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37 落着?

ブクマ&評価ありがとうございます!


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

お陰様で2巻の売れ行きも好調で、重版することになりました!

ご購入いただいた皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

本当にありがとうございました!

お話はまだまだ続きますので、今後ともよろしくお願いいたします。


 第一王子の発言に、あたり一面がしんと静まり返った。

 周りの人達の顔を見れば、皆一様に同じ表情をしている。

 恐らく、心の中で思っていることは一つだろう。

 皆、「お前は何を言ってるんだ」と思っているに違いない。


 そんな周りの様子など、第一王子の目には入っていないらしい。

 誰もつっこまないことをいいことに、第一王子は自分の見解を続けて述べた。



「【聖女】の召喚に成功したとはいえ、アイラはまだ討伐に慣れる必要がある。だが、そろそろ【聖女】を討伐に参加させろという声も大きくなっているのは知っている。大方その声に応えるために、騎士団の功績を偽の【聖女】のものとし、表向き【聖女】が討伐に参加している風を装ったのだろう?」

「殿下はご自分が何を言っているのかご理解していらっしゃるのですか?」



 あ、リズがキレた。

 リズのただならぬ雰囲気に、第一王子の後ろに立っていた男子達もギョッとしている。

 リズ、怒ってくれてありがとう。

 私もちょっとブン殴りたくなったわ。

 私を偽者だって言うのは別にいい。

 できれば、私も一般人でいたいし。

 でも、こんな人通りの多いところで、仮にも将来上に立つであろう人間が【聖女】の活躍はプロパガンダだって言っちゃうのはどうなの?

 もし本当にそうだったとしたら、今の一言で全て台無しなんだけど。

 明日には真相として偽【聖女】の話が王宮内に駆け巡っているんじゃないかしら。


 第一王子のあんまりな様子に眩暈を覚えていると、ふと愛良ちゃんと目が合った。

 私を認識した愛良ちゃんの目が大きく見開かれる。

 どうしたのかしら?

 あ、リズも気付いた。

 続いて第一王子も。

 第一王子は誰だこいつって言いたそうな顔をしているわね。



「セイ……」

「えーっと、ごきげんよう?」



 リズに声を掛けられ、今度は私に注目が集まる。

 遠くに見える何人かの文官さん達の顔色がとても悪いのは気のせいではないだろう。

 そうよね、自国の王子が偽者だって言った人間が目の前にいたんだから。

 慌ててどこかに駆け出した人もいる。

 あれは誰か上の人間を呼びに行ったのかな?

 できれば、この状況を収拾できる人を連れてきていただきたい。



「誰だ?」



 第一王子の声に、視線を彼に合わせる。

 誰だって……、覚えてないの?

 答えないとまずいとは思うけど、何となく答えたくない。

 そうは言っても、本当に答えないのは大人気ないので、渋々挨拶をする。



「セイでございます」



 マナーの講義で習ったとおりのお辞儀をし、自己紹介をする。

 必要最低限なのは許して欲しい。

 最低限ではあったけど、第一王子は髪の色から私が噂の【聖女】であることに気付いたようだ。



「お前が噂の偽【聖女】か?」

「……」



 第一王子の質問はスルーして、リズに向き直る。

 第一王子がむっとしたのが伝わったけど、スルースルー。

 これくらい、いいわよね?



「ねぇ、リズ。議論をするなら、どこか部屋を借りた方がいいんじゃない? ここだと目立つし」



 私の一言にリズは困ったような笑顔を浮かべる。

 大方、リズも同じように提案をして第一王子が聞き入れなかったのだろう。

 最初の状況が分からないけど、第一王子はどれだけ頭に血が上っていたのか。

 冷静に考えたら、こんなところで騒ぎを起こしたら色々弊害がありそうだと気付きそうなものなのに。

 取り巻きにしてもそうだ。

 あれ? もしかして、それを狙ってやったんだろうか?



「おい!」



 考え込んでいると、痺れを切らした第一王子の手が私の肩に伸びてきた。

 えーっと、マナーの講義で習った話だと、未婚の女性に男性が軽々しく触れるのはマナー違反じゃなかったっけ?

 王子だから許されると思ってるのかしら?

 ちょっと払い除けてみようかなと思っていたけど、第一王子の手が私に届くことはなかった。

 いつの間にか現れた団長さんによって阻まれたからだ。



「ホーク騎士団長!」



 手を掴まれた第一王子が声を上げるが、団長さんは気にした風もなく、そっと第一王子の手を下ろした。

 そして、そのまま私を庇うように、第一王子と私の間に体を滑り込ませた。

 団長さんの息が少し上がっているのは、かなり急いで来てくれた証拠だろう。

 そんな団長さんに、第一王子はイライラとした視線を向けている。

 少し遅れて、また一人誰かやって来た。



「何を騒いでいる?」

「父上!」



 来たのは国王陛下だった。

 その後ろには宰相様もいる。

 先程の文官さんが呼んで来てくれたのかもしれない。

 これで事態は収拾してくれるかしら?



「この者達が……」

「よい。話は聞いている。こんな人目のあるところで愚かな騒ぎを起こしたものだ」

「父上!」

「しかも【聖女】様に大変な無礼を働いたとか」

「無礼を働いたのは我々ではなくそちらの者達であります」

「ほう。こちらの【聖女】様を偽者呼ばわりしていたと聞いたが?」

「その女は父上達が用意した偽者でありましょう?」

「……何故そう思う」

「【聖女召喚の儀】で喚び出されたのはアイラ一人だったはず」

「こちらのセイ殿もその【聖女召喚の儀】で喚ばれたのだが」

「え?」

「最初に見落としたのはまだ良い。だが、散々文官達から儀式で喚ばれたのは二人だと報告が上がっていただろう。聞いていなかったのか?」

「それは……、しかし……」

「ドレヴェス師団長の鑑定の結果でも、セイ殿が【聖女】であることは間違いないそうだ」



 え? そうなの?

 思わず師団長様を見るが、師団長様は陛下の方を向いてお辞儀をしていて、こちらを見てはくれない。

 あぁ、討伐のときの話から、そういうことになったのかな?

 一人で納得している間に、陛下たちの話は進む。



「師団長だけではない。第三騎士団のホーク団長からも先日の討伐でセイ殿が【聖女】として立派に務めを果たしたと報告が上がっている。無論、一緒に行っていた第二騎士団からもな」

「……」

「お前が【聖女召喚の儀】の統括としてアイラ殿を保護するというのは分かった。では、何故同じように喚び出されたセイ殿を保護せず、あまつさえ偽者扱いする? これまでの実績からセイ殿こそが【聖女】だと皆認めている。翻って、アイラ殿はどうだ? まだ何の実績も挙げていないだろう?」

「それは……」

「実績を考慮しなかったとしても、セイ殿を偽者だと決め付けられる根拠はない。さて、これから先の話は場所を変えて話そうか」



 国王陛下の言葉に第一王子は押し黙る。

 陛下は一瞬残念そうな表情をした後、すぐに表情を戻し、控えていた騎士さん達に第一王子とその取り巻き達をどこかに連れて行くように指示を出した。

 意気消沈した第一王子達は大人しく騎士さん達に従って移動していった。

 周りに集まって様子を見ていた人達も、合わせて持ち場に戻っていくようだ。



「話を聞きたいのでアシュレイ侯爵令嬢も同行していただけるかな?」

「畏まりました」

「セイ殿については、また改めて報告させていただきたい」

「あ、はい」



 どうやら私はここで解放してもらえるらしい。

 陛下は周りに分からないよう、少しだけ申し訳なさそうな表情で目礼だけをして第一王子たちの後を追った。

 その後を宰相様とリズが付いて行く。

 何だか良く分からないうちに終わってしまったけど、これでリズから聞いていた学園の問題は解決するだろうか?

 解決したらいいなと思いつつ、私は団長さんと師団長様と共にその場を後にした。


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