28-01 お茶会(前編)
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午前の講義の終了後、いつもであれば昼食を取る。
しかし、今日はお茶会が控えているため、何も取らずに会場に向かった。
午前の先生に聞いたところ、やはりお茶会に参加すること自体が課題だったらしい。
人数も主催者と私の二人のみらしいので、気が少し楽になった。
主催者のアシュレイ侯爵令嬢は、私と同じ先生からマナーについて学んだらしい。
そのご縁で、今回の課題を手伝ってもらうことになったんだそうだ。
侯爵令嬢ともなると、かなり高位の方で、普通は他者の課題なんかに手を貸してはくれなさそうなんだけど、彼女は今回の件を二つ返事で受けてくれたんだとか。
ありがたい。
でも、そこまで高位の御令嬢に手伝ってもらうとなると、ちょっと緊張する。
そもそも、私なんかと話が合うのだろうか?
最近はマリーさん達とオシャレについて雑談したりするので、それなりに流行等についても話せるようにはなったかと思う。
けれども、まだまだだとも思うのよね。
お茶会の会場は庭園内の東屋だ。
西洋風なのでガゼボとも言う。
秋の庭を楽しみながら、お話も楽しみましょうといったところかな。
マリーさんに案内されながら、綺麗に整えられた庭を歩く。
遠目に東屋が見え、主催者と思われる人物が既に席に着いているのも見えた。
向こうも私に気づいたらしく、椅子から立ち上がり、東屋の外まで迎えに出てくれた。
「リズ?」
近付くにつれ、相手の顔が判別できるようになり、それがよく見知ったものだったため驚いた。
そこにいたのはリズだった。
「私のお茶会にようこそ、セイ」
にっこりと微笑むリズは、相変わらず美人だ。
どことなく、してやったりというか、上手くいったという風な笑顔にも見える。
「えっと……、本日はお招きいただき、ありがとうございます?」
何とか挨拶を絞り出した。
語尾が上がってしまい、疑問形になったのは許して欲しい。
それだけ、驚いた。
リズに勧められるまま、席に腰掛けると、周りに控えていた侍女さん達がお茶をカップに注いでくれる。
それをぼんやりと見ていると、リズが口を開いた。
「初めてセイのドレス姿を拝見しましたわ。いつもと違って新鮮ですわね」
「あぁ、うん、そうね」
「とても綺麗で、セイによく似合っていますわ」
「そうかな?」
「えぇ!」
ドレス姿を褒められ、面映ゆい。
いや、そうではなく。
「アシュレイ侯爵令嬢?」
そう。
今日、お茶会に招待してくれたのはアシュレイ侯爵令嬢のはず。
先程の「私のお茶会」という言葉からも、リズこそが侯爵令嬢だという話になるのだけど……。
そういえば、最初に図書室で会ったときに「エリザベス・アシュレイ」って名乗っていたっけ?
それからずっと、リズって呼んでいたから、家名の方は今の今まで忘れていた。
首を傾げながら確認すると、リズはにっこりと微笑んだ。
「お伝えしていなかったかしら?」
「侯爵令嬢だなんて聞いてないわ」
ガックリとしながら答えると、クスクスと笑われた。
確信犯だよね?
「今日は講義の課題としてお茶会を開いてくれたって聞いたんだけど」
「えぇ、そうですわ。セイったら、最近ちっとも図書室に来てくれないんですもの。ですから、先生からお話を伺って、喜んでひきうけましたのよ」
王宮で講義を受けるようになって、図書室からは自然と足が遠のいていた。
理由は単純で、講義を受けるのに忙しかったから。
私が図書室に行かなくなってからも、リズは何度か足を運んでいたらしい。
言われてみれば、私とリズとの接点は図書室だけ。
それも特に示し合わせた訳でもなく、お互いの都合のいい時間に行って、そのときに会えればというものだった。
そのため、ここ最近はリズとは全く会っていなかった。
「ごめんなさい。最近はすっかり足が遠のいちゃって」
「仕方ありませんわ。お忙しかったのでしょう?」
「そうね……。ところで、私以外の招待客はいないの?」
「今日は私達、二人だけですわ。さぁ、お茶をいただきながら、ゆっくりお話しましょう」
そうして、お茶会が始まった。
講義の課題ということなので、作法に気を付けながら、まずは紅茶をいただく。
今日の紅茶は、どことなくダージリンっぽい香りがする。
王宮で出される紅茶はどれも美味しいのだけど、このダージリンっぽいものは初めて飲む。
「この紅茶、美味しい。初めて飲んだかも」
「お口にあって嬉しいわ。我が家で契約している農園のものですのよ」
「そうなんだ」
流石、侯爵家というべきか。
恐らく独占的に契約しているのよね。
紅茶だけでなく、並べられているお菓子も見た目が可愛らしいものが多く、これらも全て、リズが今日のために用意してくれた物だった。
ちょっと甘味が強いのは、この国のお菓子の特徴なんだろう。
紅茶には何も入れないで飲んでいるので、丁度いい。
講義の延長という割りに、とても気合が入っているような気がする。
「それはもちろん、初めてのセイとのお茶会ですもの。手を尽くしましたわ」
リズに思ったことを伝えると、嬉しそうに微笑みながらそう返された。
もちろん普段のお茶会も、きちんと準備をしているそうだけど、私とのお茶会はまた格別なのだそう。
私の好みが分からなかったから、今回はリズの好きな物ばかりを選んだらしい。
リズの外見は成長途中とはいえ、将来は華やかな美人になりそうという感じで、いつも着ているドレスも原色の派手な雰囲気の物が多い。
けれども、今日並べられているお菓子を見ると、可愛らしい物の方が好みみたい。
ベリー系のお菓子はピンク色を基調としていて、飾り付けも可愛らしい雰囲気の物ばかり。
それを指摘すると、リズは恥ずかしそうに頷いた。
やはり、ドレス等の身に付ける物は、似合うことを重視しているため、少し好みとは掛け離れていたらしい。
今日は私しかいないので、思いっきり趣味に走ったとも言っていた。
そうして話し込むうちに、話題は最近の出来事に関するものに移っていった。
「最近、聖女様のお話を耳に挟んだのですけど」
リズがそう話し始めた。
紅茶を飲んでいるところだったので、噎せないようにするのに苦労した。
「聖女様?」
「えぇ、何でも素晴らしい回復魔法の使い手で、多くの騎士が助けられたと伺っていますわ」
「へ、ヘー、ソウナンダー」
「討伐で失われた手足も、聖女様のお陰で取り戻せたとか。治療された騎士団の方々は、それはもう感謝しているらしいですわ」
「へー」
「失われた四肢を回復させるなんて、この国でも一番の回復魔法の使い手ですわね。でも、聖女様はちっともそれを鼻にかけない、とても謙虚な方だそうで、騎士達からはもう神のように崇拝されているようですわ」
うん、ちょっと頭を抱えたい。
崇拝って、あれよね。
第二騎士団の人達よね。
第三騎士団はまだ大丈夫だと信じたい。
リズの話を聞きながら、一体誰の話なんだろうねと、しらばっくれたい気持ちになったけど、そんなことは許してもらえなかった。
「私、セイがそんなに回復魔法が得意だとは知りませんでしたわ」
「アー、ウン、ソウネー」
ニッコリと微笑むリズに、正直に言わないとダメかななんて思う。
お互いのことについては、今まであまり深く突っ込んだ話をしたことはない。
その必要がなかったというのが一番の理由なので、この機会に少し話してみるのもいいかなと思った。
「魔法を使うようになったのは最近なのよ」
「そうなんですの?」
「それまでは使う必要がなかったからね」
そう言うと、リズは薄らと笑顔を浮かべたまま、私を見つめた。
何だろう?
「使わなかったのは、元々セイがいた世界では魔法がなくて、馴染みがなかったのもあるのではなくって?」
「えっ?」
「セイも召喚されたのでしょう?」
思わず、目を見開いてしまった。