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31 要請

ブクマ&評価ありがとうございます!


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

コミカライズ版が本日から公開されました!

詳しくは後書き、または活動報告をご覧ください。


 喚び出されてから九ヶ月。


 ここ数日、講義の後、研究室にて久しぶりにポーションの作成に勤しんでいる。

 それも結構遅い時間まで。

 なぜなら、お得意様である第三騎士団だけでなく、第二騎士団からもポーションの注文が来たからだ。

 単純に考えてもいつもの倍量作る必要があるのだけど、全く問題はない。

 私は纏めて作ってしまうので、材料さえあれば、これくらいの量、どうってことはない。


 元々、私は専門的にポーションを作っている人よりも多くのポーションを一日に作ることができていた。

 基礎レベルが高く、MPが多いせいかとも思ったのだけど、それだけだと説明が付かない量を作れるのよね。

 恐らく原因はステータスに記載されている職業にあるんだと思うのだけど、今までそれを口に出したことはない。

 いつか誰かに気付かれるまで、そっと胸にしまっておこうと思う。


 更に、ここにきて魔力操作の訓練が生きることになった。

 ポーションを作るのに必要な時間が短縮されたのよ。

 魔力操作を極めると、魔法の発動までに掛かる時間が短縮されるとは聞いたけど、ポーション作成にまで影響があるとは思わなかった。

 これ、魔力が関係する事柄全てに影響があるんじゃない?

 魔力操作の影響範囲の広さに、それを重要視している師団長様は流石だなと思った。


 そうしてポーション作成に精を出していると、所長がやってきた。

 既に夜遅い時間に差し掛かっている。

 こんな時間まで所長が研究所に残っているのは珍しい。

 何かあったのだろうか?



「頑張ってるな」

「ありがとうございます。今回は量が多いですから」

「第二騎士団からも注文が来てるからか」

「そうですね。今度から毎回注文が来るんでしょうか?」

「かもしれないな。前回の西の森の討伐で、うちのポーションの性能に驚いていたらしいからな」

「そうなんですか?」

「あぁ。正確にはお前の作ったポーションに、だな」



 五割り増しの呪いが掛かっていますからね。

 そう、内心で呟く。

 しかし第二騎士団からも注文が来るようになるのか。

 益々、研究所の収入が増えるわね。

 後で、実験用の資材の追加をお願いしてみようかな。

 丁度欲しい薬草があるのよね。

 ちょっとお高めの薬草だから購入を控えていたんだけど、今なら予算が下りる気がする。


 まぁ、それはさておき。

 当たり障りのない会話から入ったけど、本題は別なんだろう。

 どこか緊張感を含んだ所長の雰囲気から、そう思った。

 本題の内容については大体予想できている。

 多分、あれだ。



「今日、王宮から使いが来た。今度の討伐に回復要員として参加して欲しいらしい」

「所長に、ですか?」

「馬鹿言え。お前に、だ」



 やっぱり。

 予想していた通りの内容だ。

 予想通り過ぎて、思わず茶化してしまったくらい。



「そうですか。分かりました」

「……、随分あっさりしてるんだな」

「前から話していたことですし」

「もう少し嫌がるかと思ってたんだがな」



 苦笑いする所長に、私も苦笑いで返す。

 討伐の支援要請については、いつか来るだろうと思っていた。

 所長だけではなく、師団長様とも話していたことだしね。

 何日か前に、「そろそろ西の森に行ってもいいかもしれませんね」なんて、師団長様も言っていたもの。


 討伐に行くのが嫌か嫌じゃないかと問われると微妙なところ。

 討伐って言うくらいだから、もちろん魔物には遭遇するだろう。

 今まで森に行くことはあっても、魔物に遭遇したことはなかったので、魔物がどういったものなのかは分からない。

 ただ、西の森の討伐から帰って来た騎士さん達の惨状を見るに、命の危険があるのは間違いない。

 そんな所に行くのだ。

 怖くない訳がない。


 でも、今回一緒に行くのは恐らく第三騎士団の人達だ。

 東や南の森に一緒に行ったときも、ずっと私達のことを守ってくれた。

 私は魔物に遭わなかったけど、他の研究員さん達は出くわしたみたい。

 そのときに研究員さん達もお手伝いをしたらしいけど、彼等には被害が及ばないよう、騎士団の人達が上手く動いてくれたと後で聞いた。

 今回も恐らく、騎士さん達はそうするだろう。

 普段から接していても、いい人達ばかりだもの。

 聖属性魔法しか使えない、非戦闘員といってもいい私を、いきなり魔物の前に立たせたりはしないと思う。

 だから、魔物は怖いと思うけど、それ程、悲観してはいない。

 そして、そんな騎士さん達を支援するのは嫌ではない。

 むしろ喜んでって感じ。


 それに、師団長様が西の森に行くのを非常に楽しみにしているのよね。

 森の中の瘴気と私の魔力が、どのように作用するのかを見てみたいんだそうだ。

 西の森に行けそうだと話しているときに、物凄くキラキラした瞳で語ってくれた。

 何ていうか、師団長様は本当にぶれない。


 楽しみにしているのは師団長様だけではない。

 討伐はともかく、西の森に行くのは私も少しだけ楽しみだったりする。

 楽しみにしている理由は薬草。

 森の中には、薬草園にはない薬草が生えている。

 今までに行ったことがある東と南の森にも、様々な種類の薬草が生えていた。

 森によって生えている植生が微妙に異なるらしく、東の森では見かけなかった薬草を南の森で見かけることがあった。

 だから、西の森にも、東や南の森で見かけなかった薬草が生えているんじゃないかと期待している。


 とはいえ、他の森の魔物と比較して、西の森の魔物は強いらしいので、討伐の最中に薬草を見る余裕があるかは分からない。

 参加する研究員も私くらいで、薬草に詳しい研究員さん達はお留守番らしいし。

 前回、研究所の人達と一緒に討伐に行ったのが例外だったのよね。

 そういう訳で、目新しい薬草が生えていたとしても、私が気付く可能性は低い。

 よく見る薬草なら気付くかもしれないけど……。

 討伐の前に西の森に生えている薬草について予習しておこう。



「嫌がるどころか、何だか楽しそうだな」

「え? そうですか?」



 薬草のことを考えていたら、顔に出ていたらしい。

 所長の表情が苦笑いから呆れ笑いに変わっていた。



「どうせ、新しい薬草が見つかるかもとか考えてたんだろう?」

「あ、ばれました?」

「薬草に熱心なのはいいが、自分用のポーションも作っておけよ」

「自分用のですか?」

「いるだろ? MPポーションとか」

「言われてみれば、そうですね」



 所長に言われるまで、すっかり頭になかったけど、討伐に行くなら、自分用のポーションも作っておかないといけないわよね。

 HPポーションはともかく、MPポーションは必須だ。

 HPもMPも自然回復するとはいえ、ポーションを飲む場合に比べて、回復速度が遅いからね。

 討伐なんかの緊急時にはのんびり待っていられないこともあるだろうし。

 よし、今日のノルマは達成しているし、少し自分用のポーションも作っておきますか。

 夜遅いといえども、日本で働いていた頃に比べれば、まだ終業には早い時間だし。

 そうして、所長が帰った後も、ポーション作りに励んだ。


コミカライズ版が本日より公開となりました。

Comic Walkerのフロースコミックにて掲載されます!

暫くは毎週月曜日に更新のようです。

下にリンクを貼っておきます。

よろしければ、ご覧になってみてください!


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