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53 恋愛:Lv.1.5?

ブクマ&評価ありがとうございます!


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

お陰様で、150,000pt&ブックマーク登録数60,000件を突破しました!

こうしてみると、すごいですよね……。

自分のことなのですが、どこか実感がありません……。

投稿を始めた頃は、まさかここまで読んでいただけるとは思いませんでした。

こんなにすごいことを達成できたのも、読んでくださる皆様のお陰だと感謝しております。

今後ともお読みいただけると幸いです。

ありがとうございます!


 城の中、驚いた顔の侍女さんを横目に、この先にある騎士団の待機所へと駆ける。

 これほど全力で走ったのはいつ以来だろうか?

 元の世界にいたときよりも速度は出ている気がする。

 今ならオリンピックに出れるかもしれない。

 そんなことを考えながらも、足を懸命に動かす。

 別のことを考えている場合じゃないだろうとも思うのだけど、そうしていないと気ばかり焦ってしまうのだ。


 先程聞いた傭兵さん達の言葉を思い出す。

 騎士団の方が被害が酷いって言っていたけど、どれくらい被害を受けたのだろうか?

 王都で討伐に参加したこともあるし、その際に騎士さん達が怪我をしていたのも見ている。

 あのときと被害が同じくらいなら、まだいい。

 同行している宮廷魔道師団の人達でも十分に治せるもの。

 けれども、傭兵団よりも大きな被害を受けているってことは、いつもより怪我人が多いはずだ。

 いつもは、さっきの傭兵団よりも怪我人が少ないもの。


 彼は無事なのだろうか?


 ふと浮かんだ考えに、きゅっと唇を結ぶ。

 どんな状態であってもいい、生きていてくれれば。

 そしたら、全力で治すもの。

 決意を新たにして、騎士団の待機所へと向かった。



「セイ!!!」



 待機所が見えると共に、そこにぞろぞろと騎士さん達が戻って来ているのも見えた。

 やはり怪我人が多い。

 他の人の肩を借りて歩いている人の数も、傭兵団よりも多かった。

 思わず眉間に皺が寄る。


 待機所の入り口は怪我人で混雑していた。

 傍まで近付くと、その中の一人が私に気付き、声を上げた。

 その声に周りの騎士さん達も、こちらを向く。

 皆一様に、疲れた表情だったのが安堵したものに変わる。



「大丈夫ですか?」

「あぁ、ご覧のとおりだが死者はいない」



 その言葉に私もほっとする。



「中で治療をしているんだが……」

「手伝います!」

「すまない、助かる」



 騎士さんの声を遮って宣言すれば、申し訳なさそうな表情でお礼を言われた。

 いやいや。

 薬師の聖地に興味があったからとはいえ、討伐に一緒に来ているのだ。

 私も治療に加わるのは当然のこと。

 そんな申し訳なさそうに、お願いされることではない。

 だから、騎士さんに笑顔を返した。


 入り口は混雑していたけど、私が通るのに気付いた人達が次々に道を開けてくれる。

 広間に入れば、中も入り口に負けず劣らず混雑していた。

 広間の奥には宮廷魔道師さん達が椅子に座り、その前に怪我人が並んでいる。

 軽症者を治療しているようだ。

 その両脇、壁に沿って重傷者が座り込んだり、横になったりしている。

 その人達の間を別の魔道師さん達が歩き、順番に回復魔法を掛けていた。


 さて、団長さんはどこだろうか?

 何をするにしても、最初に状況を確認して、どう動くのかを相談した方がいいわよね。

 そう思って周りを見回したけど、見慣れた金髪が見当たらない。

 まだ戻って来ていないのだろうか?

 それとも……。

 姿が見えないこともあり、胸に重苦しいものが広がる。

 いや、さっき騎士さんが言っていたじゃない。

 死者はいないって。

 頭を振って嫌な考えを振り払った。


 団長さんを探して、きょろきょろしていると、ふと目が合った騎士さんがこちらに向かって手招きをした。

 見れば、そこに人垣ができている。

 あの中に団長さんがいるのかもしれない。

 早歩きで向かえば、人垣の隙間から椅子に座っている団長さんの姿が見えた。

 どうしたのだろう?

 何だかぐったりとしているようで、俯いているため、表情が分からない。



「ホークさ……」



 声を掛けようとして、固まった。

 従僕さんらしき人が白い布を団長さんの頭に当てていたからだ。

 くすんだ赤い色が白い布に滲んでいるのが、僅かに見えた。

 頭に怪我をしたのだろうか?

 ……頭!?

 スーッと顔から血の気が引いた。


 頭の怪我はまずい。

 早く治療しないと!

 そう思った瞬間、覚えのある感覚が胸の辺りから滲み出るのを感じた。



「これはっ!」

「セイっ!」



 えっ!? なんで?

 訳も分からず慌てたものの、私の中から溢れ出す魔力は止まらない。

 フワリと辺りに白と金色の魔力が漂い、次第に広間を埋めていく。

 周りに漂う魔力に気付いた騎士さん達も騒ぎ出した。

 あぁ、どうしよう。

 いや、とにかく……。

 混乱しそうな思考を一旦打ち切り、当初の目的を思い出す。

 そう、治療だ。

 治療しなければ。

 そう思った瞬間に、術が発動し、広間に充満した魔力が反応した。


 いつもより強い光が溢れ、視界が白一色に染まる。

 そうして光が治まれば、期待した通り、広間にいる人達の怪我は治っていた。

 それは視界が元に戻った後に上がった、大きな歓声が表していた。



「セイ?」

「あっ……。ホーク様、大丈夫ですか?」

「あぁ、私はそう大した怪我はしていない」

「大した怪我じゃないって……、頭を怪我されていたのにですか?」

「大丈夫だ。血のせいで大げさに見えただけだろう」



 突然の術の発動に呆けてしまったけど、団長さんに声を掛けられて、はっと我に返った。

 もちろん、今の術で団長さんの怪我も治ったようだ。

 従僕さんが団長さんの頭から手を放しているけど、血が流れたりはしていなかった。

 そのことに、ほっと一息ついた。



「ところで、今の術はもしかして……」

「はい……」



 皆まで言われなくても分かる。

 今の術が【聖女】の術だったのかどうかと聞きたかったのだろう。

 団長さんの言葉の途中で頷く。


 それにしても、何故今のタイミングで【聖女】の術が発動できたのだろう?

 回復魔法を使うときのように、意図して魔力を体の外に広げた訳ではないのよね。

 何かきっかけがあったんだとは思うんだけど……。


 色々と考えて、そういえばと【薬師様】の日記に書いてあったことを思い出す。

 確か、【薬師様】が初めて【聖女】の術を発動させたときは、弟だかの病状が悪化してて焦ってたはず。

 焦りがきっかけ?


 今回の件と共通しているといえば共通しているかもしれない。

 団長さんが怪我しているのを見て、気が動転したもの。

 今回だけではなく、前回の西の森で術が発動したときもそうだ。


 でも、その前の研究所のときとは状況が少し異なる。

 あのときも、中々ポーションの効果を高める方法が見つからなくて焦っていたのは確かだ。

 けれども、あの程度の焦りで術が発動できるなら、宮廷魔道師団の演習場で発動できててもいいはず。

 横に並んでいた師団長様からのプレッシャーは半端なものじゃなかった。

 充分焦ってたと思う。

 それでも発動しなかったのよね。

 焦りじゃないとすれば、一体何が……。



「……イ。セイ?」



 呼び掛けられる声に、ふっと意識が浮上する。

 つい考え込んでしまっていたようだ。

 何度か呼び掛けたのに反応がなかったせいか、心配そうな団長さんと目があった。



「すみません、少し考え事をしてて」

「そうか。【聖女】の術についてか?」

「はい。どうして発動できたのかと……」

「ふむ……」



 私の言葉を聞いて、団長さんが顎に手を当て、考え込む。

 周りにいる騎士さん達も話が聞こえていたらしく、一緒に考えてくれた。

 こうやって協力してもらえるのは、とてもありがたい。

 他の人の意見を聞くことで、新しい考えが浮かぶこともあるしね。

 皆であーでもない、こーでもないと意見を出し合っていると、何だか仲間って感じがする。


 仲間……、仲間かぁ。

 思い返せば、研究所で初めて【聖女】の術が発動したときも、研究所や第三騎士団の人達のことを考えていた。

 もしかして、仲間のことを考えていたのがきっかけだったのだろうか?

 んー、きっかけとしては少し弱い?

 でも、遠からず当たっているような気もする。

 研究所のときは確か……。


 初めて術を発動させたときに考えていたことを、できるかぎり思い出しながらなぞっていけば、あるところで変化が訪れた。

 胸元で何かがもやっと動いたのだ。

 一瞬驚いて、思考を止めると、その動きも落ち着いた。

 思わず眉間に皺が寄る。



「セイ、どうした?」

「あ……、いえ、何でもありません」



 私の表情を見て、団長さんが声を掛けてくれたけど、正直に話すことはできなかった。

 うっ……。

 そんなに見つめられても、話せる訳がない。

 だって、だって……。

 団長さんのことを考えたら術が発動しましたなんて、どうやって言えとっ!?

 恥ずかし過ぎて無理! 無理だからっ!


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