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66 手持ち無沙汰

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「いかがなさいました?」

「いえ……、体格が良いなと思いまして」

「ありがとうございます!」



 見上げるほどに背の高い騎士さんに、思ったことをそのまま伝えれば、満面の笑顔を返された。

 お礼を言われるようなことを言ったつもりはないのだけど、話していた騎士さんを見て、羨ましそうにする騎士さんもちらほら。

 でも、その人達も十分体格がいいのよ。

 レオさんに最初に会ったときも、大きいなぁと思ったけど、今いる騎士さん達も負けていないもの。

 背の高さも、厚みもね。


 厚みといっても脂肪ではなく、筋肉の厚みだ。

 決して細い訳ではない団長さんが、並ぶと華奢に見えるくらい。

 師団長様に至っては、言わずもがな。

 団長さんの言っていた防御力に定評のある人って、筋肉に定評のある人の間違いじゃないかしら?



「あんた、体格のいい奴が好みなのか?」

「えっ?」



 思わず聞き返した。

 声を掛けてきたのは、私を挟んで、騎士さんとは反対隣にいるレオさんだ。



「何ですか、急に」

「随分と騎士様に見惚れてたからさ」

「ち、違いますよ。とても背が高いので、珍しかっただけです」

「そうなのか? 騎士には体格のいい奴なんてゴロゴロいるだろう」

「今日は、その中でも背が高い方ばかりが集まってるなと思って」

「へー」



 本当に筋肉に見惚れていた訳ではありません。

 ただ、日本にいる友人なら、目を輝かせて喜んでくれそうだなって、思ったくらいで。



「何々? 団長、【聖女】様の好みが気になんの?」

「おっ、団長にも遅い春がきたのか?」

「は? 何言ってやがる」

「前から【聖女】様のこと気にしてたもんな~」

「お前ら……。馬鹿言ってないで、ちゃんと周囲を警戒しろ!」

「団長が怒ったー」

「へーい」



 レオさんと話していると、一緒にいる傭兵さん達も会話に混ざってきた。

 会話に混ざるというか、レオさんを茶化していると言う方が正しい。

 傭兵団の人達はとても仲がいいようで、レオさんがこめかみに青筋を浮かべていても、笑いながらハイハイと返事をしていた。


 こんな風に話しながら先に進めるのも、周りが優秀なお陰だ。

 スライムの森に到着してからの道程は、とても順調で、進む速度は前に来たときよりも速い。

 前回よりも人数が多いのも理由の一つだけど、今回は師団長様がいるというのが大きい。



「出たぞ!」

「出ましたね。『アイススピア』」



 先頭にいた傭兵さんが叫ぶと、同じく前に出ていた師団長様が穏やかに応じ、魔法を行使した。

 ウツボカズラによく似た、例の魔物に太い氷の楔が撃ち込まれ、一撃のもとに倒される。

 そう。

 魔物が現れても、師団長様の攻撃であっという間に終わってしまうのだ。

 例えば、他の魔道師さんが数回魔法を当てなければ倒せない魔物を、師団長様なら一回で済んでしまったりする。

 流石である。


 今のところ、危惧していた森への被害もそれほど出ていない。

 魔物から逸れてしまった風属性魔法が、枝を切り落としてしまったとか、その程度の被害が出たくらいだろうか。

 行きの馬車の中でお願いしたからか、師団長様も使う魔法の属性を選んでくれているようだ。



「おー、すげー」

「あれを一撃かよ」



 皆が戦闘体勢を取るまでもなく終わってしまったことに、傭兵さん達から感嘆の声が上がる。

 普段魔法を見慣れていないのもあって、余計にすごく見えるのだろう。

 私も一撃で終わらせるのを最初に見たときは拍手しちゃったもの。

 一方、魔道師さん達は微妙な顔である。



「あの、私達は攻撃しなくてもいいんでしょうか?」

「うん、良くはないんだけどね……」



 することが何もなく、手持無沙汰にしていたアイラちゃんが、眉を八の字にして隣の魔道師さんに話し掛けていた。

 良くはないと言いつつも、魔道師さん達が師団長様を止める感じはしない。

 アイラちゃんと同じように眉を下げて、苦笑いを浮かべるのみだ。

 止めても、止まらないのかもしれない。

 何となく、魔道師さん達の間には諦めの雰囲気が漂っていた。



「普通の討伐だと、こんなに楽はさせてもらえないよね」

「あぁ。だが、師団長が一緒のときは、いつもこんな感じだな」

「そうだなぁ。西の森のときは流石にやばかったけど」

「あのときは師団長もきつそうだったな」

「一人で対応できる数には限りがあるからなぁ。大量に出られるとどうしようもない」

「大量に出ても、あの人ならどうにかしそうだが」

「そうすると、森が丸禿になるな」

「「「あぁ……」」」



 会話が不穏だ。

 魔道師さん達が思い出しているのは、傭兵さん達が言っていた、あの二つ名が付いた討伐のことだろうか?

 どちらにしても森を丸禿にするのは切に止めて欲しい。


 そんな風に進んでいると、休憩を取ることになった。

 そろそろスライムが出てきそうなので、その前に一旦休憩を取ることにしたようだ。

 少しだけ開けた場所に集まり、銘々が休憩を取り始める。

 数人は警戒に当たっていて、その人達は交代で休憩を取るようだ。


 休憩の準備を手伝おうと思っていたら、近くにいた騎士さんが床几を用意し、そこに座るよう勧められた。

 他の人達はまだ準備中なのだけど、先に座ってしまってもいいのだろうか?

 少しだけ躊躇すると、エスコートのために手まで差し伸べられる始末。

 このまま立っていても埒が明かないので、諦めて腰を下ろした。



「ありがとうございます」

「いえ!」

「あの、何か準備を手伝った方が……」

「いえいえ! セイ様はこちらでお休みください! 後は我々がやりますから!」



 座った後に騎士さんに声を掛けると、きびきびと答えてくれる。

 この人、間違いなく第二騎士団の人よね。

 キラキラと目を輝かせている騎士さんを見て、そんなことを思った。


 何か会話でもした方がいいのかしら?

 黙ってここに座っているのも微妙に居心地が悪いし。

 さて、どうしよう……。


 周りを見回すと、団長さんは師団長様や騎士さんと話をしていて、まだ忙しそうだった。

 そんなところに、運よくアイラちゃんが通りかかったので、すかさず声を掛ける。

 アイラちゃんも私と同じように躊躇していたけど、近くにいた魔道師さんにも背中を押されたようで、おずおずと近付いて来た。

 騎士さんがアイラちゃんの分の床几も用意してくれたので、遠慮なく隣に座るようアイラちゃんに勧める。



「お疲れ様」

「お疲れ様です。って言っても、何もしてないんですけど……」

「私もよ。回復魔法もあまり掛ける機会がなかったしね」

「攻撃する機会もありませんでした」

「師団長様がさっさと倒しちゃったしね。流石に優秀よねぇ」

「そうですね」



 アイラちゃんと一緒にいると居心地の悪さも軽減された。

 周りが動いているのに一人だけゆっくりしてるのは、申し訳なく感じてしまうのよね。

 ただ、共犯者がいると後ろめたさが若干減る。

 勝手に共犯者にしてしまって、アイラちゃんには申し訳ないけど。


 クスクスと笑いながら話していると、誰かがこちらに近付いてくる足音が聞こえた。

 音が聞こえた方に視線を向けると、師団長様がこちらに歩いてくるのが見えた。

 噂をすれば影が差したらしい。



「お疲れ様です」

「お疲れ様です」



 団長さんとの話が終わった師団長様も、ここで一緒に休憩を取ることにしたようだ。

 隣に座るのかと思ったら、そんなことはなく、各自で持っている携帯用のカップを渡すように言われた。

 何故だろうと思いつつも、カップを手渡すと、魔法で水を満たしてくれる。



「どうぞ」

「ありがとうございます」



 お礼を言って受け取り、中を見ると、氷が浮かんでいた。

 水属性と氷属性魔法の合わせ技だろうか?

 移動で火照った体には、ありがたい。


 師団長様はアイラちゃんにも同じように水を手渡した。

 アイラちゃんは恐縮した風に受け取り、中を見て、氷が浮かんでいることに驚いていた。

 たかが氷、されど氷。

 この世界では氷は貴重だから、師団長様のようにさらっと渡されると、普通は驚くよね。


 そして、アイラちゃんも私と同じことを考えたらしく、師団長様に氷属性魔法も使ったのかと聞いていた。

 何だか宮廷魔道師っぽい……って、宮廷魔道師だった。



「えっ! 水属性だけなんですか?」

「うん。冷えた状態を想像しながら魔法を使うと、冷えた状態で水を生み出せるからね。その要領で」

「想像するだけで水が氷になるんですか?」

「そうだよ。どこまで冷えるか試してみたら、凍った状態で生み出せたんだよね」



 氷は水属性魔法だけで生み出されたっぽい。

 驚いた様子で質問を繰り返すアイラちゃんに、師団長様が笑いながら答える。

 そして、師団長様がふいにこちらを向いたので、首を傾げると、更に驚くことを言った。



「【聖女】の術を見ていて思い付いたのです」

「【聖女】の術を見て、ですか?」

「はい。同じ術を使っているのに、現れる効果が異なっていましたよね?」



 研究所と西の森で使用したときのことを、師団長様は言っているのだろう。

 師団長様が言うとおり、【聖女】の術を使って、研究所では薬草の効能を高くし、西の森では黒い沼を浄化した。

 確認するように問われた内容に首肯すると、師団長様は笑みを深めた。



「火属性魔法で水を生み出すような、異なり過ぎる現象は実現できませんでしたが、生み出す水の温度を変える程度であれば可能なようです」

「それで、水属性魔法で氷を生み出せたんですか」

「えぇ。ただ、ある程度の魔力操作が必要になりましたけど」



 ここでも出てきた魔力操作。

 万能だな、魔力操作。

 水属性魔法で氷が作れるなら、ジュードやアイラちゃんにも作れるってことかしら?

 師団長様の言う、ある程度(・・・・)の魔力操作が、どの程度のものなのかが謎だけど。


 もっとも、水属性魔法スキルのみを持つ人が氷属性魔法を使えるかは、まだ実験していないそうだ。

 火や水、氷を生みだすなどの単純な魔法であれば、想像することで発現する現象に幅を持たせることができるけど、複雑な魔法になると分からないってことか。


 そんな話をしていると、団長さんもこちらに歩いて来た。

 腕にはいくつかの袋を抱えている。



「「お疲れ様」です」



 互いに労う声が重なり、くすりと笑い合う。

 団長さんは、私の隣に座り、持っていた袋を渡してきた。



「これはクッキーですか?」

「そうだ。この後は休憩できなさそうだから、今のうちに食事を取った方がいいだろう?」

「そうですね。ありがとうございます」



 見覚えがある袋だと思ったら、携帯食として作ったローズマリーとクルミのクッキーだった。

 団長さんはアイラちゃんや師団長様、近くにいた騎士さんにも袋を手渡した。

 師団長様が対面に座ったのを確認して、皆が袋を開け、食べ始める。

 皆に続いて袋を開けると、ローズマリーの香りが微かに広がった。



「これ、セイさんが作ったんですか?」

「えぇ、そうよ。あまり甘くないから、口に合うといいんだけど」

「すごい! いただきます!」



 アイラちゃんはクッキーを一枚摘まんで、口の中に放り込んだ。

 クッキーのサイズは小さめにしたのもあり、アイラちゃんでも一口で食べることができた。

 食べた後に、アイラちゃんが頬を緩ませてくれたので、ちょっとほっとした。



「セイ様が作った物をいただくのも、久しぶりですね」

「私も王都にいたときのようには食べられなかったな」

「ホーク団長もですか? 一緒にこちらにいらっしゃったのに」

「こちらに来てからは二、三度だけだ。城の厨房を頻繁に借りる訳にはいかないからな」

「それもそうですね」



 そんな遣り取りの後、団長さんと師団長さんもクッキーを口に含んだ。

 試食したことのある団長さんは、いつも通り、美味しそうに食べてくれている。

 甘いものが苦手な団長さんはともかく、師団長様の口にも合うかしら?

 師団長様は甘い物が好きだから、物足りないかしら?

 作った者としては反応が気になるわよね。



「いかがですか?」

「甘さが控えめですが、食事と思えば悪くはありませんね。薬草とクルミの香りも、いいアクセントになっていて美味しいと思いますよ」



 師団長様が飲み込んだのを見計らって、声を掛けた。

 心配していたけど、思ったよりも評価が高くて良かった。

 研究者気質だからか、師団長様は感想を言うときに、あまり歯に衣を着せないのよ。


 後で確認したところ、クッキーは他の人達からの評判も良かったようだ。

 今後の討伐にも携帯食として持って行きたいという人が多かったので、王都に戻ってから調整することになった。

 ポーションはともかく、携帯食まで研究所で作る訳にはいかないので、恐らく外部に委託することになると思う。

 王都に戻ったら所長と話してみると、団長さんが言っていた。


 そうして全ての人達が休憩を取り終わった後、再び森の奥へと向かった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


こちらで書くべきではないのかもしれませんが、KADOKAWA様のカスタマーサポートにもご連絡いただいているようなので、こちらでもご報告させてください。

アルファポリス様にて、拙作によく似た作品が投稿されているとのご連絡をいただいております。

この件につきましては、関係各所に連絡済みであることをご報告いたします。

ご心配をおかけしました。

該当作品は投稿者様により削除されたようですので、後は静観したいと思います。


引き続き、「聖女の魔力は万能です」をお楽しみいただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。

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