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36 再び

ブクマ&評価ありがとうございます!


いよいよ、明日は2巻の発売日です。

不安と期待が入り混じった感じで、すごくドキドキしますね。


2巻を発売できたのも、応援してくださった皆様のお陰です。

本当にありがとうございます!


「では今日はここまでにしましょう」

「ありがとうございました」



 師団長様の一声で、その日の魔法の講義が終わった。

 討伐以降も講義は受け続けている。

 魔法にしても何にしても、そんなすぐに覚えきれるほど簡単なものじゃないしね。

 いくら興味があるとは言え、私は平凡な頭しか持っていないもの。

 師団長様くらい頭が良ければ、さくっと覚えられるのかもしれないけど。



「今日もこの後は第三騎士団に向かわれるのですか?」

「はい。その予定です」

「よろしければ見学しても?」

「お仕事大丈夫なんですか?」

「少しくらいであれば問題ないでしょう」



 師団長様の微笑みに不穏なものしか感じられないけど、いいんだろうか?

 またインテリ眼鏡様が連れ戻しに来そうな気がする。

 以前もこういう遣り取りの後に師団長様が第三騎士団まで付いて来たことがあるんだけど、そのときもインテリ眼鏡様が迎えに来たのよね。

 あのときは師団長様が見学に夢中になっていて、何かの会議をすっぽかしかけたんだったっけ。

 インテリ眼鏡様だけではなく魔道師さん達も師団長様を捜して王宮中を走り回ったらしい。

 今回もそうなるかはわからないけど、行き先だけは誰かに言付けて、インテリ眼鏡様に伝えてもらおう。

 後で師団長様を回収しやすいように。



「それでは参りましょうか」

「はい」



 にこにこと出発を促す師団長様に頷き、部屋を後にする。

 通りすがりの魔道師さんをちょっと捕まえて、師団長様と一緒に第三騎士団に行くことを伝えると、心得たかのように「副師団長にもお伝えしておきます」と言われた。

 あの人は多分、師団長様捜索隊に駆り出された人ね。


 道すがら、師団長様と魔法について話した。

 魔法といっても、今習っているものではない。

 討伐の時に発動した【聖女】の術についてだ。


 【聖女】の術については、分からないことが多い。

 それは私だけではなく師団長様もで、討伐から帰ってきてから【聖女】の術がどういうものなのか何回か話し合った。

 魔法が発動した後の結果から、あの術が【聖女】の術だっていうのは、お互いに意見が一致してるのよね。

 そこまではいいのだけど、その他の発動方法なんかについては相変わらず不明だったりする。

 発動させた私が分かっていないんだから当然なんだけど。


 西の森で術を発動させることはできたものの、その前段階である金色の魔力の発生条件が分からないのだ。

 あのときも急に魔力が湧き出てきて、そこから術を発動させただけだったし。

 何か特別なことをしていたかと当時のことを思い返してみたけど、特に思い当たる節はない。

 討伐のときは差し迫った状況だったところに、いきなりだったし。


 そうして今日も師団長様と話しながら歩いていると、何やら前方が騒がしいのに気付いた。

 王宮の中庭の一つに面した、壁のない回廊に差し掛かったところだった。

 どうしたんだろう?

 師団長様を見ると、彼も怪訝な顔をしている。



「何かあったんでしょうか?」

「分かりませんが、通り道ですし行ってみましょうか」



 騒ぎの場所に近付くにつれて、文官さんや侍女さん達の数も増えていく。

 皆、騒ぎが気になって集まってきたのだろうか?

 元々この回廊は人通りが多く、人の耳目を集めやすいのよね。

 複数人でいる人達はひそひそと話していたりするのだけど、内容は聞き取れなかった。


 最初は何か騒いでいるなというくらいだった声も、先に進むにつれて男女が言い争っているみたいだと分かるくらいになってきた。

 痴話喧嘩だろうか?

 こんなところで喧嘩するなんて、後で侍女さん達の話のネタにされるのは間違いないわね。

 テレビや雑誌などの娯楽がないせいか、王宮で働いている人達って噂話が好きな人が多いのよ。

 痴話喧嘩なんてネタにされやすい最たるものね。



「くどいっ!」

「ですが、殿下……」



 段々と多くなっていく人達の間をすり抜けていくと、聞いたことのある声が聞こえた。

 あれ? この声って……。

 男女で言い争っているようだったけど、女性の方はよく知っている人の声に似ている。

 少しだけ足を速めて前に進むと、言い争っている人達の姿が見えた。

 やっぱり、リズだ。



「今のままでは彼女のためになりません。どうかお考え直しを」

「彼女のためだと言うが、本当にそうなのか?」

「どういうことでしょうか?」

「お前が先導してアイラを孤立させようとしているという話を聞いているぞ」

「……一体、何の話をされているのですか?」



 何だか会話の内容が不穏だ。

 彼等の周りには人が集まって来ているけど、皆一定の距離から遠巻きに見ている。

 それもそのはず。

 リズと言い争っていたのは、いつか見た赤髪の第一王子だった。

 うん、偉い人の争いには巻き込まれたくはないよね。

 気にはなっても。


 よく見ると、リズといるのは第一王子だけではなかった。

 恐らく、前に話に聞いた取り巻き達だろう。

 第一王子以外にも見たことのある男の子が数人、第一王子の後ろに固まって立っていた。

 そして第一王子の横には、およそ一年振りに目にした同郷の少女がいた。

 愛良ちゃんだ。


 最後に見てから、あまり変わっていない様子に少しほっとした。

 ちゃんとご飯とかも食べさせてもらえているみたい。

 よかった、よかった。

 ピンク色の可憐なドレスを着ていることからも、大事にされているのが分かった。

 ただ、表情は優れない。

 不安そうな顔で第一王子とリズを交互に見ている。


 愛良ちゃんを観察している間にも話が進んでいたのだけど、内容はなんだかなぁという内容だった。

 以前、リズから聞いていた、ご令嬢達が愛良ちゃんにしていたことは全てリズの差し金だと第一王子は考えているらしい。

 例えば話しかけないとか、苦言を呈しただとかに始まり、挙げ句の果てには教科書等の備品を壊されたなんてのも全て。

 いや、それ、リズは止めようとしてたはず。

 そのためには、ご令嬢だけではなくて、愛良ちゃんも改めなければいけないところを改めないとって話だった気が……。

 第一王子が邪魔するせいで、中々その話を愛良ちゃんにできないって怒っていたのを覚えている。



「大方嫉妬のあまりに、そういうことをしたのだろうが……」

「嫉妬?」

「そうだ。お前は私の婚約者だからな。私が常にアイラと一緒にいるのが気に入らないのだろう」

「ふぅ。そういう考えに及べて、どうして私の提案を受け入れていただけないのですか? 後ろにいらっしゃる方々もそうですが、婚約者がいる殿方が婚約者以外の女性と常に一緒にいるというのを問題視されるのは当然でしょう?」

「確かに。だが、私には【聖女召喚の儀】を統括した責任がある。こちらの都合で召喚した以上、アイラを害するものから彼女を守らなければならない。決して疚しい考えがある訳ではない」

「……。召喚されたのはアイラ様だけではありませんわよ? もう一人の方には何もされていらっしゃらないようですけど」

「もう一人? 最近噂になっている女か。あれは【聖女】ではないだろう」



 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………はい?


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