06 休日
ブクマ&評価ありがとうございます。
すみません。
予定より一日空いてしまいました。
朝起きて、歯を磨き、顔を洗って、化粧品で整える。
日本にいた頃と変わらないルーチンワーク。
変わったことと言えば、化粧品を自分で作るようになったことくらい。
幸い、ここは薬用植物研究所。
化粧品を手作りするための器具や施設、おまけに材料も使いたい放題だったりする。
しかも、化粧品を作る際、製薬スキルが影響するらしく、出来上がる化粧品は高性能だ。
こちらの世界では深夜残業なんてものは無く、規則正しい生活を送っているおかげもあって、長年目の下に居座っていたクマもすっきり、さっぱり消え、肌も髪の毛もぷるツヤになった。
日本にいた頃は一日中、毎晩深夜遅くまで働いていたせいで、美容とかおしゃれとかに縁遠く、立派な喪女だったけど、あまりの変化に最近では鏡を見るのがちょっと楽しい。
私と一緒に召喚された荷物の中にあった、小さな手鏡を見ながらニマニマする。
とはいえ、ノーメイクなのは相も変わらず。
基礎化粧品は作れたけど、メイクアップ系の化粧品は作り方を覚えていなかったのもあって作れなかったのよね。
塗りたくるのはあまり好きではなかったから、別にいいっちゃいいんだけど。
ひとしきり眺めて満足したところで、着替える。
今日は休みなのもあって、少しのんびりしていたら、結構いい時間になっていた。
さて、何をしようか?
「『ステータス』」
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小鳥遊 聖 Lv.55/聖女
HP:4,867/4,867
MP:6,067/6,067
戦闘スキル:
聖属性魔法:Lv.∞
生産スキル:
製薬 :Lv.30
料理 :Lv.8
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とりあえず、現状確認。
製薬も料理も上がったなぁ。
料理はこのまま作り続ければまだまだ上がりそうだけれど、製薬スキルに関しては最近は上級HPポーションでも上がり難くなってきたのよね。
上級HPポーションの上って、何作ればいいんだろう?
研究所にも薬草や、薬に関する本はあるけど、上級HPポーションより効果の高いポーションなんて見たことないのよね。
王宮の図書室に行けば載ってる本があるかしら?
せっかくの休みに結局仕事に関することをしているなんて、相変わらずの
街に出かけて買い物という手もあるけど、王宮から出たことが無いから気軽に行きにくいのもあるし。
誰か一緒だったら別なんだろうけど……。
まぁいいか。
今日は王宮の図書室に篭って、本を読もう。
「あれ?セイ、出掛けるの?」
三階の自室から一階に降りたところでジュードに声をかけられた。
彼は今日は休みではなく、お仕事中だ。
丁度倉庫から薬草を持って研究室に入るところだったようで、両手に抱えている箱の中には、こんもりと薬草が入っている。
「うん、王宮の図書室に行こうと思って」
「そっか、今日休みだったっけ?」
「そうよ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
ジュードに見送られながら研究所を出て、王宮に向かって歩く。
三十分かかるけど、これもいい運動よね。
日頃、研究所に引き篭もっているのもあって運動不足ではあるから、たまにはこうやって歩かないとね。
面倒だけど……。
暫く歩くと王宮に着き、中に入る。
図書室までは仕事の関係で何度か行ったこともあるので道に迷うことは無い。
道すがら王宮の廊下に飾られている壷や絵画などを見ていると、図書室まではあっという間だ。
入り口の扉を開いて中に入ると、本を守るために窓が少なく、中は薄暗い。
仄かな明かりを手がかりに、書棚に収められている本を見て、お目当ての本を探す。
数冊手にしたところで、手近な席に座り、本を開く。
書かれている文字は、もちろん日本語ではないが、召喚の影響か、書かれている内容は分かる。
脳内では日本語なので、とても不思議な感じ。
どれくらいの時間が経ったのか、席と書棚の間を何往復かした頃、入り口の扉がキィと鳴り、開いた。
王宮で働いている人間は利用できる場所なので、誰かが来ることは珍しくない。
いつもの文官さん達かと思い視線をやると、入ってきたのは豪奢なドレスを着た、目の覚めるような美少女だった。
綺麗に巻かれハーフアップにされた金髪、つり目がちの碧い目。
どこからどう見ても貴族のご令嬢。
それも高位の。
王宮にご令嬢がいてもおかしくは無いが、図書室に来るのは珍しい。
眼福とばかりに、がっつりと見つめていたせいか、こちらにも気付かれた。
日本人の性で、思わずぺこりと頭を下げると、素敵な微笑が返ってきた。
これ以上見つめてるのも失礼だろうと、それを合図に手元の本に視線を戻す。
少しすると、正面の席に本が置かれた。
顔を上げると先程のご令嬢で、今度はこちらを向かずに本を読み出した。
他にも席はあるのに、何故ここにとは思わないでもなかったが、気にせず手元の本を読む。
手元にある全ての本を読み終わると、丁度三時を知らせる鐘の音が聞こえた。
結構長いこと図書室にいた気がする。
そろそろ戻るかと思って立ち上がると、ご令嬢から「あの」と声がかけられた。
「はい?」
「そちらの本なのですが……」
どうやら、片付けようと手に持っていた本の一冊が、ご令嬢が読みたい本だったらしい。
読み終わった後なので、そちらを渡すと、手に持っていた他の本を見て、驚かれた。
「難しい本をお読みなのね。研究所の方かしら?」
「はい」
「流石ですわね。こちらの本は古語で書かれているから、
何かしらの能力で、書かれている言語に係らず読めてしまうので、さっぱり気付かなかったが、手元の一冊は古語で書かれた物だったようだ。
難しいと言われても実感がわかないため曖昧に笑ってごまかす。
「貴女様も薬草にご興味がおありなのですか?」
「そうですわね」
ひどく怪しい敬語で問うと、彼女も曖昧に微笑む。
うーん、敬語がまずかったか、それとも質問の内容がまずかったのか。
判断は付かないけど、これ以上お邪魔するのも悪いかなと思い、適当に切り上げることにした。
「もしご興味がおありなら、薬用植物研究所にいらしてください。薬草園には現物もありますし。私は研究員のセイと申します」
「ありがとうございます。申し遅れましたわ。私はエリザベス・アシュレイですわ」
「それでは、私はそろそろ研究所に戻ります」
「ごきげんよう」
本を書棚に戻し、図書室を出るとむわっと、暑さを感じた。
そろそろ夏だなぁ。
図書室の中は何かしらの方法で温度調整がされていたのか、廊下よりは気温が低かった。
はたはたと胸元を仰ぎながら研究所までの道を歩いていると、後ろから馬が駆ける音がした。
振り返ると、馬の集団がこちらに向かってきていた。
乗っているのは騎士っぽいが、先頭の人物がどうも知っている人のような気がする。
「セイ!」
「あ、こんにちは」
先頭の人物は第三騎士団の団長さんだった。
と言うことは、後ろから来た皆さんは第三騎士団の方々なんだろうか?
騎士服を着ているって事はそうなんだろうな。
「研究所に帰るところか?」
「はい」
「良ければ乗せて行こう」
「あー、ありがたいんですけど……、馬に乗ったことがないので……」
研究所まではまだ距離がある。
申し出は大変ありがたいのだけど、馬にどうやって乗ったらいいかが分からない。
困って見上げると、「つかまって」と言われて手を差し出された。
おずおずと団長さんの手につかまると、あっという間に馬上まで持ち上げられ、団長さんの前に座らされた。
馬の上と言うのは視線が高くて、ちょっと怖い。
「それじゃあ、行こうか」
団長さんはそういうと、手綱を操り、ゆっくりと馬が進みだす。
おっかなびっくり、鞍につかまっていると、密やかに笑う声が聞こえ、後ろから腰に腕が回された。
「大丈夫、ちゃんと支えているから」
「す、すみません」
何、この密着度。
背中に他人の体温を感じるなんて初めてかも。
彼氏いない暦=年齢の喪女に、この密着度はきつい。
不可抗力とはいえ、まるで後ろから抱きしめられてるみたいだと思うと、恥ずかしくて耳が熱くなる。
「今日は休みだったのか?」
「は、はい、そうです」
「それなのに王宮に行ってたのか?」
「えぇ、薬草のことで、ちょっと気になることがありまして、図書室で調べ物をしてました」
一人どきどきしていると、団長さんに話しかけられた。
話す度に背中から声が響いて伝わる。
心の中でうわーっと転げまわりながらも、返答していると少しずつ落ち着いてくる。
図書室で調べ物をしていたと伝えると、案の定、休みの日にまで仕事してたのかと呆れられたが、趣味なんですと言い張った。
そんな感じで雑談していると、騎士団の隊舎と研究室への分岐路に差し掛かる。
団長さんは後ろにいる騎士さん達に、私を研究室まで送って行くと伝えると、彼らと分岐路で別れた。
ここで下してくれても良かったのにと言うと、大した距離じゃないから最後まで送って行くと言われ、結局研究室の前まで送ってもらった。
こんな感じで、私の休日は過ぎていった。
別キャラ視点の小話を入れようかどうしようか、悩ましい……。