23 特訓
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できると言われていることを、できないのは悔しい。
何がって?
魔力操作よ。
魔法の講義の実技では、相も変わらず魔力操作を磨いている。
少しずつ上手くなっているような気はするのだけど、師団長様の期待には、まだまだ応えられていない。
それがすごく悔しい。
師団長様が厳しすぎるだけではとも思ったんだけど、そうでもないと、最近話すようになった宮廷魔道師さんが教えてくれた。
あれでも師団長様は手加減をしてくれていたらしい。
魔道師さんに聞いた話によると、彼等に対して指導したときには、もっと厳しかったそうだ。
「あんな思いは二度としたくありません」
遠い目をして、彼は語り始めた。
それは丁度、大量の書類仕事を宮廷魔道師団総出で片付け終わった後のことだったらしい。
「偶には、後進の指導をしないとね」
師団長様が、いつになく、とてもいい笑顔で宣言したそうだ。
宮廷魔道師団トップの指導で訓練が行われるとあって、結構な数の向上心に溢れる魔道師さんが演習場に集まった。
そして、指導が終わる頃には演習場に沢山の屍が量産された。
演習場で行われたのは、普段師団長様が行っている訓練より少し軽い程度のものだったそうだ。
そう、才能溢れる彼が、更にその能力を向上しようと行っている訓練と比較してね。
宮廷魔道師団に所属する魔道師さん達は、魔法が使える人の中でも一際能力が高いエリート達だ。
プライドもそれなりに高い。
そんな彼等が僅か一日で音を上げるほど、その内容はきつかったらしい。
これは流石にきつ過ぎる。
もう少し難易度を落として欲しい。
そんな声が、あちらこちらから噴出したが、師団長さんがその声を拾うことはなかった。
満身創痍の魔道師さん達の横で、師団長様は涼しい顔をして同じ内容をこなし、更に合間に其々の魔道師さん達に指導を飛ばしていったそうだ。
その後、一週間ほどずっと。
どうやら、書類仕事のせいで研究のための時間が取れず、師団長様は、かなりの鬱憤を溜め込んでいたらしい。
単なる八つ当たりじゃないかとも思うのだけど、師団長様の指導は的確だったらしく、特訓を受けた人は能力が向上したことから、誰も文句を言えなかったそうだ。
ただ、この事件以降、それまでよりも更に、師団長様に回される書類は減ったんだとか。
どこか魂を飛ばしたような表情で教えてくれた魔道師さんを見て、相当大変だったんだなと思った。
そういう訳で、師団長様の地獄の特訓を受けた魔道師さんから言わせると、あれでも師団長様は私の能力に合わせてくれているんだそうだ。
合わせてくれているってことは、その程度であればできると思われているってことよね。
ならば、きっとできるんだろうと思って、その後一週間、只管真面目に取り組んだ。
けれども、今日もまた目標には届かない。
悔しい。
これは、講義以外でも練習した方がいいかな。
そして、少し考える。
考えた結果、第三騎士団の騎士さん達に協力してもらうことにした。
講義後に演習場に残って自主練習をすることも考えたんだけど、ただ自分に『ヒール』を掛けるだけってのも、何かもったいない気がしたのよね。
最初は病院に行って、患者さんを相手に練習しようかと思ったんだけど、よくよく考えたら、この間の一件で殆どの患者さんは治療済みだった。
そこで、もう少し考えて、閃いた。
第三騎士団では、どうだろうかと。
騎士団はその仕事柄、討伐がないときには隊舎で訓練を行っている。
第三騎士団にポーションを届けに行くときに、その様子を見かけたこともあるのだけど、近接戦闘が多いのもあって、打ち身程度の怪我をしている人が割りといる。
そういう人達に練習台になってもらうのは、どうかなと思ったのよね。
思い立ったが吉日で、早速団長さんに相談したら、あっさりと許可がもらえた。
許可がもらえた翌日。
魔法の講義が終わった後、第三騎士団に向かう。
団長さんの執務室に行って挨拶をすると、演習場まで一緒に来てくれることになった。
歩きながら、これから行う回復魔法の練習について話す。
色々と意見を交換したけど、最終的に、師団長様の方針に沿って、第三騎士団でも実戦形式で行うことにした。
演習場に到着すると、丁度訓練の最中で、多くの騎士さん達が模擬試合を行なっていた。
隊舎に向かう途中、遠くから眺めたことはあるけど、近くで見るとまた迫力が違う。
すごいなぁと思いながら見ていると、団長さんと私が来たことに気付いたのか、皆試合の手を止めて、こちらに注目する。
顔見知りの騎士さんもいるけど、一斉にこちらを見られると緊張するものだね。
団長さんは大きな声で、今日から演習中に私が回復魔法を使うことを説明する。
やり方は簡単。
騎士さん達はいつもどおりに訓練してもらって問題ない。
いつもと違うのは、訓練中に回復魔法が飛んでくるだけ。
怪我をした人だけ、私のところに来てもらって、回復魔法を掛けようかとも思ったのだけど、それだと騎士さん達も手間だし、私の練習としても物足りないものになるだろうって団長さんに言われたのよ。
騎士さん達は普段から、軽い打ち身程度では自然治癒に任せているから、態々回復魔法を掛けてもらおうとはしないんじゃないかって。
そうなると、回復魔法をかける回数も少なくなってしまうから、回数をこなしたいなら他のやり方の方がいいだろうという話になった。
最終的に、これが一番いいやり方だろうと団長さんと意見が一致したのが、実際に討伐に行ったときと同じように、私の判断で勝手に回復魔法を掛けるというやり方だった。
団長さんの説明が終わると、騎士さん達はまた其々訓練に戻っていく。
模擬試合を眺めながら、頃合いを図って、私も練習を開始する。
ゲームのように、其々の頭上に最大HPと現在のHPが分かるような数値や棒グラフが表示されていれば、誰に『ヒール』を掛けたらいいか判断が付き易いのだけど、生憎そんな便利なものはない。
仕方がないので、様子を見つつ、怪我をしてHPが減っていそうな人に『ヒール』を掛ける。
その際に、魔力操作に気を付けることも忘れない。
講義のときを思い出して、同じ位の速度で、次々と魔法を発動させる。
魔力を溜める時間は病院で魔法を使ったときよりも短いので、恐らく回復するHPの量も少なくなっていると思う。
魔力操作が上達すれば、同じ時間で溜められる魔力の量が増えるので、短い時間でも病院のときと同じくらいの効力を発揮できるようになるとは思うんだけどね。
そうして集中していると時間が経つのはあっという間で、気付けば、そろそろ騎士さん達も訓練を終える時間となっていた。