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47 進捗報告会議

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 騎士団が借りている部屋に到着した。

 部屋と聞いていたけど、実際にはお城の敷地内にある二階建ての離れを丸々使っているようだ。

 団長さんの話によれば、王宮の騎士団が遠征する際にいつも使われている場所らしい。


 離れの一階は騎士さん達の待機所となっているようで、入り口を入ってすぐに広間となっていた。

 広間には長机と椅子が置かれ、地図を見ながら何やら話し合っている騎士さん達の姿が見える。

 皆顔見知りのため、団長さんと私が入ってきたのに気付くと、軽く手を上げて挨拶をしてくれた。


 団長さんの後について、広間を通り過ぎ、奥の階段を上る。

 二階はいくつかの部屋に別れていた。

 そのうちの一つを、団長さんの執務室として使っているのだそうだ。


 執務室の中には、王宮の隊舎と同じように、執務机と応接セットが置かれていた。

 促されて、応接セットに団長さんと向かい合わせに座る。



「早速だが、本題に入りたい」

「はい」



 前置いてから、団長さんは騎士団の現状や、調査結果について話し始めた。

 騎士さん達はいくつかの班に別れて活動しているらしい。

 それぞれの班が東西南北に散らばって、交代で領都周辺を調査しているんだそうだ。

 先程一階にいた面々は丁度調査から戻ってきたところだったようだ。


 周辺の調査と同時に、騎士さん達は遭遇した魔物の討伐も行っている。

 報告によれば、以前の王都周辺と同じくらい魔物が多いように感じるとか。

 調査が終了すれば、本格的に魔物の討伐が始まるだろうけど、落ち着くまで時間が掛かるかな。

 団長さんも同じ考えのようだ。



「問題が沈静化するまでには少し時間が掛かるだろう。なるべく早く王都に戻してはやりたいのだが……」

「私なら大丈夫ですよ。蒸留室で薬草の勉強もできますし」

「そうか」



 申し訳なさそうな団長さんに、蒸留室のことを告げれば、ほっとした表情になった。

 その後に微笑んだのは、道すがら話していたことを思い出したからかもしれない。

 すみません、ポーションに夢中で。

 そこでふと思いついたことがあったので、口にしてみた。



「調査中に魔物に遭遇することもあるなら、ポーションを使いますよね?」

「そうだな」

「ポーションの補充はどうされますか?」

「王都からも持って来たが、足りなくなったらこの街で購入する予定だ」

「もしよければ、私が作りましょうか?」

「セイが?」

「はい。もちろん材料を用意してもらう必要はありますが、ポーションよりも薬草を買う方が安くつくと思いますし」

「それはそうだが、ポーションを作るなら設備が必要では?」

「蒸留室で作らせてもらえないか、領主様に確認してみようかと思っています」

「なるほど。ならば蒸留室の使用許可については私が確認しよう」

「お願いします」



 今はまだ調査を行っているだけだから、ポーションの消費量も少ない。

 しかし、本格的な討伐が始まれば、消費量はぐんと多くなるだろう。

 今回同道した騎士団の規模を考えると、補給しなければならないポーションの数は少なくはないと思う。


 街で売られているポーションがどのようなレシピで作られているのかは分からない。

 通常のレシピどおりに作られているのだとすれば、秘伝のレシピで作る方が使用する薬草の量も抑えられる。

 薬草の産地とはいえ、この街でも薬草は不足しているので、私が作ることで節約できるのであれば、その方がいいと考えたのだ。

 団長さんにも言ったけど、経費のことを考えても、その方がいいように思えるしね。


 個人的なことを言えば、騎士団への補給を理由に、気兼ねなく秘伝のレシピの練習ができるというのもある。

 コリンナさんに許可を取っているとはいえ、私が練習で作るポーションの数は多い。

 実はまだ手加減して作っている部分もある。

 かつての研究室と同じようにポーションを溢れさせてしまうのではないかと、ちょっと心配だったのよね。

 傭兵団に続き、騎士団へも卸すことになれば、もう少し作っても大丈夫だろう。



「話は戻りますけど、調査の後は討伐を行うんですよね?」

「その予定だ」

「討伐は騎士団と傭兵団の方々の合同で行うんですか?」



 傭兵団のことを思い出したので、討伐について確認すれば、団長さんの表情が微妙なものとなった。

 どうしたのだろう?

 確認すれば、暫く悩んだ後、歯切れが悪いながらも教えてくれた。


 クラウスナー領に到着した日、私が部屋で休んでいる間に、この地の魔物の状況について団長さん達が話したとは聞いていた。

 そのときに団長さんは、領地で雇用している傭兵団の人達と顔合わせをしたのだけど、あまりいい雰囲気ではなかったそうだ。


 クラウスナー領を守る傭兵団といえば、屈強なことで知られており、これまで騎士団への支援要請が来たことはほとんどなかったらしい。

 ただ、今回ばかりは領地の主要産業に影響が出たため、騎士団の支援を受け入れることになった。

 雇われているとはいえ、傭兵団としては、今までこの地を守ってきたことに誇りを持っていたのだろう。

 顔合わせの際にも、領主様に言われたから渋々受け入れたという雰囲気だったそうだ。

 そういう背景もあり、団長さんとしては合同で討伐を行うにしても、人員を混ぜるのではなく、担当区域を分けて行うことにする予定なのだそうだ。


 領主様と一緒に団長さんと顔合わせをした人って、恐らくレオンハルトさんだよね。

 蒸留室で会ったときに、傭兵団を取り纏めているって言っていたし。

 あのときは、王都から来た人間と確執があるような雰囲気ではなかったんだけどな。

 もしかして、私が王都から来たって知らないとか?

 そういえば、結局名前しか伝えていなかったような気がする。



「どうした?」

「ホーク様がお会いしたのって、レオンハルトさんですか?」

「そうだが、知っているのか?」

「今朝蒸留室にポーションを受け取りに来られて、そのときにお会いしたんです」

「何か言われたりしなかったか?」

「いえ、何も」



 レオンハルトさんは私のことをコリンナさんの弟子だと思っているので、団長さんが心配するようなことはない。

 今後、私が騎士団と一緒に王都から来たってばれたときには分からないけど。

 けれども、あまり心配はしていない。

 今日の傭兵団の人達の様子から、元々気のいい人達だと思うしね。

 最初は蟠りがあったとしても、何だかんだで打ち解けてしまいそう。

 そういう風に思うのは、少し楽観的過ぎるかな?



「レオンハルトさんについては大丈夫だと思います。それよりも、討伐ですけど」

「ああ。明日もまだ調査を続ける予定だ。討伐の日程が決まったら、また連絡する」

「分かりました」



 私の出番はまだないのか。

 ならば、今少し蒸留室で勉強させてもらおう。

 そうそう、コリンナさんにも騎士団へポーションを卸すかもしれないことを伝えておいた方がいいわよね。

 今後の予定を脳内で組み立て、団長さんとの話も終わったので、私は自室に戻ることにした。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

書籍の一巻が発売され、今日で一年が経ちました。

ここまで続けてこれたのも、応援してくださる皆様のお陰です。


2/5に発売されたコミックですが、お陰様で重版が決まりました。

お買い上げくださった皆様、ありがとうございます!

コミックを読み、小説にも興味を持ってくださった方もいらっしゃるようですね。

ありがとうございます。

小説の方も楽しんでいただけたなら幸いです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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