69 それから
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スライムの森で意識を失った後、周りの人達は、それはもう大慌てだったらしい。
幸い、その場に師団長様がいたので、私が意識を失った原因はすぐに判明した。
私が意識を失ったのは、限界までMPを消費し、枯渇させてしまったからだそうだ。
そのため、MPが少し回復したところで、目が覚めた。
気付いたら団長さんに抱えられていたので、物凄く慌てた。
だって、起きたらお姫様抱っこですよ?
慌てるでしょ!
すぐに下ろしてくださいと言ったものの、中々下ろしてもらえなくて困った。
師団長様にまで「心配を掛けた罰ですよ」と麗しい微笑と共に言われてしまえば、あまり強くも言えない。
結局、その後十分くらい、お姫様抱っこで運ばれることになった。
十分で済んだのは、偏に私の精神が持たなかったからだ。
必死にお願いして、下ろしてもらった。
村に戻ると、領都へと向かう準備が整っていた。
残っていた人達が準備してくれていたらしい。
私の我儘のせいでお手伝いできなくて申し訳なかったので、道中の食事の準備は頑張った。
そうして領都に到着し、団長さんや師団長様、そしてレオさんと一緒に、無事に黒い沼の浄化が終わったことを報告した。
レオさんから黒い沼の周辺の様子を聞いた領主様は、やはり少し気落ちしているようだった。
【聖女】の術を使ったので、レオさんが見たときよりも、今は少しはましになっているかもしれない。
けれども、そのことを領主様には言えないので、黙っておいた。
その場にいた、コリンナさんにも同様だ。
とはいえ、黒い沼を浄化したことにより、以前よりも格段に魔物は減った。
それは森を再訪したときにも実感したことだ。
恐らく、この後、コリンナさん自身が実際に森の様子を確認しに行くことだろう。
そのときに、森がどこまで回復しているか、コリンナさんの目で確かめて欲しいと思う。
領主様への報告が終わると、後は王都へと帰るだけだ。
そして、予想通り、領主様から討伐に参加したお礼として、宴席が設けられることになった。
スライムの森近くの村で行った宴とは規模が段違いで、私も遠慮なく準備に参加した。
予想外だったのは、準備にアイラちゃんも参加してくれたことだ。
日本にいた頃は偶に自炊していたらしく、いい戦力になった。
また、日本で食べた料理のことをワイワイと話せたのは、とても楽しかった。
王都に戻ってからも一緒に料理をしようと約束したわ。
王都で流行りの料理も並んだとあって、宴席はとても賑やかなものとなった。
宴の翌々日には王都に帰るということもあり、仲良くなった傭兵さん達にも別れを惜しまれた。
「世話になったね」
「いえ、私の方こそ製薬について色々と教えていただいて、ありがとうございます」
あっという間に二日経ち、クラウスナー領を発つ日が来た。
出発前に団長さんと一緒に領主様に挨拶をしていると、コリンナさんも見送りに来てくれた。
コリンナさんだけではない。
朝早くから色々な人が見送りに来てくれている。
「お前さんがいなくなると、ポーション作りが大変になるねぇ」
「そんなことは……」
「あるに決まってるだろ。あんな阿呆みたいな量を作れるのは、お前さんくらいだよ。同じ量を作るのに、一体何人の薬師が必要だと思ってるんだい?」
「あはははは」
最後の最後までコリンナさんらしい。
苦笑していると、耳を貸すよう手招きされた。
何かと思い、コリンナさんの口元に耳を寄せると、コリンナさんは周りに聞こえないように囁いた。
「ポーションもだが、畑の方も感謝してるんだよ。これでまた色々な薬草が作れる」
「実は、その薬草を王都の研究所でも栽培してみたいんですけど」
「仕方ないね。後で種を送ってやるよ」
「ありがとうございます!」
やった! これで祝福が必要な薬草が栽培できる。
しかも、種まで譲ってもらえるのは、とてもありがたい。
心の中でガッツポーズをしつつ、コリンナさんにお礼を言うと、呆れ混じりの笑顔が返って来た。
コリンナさんとヒソヒソ話をしていると、レオさんもやってきた。
いつも通り、「よう」と片手を上げるので、軽く会釈を返す。
「帰るのか」
「はい」
「気を付けて帰れよ」
「ありがとうございます。レオさんもお元気で」
「おう。まー、王都が嫌になったら戻って来な。あんたなら歓迎だ」
「何言ってるんだい。お前さんのところにやるくらいなら、うちにもらうよ」
王都の研究所を辞める気はないけど、もしも辞めなければいけないときがきたら、蒸留室に転職しようかしら?
そんな風に思ってしまうくらいには、ここでの日々は楽しかった。
コリンナさんとレオさんの掛け合いを聞くのも、これで最後だと思うと少し寂しい。
そう長くクラウスナー領にいた訳ではないけど、すっかりとこの二人にも馴染んでしまったわね。
「セイ、そろそろ」
「分かりました」
そんな風に感慨に耽っていると、団長さんから馬車に乗るように促された。
コリンナさんとレオさんに最後の挨拶をして、馬車に向かった。
馬車に乗って暫くすると、出立の掛け声が聞こえ、そろりと馬車が動き出す。
窓から外を見れば、コリンナさんやレオさん、それから傭兵さん達が手を振るのが見えた。
彼等が見えなくなるまで手を振り返し、クラウスナー領を後にした。