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78 外国の料理

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 思わぬ出来事があったものの、無事にお米を見つけることができた。

 モルゲンハーフェンに来てから幾許もしないうちに見つけることができたので、王都に帰るまでまだ日にちがある。

 その間に他にも珍しい物がないか探すこともできたけど、それは止めた。

 セイランさんの船に積まれていた積荷の中から色々と見つけてしまったのが理由だ。

 探し出すのに時間が掛かるだろうと思って、半分諦めていた香辛料の多くを見つけることができたのよね。

 セイランさんからはポーションのお礼を言われたけど、こちらこそ五体投地でお礼を言いたい。


 ならば、残りの旅程をどう過ごそうか?

 そう考えたときに思いついたのは、手に入れた香辛料を使って料理を作ることだ。

 セイランさん達が持ち込んだ香辛料を見るに、ザイデラの料理は元の世界の中華料理に近いのかもしれない。

 今回の件で、簡単な中華料理なら作れそうな香辛料が揃ったもの。

 材料が揃ったのならば、次は食べたくなってしまったのは言うまでもない。

 よし、作るか。


 けれども、これにはジュードから待ったが掛かった。

 もっとも、ジュードに止められるまでもなく、作れないんだけどね。

 そもそも旅先でどうやって厨房を借りればいいのよ。

 だから、お楽しみは暫くお預けになるかに思えた……。



『お嬢さん、ザイデラの料理には興味があるかい?』

『あります!』



 倉庫に連れて行ってもらった二日後、セイランさんが宿に訪ねてきて、料理に興味があるかと尋ねてきた。

 もちろん、ある。

 あるに決まっている。


 即答すれば、セイランさん達が宿泊している宿で食事をしないかと誘われた。

 その宿の食堂で、セイランさんの船の料理人さんが国元の料理を振舞ってくれるとのこと。

 これもまた、ポーションのお礼の一環らしい。

 何だか色々貰い過ぎな気がするのだけど、欲望には勝てない。


 ジュードや護衛の騎士さん達の顔色を伺えば、皆仕方ないなという風に苦笑いしている。

 お許しは下りたようだ。

 満面の笑みでセイランさん達の宿に伺うと伝えれば、セイランさんまで苦笑いしながら、宿の場所を教えてくれた。

 苦笑いの訳は、感情が表情にだだ漏れだったせいだろうか?

 えっと、ごめんなさい。

 久しぶりの中華料理かもしれない料理を食べられる機会に、つい……。



「あれ? お嬢様、どうしたの?」



 セイランさんとは宿のエントランスホールで話していたのだけど、そこに外から戻ってきたオスカーさんがやって来た。

 食事を誘われたのだと説明すれば、オスカーさんも外国の料理に興味があるらしく、一緒に行っていいかと言ってきた。

 セイランさんが快く応じてくれたので、大人数で食事会に参加することになった。

 うん、私にジュードにオスカーさん、それに騎士さん達も行くからね。

 間違いなく、大人数だ。

 さっきは苦笑いしてたくせに、ジュードと騎士さん達も外国の料理に関心があるらしい。


 参加者が決まったところで、食事会の日にちをどうするかという話になった。

 これだけ大人数になると、セイランさん達の準備も必要だろう。

 滞在予定も考慮すると、二、三日後位が現実的だろうか。


 そう思っていたのだけど、セイランさん曰く今夜でも大丈夫らしい。

 セイランさん達も大所帯なので、食材は多めに用意してあるから問題ないのだそうだ。

 であるならば、早速今夜お邪魔させてもらおう。






『ようこそ、お嬢さん』

『お招きありがとうございます』



 食事会は夜、けれども今は日は傾けどまだ明るい時刻。

 少し早いけど、私達はセイランさん達が泊まる宿に到着した。

 食事会よりも早く訪問することは、セイランさんにも了承をもらっている。


 早めに伺ったのは、料理をしているところを見せてもらうためだ。

 食事会にはどんな料理が出てくるのかと話をしているときに、料理をしているところも見に来るかとセイランさんが提案してくれたのだ。

 話の最中に、うっかり作っているところも見てみたいと零してしまったばかりに、何だか申し訳ない。

 料理人さんに確認を取らなくてもいいのかと心配になって確認したけど、セイランさんは大丈夫だと言う。

 本当にいいんだろうか?

 宿に着いても不安なまま、厨房へと向かう。



『おい、ちょっといいか?』

『船長、どうした?』

『すまんが、料理しているところを見せてやってくれ』

『こちらのお嬢さんにか?』

『そうだ』



 厨房の中に向かってセイランさんが声を掛けると、厨房の真ん中で指揮をしていた男性が入口までやって来た。

 セイランさんのお願いを聞いて、男性は怪訝な顔でこちらを見る。

 向けられた視線にお辞儀をすると、説明を求めるように男性の視線がセイランさんの方を向いた。

 セイランさんが今夜の客だと紹介すると、合点がいったように目を丸くし破顔する。



『お嬢さんがポーションをくれた子か』

『あ、はい』

『お嬢さんなら歓迎だ。なんだ、料理に興味があるのかい?』

『はい。異国の料理がどのように作られるのか一度見てみたくて』

『そうか、ならこっちで見るといい』



 料理人さんは先程まで厳しい表情で指揮をしていたのに、打って変わってにこやかに応対してくれる。

 案内されるままに厨房に足を踏み入れ、作業の邪魔にならず、かつ周りが見渡せる場所に腰を落ち着けた。

 そう、料理人さんが指揮をしていた場所だ。

 流石に大人数では邪魔になるので、厨房に入るのは私とジュードだけにしたわ。


 厨房はスランタニア王国で一般的な作りだった。

 鍋や包丁なんかも、普段目にしている物と変わらない。

 しかし、置いてある調理器具の中には珍しい物もあった。

 元の世界でお馴染みの、蒸籠が竃に並んでいたのよね。


 私と同じようにジュードも驚いていた。

 ジュードからすると見たこともない道具ばかりだからだろう。

 蒸籠を指差して、あれは何かと聞いて来た。


 調理方法に蒸すという概念がないので、説明が難しいわね。

 食材を蒸気に当てるのだとスランタニア王国の言葉で説明していると、料理人さんが更に詳しく蒸し料理について説明してくれた。

 私達の様子から話の内容を推測したようだ。

 説明はもちろんセイランさん達の国の言葉でだけどね。

 それをジュードに通訳して説明した。



『あれは何を蒸してるんですか?』

『包子だよ』

『包子!?』

『あぁ、こちらの国ではパンというんだったか? 包子はパン生地の中に具が入っている料理さ』



 包子のことは、もちろん知っている。

 肉饅や餡饅のことだ。

 まさか包子があるとは思わなかったわ。

 驚いて聞き返したのだけど、料理人さんはそれを質問と思ったらしく、どのような料理かを説明してくれた。



『具には挽肉や野菜を炒めた物や、茹でた豆を潰した物を入れるんだ』

『色々な具材があるんですね』

『そうさ。中身次第で食事にもなるしおやつにもなるし、いい料理だよ』

『今日の包子には何が入ってるんですか?』

『今日は他の料理に合わせて、野菜を炒めた物が入っているよ』



 今日の包子は野菜饅頭らしい。

 日本の中華料理店で食べたことがあるけど、炒め油に胡麻油が使われていて美味しかった。

 他の料理に合わせてってことは、他にはこってりした料理が出てくるのかしら?

 野菜饅頭は肉饅よりはあっさりしてたしね。


 その後も、調理器具や料理、使われている食材についても説明を受け、その度にジュードへと通訳した。

 中には知らない野菜なんかもあったりして、料理人さんの話はとても面白かった。

 一通り話を聞いたら結構いい時間になったので、慌ただしい厨房を後にして、食堂へと向かった。

 厨房を後にする際には、説明をしてくれた料理人さんや、その他の人達にも見せてくれたお礼を丁重に伝えたわ。

 忙しいところ本当に申し訳なかったけど、うろ覚えだった料理の作り方も聞けたりしたので、非常に有意義な時間だった。


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