33 西の森
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約一日の道程を進み、西の森に到着した。
一日くらいとは聞いていたけど、途中休憩を挟みつつ移動した関係で、実際は一日半程度掛かった。
多分、私のせいじゃないかなとも思う。
王都までだと気にはならなかったけど、馬車での旅は、それなりに体に堪えた。
途中で師団長様に『ヒール』を掛けることを提案されなければ、到着にもっと時間が掛かったんじゃないだろうか。
肉体的には辛かったが、精神的にはそうでもなかった。
師団長様の存在がかなり大きかったと思う。
『ヒール』を掛けるよう提案してくれたこともそうだけど、話し相手になってもらえたのも助かったのよね。
道中の魔法の講義は、討伐に関連する内容だった。
魔法の講義と言うより、もはや戦闘に関する講義といった方がいいかもしれない。
教えてもらった内容は、集団戦闘での私の役割や、立ち回り等の話が大部分を占めていた。
平和な日本で育ち、戦闘なんて全く経験がないから、非常にためになったと思う。
その講義も、数時間受けたところで終わりを迎えたんだけどね。
二回目の休憩のときに、何気なく師団長様に話した内容が原因だ。
話したのは、強化された薬草についてだ。
この薬草を生み出せたのは、師団長様からの助言のお陰だと思っていたので、お礼を兼ねて報告したのよ。
そうすると、もちろん、どうやって生み出せたのかって話になるわよね。
必然的に謎の魔法について話すことになって……。
何気なく「よく分からない魔法が発動したんですよ」って言ったら、途端に師団長様の目の色が変わった。
しまったと思ったときにはもう遅かった。
休憩中、一緒にいた団長さんが止めてくれなかったら、暫くその場から動けなかったんじゃないかな。
ここではまずいから続きは馬車の中で、って言ってくれて本当に助かった。
それからの道中はずっと謎の魔法について話していた。
話していたというか尋問を受けていたと言った方がいいかもしれない。
あの魔法は師団長様も知らないらしく、根掘り葉掘り色々聞かれた。
実際に見せて欲しいとも言われたのだけど、あれ以来成功したことがないというと、目に見えてしょんぼりしていた。
うん、ぶれませんね。
強化された薬草を作るためにも、再現できるよう練習中なので、再現できたら見せますねってことで勘弁してもらったわ。
道中で一泊野営し、西の森に着いたのは翌日のお昼を少し過ぎた頃だった。
昼食後に、偵察のために騎士さん達だけが森の中へ入ることになった。
私が森に入れたのは、王宮を出てから三日目になってからだった。
西の森は、鬱蒼と生い茂る木々のせいで、昼間だというのに、薄暗く感じる。
東や南の森は学園の生徒達が行くこともあるからか、割りと整備されていた。
明るく感じられたくらいなので、余計に西の森が暗く感じるのかもしれない。
そんな森の中を複数の班に分かれて移動する。
私が配属された班には第三騎士団の騎士さん達のほか、団長さんと師団長様がいる。
そして、私の班に配属された宮廷魔道師さんの人数は他の班の半分だ。
原因は、師団長様。
本当は師団長様以外の人が来るはずだったんだけど、師団長様が強権を発動させたのよね。
私に何かあったらいけないからって。
いや、団長さんもいるし、そこに師団長様まで来たら過剰戦力じゃないかと思ったんだけど、師団長様はガンとして譲らなかった。
師団長様の本音としては、研究のために同じ班になりたかったんだと思う。
間違いなく。
驚いたのは団長さんの方だ。
団長さんも団長さんで移動を拒否したのよね。
いつもであれば、冷静に判断して、進んで自分から班を移動しそうなのに。
結局、少し編成を弄って、今のメンバーになった。
うん、本当に過剰戦力なのよ。
ここに来て、初めて魔物を見たのだけど、怖いと思う間もなく師団長様がサクサク倒していっちゃうのよね。
鼻歌交じりで。
これには団長さんも苦笑いだったわ。
苦笑いしながら、脇から飛び出した魔物を切り捨てる団長さんも大概だと思うけど。
師団長様は久しぶりの討伐だと言って目を輝かせていたけど、ブランクは感じない。
発動させている魔法も討伐だからか、いつも演習場で見せてくれる魔法より強力なものをポンポン唱えているみたいだった。
強いとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。
やっぱり各部隊のトップともなると、これくらい強くないとなれないのかな?
ということは、団長さんも同じくらい強いってこと?
そんな人物が二人。
やっぱり、この班だけ戦力が飛び抜けているわね。
「うわっ」
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」
足元には気をつけて歩いていたんだけど、地面から浮き上がった木の根に足を取られた。
隣を歩いていた団長さんが咄嗟に腕を取って支えてくれなければ、こけていただろう。
薄暗くて足元が見えにくいのに加え、落ち葉が重なり、滑りやすくなっている。
小さな木々もあまり生えていないから、一応前もって整備されている道なんだろうけど、歩きにくい。
かといって、下ばっかり向いて歩く訳にもいかないのが辛いところよね。
姿勢を直して、師団長様を見やると、顎に手を当てて何か考え込んでいる。
どうしたのかな?
「師団長様、どうかされました?」
「ああ、いえ、以前と比べて魔物が少なくなっているなと思いまして」
魔物が少なくなっている?
今回初めて来たので実感が湧かないけど、団長さんの方を見ると、彼も頷いていることから実際に減っているのだろう。
「前回の討伐の影響でしょうか?」
「それもあるかもしれないが、それ以上に減っているような気もする」
団長さんに聞いてみたけど、討伐の影響以上に減っていると言う話だった。
団長さんも師団長様も、どこか物思わしげに考え込んでしまった。
一人で考え込んでも埒が明かないからか、歩きながら師団長様が団長さんに色々と質問する。
「私が以前ここに来たときには、もう少し沢山いた気がするのですが」
「そうだな。前回の討伐時と比較しても少なくなっているようだ」
「そういえば弱い魔物を殆ど見かけませんでしたね。今まで倒したのは、ここでの中堅クラスの魔物ばかりだったような気がします」
「言われてみれば、そうだな」
そこまで話して、師団長様は私をじっと見た。
師団長様の視線に気付いて、団長さんもこちらを見やる。
えっ? 何?
どういうことかとオロオロしていると。
どこか納得したような表情をして師団長様が頷いた。
「先に進むか」
「そうですね」
二人だけで納得して、先に進もうとしないでください。
説明を求めようかと思ったけど、タイミング悪く魔物に遭遇してしまい、聞くことはできなかった。