29 品種改良
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上級HPポーションより効果の高いポーションを作る。
これが私の研究課題。
この課題を選んだのは、偏に、私の製薬スキルのレベルが上級HPポーションでは上がらなくなったからだ。
研究のために時間を見つけては王宮の図書室に通ったけど、手がかりは中々見つからず、進捗は停滞していた。
そんな中、一筋の光明が見えた。
意外な人からアドバイスがもらえたのよ。
誰あろう、師団長様だ。
ある日、禁書庫で出会った師団長様が教えてくれた。
この世界の生物は全て、量の多寡はあれ、魔力を保持していると。
何それ、初耳なんですけど。
このことは、師団長様が研究の過程で気付いたことで、あまり広く知られてはいないらしい。
そこから、ポーションの性能を上げるのに、薬草の持つ魔力にも注目してみてはどうかとアドバイスをもらったのよね。
一般的に、ポーションにすることによって、薬草が持つ効能が高まるのは、作成過程で注がれる魔力が影響しているからだと言われている。
私が作るポーションの性能が、他の人が作成した物と比べて五割り増しなのは、この作成過程の魔力のせいではないかと、師団長様も考えていたそうだ。
そして、この私の魔力を薬草にも持たせることができたら、ポーションの性能は更に上がるんじゃないかと言われたのよ。
研究所に戻ってから、研究員さん達に話を聞いてみた。
流石というか、薬草が魔力を保持していることを知っている人が何人かいた。
ただ、自分の魔力を薬草に保持させるという話は誰も考えたことがなかったらしく、師団長様のアドバイスについて話すと、一様に驚いていた。
自分の魔力を持たせたところで、効能が上がるなんて普通思わないわよね。
そういう訳で、薬草に魔力を与える方法については、誰も心当たりがなかった。
まぁ、分からないっていうなら、仕方がない。
色々試してみればいいだけの話だ。
「という訳で、ジュード、手伝ってくれない?」
「いきなりだね。何を手伝えばいいの?」
苦笑しながらも手伝ってくれようするジュードは、いい人だと思う。
まず確認したのは、魔力を含んだ水が生成できるか、だった。
切り花を色のついた水に浸けておくと、花弁に色が付くじゃない。
あれを応用して、魔力を含んだ水に浸けてみるのはどうだろうかと思ったのよ。
ただ、魔力を含んだ水の生成方法が分からなかったから、知ってる可能性が高そうなジュードに聞いてみた。
ジュードは水属性魔法の適性があるしね。
残念ながら、知らなかったけど。
試しに水属性魔法で魔力を含んだ水を生成できないかも挑戦してみたけど、上手くいかなかった。
水属性魔法で水を生成するときに、いつもより多めに魔力を使ったらどうかとか、色々試してみたんだけどね。
「発想はいいと思うけど、そもそも、セイが水を生成できなきゃいけないのに、水属性魔法で作ったらダメだろ?」
「そこは後で考えればいいかなって」
色々試した後にそう言われたので、思っていたことを返したら、呆れられた。
ジュードの言うとおり、私は水属性魔法が使えない。
だから、水属性魔法で生成しようとするのは無駄と言えば無駄なんだけど、最初の取っ掛かりとして、試してみるくらいは、いいかなと思ったのよ。
水属性魔法で生成することは諦め、次に魔法付与をするときと同じような感じで生成できないか試してみた。
核となる鉱物に魔法付与できるんだから、水にもできないかってね。
結果は、惨敗。
魔法付与を行ったときのように、できるっていう感覚がさっぱり湧かなかった。
これは、あれだ。
できそうにないって感覚だ。
「それにしても水に魔法付与って、斬新だね」
「そう?」
「俺の知ってる限りでは、そんなことやろうとした人は見たことない」
「まぁ、魔法付与された水になんて使い所が分からないものね。必要に迫られなければ、やってみようなんて人はいないだろうし」
そう口にはしたものの、ゲームの中では聖水なんて物もあったなぁと思い出す。
あれは確か、アンデッド系の魔物に攻撃したりするときに使うんだったっけ?
撒くと、暫く魔物を寄せ付けないって効果もゲームの設定であったわね。
聖水の作り方は……、どうだったっけ?
祝福すればいいんだっけ?
どこかでそんな話を聞いたことがある気がする。
で、祝福ってどうやるの?
ビーカーに入れた蒸留水を手に持って、うんうん唸っていると、ジュードが心配そうに声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「んー、祝福ってどうやるんだっけと考えてて」
「祝福って?」
「こっちの世界って聖水ってないの?」
「聖水? うーん、聞いたことないなぁ」
なんと聖水は存在しなかった。
ならば、祝福の方法なんてものもないかもしれない。
念のため、ジュードに確認してみたけど、やっぱり知らなかった。
何となく、魔法関係の話になりそうだから、師団長様に聞いた方が早い気がした。
ふと外を見ると、いつの間にか日が落ち、暗くなりつつある。
何だかんだジュードと実験していたら、時間が経っていたみたい。
師団長様に聞きに行くにしても明日の方が良さそうね。
今日の実験は終わりにすることにした。
「祝福、ですか?」
翌日、魔法の講義の際に師団長様に聞いてみた。
単純に祝福という聖属性の魔法を知らないかと聞いてみたんだけど、師団長様にも心当たりはないらしい。
もしかしたら違う名称なのかもしれないと思い、そこに至るまでの経緯を説明した。
聖水のくだりで、アンデッド系の魔物に効果があると話すと、師団長様の目が輝いたのは気のせいではないだろう。
それから、授業そっちのけで、元いた世界でのゲーム内の魔法に関する概念について話し込んでしまった。
「祝福って、身体強化とかもできそうなイメージがあるんですよね」
「そうですか。セイ様のいた世界では、祝福には色々な効果があるのですね」
「魔法自体は存在していなかったので、空想ですけど」
「それでも、中々興味深い概念です。こちらでは身体強化の魔法はありますが、アンデッド系の魔物に特化した魔法というのは存在しませんから」
「特化した魔法がないってことは、魔法では倒せないんですか?」
「そういう訳ではありません。あくまで特化したものがないだけで、普段は火属性魔法などで倒していますよ」
そこまで話して、何かに気付いたのか、師団長様が顎に手をやって考え込んだ。
祝福という魔法はないみたいだけど、何か他に心当たりが思い浮かんだのだろうか?
「アンデッド系のみという訳ではありませんが、魔物の殲滅に特化した魔法は存在しますね」
「そんな魔法があるんですか」
「えぇ。ただ、その魔法は存在のみが伝えられていて、詳しいことは分からないのです」
いつも浮かべている笑みを消し、真面目な顔で語る師団長様を見て、思わずゴクリと喉を鳴らす。
存在のみが伝えられていて詳細は不明ということから、普段使っている属性魔法ではないのだろう。
属性魔法ではない魔法となると、生活魔法くらいしか思い浮かばないけど、属性魔法より簡単な生活魔法を秘匿するなんてことはないわよね。
だとすると、全く別系統の魔法なのかしら?
「何ていう魔法なんですか?」
「名前も付いていないのです。ただ、その魔法を使った者は記録に残っています」
「それって……」
「聖女様が使われた術ですね」
やっぱり。
途中から薄々気付いてはいたけどさ。
しかし、【聖女】が使う術の詳細が残ってないっていうのは問題じゃない?
後から聖女になった人って、どうやって、その魔法を覚えたのだろう?
「術の詳細は記録されていないんですか?」
「えぇ。残っているのは、非常に速い速度で魔物の殲滅が行えるという、効果についての記録が殆どですね」
「過去の聖女様は、どうやってその術を覚えたんでしょうか?」
「そこも判明していないのですよ」
ジーザス。
結局これ以上の情報はなく、この後は普段どおり魔法の講義を受けて一日が終わった。