったって後ろ暗いところがあるわけじゃないんだよ。ほら、うちはふりかけとかで色々話題になっちゃったからさ、変な人を入れたくないってだけ」


「変なやつかどうかなんて、雇って働かせてみるまでわかるわけねぇだろ」



そりゃあそうだ。



「そこをなんとか、引退した冒険者の方なんかで暇してそうな方いませんかね?」


「この仕事は稼げるし、引退した奴も結構金持ってるから、バイトなんかする奴はいないと思うけどなぁ。怪我や病気で廃業した冒険者ならやるかもしれないけど……ほら、そういう奴ってほとんど行方知れずだから」


「そうですよね……」


「お前んとこのパワードスーツとかあるだろ。ああいうのを社割で買えるとかなら、話は違ってくるかもしれないけどな」


「社割ですか」


「まぁ最先端装備ってのは高いもんだしな。単なるバイトならともかく、本業の足しになるようなら身内を紹介してくれる奴もいるんじゃねぇか」


「なるほど」



たしかに俺がバイトしているピザ屋にも、社割でピザを買っていくバイトの主婦がいる。


よく考えればピザなんか割引後の価格でも高いのに、あの人「なんかお得な気がしちゃって」なんて言いながら月に一度は買って帰ってたな。


割引、割引か……


と言ってもパワードスーツなんかそうそう買わないし、ふりかけとか化粧水なんかはそもそも割引してめちゃくちゃお得に感じるほど高くないしな……


お得……そうか、要はお得に感じられればいいんだよな。



「あのぅ気無さん、気無さんは何か欲しい物とかってありますか?」


「え? 何だよ急に……まぁ、もう一本タバコ欲しいかな」



そう言いながら、彼は根本まで吸ったタバコを灰皿缶の中へと投げ入れた。



「はい百円ね」


「え? 何だよ、どういう事?」



気無さんは困惑した様子でそう言いながらも、百円を差し出してタバコを受け取る。


しまった、これは聞き方が悪かったかな。



「あ、なんかすいません。今すぐ欲しいものってわけじゃなくて……こう、日常生活とか仕事の中でこういうのがあったら嬉しいなって物はないですかね」



そう、俺は考え方を変えた。


社割ではなく、限定販売すればいい。


闇雲に商品を増やしたって、また人手が足りなくなるだけだ。


ならば社員にだけ買えるお得で便利な商品を用意すれば、それが口コミで広まって労せずに社員を集められるんじゃないかと、そう考えたのだ。



「あぁ? んなこといきなり言われてもなぁ……」



うーんと唸りながら思案顔でタバコに火を付けた気無さんの肩の脇から、見知った顔がニュッと現れた。


人好きのする笑顔を浮かべた爽やかなお侍、ハーレムパーティを率いるリアルラノベ主人公の雁木さんだった。



「俺もタバコちょーだい。あとコーヒー」


「あ、雁木さん。お久しぶりです」


「四百円ね~」



用意していたのだろう小銭をすぐに差し出して、彼は受け取ったタバコを口に咥えたままコーヒーのプルタブを上げた。



「何か話してた? 邪魔しちゃったかな?」


「いやいや」


「今気無さんに生活とか仕事の中で欲しい物とかないかって聞いてたんですよ」


「おっ、また色々仕入れてきてくれるって事?」


「まぁ、仕入れられるものだけですけど。あ、ところで雁木さん、ちょっとお聞きしたいんですけど……」


「え? 何?」


「お知り合いとかに、仕事を探してる人っていらっしゃったりしませんかね?」


「仕事って、カタギのって事? それは……いないと思うなぁ、俺の知り合いみんな冒険者だし」


「あ、やっぱりそうですか……」



まあ、そうだよね……


本来はこんな地の底で探すような事じゃないんだけど、ある程度信頼できる知り合いって冒険者筋しかいないんだよな。


大学やバイト先にもいるにはいるけど、普通に断られちゃったし。



「……色々考えてみたけど、欲しいものっつったら消臭剤ぐらいかな」


「消臭剤ですか?」



聞き返すと、気無さんはちょっと困ったような表情で、顎をぽりぽり掻きながら続けた。



「まぁ、最近家帰ると娘が色々うるせぇんだよ。外で足洗ってから入れとかな」


「ひぇー、おっかないなぁ」


「なんか、大変なんですね……」


「お前らだって家庭持ったらこうなるんだよ」


「そういうもんですか?」


「うちの妹とかはあんまりそういう事言わないかなぁ……」



まぁ、一つの需要だな。


足の消臭剤、覚えておこう。



「雁木さんは何かこういうのがあったらいいのになって物とかありますか?」


「えーっと……改めて言われると困るな……あ、そうだ……おーい! ちょっとちょっと!」



雁木さんはクルッと後ろを向くと、パーティメンバーに向かって呼びかけながら手招きをした。



「何かあった?」


「財布忘れたの?」


「あのさ、調達屋さんが新しい商品仕入れるのに何がいいかって考えてんだってさ。何か要望あったら言ってみたら」


「要望? あるある」


「あの化粧水あるじゃない? あのメーカーの化粧品とかあったら欲しいのよね」


「あたしもっとスープの種類増やしてほしい」


「スタバの季節限定商品とかいっぱい仕入れといてほしいのよね、アイテムボックスにずっと入れとけるんでしょ?」


「あたしの友達が水虫で困ってるらしくて」


「それは友達じゃなくてあんたの話でしょ」



にわかに騒がしくなった店前の様子が嫌になったのか、マーズと男二人はどこかへ行ってしまい……


俺は一人、いつ終わるともわからないお姉様方の要望を神妙な顔で聞き続けることになったのだった。






顔見知りの客ほぼ全員に聞き取りを行い、家に帰ってきた俺は風呂に入ってジャージに着替え、晩飯前のマッタリした時間を過ごしていた。


蒸し暑いはずの六月の夜も、うちの部屋は快適だ。


空間調整器は音もなく快適な温度の空気を吐き出し、空気中の湿度を調整してくれている。


去年まではしょっちゅう出ていた害虫の類は、蚊取り線香に激似の宇宙の害虫害獣忌避装置が完全ブロックしてくれていた。


台所では「アンタ達のご飯、雑だからヤダ」と食事の準備を一手に切り盛りしてくれるようになった姫が部屋着の白いジャージで何かを炒め、テレビには昔から続いているシリーズのロボットアニメが流れている。


そんなアニメをBGMに、俺とマーズは最近ハマっている宇宙のウォーゲームで遊んでいた。



「だからさ、八巡目で探査機打てばこっちの戦闘ロボも無視できたわけだよ」



マーズがコタツ机の上に置かれたボードゲームに表示されたアンテナのマークをタップすると、そこから円形に光が照射され、少し離れた場所にロボットの頭のアイコンが浮かび上がった。



「探査機って色んな使い方あるんだなぁ」


「トンボは戦いたがりすぎだよ、どんな強いユニットも接敵しなきゃ効力発揮できないんだから」


「でもこのかっこいい宇宙のサイコロマシーン、いっぱい回したくならない?」



俺がボードゲームの端についたサイコロマシーンのボタンを押すと、クリアケースの中に入った不思議な形をした三つのサイコロが超高速でギュインと回る。


刻まれた数字から光を発しながら回るそれは互いにぶつかり合い、クリアケースの中を縦横無尽に飛び回って底に落ちた。



「これやっぱかっこいいよなぁ」


「そんなので喜ぶのは子供か君ぐらいのもんだよ」


「こういうの地球人の男は絶対みんな好きだって。とりあえず、今の反省も踏まえてもうひと勝負!」


「いいけど、風呂掃除はトンボだよ」


あんた達(ボーイズ)、そこどけて。ご飯できたよ」


「あ、すぐどけます」



俺達はすぐにボードゲームを畳んでしまい、コタツ机の上を片付けた。


机の上には姫の買い集めたパステルピンクのお皿に盛られた梅しそ焼き飯や、それぞれのコップに入れられた麦茶がサーブされていく。


俺のはゲームの限定版についてきたマグカップで、マーズのは魚の名前が書かれた湯呑みだが、姫のはオシャレなアメリカ製の桜色のやつだ。


俺もかっこいい物に買い替えようかな……


とゲームのロゴ入りのマグカップを見て思うが、まだまだ使えるものを買い替えるのもなんとなく気が引けた。



「お茶、なんか変?」


「いや、そろそろコップ買い替えてもいいのかなって」


「いんじゃね? 姫とおそろいにしよ。まーちゃんは?」


「このコップ、がっしりしてて好きなんだよね」


「じゃあトンボだけね。姫と同じ種類の緑のやつ、頼んどいたから」



さすが姫、即断即決だ。


ゲームのマグカップはペン立てにでもしよう……。



「それよりこの焼き飯どうよ? ネットでバズってたレシピだけどいけんでしょ」


「あ、たしかにさっぱりして美味しい」


「すっぱくていい感じだね」


「そういやさ、さっきのゲームに出てきたみたいな戦闘ロボってあの合成機(きかい)

作れたりするの?」



俺がテレビのロボットアニメを見ながらそう聞くと、マーズは不思議そうな顔をした。



「え? なんで?」


「いや、実物ってどんなもんかなって」


「多分トンボの想像通りの物だと思うけど」



俺の想像通りの物ならなおさら、ぜひとも見てみたい。


姫の方をチラッと見ると、黄金色の瞳と目が合った。



「別に戦闘ロボぐらいはラインナップに入ってるけど、今現役で使われてるのが第十八世代

だったから……そのずうっと前の第五世代ぐらいのものしか作れないよ? 最適化もされて

ない時代の八メートルぐらいのやつ」


「八メートル!? それってそれってやっぱさ、乗って操縦できるの?」


「できるけど」



やっぱりできるんだ!



「それって、俺でも操縦できるかな?」


「簡単じゃない? 二百年前とかの物だと神経接続も必要ないと思うよ」



そう言われると、もう俄然乗ってみたいな。



「今アリバイ用に借りてる古工場あるじゃん。あそこって今発送部しか使ってないわけだし、場所はあるから……作ったりできないかな?」


「作れるけど、なんで?」


「いやなんでっていうか……男の夢なんだよ、戦闘ロボはさぁ」



俺が言うと、姫は冷めた目でマーズを見た。



「まーちゃん、こう言ってるけど、どうなの?」


「夢じゃないね」


「そりゃ宇宙の人にとっては現実だろうけど、地球だとそれに命賭けてる人だっているんだから!」



自衛隊の戦闘ロボに乗れるなら、何だって差し出すって男はきっと沢山いるだろう……


いるよな?


だから東大に入るより特機乗りになる方が難しいなんて言われてるわけだし。



「まあまあ、別にダメって言ってるわけじゃないよ。八メートルならトンボのジャンクヤードに入るし、あのドラゴンみたいなのが現れた時のために作っておくのも別にいい」



でもさ、とマーズは続けた。



「材料は? それに戦闘用ロボぐらいになると自己発電じゃ発電量が追いつかないから、燃料も必要になるよ」


「それって、宇宙からの交換じゃダメ……?」


「あのさぁ、ヴァラクも戦争中だから。戦闘用ロボットに使う資源とか、いくらあっても足りないものを回してくれるわけないじゃん」


「それはそうか……」



でも、八メートルの動かせる巨人か……


交換で来るような気配も全然ないし、このチャンスを逃したら二度と手に入らないような気もするんだよな。


なんとかならないものかと焼き飯を食べながら考え込んでいると、マーズが「あっ」と声を上げた。



「姫、マグラガントはどう?」


「ああ、こっちで魔石とか言われてるやつ? まああれもエネルギー物質だから、各種資源に変換できるっちゃできるけど効率悪いよ?」


「え! 魔石でなんとかなるの?」



俺がそう聞くと、姫はあんまり興味なさそうにピンクに塗った爪を眺めながら「うん」と答えた。


魔石というのはダンジョンの魔物の臓器から取れる柔らかい石のようなものだ。


触媒としての用途が主らしいが、色々な使い方をできる物質でもあるらしい。



「まあ高出力のエネルギーさえあれば、物質の変換ぐらいはできるけどさぁ。強化外骨格(レイバースーツ)みたいにクズ鉄と石コロから作れるわけじゃないからね? 不純物の少ない銅とか鉄とかアルミとか、大量に必要だから」


「集める集める! 集めます!」



それぐらいの資材なら普通に買い集められるはずだ。


こういう時は、心底アイテムボックス持ちで良かったなと思う。



「トンボ、魔石の方はどうするの?」


「それなんだけど、冒険者から買い集めようと思うんだ」



魔石は別に売買が禁止されてるわけじゃないからな。


企業に属している冒険者も普通に魔石を取りにダンジョンに行くし。


ただダンジョン管理組合から大量に買い取るには事業者として審査を受ける必要があり、使用用途も調べられるらしいからそちらは厳しいかもしれない。



「ウチの紐付きになってもらうって事? 厳しいんじゃない? ウチの会社全然信用ないし」


「それに関しては考えがあってさ。今日の昼間色々聞き取りしてたでしょ? 実は一つ考えがあって、上手くいけば魔石と雇用問題がダブルでなんとかなると思うんだよね」


「え、どういう事?」



マーズはなぜかちょっと嫌そうな顔をしてそう尋ねた。



「まず今って現金取引じゃん。それをポイントにしてみたらどうかなって」


「ポイント?」


「冒険者にはうちの会社に魔石を売ってもらい、その対価をポイントとして支払う。そんでそのポイントは、日本円では買えない特別な商品を買う時に使えるわけ……そして! そのポイントは、その人の身内がうちで働く事でも手に入る。どうこれ?」



名付けて、川島ポイント経済圏だ。


将来的にはもっと色々な事に使えるようにして、旅行とか通信とか、大量の人を囲い込んだ一大経済圏に……


いやまぁ、そこまではならなくていいか……。



「あ、なるほど。まともなアイデアじゃん」


「え? 俺はいつでもまともでしょ?」


「よく言うよ」


「……で、その優先販売とか割引販売とかの業務、誰がやるの?」



マーズが俺の脇腹を突っついてくるのに肘で突っつき返したりしていると、スプーンを置いた姫の冷たい声が食卓に響いた。



「え? そりゃあもちろん、これから雇用する人に……」


「だから、人が入って来る前にもその業務は発生するんでしょうが」



う……それはそうだ。



「下にやらせるつもりじゃないよな? 今でさえ地元に帰った冒険者仲間呼び戻したりしてて人足りてないっぽいのに、阿武隈(クマ)さんキレんじゃね?」


「あ、それは、もちろんです」


「トンボ、あんた下持ったんでしょ? ならこれまで通りの考えなしの根回しなしは通用しないってわからない?」


「あ、いえ……それは、わかってるつもりです」


「つもりだよね?」



姫の圧に、俺の足は自然と正座の姿勢に変わっていた。


マーズはそろそろと姫と俺の間から逃げ出し、みんなの食器を流し場に持って消えた。



「トンボのアイデアはいいよ、でもトンボは人を使うってことが全くわかってない」


「あ、はい……」



姫の言っている事はあまりに正しく、俺の考えはあまりに浅く。


結局この日の銀河最強の個人事業主からの辺境の星の新米社長への薫陶、及び新米社長からの新事業のたどたどしいプレゼンは、つけっぱなしのテレビから深夜アニメが流れる時間まで続いたのだった。

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