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 翌朝早く、騎士団と傭兵団の人達と一緒に討伐に向かった。

 今日から私も参加するということで、出発前に領主様の執務室で挨拶を受けた。

 領主様からは色々と貴族らしい物言いで挨拶されたけど、要約すれば、気を付けて行って来てくださいねということだった。

 団長さんからの事前の説明では、初日から飛ばすようなことはないようなので、多分大丈夫なはず。


 その後は団長さんと一緒に騎士団の集合場所に向かい、用意された馬車に乗り込んだ。

 その場には傭兵さん達もいたのだけど、【聖女】だと注目を集めることはなかった。

 宮廷魔道師さん達と同じようなローブを着て、頭からフードを被っていたからだろう。

 一緒に宮廷魔道師さんもいたから、紛れてしまって余計に分からなかったのかもしれない。

 馬車に乗り込んでから程なくして、団長さんの挨拶の後に出発となった。


 いつも通り、いつも通りだ。

 馬車に乗るときに団長さんにエスコートされたのも、輝かんばかりの笑顔を向けられたのも、いつも通りだ。

 ちょっと頬が熱いけど、そのうち冷めるだろう。

 今は討伐に集中しよう。

 馬車の中から過ぎ行く景色を眺めつつ、そんなことを考えていた。



「セイ、あと少しで到着だ」

「あ、ありがとうございます」



 到着間際に馬に騎乗した団長さんが馬車のとこに来て、目的地が近くなったことを教えてくれた。

 目的地は割と近く、到着するまでにかかったのは一時間くらいだ。

 座ったまま腰を伸ばし、脇に置いた鞄を開ける。

 鞄の中に何かあったとき用のナイフや、ポーションが入っていることを確認し終わったら、ちょうど着いたようだ。

 乗り込んだときと同じく、団長さんの手に掴まって馬車から降りる。



「んーーーーー」

「ははっ。疲れたか?」

「いえ、ずっと座りっぱなしだったので体が固まってしまって」



 外に出た解放感で、思いっきり伸びをしてしまった。

 馬車の中で一度伸ばしたくらいでは、解し足りなかったのよ。

 団長さんに笑われてしまって、ちょっと恥ずかしい。



「い、いよいよですね!クラウスナー領の森に入るのは初めてなので、ちょっと楽しみです」

「それは、どんな薬草が生えているか気になってか?」

「はい!って、そうじゃなくて……」

「相変わらずだな。討伐中は難しいが、途中の休憩のときにでも少し見て回ればいい。私も付いて行こう」

「いえ、そんなホーク様のお手を煩わすのは……」



 無理矢理、話題を変えようとしたのがいけなかったのか、うっかり本音が漏れてしまったらしい。

 見事に当てられてしまって、慌てて取り繕うとしたけど無駄だった。

 馬車の中で討伐に集中しようと思ったのは、一体何だったのか。

 クラウスナー領に来てから、以前より接する頻度が高くなったとはいえ、団長さんの前で気が緩み過ぎよね。

 これから森の中に入るというのに、こんな調子で大丈夫かしら?

 自分で自分が、ちょっとだけ心配だ。

 内心頭を抱えていると、誰かが近付いてくるのに気付いた団長さんの雰囲気が変わる。

 団長さんが向いている方に視線をやれば、レオさんが来るのが見えた。



「レオさん?」

「よっ!」



 今日は傭兵団の一部も一緒だと聞いていたけど、団長であるレオさんが来たようだ。

 片手を上げて気安げに挨拶するレオさんを見て、団長さんの目が据わった。

 えーっと、あれかな?

 【聖女】に対する態度がなっていないとか思っているのかしら?

 マナーは大事だと思うけど、個人的には畏まらないでいてもらえる方がありがたいので、あまり目くじらを立てて欲しくはない。

 これは私から団長さんに伝えた方がいいかもしれない。

 二人の間で視線を彷徨わせていると、レオさんは団長さんの方を向いて軽く頭を下げた。



「本日はよろしくお願いいたします」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む。調査したとはいえ、そちらの方が森の中に詳しいだろうからな」

「恐れ入ります。【聖女】様も、よろしくお願いいたします」

「え?」



 突然の【聖女】呼びに目を丸くすると、レオさんがチラリと団長さんに視線をやった。

 あ、もしかして……。



「こちらこそ、よろしくお願いいたします。あまり堅苦しいことは苦手なので、よろしければ以前と同じように接していただけると助かります」

「…………。彼女もこう言っていることだし、構わない」

「ありがとうございます。仰せのままに」



 レオさんって大雑把な感じがするのに、意外にも、ちゃんと人を見ているらしい。

 ナイスアシスト!

 心の中で親指を立てていると、「じゃ、また後で」と言ってレオさんは颯爽と踵を返した。

 切り替え早いなぁ。

 思わず笑って団長さんを見上げれば、団長さんもこちらを見て、目元を和らげた。



「少し休憩したら出発しよう」

「分かりました。あそこでお湯を沸かしてるようですね。お茶を淹れましょうか?」

「いや、従僕が我々の分を用意してくれているようだ。一緒に飲もう」

「分かりました」



 近いとはいえ、それなりの距離を移動してきたので、休憩後に森の中に入るようだ。

 団長さんが言うとおり、従僕さんがお茶を用意してくれた。

 お茶を入れるだけでなく、床几も用意されている。

 床几に腰掛けて、団長さんと話しながら一服し、暫くしたら周りの準備も終わっていたようだ。

 手にしたカップを従僕さんに渡すと、私達の周りの片付けもテキパキと進む。

 そうして、私達が動いたのに合わせて、次々と周りの人達も森の中に入っていった。






 クラウスナー領の森の植生は、一見王都とあまり変わりがないように見えた。

 けれども、よく見れば王都の周りでは見掛けなかった薬草が、そこここに生えている。



「何見てるんだ?」

「見たことのない薬草があるなと思いまして」

「薬草?あんた薬師じゃなかったよな?」

「薬用植物研究所の研究員です」

「【聖女】じゃねーのかよ」

「そうですね。そちらはできれば副業って言いたいです」



 個人的希望を口に出せば、隣を歩いているレオさんがブハッと吹き出した。

 今回も西の森のときと同じように、騎士さん達はいくつかの班に分かれている。

 そのうちの二つの班に傭兵さん達が割り振られ、私がいる班にも傭兵さん達が配備された。

 レオさん以外の傭兵さん達は先頭の方を歩いているのだけど、レオさんだけは私と一緒にいる。

 ちなみに、左隣は団長さんだ。



「おいおい。そんなこと言って、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」



 レオさんは視線で団長さんを指しながら、小声で問いかけてきたけど、恐らく大丈夫だと思いたい。

 うっかり、続けそうになった言葉は飲み込んだ。



「大丈夫だ。問題ない」



 続けて団長さんが、私が飲み込んだ言葉を口に出した。

 噴き出しそうになったのを堪えた私を誰か褒めて欲しい。



「変だな」

「何がですか?」

「予想していたよりも、随分と魔物が少ない」

「あー」



 暫く歩いていると、レオさんが呟いた。

 首を傾げて尋ねれば、王都周辺の森で騎士さん達が言っていたのと同じ理由を言う。

 私自身に実感はないのだけど、王都周辺でも【聖女召喚の儀】が行われてから魔物が減っていたらしいし、クラウスナー領でも同じだったのだろう。

 実際、レオさんの呟きを聞いた団長さんは予想通りだって顔をしている。



「やはり減っているか?」

「えぇ。騎士団が減らしているとは聞いていましたが、それにしても少ないですね」

「王都でも似たような感じだった」

「へぇ」



 レオさんは、団長さんに対しては今まで通り貴族様用の態度で接するようだ。

 あくまで、【聖女】()からお願いされたから砕けた態度で接していますという姿勢を取るのだろう。

 じゃないと、口さがない人達に色々言われてしまうかもしれないしね。


 そういえば、最初に行った王都南にあるサウルの森でもこんな感じだったな。

 森に入っても、全然魔物が出なかったのよね。

 この森の方が魔物が強いと言われるだけあって、全く魔物に出会わないという訳ではなく、何回かは遭遇している。

 けれども、レオさんや団長さんが考えるよりも、よっぽど少ない頻度だったようだ。

 もちろん、その理由も分かっているわ。

 だから、二人して私を見つめるのは止めていただきたい。

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