27 課題
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恒例の淑女の日。
しかし、今日はいつもと違った。
「お休みなんですか?」
「はい」
マリーさんから、今日のダンスの講義がお休みとなったと伝えられた。
先生に急用でも入ったのだろうか?
不思議に思っていると、一人の侍女さんがトレイの上に一通の封筒を載せて持ってきた。
マリーさんは侍女さんからトレイを受け取ると、恭しく私の前に差し出す。
「その代わり、マナーの講師の方から課題が出ております」
「課題ですか?」
そこでマリーさんが言葉を切ったので、差し出された封筒を手に取って、裏を見た。
封筒は蝋で封がしてあり、印璽が捺してある。
どこかの家の家紋だと思うけど、どこの家のだっけ?
どこかで見たことがあるような気がする。
この国の主要な貴族の家紋は講義で習っている。
記憶にあるってことは、その家のどれかだと思うんだけど。
王家ではない。
流石に王家の家紋は、ちゃんと覚えている。
すぐには思い出せそうにないので、まずは中身を読むことにした。
マリーさんに封を切ってもらって、入っていた便箋を受け取る。
内容を確認すると、どうやらお茶会の招待状のようだ。
開催時間は今日の午後から。
場所は……王宮!?
王宮でお茶会が開催できる人なんて、随分と身分の高い人だと思うんだけど。
一体、誰だろう?
不思議に思いながら、差出人の名前を確認しようとして、書かれていないことに気付いた。
これは、印璽の家紋から導き出せということなのだろうか?
あの家紋の家と言うと……。
「セイ様、本日のドレスはこちらでいかがでしょうか?」
声をかけられてハッとする。
うっかり考え込んでしまった。
侍女さんに差し出されたドレスを見て、どうしようかと考える。
「午後からお茶会に招待されたのですが」
「まぁ!それでは、今日はもう少し華やかなドレスにしましょう」
「えっ?あのっ!」
どうやらマリーさんも課題の内容までは把握してなかったらしい。
そして、私が止める間もなく、テキパキと侍女さん達に指示を出した。
あれよあれよという間に、いつも着ている物よりも、数段華美な衣装が用意されていく。
いつもよりも楽しそうな侍女さん達を見て、止めることはできなかった。
仕方がない。
侍女さん達が気合いを入れて準備をしている間に、先程の家紋について考えよう。
どの家だったっけ?
「いかがされました?」
眉間に皺を寄せて考えていたせいか、マリーさんに心配された。
「差出人は誰だろうかと考えてて。招待状に名前が書かれていないんです」
そう言って、封筒と便箋をマリーさんに渡す。
マリーさんは便箋を読んでから、封筒の封蝋を見た。
「確かに差出人の名前が書かれておりませんね」
「この招待状から主催者を推理しろっていうのが課題なんでしょうか?」
「それもあるかもしれませんが、お茶会に参加することも課題かもしれませんよ?」
確かに。
マリーさんの言うことは、もっともだ。
お茶会でのマナーも習い、そろそろ参加するだけなら可能な程度には学び終えたんじゃないかと思う。
未だ主催者が不明だけど、全て含めて課題ならば、家紋がどこの家のものかをマリーさんに聞いても教えてくれない可能性が高い。
でも、一応聞いてみようか。
「封蝋の家紋、どこかで見たような気はするのですが、思い出せなくて。マリーさん、ご存知ですか?」
「そうですね、こちらは有名な家ですから。アシュレイ侯爵家の家紋ですね」
意外にもすんなりと教えてくれた。
侯爵家なら数も少ないから、覚えていて当然ではあるけど、すっかり忘れてた。
しかし、そんな家の人と知り合いだったっけ?
「アシュレイ侯爵家でしたら、おそらく招待されたのは御令嬢でしょう」
「そうなんですか?」
「はい。御令嬢はカイル殿下の婚約者様でもありますし」
なんですって?
カイル殿下と言ったら、あのカイル殿下よね?
第一王子の。
そうか、アレでも婚約者がいるのか。
この国の成人は十五歳からだって言うし、一応王子だし。
いてもおかしくはないわよね。
日本では珍しい話だけど、こっちでは珍しくもないのかもしれない。
しかし、その婚約者だったら王宮でお茶会が開けるものなの?
いくら婚約者とはいえ、普通は開けなさそうだけど。
既に王宮で王子と一緒に暮らしているからとかなのかな?
「その婚約者の方って、王宮に住んでいらっしゃるんですか?」
「いいえ。普段は王都のアシュレイ侯爵家の邸にお住まいですね」
「王宮の外に住んでいるのに、王宮でお茶会が開けるんですか?」
「今回はセイ様の課題だからでしょう」
マリーさんが言うには、今回は私の課題の一環でのお茶会だから王宮内で開かれているのではないかという話だった。
恐らく、アシュレイ侯爵令嬢もそういった話を先生から聞いているだろうとも。
そうよね。
課題だからってマリーさんに招待状を渡しているくらいだし、その主催者が事情を知らないなんて話はないわよね。
ならば、今回のお茶会の規模もそう大きなものではないかもしれない。
場所が王宮って書かれていたから、どんな大きなお茶会に招待されたのかと思って焦ったわ。
いくら参加するだけなら大丈夫そうとは言っても、最初からそう大きなお茶会には参加したくはない。
少しだけ、ほっとした。
マリーさんと色々と話しているうちに、化粧やヘアメイクも終わり、準備が整った。
鏡に全身を写して見ると、いつもよりも更に準備に気合が入っていたのがわかる。
侍女さん達も、やり遂げた感溢れる表情をしているしね。
本当に、自分じゃないみたい。
鏡の中の私は、どこか疲れた笑顔を浮かべていた。
「いかがでしょうか?」
「スバラシイデキダトオモイマス」
私の言葉に侍女さん達が喜んでくれたので、良しとしよう。
そうして、午前の講義に向かった。