46 既視感
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前略、友へ。
貴女が今ここにいればと、これほど思ったことはありません。
ここは貴女にとってきっと天国でしょう。
こちらに駆け寄ってくるレオンハルトさんの後方を見遣り、かつての友人を思い出した。
若干遠い目をしてしまったのは許して欲しい。
ちょっと昔を思い出していたのよ。
彼の友人は、非常に筋肉を愛していた。
それはもう、言葉に表せないくらいに……。
討伐からの帰りなのか、レオンハルトさんの後ろには多くのお仲間がいらっしゃった。
傭兵団を取り纏めているって話していたから、恐らくその傭兵団の方々なんだろう。
レオンハルトさんも立派な体躯をお持ちだが、後ろの方々も負けてはいない。
なんて言うんだったっけ。
ゴリマッチョっというやつだろうか。
そんな体型の方々ばかりである。
今この場に友人がいれば、隣でガッツポーズをしていただろう。
間違いなく。
そんな益体もないことを考えていると、レオンハルトさんが私達の元に到着した。
近くに来るなり、かなり興奮した様子で話し出す。
「ばーさん、今朝もらったポーション、新しいやつだったのか?」
「急になんだい?」
「今日もらったやつ、いつもよりかなり効果が高かったぞ!」
「そうかい、そりゃ良かったじゃないか」
「良かったじゃないかって……。新しいのじゃないのかよ。だったら、あれか? もしかして上級のと間違えたんじゃないのか?」
「このご時勢に、あの量の上級ポーションなんて出せる訳がないだろう」
コリンナさんのそっけない態度に、レオンハルトさんが肩を落とす。
新しいやつというのは、新しい種類のポーションだったのかということだろうか?
今日渡したポーションというと、私が秘伝のレシピの練習で作ったものか。
昨日の夕方に注文を受けて、今朝欲しいって言うから、奥の部屋に保管してある在庫から出したのよね。
話の内容から察するに、五割増しの呪いは今回もいい働きをしたようだ。
「いやいや。あの効果は中級の物とは思えなかったよ」
「そうだ、そうだ」
「下級のもいつもより効果があったしな」
「中級ほどじゃなかった気はするが、もしかしたら同じくらいだったかもな」
畑の中から畑道に移動すると、レオンハルトさんの後ろから来た人達に囲まれた。
彼等も口々にポーションの性能について話す。
この反応。
なんだか既視感を感じる。
「言っただろう? 効果は保証してやるって」
「そういや、ばーさんが作ったんじゃなかったな」
コリンナさんの話を聞いて、レオンハルトさんが私の方を向いた。
つられて他の人達も私に注目する。
そんなに見つめられても困ります。
どうしたものかと悩んでいると、コリンナさんからフォローが飛んできた。
「新しいやつといえば、新しいね。今朝渡したやつは確かに中級HPポーションだが、あれはセイの秘伝のレシピだからねぇ」
「マジか! この年でこんなもの作るなんて、凄いじゃないか!」
「うわっ!」
「レオっ!」
「あ、すまん!」
再び元気を取り戻したレオンハルトさんが、バシバシと私の肩を叩く。
それによろめけば、すかさずコリンナさんの叱責が飛んだ。
うん、もう少し力加減をして欲しいかな。
曖昧な笑顔を返せば、しょんぼりしたレオンハルトさんに「わるかった」と再び謝られた。
しかし、秘伝のレシピか。
実際には、今日渡したポーションはコリンナさんに指示されたとおりの材料しか使っていない。
唯一違うことといえば、ポーションを作る際に注ぐ魔力くらいだろうか。
私の魔力は他の人とは異なるらしいし。
魔力を材料だというのであれば、ある意味、私の秘伝のレシピってことになるのかしら。
けれども、秘伝のレシピは一つ作るのにも多大な労力が必要とされるものだ。
しかも、効果が高いものとなれば尚更。
たかが魔力が違うだけで、それを私の秘伝のレシピだと言ってしまうのは、非常に心苦しい。
だって、それ以外はコリンナさんの実績だもの。
気になって、こっそりとコリンナさん方を窺えば、コリンナさんは片眉を上げて微かに頷いた。
気にするなということだろうか。
申し訳なく思い、レオンハルトさん達に気付かれないように少しだけ頭を下げれば、コリンナさんがニッと口だけで微笑んだ。
「あんた凄いやつだったんだな。これからも、よろしく頼むな!」
「あ、はい」
私とコリンナさんの遣り取りには気付かれなかったようだ。
一頻り、ポーションの話に花を咲かせた後は、何事もなかったように賑やかな一団はお城の方へ向かって行った。
ふぅっと息を吐けば、ポンっとコリンナさんに背中を叩かれた。
横を向けば、コリンナさんがやれやれと言いたそうな顔をしていた。
「それじゃあ、次に行こうかね」
「はい」
コリンナさんに促され、私も次の薬草が生えている場所へと移動することにした。
蒸留室での作業が一段落した後、周りの人達に挨拶をしてから廊下に出た。
間借りしている部屋までの道を歩いていると、向こう側から団長さんが来るのが見えた。
「ホーク様」
「セイ。よかった、探していたんだ」
「私を、ですか?」
話を聞けば、どうやら私を探して蒸留室に向かうところだったらしい。
「何かあったんですか?」
「いや、周辺の調査結果について少し話をしたかったんだ」
「分かりました。それじゃあ……、どこでお話ししましょうか?」
「騎士団が借りている部屋があるから、そちらで話そうか」
「分かりました」
目的地に向かって歩きながら、何となく雑談として近況を話し合った。
私から話すのは蒸留室での出来事についてだ。
薬師の聖地と呼ばれるだけあって、コリンナさん以外の人達から聞く話も、とても勉強になるものが多い。
クラウスナー様から【聖女】だと紹介されたせいで、最初は一定の距離を置かれていたのだけど、私がコリンナさんにあれこれ質問をしている間に慣れたらしい。
いや、慣れたというより、あれは薬用植物研究所の話を聞きたくて我慢できなくなったという方が正しいかもしれない。
最初に話しかけてきた人の雰囲気が、魔法について語るときの師団長様にそっくりだったのよね。
そして、それは彼女だけではなかった。
聖地と呼ばれるだけあって、ここに集まる人達は皆、製薬狂いとでも言えばいいのか、薬草やポーションに関する話になると目の色を変える人が多かった。
最初の彼女が皮切りとなり、話している間に徐々に輪に加わる人が増えていった。
質問は多岐に亘ったけど、検証中の薬草の効能や、ポーションの新しいレシピについて聞かれることが多かった。
王宮内で発表された研究内容に限って答えたけど、日本と違って情報が伝達される速度が遅いためか、蒸留室の人達にはまだ伝わっていない内容もあったようだ。
そういう情報を伝えると、とても感謝された。
感謝されたのが嬉しくて、何となく料理に使う薬草について話を振ってみると、予想通り食いつかれた。
以前所長に薬膳料理について話したことがあったんだけど、そのときの所長と反応が同じだった。
コリンナさんも興味があるらしく、色々と質問された。
一度食べてみたいとも言われたんだけど、流石に薬膳料理のレシピは覚えていない。
なので、王都で作った料理と、使用した薬草の効能についてだけ話をした。
それだけでも、蒸留室の人達にとっては興味深い話だったようだ。
そうして、あれやこれやと質問されるのに答えているうちに、すっかり蒸留室の人達と仲良くなってしまったのよね。
もちろん、こちらからも質問させてもらったわ。
秘伝のレシピをはじめ、私の研究に役に立ちそうな知識を他にも沢山仕入れることができた。
感謝、感謝だ。
「蒸留室ではいい経験が積めているようだな」
「え? はい、そうですね」
「楽しそうで良かった」
「あ、いえ、その……」
ふっと噴き出す音が聞こえたので隣を見上げれば、優しくこちらを見ている団長さんと視線があった。
蒸留室の話をしている間に、ついつい熱が入ってしまったらしい。
専門外の団長さんに、薬草やらポーションやらの専門的な話をしてしまっていたようだ。
その事実に気付いて、ちょっと恥ずかしい。
ほんのりと頬に熱が集まる。
思わず俯けば、再び隣から忍び笑いの声が耳に届いた。
コミックが明日発売となります!
既に店頭に並んでいるお店もあるようですね。
お買い上げくださった皆様、ありがとうございます。
コミックにも特典が付くようです。
アニメイト様、ゲーマーズ様、とらのあな様、メロンブックス様、三洋堂様、WonderGOO様で先着順で配布しております。
遅くなりましたが詳細を活動報告に載せましたので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。