09 以心伝心
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週間ランキング3位!!!
遂に週間にも入りましたよ。
本当に皆様のお陰です。
ありがとうございます!
おおーーー!っと思わず歓声を上げたくなる光景が目の前には広がっていた。
市場には、様々な色とりどりの野菜、果物、肉や魚が売られ、中にはキノコ専門店みたいなお店もある。
食材以外では、パンや屋台なんかもあったりして、屋台周辺ではお腹が空く匂いが漂っている。
料理事情はアレなのに、食材はとても豊富で、見たことの無い物も売っていて面白い。
パン屋には、色々なパンが置いてあり、少しだけだが白パンも置いているみたい。
白パンは小さく、お値段も他の物より高いので嗜好品扱いなのかな?
市場は王都の台所とも呼ばれるほど、活気に溢れていて、多くの人で賑わっていた。
向かい合ったお店の間には、人が八人は横に並んで歩けそうな幅の道があるが、人で埋まって、歩きにくい。
そんな中を歩き、興味深い品物が売っているお店を覗いていたら、すっと肩を引き寄せられた。
前から歩いてきた人にぶつかりそうになっていたらしい。
「ありがとうございます」
引き攣った笑顔で隣の団長さんにお礼を言うと、ニッコリと微笑まれた。
市場に着いてからも、手を繋いだまま歩いてた。
市場は混んでいて、お店を集中して見ていると迷子になりそうなくらいだった。
まぁ、ちょっと現実逃避したかったのよ、色々と。
それで油断していた訳ではないと思いたいんだけど、ふらふらしていたら、前から歩いてきた人にぶつかりそうになった。
それで、さり気なく繋いだ手を離されて、その代わりに肩を寄せられるっていうね……。
ふふふふふ……。
これ、何ていう拷問?
神様は私の心臓の強さを試しているのかしら?
人を避けた後、再び手を繋がれるのは仕様なのかしら?
うん、慣れって怖いよね。
繰り返すこと数回。
もう赤くならずに、引き攣ってるかもしれないけど笑顔でお礼が言えるくらいには成長したわ!
私にしてはかなり頑張ったと思う。
お店に集中しなければいい?
お店に集中しなかったら、他の事に集中しちゃうじゃない!
「大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
「お腹は空いてないか?」
「そうですね……」
お昼にはまだ早いけど、朝早く出てきたからか、お腹は少し減っている。
結構歩き回ったのもあって、少し足も疲れてきた。
団長さんはまだまだ平気そうだけど、引き篭もりの私にはちょっと辛いかな。
市場には屋台もあって、ちょっと気になるけど、団長さんは貴族様だしなぁ。
屋台で買い食いなんてしないよね。
近くの喫茶店にでも入る感じかな?
「少しお腹空きました」
「では、せっかくだし屋台で何か買って休憩しよう」
あれ?団長さんって貴族様だったよね?
私は嬉しいけど、屋台でいいの?
団長さんは私を連れて、屋台付近の木箱が置いてある場所に行った。
食べてみたい料理を聞かれたので答えると、私をそこに残して団長さんは料理を買いに行った。
何か手馴れてない?
暫く待っていると、数本の焼き串と二つの果実水の入ったカップを持って、団長さんが戻ってきた。
焼き串と果実水を一つずつ受け取ると、私の隣に団長さんも腰掛けた。
「なんか、屋台で買い物するの慣れてますね」
「昔ヨハンとよく来てたからな」
「そうなんですか?」
驚いたことに、所長と団長さんは若かりし頃は、市場によく遊びに来ていたらしい。
この国って、貴族でも市場に来るの?
そう思って詳しく聞くと、ちょっと裕福な商家の子弟程度の格好で、お忍びで来ていたとのこと。
なるほどねぇ。
「あ、そう言えば、料理いくらでした?」
「気にしなくていい」
「えっ、でも……、ご馳走様です」
何だか申し訳ない気持ちで、言葉尻が小さくなってしまった。
だって、困ったように笑うんだもの。
まぁ今度何かで返せばいいか。
焼き串は塩だけの味付けだったが、いい塩梅で美味しい。
それなりにボリュームがあったが、ぺろっと食べてしまった。
果実水は一口、口に含むと、ふんわりと果実の匂いがした。
少し喉が渇いていたので、これまた美味しい。
これで冷たければ最高なんだけど、氷は贅沢品だからなぁ。
「どうした?」
そんなことを考えながら果実水をじっと見ていたからか、団長さんに怪訝な顔をされた。
「いえ、何でもありません」
「そうか?口に合わなかったんじゃ……」
「違います。ただちょっと、冷たければもっと美味しかったのかなと思って」
「ふむ」
そう言うと、団長さんが私の果実水を手に取った。
どうしたんだろうと見ていると、団長さんが手に持った果実水からふわりと冷気が漂った。
え?何したの?
その果実水を目の前に差し出されたので受け取ると、なんと中に氷がある。
驚いて団長さんを見ると視線で飲むように促された。
一口含んで思う、やっぱり冷たい方が美味しい。
思わずニンマリと笑うと、団長さんの口元も緩んだ。
「美味しいです」
「そうか、良かった」
「何をされたんですか?」
「魔法だ」
「!!」
冷蔵庫も無い、この世界で、氷は冬にできたものを氷室に入れて残しておくか、魔法を使って作り出すしかない。
氷が作り出せる程の魔法を使える者は、ほとんどおらず、それもあって氷は非常に貴重なのだ。
水属性魔法の上位である氷属性魔法ならば作れると聞いたことがあるけど、まさか団長さんが使えるなんて。
氷の騎士様って呼ばれているくらいだから、団長さんが氷属性魔法を使えるのは、巷では有名な話なのかな?
「とても美味しいです。ありがとうございます」
「喜んでもらえて良かった」
冷えた果実水はとても美味しくて、あっという間に飲みきってしまった。
飲み終わって、お礼を言うと、団長さんも笑った。
こうしてみると、とても氷の騎士様って呼ばれるようには見えないんだけどね。
いつも笑ってるし、何かキラキラしてるし。
いや、キラキラは関係ないか。
今日もいつもの騎士服じゃなくて、庶民的な服を着ているというのに、オーラが出てて、とても庶民に見えない。
朝会ったときは庶民っぽいって思ったけど、こうして本物の庶民の中に混じると、違いが分かる。
育ちの違いなのかしら?
果実水を飲んでる姿も綺麗だしね。
うっかり、じっと見つめてしまったせいか、首を傾げられた。
慌てて首を横に振って、何でもないということを伝えて目を逸らした。
お願いだから、そんな優しい目で見ないでください。
いたたまれない気持ちでいっぱいです。
食べ終わった後は、市場から離れ、通りにあるお店を外から眺めながら散策した。
お店に並んでいる物の方が品質が良い物が多いが、お値段もそれなりなので、中に入るのは少しためらわれる。
そうやって、ずっと見るだけだったのだが、あるお店の前で団長さんが立ち止まった。
「すまない。ちょっと寄ってもいいだろうか?」
「かまいませんよ」
今日はずっと私の見たいものばかり見ていたので、少しくらい問題ない。
団長さんに連れられて入ったお店は、庶民の格好でも入れるが、少し高級な小物屋さんだった。
店内には女性用、男性用を問わず、色々な小物が飾られている。
団長さんは一人で奥の方に行ってしまったので、私ものんびり一人で店内を見て回る。
近くに並べられていたのは、髪留めや髪紐で、髪紐は箱の中に綺麗に七色のグラデーションを描くようにしまわれていた。
元々仕事が忙しくて伸ばしっぱなしだった髪は、この世界に喚ばれてからも切ることなく、今では背中の中程まで伸びていた。
少々高いけど、この暑さで丁度アップにしたかったし、髪留めでも買って帰ろうかな?
眺めていると、沢山並んでいる髪留めの中に、すごく好みの物を見つけた。
髪留めはシルバーの金属で出来たもので、透かし彫りに、何箇所かに青い石がはめ込まれた上品な物だった。
華奢な印象の髪留めは、とても綺麗だったのだが、その分お値段も素敵で、ちょっと買うのを躊躇する。
石がはめ込まれてない物なら、もう少し安いかなと思って、探していると、団長さんが戻ってきた。
「待たせたな。何か気に入った物でもあったか?」
「いえ、大丈夫です」
髪留めは気になったが、ちょっと予算オーバーだし、団長さんを待たせるのも悪いので、今日は諦めて、次に来たときにでも探そう。
「それじゃあ、行こうか?」
「はい」
お店を後にする団長さんの後ろについて行く。
少し遅れて外に出ると、当たり前のように手を取られた。
なんだかんだで、ゆっくりしていたら、いい時間になったので、馬車を拾って王宮に戻った。
久しぶりに歩き回ったのと、精神的なもので疲れていたらしい。
がたごとと、それなりの揺れだった馬車だが、いつの間にか寝ていたらしい。
誰かに呼ばれる声でゆっくりと目を開けると、馬車は止まっていた。
ぼんやりと隣の団長さんを見上げると、柔らかに微笑んでいる。
「着きました?」
「ああ。疲れていたみたいだな。よく眠ってた」
やだ、もしかして団長さんを枕にしてた?
じっと団長さんを見ると、団長さんの笑みが益々深くなる。
あぁ、これはアレですね。
確実に枕にしてましたよね。
もしかしなくても、寝顔を見られましたよね。
いたたまれない気持ちで赤くなって俯くと、ふっと噴出す音が聞こえた。
うぅぅ、今日一番ダメージが大きいかもしれない。
そんな私が呻っているのを尻目に、朝と同じ様に団長さんは先に馬車から降りた。
いつまでも馬車に乗っている訳にも行かず、落ち込みながら馬車を降りると、私が降りるときには手を貸してくれた。
門から研究所まで歩いたが、その間は今日の市場や、お店の感想などを話す。
色々あったけど、今日は楽しかったな。
そうしていると、研究所の前に着いたので、団長さんに振り返り、頭を下げる。
「今日は付き合っていただいて、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ楽しかった」
氷の騎士様とか呼ばれてるけど、今日一日、団長さんほんと機嫌良かったよね。
ずっとニコニコしっぱなしだったもの。
もちろん今も。
かなり引っ張り回した感があるのだけど、文句一つ言わずに付き合ってくれて。
何気に良い人だよねぇ。
「私もとても楽しかったです。それじゃあ」
「あ、セイ、これを」
部屋に戻ろうとすると、団長さんに引き止められ、片手に乗る大きさの箱を差し出された。
何だろう?
見ているままなのもなんなので、とりあえず、それを両手で受け取る。
「これは?」
「良かったら使ってくれ。開けるのは部屋に戻ってからにするように。それじゃ」
「えっ?ちょっと。ホーク様!」
私が引き止めるのを無視して、颯爽と団長さんは去っていった。
走って追いかければ良かったんだろうけど、今日はもう疲れてしまって、気力がなかった。
仕方が無い、部屋に戻って開けてみよう。
問題があるようなら、明日返しに行けばいいよね。
気を取り直して、部屋に戻り、箱を開けた。
中から出てきたのは、小物屋に置いてあった、私が気に入った、あの透かし彫りの髪留めだった。