16 大団円
あの後。
刃物を持ったストーカー男が職質を受けて警察に連れて行かれたとか、悠里の家族もやって来て騒然となったとか、悠里の壮絶な泣き顔に、姉の茉里でさえも物凄く狼狽したとか(泣いた理由はストーカーではなく入れ替わった嬉し泣きなんだけど、まぁそこはどうでもいいか)
いろいろ、まぁ実にいろいろあったのだが、結果的には、元の身体で例年通りお正月を迎えられた。
入れ替わったままのお正月をあんなに心配していたのに、なんだか物足りないような気がしながら、あっという間に久しぶりの穏やかな休みは過ぎてしまった。
新学期が始まって、このことで1番しょんぼりしていたのは風馬くんだけだった。
風馬くんは、あれから悠里とやり取りするも、何か違うと寂しそうに僕に訴える。そして僕ともなんか違うんだと悲しそうに言うのだ。
「ほっときゃいーんだ。風馬のために入れ替わるなんてとんでもねぇからな!!」
と、悠里には何度か釘を刺されている。もちろんそんなことするつもりなんかないし、むしろ、あのお社の前を通るときは毎回どうしたって緊張するし、慎重になる。こんなことが頻繁に起きては敵わない。あんな荒唐無稽な、漫画のような…
あの図書館で調べたように、黒い影だろうが、バケモノだろうが、盗賊だろうが、とにかく何か脅威のあるものから庇ったり、助けを求めたりしたことが入れ替わった原因ではないかと、悠里とは結論付けた。
あの騒動以来、自分で言うのもなんだけど、僕の株は爆上がりだった。中身は悠里だったとはいえ、忍が体を張って悪漢から悠里を守ったという事実はひとり歩き…じゃないか、悠里が誇張しつつ学校で伝えたんだった…。言い分は「もっと忍は自信持って良い!お前は良いヤツだからウチが広めたる!」だそうだ。全然頼んでないのに…。
と、いう訳で、高校生活を上手に埋没して生きていくつもりが、不可能になってしまった。しっかり目立ってしまって、ときどき知らない人からも声を掛けられる。
悠里だったときに、たくさん人に触れて喋る度胸もついたようで、少し女っぽくても、もじもじしないだけで皆とは普通にコミュニケーションが取れたし、ありのままを知っている悠里や風馬のおかげもあって残りの高校生活は滞りなく過ぎている。
絵梨衣のメイクもたまにしてる。誤魔化せないと観念して、悠里のメイクの先生は忍だと白状したら、五十嵐の方が上手いならそっちにやって欲しいと言われた。存外、悠里と絵梨衣達の方がよっぽどギクシャクしているようにみえた。
「んとによー、しののほうが女子力高いんだよ…。な、またウチの部屋掃除しに来てくれない?」
「部屋で見たことは忘れますって一筆書いたんじゃなかった?」
と、クスっと笑うと
「そういうとこだよ…」
と苦笑いされた。
「ん?どういうこと?」
「自分で思うより、しのは大人しくもないし、オドオドもしてないってこと。結構な性格してると思うよ?」
…ショックだった。
そして、別の意味でありのままの僕を案じてくれていた綾瀬まなとは、ほどなく恋人同士になった。
入学時にまなさんに安心感を抱いた僕と同じように、男性が苦手だったまなさんにとって、全く男っぽくない僕は安心できる異性だったのだ。
まなは忍を忍ごと好きになってくれていると、悠里も太鼓判を押してくれたことだし、手を繋ぐのがやっとの今だけど、僕たちはゆっくり進んでいくだろう。
一緒に掲載しようと思いましたが、分けました。次回、エピローグで最後です!